「ご来訪!惑星王女アスカ様!」
第4話:「ウキウキショッピング」
王女アスカに敗北した護衛隊3人。閉場時間を迎えたダズニーランドから追い出され、唯一無傷の日向が両肩でミサトと青葉の肩を持って歩いていた。
「べらぼうめぇ・・・、べらぼうめぇ・・・。」
「あ、あんまり動かないで下さいよ。また吐いたら怒られますよ。」
「うっさいわねぇ・・・、べらぼうめぇ・・・。」
ミサトは少しばかり酔いが落ち着いたものの、足下がおぼつかない千鳥足。青葉は着水の衝撃で顔面打撲の為、巻かれた包帯でしゃべる事さえもままならない。
「うっぷ・・・、青葉君・・・、アスカの、現在位置は・・・?」
「ふぁふぁふぃふぁふぇん。」
「え?なんだってぇ?」
「あ、あの、分からないだそうです。」
顔面包帯の青葉はろくにしゃべれていないが、そこは親友日向。ミサトとの通訳を買って出る。
「なんでよ、レーダーはどうしたの?・・・うっぷ。」
「ふぉふぃふぁふぉふぃふぉ、ふぉふふぇふぃふぇ、ふぉふぁふぇふぁふぃふぁふぃふぇふ。」
「はっきりなさい!!!男でしょ!!!・・・おえっぷ!」
「あ、あのですね、落ちた時の衝撃で壊れたみたいだと言ってます。」
「な、な、なぁんですってぇーーーーー!!!」
ガシッ、ブンブン!
「ふぉうあーーーーーーーー!!!」
「ちょっとミサトさん!やめて下さいよぉーーーー!!!」
青葉の首を掴んでブンブンと揺さぶるミサトを、日向が必死で抑える。ただでさえムチウチの青葉は、危うく意識が遠のいてしまう。
「ミ、ミサトさん!落ち着いて!」
「だってだってぇ!これじゃあアスカの捜索が出来ないじゃないのよぉっ!」
「しょうがないですよ。とにかく、今日は宿を探しましょう。」
悪酔いミサトに泣きつかれ、まぁまぁと宥める苦労人、日向。ひとまず、今日の所は捜索を中断し、この酔っぱらいと、負傷者青葉の回復を最優先にした。
「ううぅ、アスカのやつ、そこら辺でのたれ死んでないかしらぁぁぁ・・・。」
どうやらミサトの焦りは、アスカを捕まえる事ではなく、その身の心配からきているようだ。
まったく、この人も心配性なんだからなぁ・・・。
そんな酔って涙声のミサトを、日向が優しい声で元気づけてやる。
「大丈夫ですよ。きっと王女の事だから、今もどこかで元気に笑ってますよ。」
「あいつぅぅぅ、何度も何度も心配かけるんじゃないわよぉ〜〜・・・、うっ、うっ。」
やれやれと苦笑いを浮かべながら、犬の遠吠えのするしんみりとした道を、二つの肩を持ちながら歩く日向。
惑星ラングレーの誇る王女専属護衛隊、葛城フォース。元居た星で精鋭と謳われていた彼らの姿とは、ほど遠い・・・。
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ところ変わって、シンジ宅のコンフォートマンション。
「よし・・・、これでいいかな。」
自分の部屋のベッドにアスカを寝かせ終えたシンジ。泣いてしまったアスカを背負い、家路を歩いて家につく頃には、シンジの背中ですっかり眠ってしまっていた。
昨日来た今日に、こんなだもんな・・・、無理もないよ・・・。
今日一日護衛隊に追い回され、さすがのアスカも疲れ果てて寝てしまったのだろう。
でも、こうして改めて見ると、アスカも、やっぱ普通の女の子なんだな・・・。
すやすやと寝息を立てて眠るアスカの寝顔を見て、シンジがふっと優しい笑みをこぼす。この可愛らしい寝顔からは、どこかの惑星の王女などとは、とても思えない。
夕飯の時間だけど・・・、起こすのもな・・・。
