「ご来訪!惑星王女アスカ様!」
 第1話:「アスカ様、不時着」



ズドォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!

「うわっ!!?」

深夜2時。自宅のベッドで寝ていたシンジが、突然の轟音と振動に目を覚まして飛び起きた。

「な、なんだ!?」

外から聞こえたので窓から外を見てみると、自分の家のマンション前の道路に巨大な円筒形の物体が地面に突き刺さっているのが分かる。

「ひ、ひとまず、見に行ってみよう・・・」

なんなのだろうと、怖さと好奇心に駆られたシンジ。寝間着のままで家を後にすると、早速その物体に近寄ってみた。

「これは・・・・・?」

シンジの見上げているその巨大な円筒形の物体。シューシューと蒸気が漂っているその表面には、ハングル文字のような、見たこともない記号が記されていた。

「まさか・・・・・宇宙人とか?」

半信半疑に、そっと触れようとした瞬間。

カシューーーー

「フリーーーズ!!」

突如、物体の一部がスライドドアのように開き、中からまっ赤なスーツを着た少女が出てきた。とある惑星の王女、アスカ様であるのだが、もちろんシンジが知っているワケがない。

「わーーーーっ!!」

「止まれっつってんでしょ!!」

「ひぃぃ!」

突然の事に驚いて逃げ出そうとしたシンジだが、銃口を向けられ腰を抜かして尻餅をついてしまう。そんな間にも、アスカはひらりと地面に降り立ち、銃を向けながらシンジのそばまでやってきた。

「あんたの家に案内しなさい。」

「あ、あの、あの・・・。」

「早くする!!」

「は、はい!」

震える足で立ち上がり、シンジが逃げ出すように自分の家へと走り出すと、アスカもその後を追って走り出した。





シンジの家。

「はぁ・・・はぁ・・・。」

家の中へと駆け込んだ2人は、玄関で息を切らせていた。

「ドアはロックしてあるんでしょうね!」

「して、あるよ・・・。」

「これで、ひとまずは、安、全・・・ね・・・・・」

ドサッ

「え?」

背を向けて息を荒げていたシンジだが、振り返ると、アスカがばったりと倒れてしまっていた。

「ちょ、ちょっと!?」

様子を見ようと恐る恐る抱き起こして見る。だが、少女の額から流れ出す血を見て、混乱した頭が一気に吹っ飛んでしまった。

「た、大変だっ!!」

そのまま抱き上げると、いそいで自分の部屋のベッドに寝かせ、救急箱をあさり出す。

「確か、包帯と消毒液があったはずだよな・・・・・あった!」

そして、額の打撲らしき患部に消毒液を含ませた脱脂綿で痛まないようにそっと拭い、打撲用の軟膏を塗って包帯で巻き付けた。

「よし・・・ひとまずこれでいいな。」

やれる事は全て終え、やっと落ち着ける時間を手に入れたシンジ。さっぱりワケの分からない事態から始まり、ワケの分からない事態の中での、ひとまずの休憩である。

ウーーーーー、ウーーーーー

外からパトカーのサイレンが聞こえて来た。どうやら近隣住民の通報を聞きつけて来たようである。目的はもちろん、アスカの出てきた円筒形の物体だろう。

もう、こんなに人だかりが・・・

窓からその様子を見てみると、すでに警察が物体周辺を固め、黄色いテープがそれを囲むように張り巡らされている。白衣を来た者もいる事から、どこかの研究所の関係者もいるようだ。やじうまも大勢いる。

この子はいったい・・・
だけど、警察に渡すっていうのもな・・・

シンジは目をベッドの上のアスカへと移し、身柄をどうするべきか考える。だが、自分にさえ分からないこの少女を無碍に警察に渡したとしても、アスカの身の安全が約束される保証はない。見た事のない服、いびつな形状の銃、なによりあの円筒形の物体。シンジの頭の中で、宇宙人ではないのかという可能性が本格的に広がってきた。

