「ご来訪!惑星王女アスカ様!」
 第3話:「決戦の後で」



初デートスポット、第3新東京市ダズニーランドに来ているシンジとアスカは、観覧車の人の列の中で自分達の順番を待っている。

「ねぇシンジ。観覧車っていうのは、あの小さい部屋が一周するだけの乗り物なの?」

「そうだよ。あそこに入って、景色を楽しむ乗り物なんだ。」

「へえーー・・・。」

実はさきほど、通りすがりのカップルが「やっぱデートっていったら観覧車だよ」と言っていたのを耳にしていたアスカ。絶叫マシン嫌いのシンジを気遣ったというのも理由にあるが、それよりも大きな下心が作用しての選択だった。

み、見るからに、密室よね・・・。
ど、どうしよう〜〜!襲われたらどうしよぉ〜〜!

「ちょ、ちょっとアスカ、なにやってるんだよ。」

「だってだってだってぇ・・・・・」

妄想を広げて、まっ赤な顔を両手で覆いながらくねくねと体をよじらせているアスカ。と、その時。

「アスカぁーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

「はっ!!!」

ニヘラニヘラと笑っていたアスカだが、聞き慣れたその声にビクッと背筋を伸ばすと、ぎょっとした顔で背後を振り返った。

「ミ、ミサト!!?」

「ここで会ったが百年目ぇぇぇーーーーーーー!!!」

「「王女ぉーーー!大人しく降伏をーーーーー!!!」」

驚いたアスカの目先には、鬼の形相のミサトと、頼むから無事でいてくれと心配を露わにした表情の日向と青葉が、ドドドドドと地を鳴らしながら迫って来ている。

「お、王女ぉ!?王女ってなんだよアスカ!?」

「ちっ!なかなか対応が早かったわね!逃げるわよシンジ!」

「え!?逃げるって!?ちょっと!?」

「いいから早く!あいつらはやっかいなの!」

王女と聞いて戸惑っているシンジの手を引っ張り、前に並んでいる人達を押しのけて観覧車の中へと入って行く。すると、何事かと慌てた係員が駆け寄って来た。

「ちょっとお客さん!困ります!」

「うるさい!早く動かすのよ!」

「し、しかし、順番が・・・」

「ごたごた抜かしてんじゃねぇわよっ!!!」

ギロッ!

「は、はいぃぃ!」

ガコン、ウイィーーーーーン・・・

「しまった!!!」

レーザーガンで威嚇射撃をしながら人をかき分けていたミサトは、アスカを乗せた観覧者が動き出してしまったのを見て、急いで観覧車に駆け寄るが、時既に遅し。

「あっかん、べえぇーーーーー。」

「むっかぁーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

遠ざかる観覧車の窓越しに挑発してくるアスカに腹を立てたミサトは、隣りにいる係員に詰め寄る。

「この機械を止めなさい!!!」

ジャキッ

「ひ、ひええええ!で、出来ませーーーーん!!」

「なんですって!?なんとかしなさい!!」

「い、一回動き出したら、一周するまで止まらないんです!!」

「ちっ!ひとまず乗り込むわよ!」

「「は、はい!」」

突然の出来事に混乱している人達に、頭を下げて説明していた日向と青葉を呼び寄せると、アスカの乗っている観覧車の次の観覧車に飛び乗った。

((アスカ達の観覧車))

「参ったわね・・・、まさかこんなに早くミサト達が来るなんて・・・。」

ミサト達の観覧車よりひとつ前の観覧車の中で、アスカは腕を組んでうーーんと考え込んでいる。

「なんなんだよ一体!?王女!?ミサト!?どうなってんだよ!?」

「詳しい説明は後よ。今はこの危機をどうやって乗り切るかが先決。」

この事態にすっかり混乱しているシンジにそう言うと、アスカはワンピースを太股までスススッとたくし上げる。

「んな!?なにする気だよ!?」

いきなりその美しい脚線美を目にしたシンジは、最初は顔をまっ赤にしたものの、続けてその太股にベルトで巻き付けられているレーザーガンを目にすると、一転、ぎょっと目を剥いた。

「さあ!かかって来るがいいわ!護衛隊の実力を試してやる!」

ジャキッ

「やめてよ!試さないでいいよぉーーーー!!!」

レーザーガンをブローバックして、いきり立つやる気まんまんのアスカ。シンジはこれからこの身に降りかかるであろう災難を想像して、軽い目眩を覚えてしまう。

((ミサト達の観覧車))