すやすやと心地よさそうに眠るアスカに、夕飯で起こすのがためらわれる。
今日は、このまま寝かしてあげよう。
そうしてシンジはリビングへと行き、軽い食事を取った後、ソファで今日は早くに眠りにつくのだった。
追っ手が来ないかどうかなどの心配事もたくさんあったが、なにぶん、今日はシンジにとっても色々とあったので、目を瞑ると一気に押し寄せてきた疲れの波とともに、速やかに眠る事が出来た。
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翌日の朝。早朝9時。
ジューーーー、ジューーーーー
何かが焼けるような音が聞こえてくる。その音がシンジの部屋のアスカの耳を刺激し、浅い眠りについていた脳を覚まし始めた。
「むぅ・・・・・、あれ?」
目を擦りながら目を覚ましたアスカだが、目の前にあったはずのシンジの背中が見受けられずに、キョロキョロと見回している。
「むぅぅ・・・?シンジぃ・・・。」
そっか、あたし、あのまま寝ちゃったんだ・・・。
朦朧としながらも、ベッドから身を起こし、ぺたぺたと部屋を出る。どうやら寝起きは苦手らしく、ぬぼーっとした顔でリビングへと向かい、テーブルの椅子にペタンと腰を降ろした。
「あ、アスカ、おはよう。もう少しで朝食出来るからさ、シャワーでも浴びてきなよ。」
「・・・・・うん。」
寝ぼけた顔でぺたぺたと風呂場に向かうアスカ。昨日シンジに教わった通りにシャワーを使う。着替えは、今のところこの白のワンピースしかないので、仕方なくプラグスーツに着替えてリビングに戻ってきた。
「シンジーー。お腹すいたーー。」
「今出来た所だよ。」
アスカが椅子に腰を降ろすと、テーブルに朝食を並べているシンジが、アスカのプラグスーツ姿に気付いた。
「あ、着替えたんだね。」
「だって、同じサイズのワンピースはあれしかないし。」
「そうだね・・・。じゃあ、今日はアスカの洋服買いに行こうか。」
「えーーー!本当?」
アスカの寝ぼけた顔と頭が一気に晴れ渡り、陽の光りが差したように明るくなる。
「あ、でも、その姿だと目立つからなぁ・・・。」
しかし、期待させといて躊躇するシンジ。うーーんと腕を組んで考え込む素振りを見せられ、絶対買い物に行きたいアスカは慌てて説得する。
「だ、大丈夫よ!あたしは平気!」
「うーーん、でも・・・。」
「うっさいわね!自分から言っておいてなによっ!」
「それに、昨日の人達だって、まだアスカの事探してるかも・・・」
「行くったら行くの!!!」
ジャキッ
シンジに向けられる、悪魔の銃口。
「はい・・・。」
「よろしい。」
そして、続けてシンジに向けられる天使のような笑顔。このコンビネーションには、一生、適いそうにない。
「じゃ、さっさと朝食済ませて、買い物に繰り出しましょ。」
「はぁ・・・、大丈夫かな・・・。」
シンジは今頃にして、自分の出した提案を悔やむ。よくよく考えれば、昨日追いかけられた今日である。またあの宇宙服の3人組に追いかけられないという保証はどこにもない。
「ねぇアスカ、昨日の宇宙服の人達は結局なんだったの?」
「あたしの護衛隊よ。王女のあたしを連れ戻しに来たんでしょ。まぁ、無理もないけどね。」
「今日、外に出ても大丈夫なの?」
「たぶん大丈夫よ。ミサトはきっと二日酔いだし、あとの二人も無事じゃないからね。」
「そ、そうなんだ。」
ん?そう言えば・・・。
不意に重大な事が頭に浮かび、食事を口に運んでいたアスカの手がピタリと止まった。
シンジって、好きな人とか、いるのかな・・・?