それに、アレから出てきたって事は、宇宙船って事だって考えられるよな・・・
でも、まだ悪い人だって決まったワケじゃないし・・・

その美しい寝顔からは、とても悪人だとは思えないシンジ。ひとまず、今日は様子を見ることにした。

当分の間は父さんと母さんも居ないしな・・・
とにかく、今日は寝よう。

仕事の為、長期出張中の両親は当分帰って来ない予定なので、アスカを家に泊めるのは可能だ。ベッドはアスカが寝ているので、一応の監視という意味も含め、シンジは同じ自分の部屋の床に毛布を敷いて寝ることにした。





そして翌日の早朝。

「う、うーーーん・・・」

先に目を覚ましたのはアスカであった。

「イタッ!」

ベッドから起きあがり、頭に植え付けられた痛みに顔をしかめると、不時着の衝撃で頭をぶつけてしまったその時の様子がフラッシュバックして浮かび上がってきた。

「ん?・・・・・なにこの布。」

同時に頭に巻かれた包帯に気付き、咄嗟に解こうともしたが、このほうが楽なようなのでそのままにしておく。そして自分のいる部屋を見回すと、床に寝転がっているシンジの姿が目に入った。

「あ、こいつは・・・」

おそらく、包帯を巻いたのも、ここに寝かせたのもこいつだなとアスカ。

でも、悪いヤツじゃなさそうね・・・

自分を拘束しているものも何もなく、自由な身なので、ひとまずは安全な場所と人物という事が分かり、ほっと胸を撫で下ろす。だが、初めて来る地球でのんびり時間を過ごしているワケにも行かない。まずは、シンジを起こしてみる事にした。

