「バースデーは裏目に」





((アスカの部屋))

チュンチュンチュン・・・

早朝6時。朝の爽やかな日差しの差す部屋の中、アスカは寝付けずにベッドの上でゴロンと寝転がっていた。

「うむむむむむむ・・・。」

何を隠そう今日は6月の6日。アスカの同居人であるシンジの誕生日。

「うむむむむむむ・・・。」

しかし、アスカは悩んでいた。悩みまくっていた。悩み果てていた。

うーーー・・・。

アスカの悩みのタネは、その手に持たれているバースデーカード。昨日、徹夜で考えたお祝いの言葉やらが書かれているのだが、いざシンジにこのカードを渡すと考えると、恥ずかしくってしょうがない。

こんなカード渡すなんて、あたしのガラじゃないわよねぇ・・・。

可愛らしい柄の描かれたバースデーカードを、ピラッと開けて見る。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

シンジへ。

も掃除、洗事、ご苦労なこっ
い頑いよね。
れであも15
だまね。


流 アレー。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

ボッ!

まっ赤に燃え上がるアスカの顔。昨夜から徹夜して慣れない日本語を辞書をひきひき書いたこのメッセージだが、読み返す度、読み返す度、顔が火照って仕方がない。

むうぅーーーーーーーーーっ!
なによなによなによなによっ!

恥ずかしさを誤魔化すかのように、両手で引き裂くポーズを取るが、これもまた昨夜から何度も繰り返してきた行為。もちろん、引き裂こうとするだけであって、本当に引き裂くコトは出来ない。

「きぃーーーーっ!くやしいぃーーーーーーーーーっ!」

何が悔しいのかは本人にもよく分からないが、とにかく悔しいらしい。
照れやら怒りやら分からない感情をぶつけるように、引き出しからシンジの写真を取り出すと、今度は写真のシンジに指を突きつけて言い聞かせる。

あ、あたしは!ただ、バースデーカードを書いてやっただけ!
同居人だし、エヴァのパイロットだし、だ、だからよ!
だから、仕方なく祝ってやるだけ!
そうよ!それだけの、何ものでも無いんだから!!!
そこんとこ、誤解しないでよねっ!!!

しかし、そうしている内に、今度は写真の中のシンジの笑顔を思わずジッと見つめてしまい、またまた顔が火照り出す。

ポッ

「き、きぃーーーーーっ!くやしいぃーーーーーーーーーっ!」

枕に顔を埋めて、ぽこぽこと叩く。

と、とにかくっ。
たとえ相手がばかシンジだとしても、年に1度っきりのバースデーなんだし、
紙切れ一枚くらい祝ってやるってのが義理人情ってもんよ。
うん。そうよ、そうなんだから。

そうやって自らを奮い立たせると、気持ちが変わらない内にさっさとバースデーカードをリボンで結んで包装する。

はぁーー、もう。結局、徹夜しちゃったじゃないのよぉ。
ミサトが起きない内に、さっさと渡して終わらせちゃおっと。

傍らの時計を見ると、もうすでに6時半。そろそろシンジが起きる時間なので、リビングの椅子に座って待ち伏せることにする。

ドキドキドキドキ・・・

ガラッ

き、来たっ!

「あれ!?アスカどうしたの!?今日は早いね。」

こんな早くに起きているなんて、一体どういう風の吹き回しなのだろうと不気味がりながらシンジがリビングにやって来た。

「いいでしょっ、別に早く起きたって。」

「うん、早起きはいいことだよ。じゃ、ちょっと顔洗ってくるね。」

「ちょ、ちょっと待ちなさいっ。」

「ん?」

洗面所に行きかけた足を止めて振り返る。リビングの椅子で腕を組んでいるアスカは何やら難しそうな顔だ。

「ちょっと、そこ座りなさいよ。」

「なんで?」

「いいから座るのよっ!」

「あとでじゃダメ?」

「ダメっ!!!」

「うーーん、分かったよ。」

なによそのあからさまに気怠そうな顔はっ!
今からこのあたしがプレゼントくれてやるってぇのにっ!!!