ひょっとして、もう、彼女とかいたりして・・・。
「ねぇ、シンジ。」
「ん?なに?」
「えっと・・・。」
恋などした事のなかったアスカ。この始めて覚える感情に戸惑ってしまう。いくら天才的な頭脳の持ち主でも、こればっかりは、どう聞けばいいのか分からず、単刀直入な言葉しか見つからない。
「あ、あんたさ、その、今、付き合ってる人とかって、いる?」
「え?別に、いないけど・・・。」
「そ、そう、なら、いいわ。」
シンジの言葉に、嬉しさと恥ずかしさがごちゃ混ぜになり、まっ赤な顔で、紛らわすかのようにチャーハンをバクバクと口に運ぶ。
チャ、チャンスね・・・。
でも早くしないと、シンジの事だから、力押しで言い寄られたら断れないだろうし・・・。
今は夏休みで休暇中なものの、学校に通う身のシンジ。きっと、学校にもシンジを狙っているライバルがいるに違いない。どちらにせよアスカは、早期に手を打っておくに越した事はないのだ。
で、でも、あたしから言うのも、しゃくよねぇ・・・。
やっぱ、こういうのは男のシンジから言って欲しいし・・・。
口に食べ物を運びながら、チラリとシンジを上目使いに見てみる。しかし、ノホホンとチャーハンを食べている、その顔。底なしの鈍感さ加減が伺える。
こうなったら、こっちからモーションかけて、なんとしてもイワしてやる!
なんといっても、今日は二人きりで買い物。この期をみすみす逃すアスカではない。
ようし・・・、まずは、ああして、こうして・・・
今、アスカの天才頭脳が、生まれて始めてその能力を100%発揮する時が来た・・・。
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そして、つたない会話を交わしながら、朝食を済ませた二人。シンジが食器を片付け、次はアスカの待ちに待った買い物である。
「よし、片付け終わったよ。行こうか。」
食器を片付け終わり、アスカに声をかけながら玄関へと向かうが、アスカがついてこない。
「ん?どうしたの?アスカ。」
「シンジ、はい。」
玄関でくつを掃き終わって、後ろを振り返ると、アスカが両手を前に投げ出して突っ立っている。
「へ?」
「ほら、早く。」
「え、なにが?」
「おんぶよ!おんぶ!いちいち言わせるんじゃないわよ!」
「ええーーーー!やだよ!おんぶなんかして歩くの恥ずかしいよ!」
ただでさえ真紅のプラグスーツで目立つ上、おんぶして街中を歩くなど、人々から注目される事この上ない。
「ダメ。あたしの星ではデートに行く時、男が女をおんぶするのが常識なの。」
もちろん、でっちあげの大ウソである。しかも、これからデートだとは誰も言っていない。
「ど、どんな常識だよ!?それにここは地球だよ!」
「あんた!王女に逆らって許されると思ってんの!!?」
「こ、こういう時だけ王女って言うのかよ!?」
「大人しくおんぶすればいいの!」
ジャキッ
「わ、分かったよ・・・。」
「よろしい。」
まったく・・・、近所の人に変な噂が立ったらどうするんだよ・・・。
渋々と玄関で腰を降ろすシンジに、ニコニコのアスカがぴょこんと背中に乗る。おそらく、これから自分達にたくさん向けられるだろう人々の視線に、シンジは先が思いやられるのだった。
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繁華街。
夏休みで、若者達の賑わうこの場所。そんな中、まっ赤で特異な服を着ている少女をおぶって歩く少年の姿は、ひどく浮いている。
恥ずかしい・・・。
通りすぎる人々の好奇の視線を一身に受け、その恥ずかしさに俯き加減に歩くシンジ。一方のアスカは、お構いなしといった感じで呑気に鼻歌を歌っている。
「アスカ・・・、みんなが見てるよ・・・。恥ずかしいって・・・。」
「あらそう?あたしは人に見られるのが凄く嬉しいんだけどォ。」
「アスカだけだよ、そんなの・・・。」
「なに言ってんの。こんな美少女を背負えるあんたは宇宙一の幸せ者よ。」
「僕はその考え方が凄く羨ましいよ・・・。」
「なんか言った?」
「なんでもない。」
「むぅ、なによぉ。」
もう、シンジのやつ!