「ねぇ、ちょっと、起きなさいよ。」

毛布にくるまって寝ているシンジだが、毛布を見たことのないアスカにとっては得体の知れない布でしかないので、恐る恐るつんつんと押してみる。

「うーーーん・・・・・・・・あっ!!!」

うっすらと目を開けたかと思うと、一気に見開くシンジ。そのまま飛び退くように後ずさりすると、緊迫した顔で壁に背を押しつけた。

「大丈夫、なんにもしないわよ。」

「ほ、本当?」

「昨日は急ぎだったのよ、だからちょっと手荒で悪かったわ。」

「わ、悪い人じゃあないんだね?」

「まぁね。あんたも悪いヤツじゃないんでしょ?」

「うん、まぁ・・・」

「あたしも同じよ。」

「そ、そっか。」

悪い人物では無いと聞き、少し安心したのだろう。緊張でひきつった顔も緩み、シンジが部屋の床に腰を降ろした。

「それよりさ、キミって・・・・・宇宙人なの?」

「あんたたち地球人にすれば、そういうことになるわね。別に信じてくれなくてもいいけ
 ど。」

「す、すごい・・・」

かなりの物的証拠があるので、宇宙人だと言われても違和感を感じないものの、いざ本当だとなると、やはり面食らってしまう。

「まぁ、あたしから見れば、あんたが宇宙人だけどね。」

「あ、そうなるね。」

「そりゃそうよ。宇宙に住んでるんだから、みんな宇宙人よ。」

くすっと笑う2人。お互い危険は無いと見て、いくらか余裕が出てきたようだ。

「でもさ、どうして地球に?」

「そ、それは・・・」

うーーん。王女って言うのはマズイからなぁ・・・。

まだ緊張のほぐれていない所に、王女などと言ってしまったらそれを煽る事になるだろう。本当の事を言うのも早いかと、この場は適当な理由を作る事にした。

「まぁ、観光よ。観光。」

「へえ。じゃあ、結構他の宇宙人も来てたりするのかな。」

「来てるでしょうね。ただあたしは着陸に失敗しちゃったけど・・・・・・イタッ!」

「あ!動かないで!」

不意に頭の傷がうずき思わず手をやるアスカを見たシンジが、近くに置いてある救急箱から代えの包帯と消毒液を取り出してアスカの側に駆け寄った。

「ちょっと傷を見てみるよ。動かないでね。」

「う、うん。」

そう言って、アスカの額の包帯を解き、打撲の様子を見るシンジ。

こんなに優しくされたのって、何年ぶりかな・・・。

元居た星では、王女という最高身分だったアスカ。全てが最新鋭コンピュータに制御された世界。腹が減れば食事が出てきて、眠たくなったらベッドが出てきて、喉が乾けば水が出て、話し相手が欲しければコンピューターの作り出した疑似人格と会話。何一つ不自由はしなかったが、自由でもなかった。

国王とその王妃の両親も、連日の惑星訪問により、まともに構ってくれる事など、月に1度、あるかないかだった。

そして、毎日のように繰り返される「お見合い」。総合的に頭脳の優秀な近隣惑星の王子がコンピューターから自動で割り出され、アスカの意志は取り入れられる事は一度も無かった。

そんな暮らしにいい加減嫌気が指していたアスカ。日頃、一度行ってみたかった地球の語学を密かに学び、終えると同時に、惑星間脱出プラグで星を脱出、もとい家出。ただ、規模が星単位の家出なだけに、今頃星は大騒ぎだろう。

「はい、包帯を代えたよ。しばらくは静かにしてたほうがいいね。」

アスカが故郷に思い馳せている内に、包帯の代えが終わったようだ。

「ええ。ありがと。」

「それより、他には怪我してない?」

「他は、大丈夫みたいね。頭以外は、どこも痛くないし。」

「良かった。」

「そ、そうね。」

透き通るような笑顔を向けるシンジに、アスカは頬を赤くして俯いてしまっている。

王女という立場上、自分に向けられる笑顔は全てご機嫌取りの、上辺だけのものだった。
お見合いの相手も全て、印象だけを狙った笑顔でアスカにプロポーズして来ていた。

だから、そんな偽物の笑顔しか見たことが無かったアスカには、このシンジの偽りの無い笑顔が、とても魅力的に見えたのだろう。

「あの、あんたさ、そう言えば、名前はなんていうの?」

「ああ、言ってなかったね。僕は、碇シンジっていうんだ。」

「じゃあ、シンジでいいわね。」

「うん。キミは?」

「あたしは、この星の日本語に直すと、アスカ・ラングレー。アスカでいいわ。」

「うん、分かった。アスカだね。」

「で、歳は?」

「僕は中学2年で、14歳だよ。」

「えーーー!本当!?あたしと同い年じゃない!」

自分と同じ歳だと聞いて、パァーっと笑顔になるアスカ。友達と呼べる知り合いのいなかったアスカにとっては、凄く嬉しい事なのだ。

「そうなんだ。じゃあ、よろしくね、アスカ。」

「よろしく!シンジっ!」

そしてがっしりと握手を交わすと、シンジは腰を上げて部屋を後にしようとする。

「それじゃ、ちゃんと寝てなよ。まだ傷が治ってないんだから。」

「ええーーーー。イヤよそんなの。」

「あんまり動くと痛むよ?」

「だってせっかく地球に来たのに、大人しくなんかしてられないわよ。」

「でも・・・。」

「じゃあ、シンジの家ぐらい見せてよ。トイレだってどこにあるか分からないじゃな
 い。」

「うーーん・・・。」

「つべこべ言わない!!」

ジャキッ

はっきりしないシンジに痺れを切らして手元にあったレーザー銃の銃口を向けるアスカ。王女という身分だった為、自分の我が侭が全て通っていたアスカは、思い通りにならないと我慢出来ない性格らしい。