「よし!この位置よ!まずは青葉君、頼んだわよ!」

「ほ、ほんとうに、やるんですか・・・?」

「あたぼうよ!奇跡は起こさなきゃ価値がないのよ!」

「し、しかし・・・」

ゴクリと唾を飲み込む青葉。ミサトの立てた作戦とは、こちらの観覧車がアスカ達の観覧車より高い位置に来た時、窓からあちらに飛び乗るというもの。こんな無茶苦茶な作戦、無事に成功したら、それこそ奇跡に違いない。

「早くなさい!男でしょ!」

「わ、わかりました・・・。」

すると、青葉は振り返り、後ろで次は自分であろうとカタカタと震えている日向に顔を向けると、憐れむようにフッと笑いかけた

「日向・・・、先に行って待ってる。」

「あ、青葉・・・!!!」

「・・・・・マヤちゃんに、よろしくな。」

そしてビッと親指を立てると、思いを振り切るように叫声をあげながら窓から身を投げた。

「うおおーーーーーーーーーー!!!」

バッ!

「青葉ぁーーーーー!!!」

無茶苦茶な作戦を遂行する為、飛び降りて行った戦士青葉の後には、キラリと光る涙の筋が残されていた。

ヒューーーーーーーーーーーー・・・・・、ガンッ

しかし思い空しく、アスカ達の観覧車の天井部分に弾かれてバウンドすると、きりもみ状態で地上へと落ちていってしまった。

ボチャーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!

そして、丁度その落下地点にあったダズニーランドの恋人達の名所、「幸せの池」に着水すると、ひとまず一命は取り留めたものの、意識を失ってプカプカと浮いている。

((アスカ達の観覧車))

「なんか今、天井でガンッて物音がしたわね。」

「人が落ちて行ったみたいだけど・・・。」

なんだったのだろうと、シンジとアスカは窓から目下の地上を見てみると、池から係員に運び出されている青葉の姿が目に映った。

「ミサトのやつ・・・、相変わらず無茶苦茶ね・・・。」

((ミサト達の観覧車))

「ちっ!青葉君、しくじったわね!」

作戦失敗を目の当たりにしたミサトは、もうちょっとだったのにと、舌打ちをして悔しがっている。その隣りでは、青葉の自殺未遂を目の当たりにして真っ青の日向。

「む、無茶苦茶ですよミサトさん!!!」

「じゃあ、次は日向君。護衛隊の汚名を晴らしてちょうだい!」

「いぃ!?いやですよ!思いっきり失敗した後じゃないですか!!」

「だからこそよ!奇跡は起こすものなの!!!」

「いやですよぉーーーーーーー!!!」

「こら!待ちなさい!!!」

小さな観覧車内でドタドタと追いかけ回るミサトと日向。すると、電子音と共に搭乗終了のアナウンスが流れてきた。

ピーンポーン

《間もなく、搭乗地点に戻ります。ご利用、ありがとうございました。》

「ちっ!ゴングに救われたわね、アスカ。」

「た、助かった・・・。」

本当にゴングに救われたのは日向である事を、ミサトは知る由もない。

((アスカ達の観覧車))

「シンジ、逃げるわよ!!」

観覧車が一周してミサト達より先に降ろされたアスカ達は、ひとまずミサト達との距離を置くために、正面の道をひたすら走る。

((ミサト達の観覧車))