朝食やらの家事を残しているシンジにとって、あまり時間を費やしたくは無い所なのだが、渋々と椅子に腰掛けることにした。

「で、なに?」

「・・・、まぁ、その、あれよ。」

「あれって?」

「その・・・、今日、あれじゃない。」

「なんだよ、あれじゃ分かんないよ。」

「だからっ、その、ほら・・・。」

時間が気になるのか、チラチラと壁掛け時計に目を走らせるシンジ。

しかし、もっと大変なのはアスカの方であった。いざシンジを前にすると、顔が火照って仕方がない。シンジにバースデーカードを渡すくらい、お茶の子サイサイと自分に言い聞かせていたが、とんでもない。

「どうしたんだよアスカ?はっきりしてよ。」

「そ、その、き、ききょ、今日、あんたの、たた、誕生日よね。」

「え、あ、そういえばそうだ。」

自分のバースデーくらい覚えてなさいよ!ばかシンジ!
おかげで手間取ったでしょ!!!

「そ、それでね、あ、ああ、あたし、い、色々、考えたのよ。」

「なにを?」

「そ、そりゃあ、た、誕生日、だからっ、その、ほら・・・。」

いよいよ核心に迫ると思わず俯いてしまい、膝の上に乗せてあるバースデーカードをペラペラといじくる。

「あ、あんたへの、プ、プピ、プペ・・・。」

「プピ?プペ?なにそれ。」

うぅーーー。
はずかしくって上手く言えないわ・・・。
こ、ここはひとまず、深呼吸よ。

すーはー、すーはー

突然、目の前で深呼吸を始めたアスカを見て、シンジの頭はさらにクエスチョンマークで一杯になる。

行くわよ!アスカ!

「だ、だから、プレ、プレプレ、プレゼ・・・。」

ガラッ

「おっはよぉぉぉーーーーーーーーん。」

っ!!!!!

「あ、ミサトさん。おはようございます。」

なんともタイミング良くミサトが起きてきてしまい、アスカは咄嗟に膝の上のバースデーカードをポケットに隠す。ミサトに見つかったら何と言われてからかわれるか分かったものではない。

「で、アスカ。なんだっけ?」

「うっ、な、なんでもないわよっ!!!」

「え!?だって、さっきの話しはまだ・・・。」

「うるさい!あんたなんかに用があるワケないでしょ!!!」

「な、なんだよ、それ・・・。」

不条理そうな顔のシンジを無視して、洗面所に逃げるように駆け込む。

ちっくしょーーー。ミサトのヤツっ!
あたしがどれだけ恥ずかしい思いをしてあそこまで話しをこぎつけたと思ってんのよ!
おかげで、またフリダシじゃないのよぉ。



((通学路))

朝のミサトにすっかりタイミングを外されてしまったアスカは、その後もなかなか話しのきっかけを掴めずに、シンジの数歩前の通学路を歩いていた。

うーーーん・・・、どうしようかしらねぇ・・・。
プレゼントする時は、やっぱ周りに誰もいない方が渡しやすいわよね・・・。

腕を組んで、うーーんと頭を悩ませていたそんな折、アスカの視界の隅に公園の入り口が捕らえられた。

そうだわ!公園よ!朝の公園!
いいわ!爽やかな雰囲気てんこ盛りじゃない!

「ね、ねぇ、シンジ。」

「ん?なに?」

「公園、寄ってかない?」

「え、なんでさ。」

「あ、い、いや、別に、大したコトじゃないのよ。」

だぁーーーーーっ!なに言ってんのよ!
メチャクチャ大したコトあるじゃないのよぉ!

「え?大したコト無いのに、なんで行くの?」

うっ・・・、ご、ごもっともだわ・・・。

「うぅーーーー・・・。」

「ほら、早くしないと遅刻しちゃうよ。」

「うぅーーーー・・・。」

ちっくしょーーーー。
まぁ、いいわ。今日一日あることだし、そんなにあせるコトでも無いでしょ。





((学校))

あせるコトでも無い。
そう自分に言い聞かせて、なんとかしのいできたアスカだったが、そうこうしている内に、きっかけを掴めないまま気付いたら4時間目。今や内心、焦りまくっていた。

まずい。まずいわ・・・。
後回し的な考えじゃ、キリが無いわ・・・。

授業など、もはや耳にすら入らない。焦りを表すように親指の爪を噛みながらシンジの背中をジーーっと見つめる。

家に帰ったらミサトがいるし・・・。
こうなったら、この昼休みが勝負よ!