「わ、分かったよ!いいよ!見ていいから!」

「よろしい。」

ニコッと笑うアスカは大変満足そうなこってある。だが、いつまでたってもアスカがベッドから立ち上がって来ない。先ほどから両手を空に差し伸べているだけだ。

「どうしたの?」

「あんたバカぁ?あたしは頭が痛くてまともに動けないのよ?」

「そりゃあ、分かってるよ。だからなに?」

「もう!おんぶよ!おんぶ!!」

「ええーーーーーー!」

「いちいちうっさいわねぇ!さっさとしなさい!」

「でも、恥ずかしいよ・・・。」

ジャキッ

「は、はい・・・」

顔を赤くしたアスカに銃口を向けられ、再び暗黙の了解を押しつけられたシンジ。渋々とアスカの前で腰を降ろして背を向けてやると、アスカが恥ずかしさを誤魔化すように、どさっと乱暴に身を預けて来た。

「ふんっ!こんな美少女を背負えるなんて、光栄と思いなさいよね!」

「はいはい、可愛いね、アスカは・・・。」

「まっ!ひっかかる言い方ね!」

口を尖らせて気怠そうに言うシンジに、超反応で突っかかるアスカ。元居た星では、この容姿にどの男もバカ面引っ提げて近寄って来たのに、シンジだけ勝手が違うので納得がいかない。

「分かったから、ほら、持ち上げるよ。」

「ちょっとこら!まだ話しは終わって・・・キャッ!」

言葉ではアスカの愚痴を抑制出来ないと踏んだシンジが勢いをつけて立ち上がったので、バランスを崩したアスカは慌てて目の前の背中にひっついた。

「も、もう!頭に響いたらどうすんのっ!!」

「ごめんごめん。」

「ふんっ!」

頬を膨らませてぷいっと顔を背けるアスカ。なんだかんだ言いつつも、大人しく背中に乗っているアスカに、シンジはやれやれと苦笑を漏らしていた。

「じゃあまず、シャワーから案内しようか。」

「いいわよ。」

そうしてアスカを背負いながら足を向け、行く先々で背負ったままの格好で説明を始めていった。

((風呂場))

「この蛇口をひねればお湯が出るよ。」

「えーー、ボイスシャワーシステムじゃないのぉ?」

「なにそれ?そんなの知らないよ。」

「じゃあ、クリーニングシステムも導入して無いの?」

「はあ?体はこのタオルに石鹸をつけて洗うんだよ。」

「えぇーーー、じゃあ、頭を洗うのは?」

「シャンプーとリンスを使うんだよ。こうやって手に取って、泡立てて洗うんだ。」

「えぇーーーーーー、めんどくさぁーーーーい。」

「しょうがないよ。地球人はみんなそうなんだから。」

「地球って、文明が発達してないのねぇ・・・。」

思ったよりも地球の文明が進んでいない事が分かり、がっくりと肩を落としながら、シンジの肩に顎を預けてぶうたれているアスカだった。

((トイレ))

「ここがトイレだよ。」

「なにコレ?これが便器っていうヤツ?」

「そう。ここに座って、用を足したらウォシュレットとトイレットペーパーを使うん
 だ。」

「ト、トイレットペーパー!?歴史の教科書で見た事あるわよ!」

「少しは我慢してよ。ここは地球なんだから。」

「ああ、ウォシュレットだったっていうのが唯一の救いね・・・。」

と言っても、ウォシュレットなどアスカにとっては何世代も前の代物である。結局、ここでも天を仰がされたアスカだった。

((キッチン))