他の男があたしを背負えるなんて聞いたら泣いて喜ぶってのにっ。
ため息混じりの、呆れ顔のシンジに、アスカは納得がいかないようだ。しかし、ぷっと唇を尖らせてはいるものの、実に楽しそうな様子である。こんな生き生きとしたアスカの顔をミサト達が見たら、腰を抜かして驚く事だろう。
「あっ!碇くん!」
そんな折、たまたま時を同じく繁華街を歩いていたシンジのクラスメイトの女子達が、シンジ達を見つけて声をかけてきた。言うまでもなく、背中のアスカが超反応する。
「あ、偶然だなぁ・・・。」
「誰よ?あの子達は?」
「僕の学校のクラスメイトなんだけど・・・。」
「ふぅーーん・・・。」
そうは言うものの、あからさまに敵対心まるだしのアスカ。無意識の内に、その手が腰のレーザーガンへと伸びている。
「い、碇くん!?その子、誰?」
そうこうしている内に近寄ってきた女子の一人が、シンジのおぶっているアスカに、ぎょっと驚いた。他の二人の女子も、「あの」シンジが女の子をおんぶしているという現実に、心底驚かされている様子だ。
「碇くん!誰?誰なの!?」
「え、えっと、あの、アスカ、だよ・・・。」
「名前なんか聞いてないわよ。どういう関係?」
「ええっと・・・。」
アスカに助けを求めようと顔を後ろに向けるシンジだが、つーんと顔を背けてしまっており、とりつくってくれそうにない。
「ね、ねぇアスカ、な、なんて言えばいいかな・・・?」
「そんなの、自分で考えなさいよ。」
ふん!なによ!別にあたしとの関係を誤魔化す事ないじゃないのっ!
すっかり、ぷんぷんとふくれっ面のアスカ。困り果てたシンジは、ひとまず、思いつく事をしらみつぶしに言っていく事にした。
「碇くん!答えられないような関係なの!?」
「ち、違うって!あ、あの、い、いとこ・・・」
ギュッ!
「イタっ!」
アスカがシンジの背中を、抓り上げる。お気に召さない言葉だったらしい。
「いとこ?いとこなの?」
「えっと、じゃなくって、妹・・・」
ギュッ!
「イタタっ!」
アスカがシンジの背中を、抓り上げる。お気に召さない言葉だったらしい。
「いとこ?妹?どっちなの?」
「ええっと、じゃなくって、友達・・・」
ギュッ!
「イタタタっ!!」
アスカがシンジの背中を、抓り上げる。お気に召さない言葉だったらしい。
「もーーーう!碇くん、はっきりしてよぉっ!」
「そ、その、か、か、かのじょ、かも・・・」
ギュウーーーーーーーーーーッ!