「アスカがあっちに逃げたわ!追うわよ日向君!」

続いて、少しの時間差で観覧車を降りたったミサト達。ミサトはすぐさまアスカの追跡を開始しようとするが、日向は青葉の安否が気になってしょうがない。

「あ、あの、ミサトさん。青葉の無事を確認してからの方が・・・」

「なに言ってんの!アスカ関連の事件では一人くらい犠牲者が出てもおかしくないわ!!」

まるで青葉が死んだ人のように言うミサト。

「し、しかし・・・」

「ほら早く!このままじゃ青葉君の無念も晴らせないわよ!!」

「は、はい!」

厳しい口調で言うミサトに叱咤され、日向は、渋々とミサトの後を追って足を走らせる。

青葉・・・、お前ならきっと無事でいるよな・・・。

日向はそう願いながら、ふと空を見上げると、心なしか、青空に浮かぶ雲が青葉の笑顔を形作っているように思えるのだった。

一方、全速力で逃げているアスカ達。先頭を走るアスカに手を引っ張られて後ろを走っているシンジは、あまりのハードワークに、はあはあと苦しそうに息を切らせている。

「ア、アスカ、もう、走れないよ・・・。」

「ダメよ!追いつかれちゃうじゃない!!」

「で、でも・・・、もう、足が・・・。」

ドタッ

「シンジ!!」

ついにダウンしてしまったシンジ。アスカは、急いでシンジの肩を持つと、広場に植え付けられている植物の茂みへと移動してその影に隠れる。

「ちょっとシンジ!しっかりしなさいよ!」

「う、うぅ・・・」

アスカは、シンジの肩を揺さぶって目を覚まさせるが、休む間もなくミサトのけたたましい声が聞こえてきてバッと振り向く。

「アーーースカぁーーーーーーーーーーー!!!」

「ちっ!もう来たのね。ここがバレなきゃいいんだけど・・・。」

茂みの僅かな隙間から様子を伺うアスカは、ミサト達がこの広場をそのまま通り過ぎてくれと願うが、先頭を走っていたミサトは、広場の中央でピタリと足を止めた。

「あれ。ミサトさん、急にどうしたんですか?」

前を走っていたミサトが突然足を止めたので、日向はどうしたのだろうと不思議そうな顔をしている。

「・・・・・居るわ。」

「は?」

「この広場のどこかに、アスカが居るわ。」

「えぇ!どうして分かるんですか!?」

アスカの発信器レーダーを持っていたのは青葉だけなのに、どうして分かるのだろうと驚く日向。

「カンよ。」

「カン?」

「そうよ。長年アスカと渡り合ってきた、あたしのカンがそう伝えているの。」

「す、凄い・・・。」

王女護衛を任務としていると、こんな特殊能力が備わってしまうのかと、日向は改めてミサトの偉大さを思い知らされたのだった。

「とにかく、ここ一帯をくまなく探すわよ!あたしはあっちを探すから、日向君はここら
 辺をお願い!」

「了解!」

そう言って早速、手分けをしてこの広場一帯を捜索し始めたミサトと日向。茂みに潜んでいるアスカは、舌打ちをせざるを得ない。

「ちっ、さすがミサト。でも、こうでなくっちゃあたしの護衛は勤まらないわ。」

「アスカ・・・、ワケが分からないよ・・・。」

ようやく呼吸を整えたシンジは、もういい加減にしてくれとアスカに半ば懇願するように詰め寄っている。

「待ってて。もうちょっとだから。」

「アスカぁ〜〜・・・。」

「それより、あんたはビール買ってきて。持っているお金で買えるだけ、たくさんね。」

「ビール?ビール買ってどうするの?」

「いいから!あんたは顔見られてないから大丈夫よ。」

「う、うん・・・。」

とにかくここに隠れているだけではラチが開かないのはシンジにも分かるので、シンジは渋々と言われた通り缶ビールを買いに足を走らせる。

さて・・・、まずは悪いけど、日向さんからね・・・。

小さくなるシンジの背中を見送りながら、アスカは次の行動に出る為、早速近くに立っている警備員へと近寄った。

「ねぇ、警備員さん。」

「ん?なんだね?」

「さっき、痴漢にあったの。」

「な、なんだと!?一体どいつだね?」

「あそこにいる、宇宙服を着ている変な男の人にお尻を触られて・・・。」

「なるほど、宇宙服を着ているなんて、見るからにアブナイ奴だ。」

「お願いします、絶対捕まえて下さい・・・。あたし、くやしくって、うっ、うっ。」

雰囲気をそれらしく盛り上げる為、お得意の嘘泣きをして縋るアスカ。

「よし分かった!任せなさい!!」

アスカの涙にすっかり乗せられてしまった中年の警備員。いきり立ちながら無線で近くにいる他の警備員に連絡を取り始めた。

「Bブロックにいる全警備員に告ぐ!痴漢発見!出会いの広場にいる宇宙服の男を捕まえ
 ろ!ダズニーランドの風紀を守る警備員の名誉にかけて絶対逮捕だ!」

「「「ガガッ・・・了解!」」」

「よし、これで大丈夫だぞ。私も行ってこよう。」

「ありがとうございましたぁ〜。」

「なに、礼には及ばんよ。それじゃあ、気を付けるんだよ。」

タッタッタッタッタッ・・・・・

「・・・・・ふっ。あたしって、罪ね。」

まんまと騙された警備員を見送るアスカは、一人ほくそ笑みながら肩をすくめているのだった。

「さて、あとはミサトだけね。」

間接的に日向を仕留め終え、あとは最後のミサトを仕留める為に、シンジの帰りを茂みに隠れて待つだけだ。

((出会いの広場))