「これが冷蔵庫。」

「うっわ!これって冷蔵庫!?骨董品よ、コレ。」

「もう、いちいちうるさいなぁ。」

「だって衛生面に問題大アリよ?あたしの星では何世紀か前に製造が中止されたって聞い
 たわ。」

「大丈夫だって。多少の雑菌じゃ人間は死なないよ。」

「あんたってボケっとしてそうだから、雑菌も冴えないのよ、きっと。ふふふっ。」

「はいはい、どうせ僕はボケっとしますよ・・・。」

「むっ!なによその言い草は!シンジのくせにぃぃぃ!」

「苦しい!首がっ!やめて!」

「これに懲りて、生意気な口を聞くんじゃないわよ?」

「げほっ、げほっ、分かったよ。もう、乱暴なんだからなぁ。」

「乱暴?こう見えても、あたしは花も恥じらう乙女よ?」

「はいはい・・・。とにかく、冷蔵庫は自由に使ったらいいよ。」

「はぁーーーい。」

「で、あと流しの事だけど・・・・・」

微笑を浮かべながらキッチンの説明をしているシンジの横顔を見つめるアスカは、微笑んでいる。

こんなに楽しく人と話したのって、久しぶりだなぁ。

シンジの背中の上で、しみじみとそんな事を思う。今自分がしている本当の笑顔なんかは、とっくに忘れていたと思っていたものだ。王女なんだから上品に振る舞えだとか、マナーを守れだとか、そういった矯正された世界なんかより、こういう何気ない会話をして楽しめる平凡な世界のほうが、アスカには比べようのないくらい心地良い。

こいつと話していると、「あたし」がここに居るって感じがするわ・・・。

ふと、無理なく自分を引き出してくれているシンジに気付く。今まで我が侭だとか、勝手だとか、性格が悪いだとか、色々言われて来た自分だが、そんな自分を100%さらけ出しても、シンジは優しく受け止めてくれているのだ。そしてそれが、自分の存在を肯定してくれているのだと直結して感じられ、とても居心地が良く感じられる。

こういうヤツがお見合いの相手だったら、いやがらなかったのになぁ・・・。

そして、お見合いの席に正装してやって来たシンジが「どうも、〇〇星の王子です。」と、かしこまって挨拶をしてくる光景を想像して思わず吹き出してしまうアスカ。

ぷぷぷぷっ!似合わなぁーーーーいっ!!

突然背中のアスカがくっくっくっと含み笑いをし出したので、訝しげな顔で様子を伺うシンジ。

「どうしたの?なんかあった?」

「え?ああ、ちょっとねっ。」

上機嫌なのだろうか、弾むような口調でアスカが言う。

「ま、これで僕の家の説明は終わりだよ。だいたい分かったでしょ?」

「はぁーーーい!」

「じゃあ、朝食にしようか。」

「さんせーーーい!」

そして早速朝食の準備にかかる為、シンジはアスカをリビングの椅子に降ろしてキッチンへと向かった。





時が遡る事、1日。
場所も変わって、地球から何光年か離れた所に位置する高度文明ステルス惑星、「惑星ラングレー」。

ピーーンポーーン

「アスカぁー、いないのぉーーー?」

元アスカの部屋の前に立って呼びかけているのは護衛隊長、葛城ミサト。アスカは今日、お見合い相手との食事の予定だったのである。お見合いと聞いて、暴れ出すアスカを抑制、連行出来る類い希な能力を持っているのは、宇宙広しとミサト唯一人であろう。

ピーーンポーーン

「アスカぁー、入るわよぉーー。」

「ちょっ!ミサトさん!もうちょっと様子を見たほうが・・・。」

ドアのオープンスイッチに手を伸ばすミサトを引き留めているのは、新米隊員の日向マコトと青葉シゲル。護衛隊といっても、他の隊員達は皆アスカの我が侭に付き合い切れずに棄権してしまっていたので、今残っているのはこの3人だけである。