「ぐええええっ!く、苦しいっ!」
最後は、シンジの首に両手を回しての強烈な締め付け。というより、顔をまっ赤にしたアスカの照れ隠しの、強烈な抱きつきというのが本当の所。どうやら、お気に召した言葉だったらしい。
「ええーーーーーー!!!」
「碇くん恋人がいたの!?」
「うっそぉーーーーー!!!」
しかし案の定、揃って驚愕の声をあげる女子3人。
「え、えっと、これは、あの・・・。」
「どういう事よどういう事よ碇くんっ!」
「ひどいわひどいわひどいわっ!」
「どうしてよどうしてよどうしてよっ!」
すっかり取り乱した女子達に詰め寄って来られ、たまらずシンジがその場から逃げだすように走り出した。
「ご、ごめん!今、急いでるからっ!」
「「「ちょっと!碇くーーーん!」」」
やはり逃げ足には自信のあるシンジ。アスカを背負っているものの、あっという間に女子達が見えなくなった。
「なによ、別に逃げる事ないじゃない・・・。」
はぁはぁと息を切らせているシンジにしがみつきながら、まだ顔の赤いアスカが唇を尖らせて言う。
「だって、あんなにいっぺんに言い寄られたらたまらないよ。」
「ま、いいけどさぁー。」
肩で息を切らすシンジに対し、すっかりゴキゲンのアスカ。多少、強引ではあったものの、シンジが「彼女」と言ってくれたのが嬉しくて仕方がない。
そして、そんなアスカを背負い歩き続けて15分。二人は、ようやくブティックに着いた。
「ほらアスカ、着いたよ。」
「うわーーー、たくさん洋服があるのねぇ。」
明るい照明の店内に、所狭しと並べられたたくさんの洋服。やはり星は違えど、おしゃれには興味があるのだろう。アスカが目を輝かせて店内を見回している。
「アスカが好きなのを選ぶといいよ。」
「うーーん、そうねぇ・・・。」
本当はシンジに選んでほしい所なのだが、シンジにファッションセンスなどがあるとは思えないアスカ。ここは自分のセンスで選んだ方が無難と判断した。
「じゃあ、あれ。あれ着てみたい。」
背中の上から指を指すアスカに従い、シンジがそちらへと足を向ける。
「これなんか、いいわねぇ。」
「うーん、なんか、大胆な服だね。」
「そう?着て見なきゃ分かんないわよ。」
そして、シンジの背中から降りて、店員に促されるまま試着室へと入っていったアスカ。しばらくして、試着室のカーテンが勢いよくバッと開かれ、丈の短い上着と、ホットパンツの、ヘソ出しルックのアスカが出てきた。
「じゃーーーん!どう?シンジ。」
「す、すごく、似合ってるよ・・・。」
上下とも白の洋服に、アスカの健康的な白い肌と光り輝く蜂蜜色の髪。目の前に現れた夏の妖精に、シンジが思わず口をポカンと開けて見とれてしまっている。
「じゃ、決まりね!他のも探しましょ!」
「う、うん。」
顔を赤くして見とれたシンジに、機嫌を良くしたアスカが、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら他の服を選び出す。そして、色々とあれこれ迷った挙げ句、最終的にその手に残ったのは上下3組の洋服。
「やっぱ、この3着が一番いいわね。シンジ、買って来て。」
「あ・・・、ごめん、ちょっと待って。」
「ん?どうしたの?」
すると、シンジがアスカに背を向け、財布を手に何やらゴソゴソとやっている。
あっ!しまった!
アスカは、その様子に気付いて、はっとする。シンジの背後から顔を覗かせて見てみると、やはりそうだ。シンジが洋服を買う為、財布の中身と相談しているのが分かる。
な、なにやってんのよ、あたしってば!
シンジがそんなにお金持ってるワケないじゃない!