護衛隊きっての生真面目で有名な日向は、几帳面に草木をかき分けてアスカ捜索を続けている。

「王女ぉーー、どこに居るんですかぁーー、お願いだから出てきて下さぁーーい。」

「キミ、ちょっといいかな?」

「はい?」

中腰で捜索していた日向は咄嗟に振り返ると、そこには十数人の屈強な警備員が警棒片手に周囲を取り囲んでいた。

「キミに痴漢容疑がかかっている。同行を願おう。」

「いい!?ち、痴漢容疑!?そ、そんなの何かの間違いですよ!!」

あらぬ濡れ衣を着せられている事を知らされ、ぎょっと目を剥く日向。

「すまないが、言い訳は取り調べ室でお願いしたい。」

「そ、そんな!今は王女を探しているんです!無理ですよ!」

「王女だとぉ?何を寝ぼけた事を言ってるんだね!ますます怪しいぞ!連れて行け!」

「「「はっ!」」」

「ちょ、ちょっと、誤解ですってぇーーー!!!」

日向の叫びは空しく、遠く離れた所で捜索しているミサトには届かない。こうして日向は、警備員にズルズルと引きずられて行ってしまい、残る護衛隊はミサトただ一人となった。

「よし!うまく行ったわ!!!」

一方、茂みに隠れて一部始終を見ていたアスカはガッツポーヅを出して喜んでいる。すると、タイミングよく、缶ビールを両手一杯に持ったシンジが戻って来た。

「アスカ、買ってきたよ。」

「あ、丁度良かったわ。じゃあ、そのビールをミサトに渡してやって。」

「ミサト?」

「ああ、言ってなかったわね。ほら、あそこで宇宙服を着ている女がミサトよ。」

「ふぅん。で、あの人にビール渡せばいいの?」

「そうよ。それが終われば全部丸く収まるわ。」

「よく分かんないけど・・・、とにかく、行ってくるよ。」

「シンジ!任せたわよ!」

うーーん、でも、初対面の人がビール出されて受け取るのかな?