「なぁーに怖がってんの。だいじょぶだってぇ。」

「し、しかし!この前ボクが入ろうとしたらレーザーガンで撃たれたんですよ!見て下さ
 いよ、この頭!」

涙目の日向隊員がベレー帽を脱ぎ、先日レーザーがかすめた箇所をミサトに訴えかけるように見せる。セットされた髪の毛の一角が削り取られ焦げているのが分かる。

「全くです!王女はお見合いと聞くと、見境なく撃ってくるんですよ!」

先日持っていたギターケースを中身ごと打ち抜かれた青葉隊員も、怒りと恐怖を露わに詰め寄ってきている。

「あなた達はまだ新米だからアマちゃんなのよ。射撃はアスカの挨拶代わりと考えれば大した事ないわ。」

「「どんな挨拶ですかっ!!」」

もう勘弁してくれと、冷や汗をかきながらミサトに詰め寄る2人。挨拶で殺されてはたまらないだろう。

「まぁまぁ、見てなさいって。」

「「危ないっ!!」」

2人の制止の言葉も聞かず、余裕の笑みを浮かべながらミサトがスイッチを押してドアを開けてしまった。

プシューーーーーー

「うりゃああああーーーーーー!!!」

バッ!

ドアが開くなり、信じられないほどの距離を一足飛びして部屋へと飛び込むミサト。そして着地と同時にゴロゴロと流れるように前転し、アスカが居るであろうベッドへと銃口を向けながら向き直る。

「・・・・・って、あれ?」

だがどうした事か、ベッドにアスカの姿が見受けられない。

「アスカ?」

かつてないこの事に悪い予感を覚えつつも、ひとまずベッドに近寄って見る。すると布団に少しの膨らみがある事が分かり、それをバッと捲るミサト。瞬間、そこに置かれていた猿のぬいぐるみに目を剥いた。

《王女代任はお手のもの!天才猿ウッキーラングレーちゃん!よろしくねっ!》

ぬいぐるみに張られていたその張り紙のメッセージを見るや否や、わなわなと振るえ出しているその拳。部屋に備え付けの脱出プラグがすでに発射されている事から、近隣の惑星に逃げたのだろう。

あんの、バカ王女ぉぉ〜〜〜〜!!!
いっつもいっつもシャレになんないってぇのよ!!

「日向君!青葉君!」

「「は、はい!?」」

撃たれないように外で隠れていた日向と青葉が恐る恐る入り口から顔を覗かせる。

「アスカが逃げたわ!」

「「ええーーー!!」」

「脱出プラグを使ったみたいだから、行き先を調べて!」

「「はいっ!!」」

へっぴり腰だった彼らも事態の大きさに顔を引き締め、急いで王国発令所へと足を走らせた。王女という最高身分のアスカの身の安全を確保する為、一刻も早く行き先をコンピューターで割り出さなければならない。

「どう?分かった?」

「はい。4時間前に、未確認の脱出プラグが惑星を離れていたようです。」

「間違いないわね。行き先は?」

「えーー・・・、MAGIは三者一致で進路を「地球」と提示しています。」

「地球か・・・、そう言えば行きたいとか言ってたっけなぁ。」

しかし、まさか本当に出向いてしまうとは夢にも思わず、アスカの呆れるほどの無謀さと奔放さにミサトは頭に手をやりながら天を仰ぐ。同時に胃が痛み出してきたが、事が事だけに、うかうか時間を食ってはいられない。

「とにかく、今回の1件は国王と王妃はもちろん、全て隠蔽するように。極秘の内にあたし達が直接地球に出向いて連れ戻すわよ。」

「「はい!」」

「じゃ、早速、惑星間移動プラグを手配して。目立たないようにね。」

「分かりました。」

「はぁ・・・・・、胃が痛い・・・・・。」

そして、おもむろにポケットから錠剤のビンを取り出すと、そのままガラガラと乱暴に口に放り込んで行くミサト。それを見た日向と青葉は、熟練の護衛隊長としての偉大さを感じると共に、それよりも大きな、同情の念を寄せていた。

ミサトさん・・・・・、おいたわしや・・・・・。

目を伏せる新米隊員の2人の目からは、キラリと光る滴が見える。

かくして、惑星ラングレー史上、最大で最難関の極秘任務が密かに遂行されたのであった。



 <続く>


シンクロウへのご感想は、こちらか、掲示板でお願い致します。
 
mail to : Synkrou [hyperspace@earth.email.ne.jp]

inserted by FC2 system