なんと言ってもシンジは中学生。洋服上下3組、しめて3万円など、普通の中学生にしたら大金である。しかし、アスカは王女。近隣の星の王子とのお見合いで、何でも買ってもらっていたクセが、ついつい出てしまった。
「うーーーん・・・。」
困り果てたシンジが、財布の中身を見ながら頭をポリポリとかいている。おそらく、本気で悩んでいるのだろう。
シンジ・・・。
そんなシンジの姿に、思わずジーーンと来てしまうアスカ。優しいシンジが「お金ないから1着にしてよ」などと言える筈がない。慌てて3着の内の2着を棚に戻した。
「シ、シンジ、あたし、これだけでいいわ。」
「え・・・。」
「さっきのやつは、なんか、似合わないかなぁー、なんて。」
先ほどまで、選んだ服を満面の笑みで眺めていたアスカの、突然のこの言葉に、シンジが少し驚かされる。しかし、誤魔化すように笑っているアスカの心使いを察し、ふっと顔が緩んだ。
アスカが気を遣ってくれるのは嬉しいけど、せめて地球にいる時くらい、楽しんでもらわなきゃな・・・。
こんな僕だから、出来る事は精一杯してあげないと・・・。
確かに服は高いし、予算もギリギリ一杯だが、昨日の帰り道でアスカが見せた涙のワケを思い起こすと、シンジの金銭問題など跡形もなく吹き飛んでしまうのだった。
「・・・・・大丈夫だよアスカ。買ってくるよ。」
微笑みながら、アスカが棚に戻した服を手に取り、レジへと向かっていく。
「え、だって、あんた・・・。」
「毎月、父さん達から仕送りしてもらってるからね。それに、僕はあんまり服とか買わないしさ。その分どうせ買うなら、似合うアスカに買ってあげた方がいいよ。」
「シンジ・・・。」
じーーーーーーーーん
優しい言葉を残して、レジで精算をするシンジの背中を見ながら、再びジーーンと来てしまう。人に何かを買ってもらうという事に、こんなに感動した事など、一度たりとも無かった。
勝手に地球に来て、勝手に押し掛けて、勝手な我が侭に付き合わせられてるってのに・・・
ばかシンジ・・・、優しすぎるわよ・・・
胸の前でギュッと両手を握り合わせるアスカ。そうこうしている内に、精算を済ませたシンジが戻って来た。
「ごめんね。お金があれば、もっとたくさん買ってあげられるんだけど・・・。」
じーーーーーーーーん
両手に紙袋をぶら下げて、苦笑いを浮かべながら言うシンジに、アスカがまたもジーーンと来てしまう。
「ううん。そんな事ないわよ。あ、あたしこそ、我が侭言って・・・。」
「そんなの気にしなくていいよ。アスカが折角、地球に来てくれてる時くらい、楽しんでほしいからね。」
「シンジ・・・。」
またまたアスカの涙腺を緩ませてしまうような事を言ってしまうシンジ。なんとかお返しをしてあげたいアスカだが、何を出来る筈もなく、あたふたと出てきたのはこの言葉。
「お、お礼に、また、おんぶさせてあげる。」
このなんともアスカらしい言葉に、シンジは思わず吹き出してしまった。
「ははっ、ありがとう。」
「むぅ、なんで笑うのよぉ。」
「なんか、すごくアスカらしくてさ。」
「なによ、どういう意味よぉ。」
「いいからいいから。」
「むぅーーーー・・・。」
シンジに笑われると、なんだか納得の行かないアスカだったが、ぷっと可愛らしく唇を尖らせた赤い顔で、ちょこんとシンジの背中に乗る。
「じゃあ、一旦家に帰ろうか。」
「そうね、折角買ってもらったんだし、帰ったらあたしのファッションショーやるわよ。」
「ファ、ファッションショー!?」
「そ。あんたが審査員ね。」
「な、なんの審査をするんだよ!?」
「まぁまぁ、楽しみにしてなさいって。たぁーっぷりとあたしの魅力を見せてあげるから。」
「はぁ・・・、なんなんだか・・・。」
面倒にならない事を願いつつ、ため息をつかされるシンジ。一方のアスカは、シンジ誘惑作戦が万事順調に進んでおり、ゴキゲンそのもの。後は、魅惑のファッションショーでシンジを仕上げる手筈になっている。
むふふふ・・・、シンジのヤツ、鼻血出して倒れなきゃいいんだけどォ。
心の中で不気味に笑い、ネコ目をキラリと光らせるアスカ。
しかし、今こうしていう間にも、惑星間移動プラグに乗った青い髪の少女が、この地球に向かっている事など、二人は知る由もない・・・。
そう、よりにもよって、この第3新東京市に向かっている事など・・・。
<続く>
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