いくつも引っかかる事を思い浮かべながらも、シンジは、今だにキョロキョロとアスカを捜索しているミサトに近寄っていく。

「あの・・・、すいません。」

「ん?なに?」

「これ・・・、どうぞ。」

「うっわぁーーー!気が効くじゃなぁーーーい!!丁度イラついてた所なのよぉー!!」

「い、いえ・・・。」

「地球人ってのは気が効くのねぇ〜。ありがたいわぁーー。」

なぜいきなりビールを差し出した自分を怪しまないのだろうと不思議に思うシンジをよそに、早速ビールを一本受け取ったミサトは、その銘柄を見るや歓喜の声をあげた。

「おおおお!!これが噂に聞く、地球のエビチュビールね!!」

「は、はい。」

「いっただっきまぁーーーーーす!!!」

そして勢いよくタブをプシュッと起こすと、ミサトはグビグビと喉を鳴らして飲んでいく。

「ぷっはぁーーーーーー!!!おいしいじゃなぁーーい!!!」

「そ、それは、良かったです。」

「ホント嬉しいわぁ〜〜。あ、そうだ、キミなんていう名前?」

「あの、碇シンジです。」

「じゃあ、シンジ君ね!あなたの名前は一生忘れないわ!」

ミサトはそう言いつつも、次々とシンジの腕から缶ビールを手にしては飲み、手にしては飲んでいく。

プシュッ、グビグビグビグビグビ・・・・・

「あたしさぁ、護衛隊の隊長なんだけどさぁ、ほんっと、大変なのよぉ。」

「そ、そうなんですか。」

プシュッ、グビグビグビグビグビ・・・・・

「ほんっと、あのバカ王女に付き合わされてる身なんだから、一杯やんなきゃやってらん
 ないわよ。」

「た、大変そうですね。」

プシュッ、グビグビグビグビグビ・・・・・

「そうなのよぉ〜〜、聞いてよシンジくんさぁ〜・・・。」

「は、はい。」

プシュッ、グビグビグビグビグビ・・・・・

「この前なんか、あたしの車にレーザーガンで穴開けやがったのよぉ〜〜。」

「ひ、酷いですね。」

プシュッ、グビグビグビグビグビ・・・・・

「れしょ?れしょ?もう、ほんっとに、参ってるのよぉ〜〜。」

「が、頑張って下さい。」

だんだん酔いが回り始めてきたのか、愚痴っぽくなってきたミサト。遂にはその場に座り込んでしまい、シンジもその付き合いをさせられてしまう。

プシュッ、グビグビグビグビグビ・・・・・

「その前らんかは、ガソリンタンクに砂入れられたしぃ、その前らんかは・・・。」

「は、はは・・・」

プシュッ、グビグビグビグビグビ・・・・・

「ちょっとシンちゃん!聞いれるのぉぉぉ!??あたしの話しを聞いれるろぉぉぉ??」

「き、聞いてますよ。」

プシュッ、グビグビグビグビグビ・・・・・

「ちくしょうちくしょう、あろバカ王女ぉぉ、いっつもいっつも心配かけららっ
 てぇぇぇ〜。」

「あ、あの・・・。もう飲むの止めたほうが・・・。」

プシュッ、グビグビグビグビグビ・・・・・

「うるさい!あんらにあらしのらりが分かるってぇのよぉぉぉぉぉ!!」

「す、すいません!」

プシュッ、グビグビグビグビグビ・・・・・

「うぅぅ、ヒック、ヒック、べらぼうめぇぇ、うっ、うっ、しくしく・・・。」

「あの、ちょっと!大丈夫ですか!?」

「うぅぅーーーーん・・・、むにゃぁぁ・・・・・。」

とうとう泥酔したミサトは、その場に横になって居眠りしてしまった。すると、後ろの茂みに隠れて様子を伺っていたアスカが手招きをしているので、シンジは後ろ髪を引かれながら、アスカの方へと戻って行った。

「よくやったわシンジ!これでもう追っ手の心配はないわ!」

「い、いいの?あの人寝ちゃったよ?」

「大丈夫よ。係員がなんとかするでしょ。」

「うーーん・・・、でも・・・。」

「ほら、もういいから。それより、あいつらが復活しない内にさっさと退散しましょ。」

「う、うん・・・。」

こうしてシンジはアスカに手を引かれながら、夕焼けの赤い空の下、初デートスポットである第3新東京市ダズニーランドを後にしたのだった。そして、今回も王女アスカに敗北を喫した、精鋭葛城フォース。





ドタバタとした今日の初デートを終え、夕陽に赤く照らされた家路の道を歩く2人。

「もう・・・、今日は散々だったよ・・・。」

「まったくよ。ミサト達があんなに早く来るとは思わなかったわ。」

いきなりこんな事態に巻き込まれたシンジには、まだ事の真相が知らされていない。混乱した頭も、今は少し落ち着いたものの、やはり事件の発端が気にかかる。

「それより、なんでこんな事になったんだよ?」

「知ぃーーーーーらないっと。」

しかし、アスカは腕を頭の後ろで組みながら、つーんと顔を背けてしらをきる。

「はあ?じゃあ、なんで追いかけられてたんだよ?王女って?ミサトって?」

「知らなぁーーーーい。」

「な、なんだよ、それ・・・。」

呆れてため息をつかされるシンジ。

イヤよ、あんたにだけは、教えたくない・・・。
王女って聞いて、驚くあんたの顔なんて、見たくない・・・。

故郷の星で、お忍びで友達を作ろうとした事のあるアスカ。しかし、どんなに親しい友達も、王女という身分を明かした途端に離れていってしまった。だから、せめてシンジにだけは、普通の女の子として見てもらいたい。

今・・・、シンジに離れられたら、あたし・・・。
でも・・・。

「ねぇ、シンジ。」

「うん?」

「あたし、どうかな?」

「え・・・。」

憂いのある顔で振り向くアスカ。寂しげに眉を細めているものの、蒼く明鏡の瞳、夕陽に照らされて金色に乱反射する髪、そして、美しい顔立ち。

き、綺麗だ・・・。

そのあまりの美しさに見とれてしまったシンジは、思わず本音が口を衝いてしまう。

「あ、あの、き、綺麗だよ・・・。」

「そ、そう・・・。」

思わぬシンジの大胆な言葉に、アスカはまっ赤な顔で俯いてしまった。当のシンジも、自分の言った言葉に恥ずかしくなって俯いてしまっている。

「あ、あのさ、シンジ。」

「な、なに?」

「もしよ、もし、あたしが、その・・・。」

ここまで言いかけて、聞くべきか止めておくべきか迷ってしまう。しかし、ミサト達が来た今、隠し通せるのも時間の問題だろう。それに、このまま黙ったままというのも、シンジを騙しているようで心が辛い。

アスカ・・・・・、行くわよ!
シンジなら、きっと大丈夫よ!

そう自分に言い聞かせ、恐る恐る、重たい唇を開けていく。

「も、もし、あ、あたしが・・・、王女だったら、ど、どうする?」

言っちゃったーーーーー!!!

婉曲的ではあるものの、とうとう身分を明かしてしまったアスカ。するとなぜか途端に後悔の念が押し寄せ、返事に怯えるようにギュッと目を瞑ってしまった。

アスカ・・・。

そんなアスカのこわばった様子に、言わんとしている事をそれとなく察したシンジは、一瞬驚いたような表情をしたものの、すぐにふっと柔らかな笑みへと変えた。

「・・・・・別に、王女でも、いいんじゃないかな。」

「え!!!」

その言葉に弾かれたように顔をあげて見ると、目の前には大好きな笑顔があった。

「で、でも・・・!」

「だって、アスカは、アスカだろ?」

「・・・・・う、うん。」

「それに、ここは地球だよ。アスカは王女じゃない。」

「シンジ・・・・・。」

ニッコリと微笑みかけるシンジに、アスカは思わず涙が流れだしそうになってしまう。

あれ?あれれ?

するとポロポロと涙が勝手に出てきてしまい、慌ててシンジの背中に回り込んでしがみつく。

「ア、アスカ!?」

「ちょっと、待って・・・。」

「・・・・・うん。」

突然背中に抱きつかれたシンジだが、背中に伝わってくる熱いものと、しゃくりあげるような小さな声に、顔をほころばせる。

ど、どうしよう・・・、涙、止まんない・・・。
どうしよう・・・。

必死に堪えようとすればするほど、溢れ出してくる涙にアスカが困り果てていると、不意にシンジが腰を降ろした。

「ほらアスカ。おぶってあげるよ。」

「ぐすっ・・・、シンジぃ・・・。」

アスカの、涙を見せたくないという気持ちを気遣い、おんぶなら見せずに済むと、シンジが腰を降ろしたのだ。しかし、この優しい気持ちが、アスカの涙を一層に引き出してしまう。

「ぐすっ、ばかっ、あんた、生意気よ・・・。」

「いいからいいから。」

「ふんっ、あたしをおんぶ出来るなんて、ぐすっ・・・、光栄と思いなさいよ。」

「またそれ?朝も聞いたよ。」

「うるさいわね。ぐすっ・・・、でも、せっかくだから、乗ってあげる、ぐすっ。」

「分かったからさ。」

アスカはポロポロと涙を流しながら、鼻声で愚痴りながらシンジの背中にちょこんと乗る。

「じゃ、歩くよ。」

「ぐすっ・・・、早く行きなさいよ。」

そして、シンジが歩き始めると、肩口に顎を乗せているアスカから、ぐすっぐすっという泣き声が聞こえてきて、思わずふっと笑ってしまう。

「なによ!ぐすっ・・・、あたしが泣くのがそんなにおかしいっての。」

顔が涙でくしゃくしゃになったアスカの言う言葉は、全て鼻にかかってしまっており、濁音になってしまっている。

「違うよ。アスカも可愛い所があるんだなぁってさ。」

「こ、このばかぁ!ぐすっ、あんたねぇ、ぐすっ・・・、責任、取りなさいよねっ。」

「責任?なんで責任なんか取んなきゃいけないんだよ!?」

「ぐすっ・・・、決まってるじゃない、ぐすっ、あたしを泣かせた、責任よっ。」

ぷっ。そんな泣き声でミエ張っちゃってさ。
でも、アスカらしいや・・・。

勝手に泣いたのはアスカの方なのにと、相変わらずなアスカに自然と顔がほころぶ。

「はいはい。それで、僕はどうやって責任取るワケ?」

「あ、あたしを、ぐすっ・・・、独りぼっちに、ぐすっ・・・、しないこと・・・。」

「うん。分かったよ・・・。」

優しくそう言うと、アスカは顔をシンジの背中にぼすっと埋めて、「ううぅー」とこもった泣き声を上げだした。

アスカ・・・、寂しかったんだね・・・。

シンジはよいしょとアスカを背負い直すと、家に着くまでにアスカが泣きやむよう、ゆっくりと家路を歩いていくのだった。




 <続く>


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