キーーンコーーンカーーンコーーン

4時間目の授業が終わり、昼休み開始の予鈴と共にシンジの席へとダッシュする。

「シンジ!」

「わっ!な、なんだよ!?」

「屋上へ行くわよ!」

「なんでいきなり!?」

「いいから来るのよ!」

「わっ、ちょっと、引っ張らないでよっ。」

どんっ

「キャッ!」

「いったぁーーーーっ!」

シンジを屋上に連れ出そうと廊下に出たアスカだったが、曲がり角で女子生徒とぶつかってしまった。

「ちょっとあんた!もっと端っこ歩きなさいよ!」

「す、すいません・・・、あっ!碇先輩!」

「へ?僕?」

言葉使いからして後輩だろう。しかし、何の面識も無いその女子生徒に呼ばれたシンジは、きょとんと目を丸くする。

「あ、あのっ、お誕生日、おめでとうございますっ!」

「え、あ、ありがとう・・・。」

恥ずかしさの為か、それともアスカの眼光を恐れてか、女子生徒は紙袋をシンジに押しつけると、小走りに去って行った。

「ちょっとシンジ!なによあいつ!」

「し、知らないよ。僕も初めて会ったんだ。」

「ヘンなもん貰ってたわね!見せなさい!」

ポカンと口を開けて立ち尽くしているシンジから紙袋をひったくって中身を手荒に見てみると、手作りらしい青のスポーツタオルが入っていた。「Shinji Ikari」という刺繍まで入っていて、かなり凝っている。

うっわーー。すっごい気合い入ってんじゃないのよぉ。
こんなバカにこんな努力しちゃってどうすんのよ、あの娘。

しかし、そんな思考も、同梱されていた一枚のバースデーカードを見るなり一瞬にして吹き飛んだ。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

碇シンジ先輩へ。

突然の贈り物、驚かせてしまったらごめんなさい。
いつも陰からながらに、応援しています。
先輩も、もう15歳ですね。
わたしは今年で14歳ですが、いつまで経っても
先輩の年に追いつけないと思うとちょっと悲しいです。

それでは、お誕生日、おめでとうございます。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

こ、これって、バースデーカード!?
あたしのプレゼントとカブってんじゃないのよぉぉぉーーーーっ!

いかにも女の子らしい、可愛らしい丸文字で綴られたバースデーカード。アスカの犯行声明文を思わせるその筆跡とは天と地ほどの差である。しかも手作りスポーツタオル付きという点で、一枚上手のプレゼント。

うむむむむ・・・。
こんなコトなら、さっさと渡しとくんだった・・・。

しかし、迷っているヒマは無い。昼休みとて、ちゃんと20分という時限が設定されているのだ。

「シンジ!屋上行くわよ!」

「え、う、うん。」

((屋上))

人気の無い屋上の隅っこまでシンジを引っ張ってきたアスカ。
腕を組んだその後ろには、さっぱり事情が飲み込め無いといった顔のシンジ。

「アスカ、用って何?」

「あ、あのね、今日は、ほら、あれじゃない・・・。」

「僕の誕生日だろ?」

「そ、そうよ、だから・・・。」

さっきのヘンなガキのせいで、少し見劣りしちゃうかもしれないけど・・・。
この際、仕方ないわ。

ゴクリと唾を飲み込んで、バースデーカードの入っているポケットに手を伸ばす。

行くわよ!アスカ!

「シ、シンジ!こ、これ・・・!」

ポケットから出そうとした、まさにその時。
屋上のドアが開いた。

バタン

「アスカーーーーっ。」

ヒ、ヒカリっ!!!

あと少しという所に、我らが委員長ヒカリの乱入。出しかけたバースデーカードを慌ててポケットに戻す。

も、もう!タイミング悪いわねぇ!

「な、なによヒカリ!」

「アスカの保険委員会、召集だってーー。」

「わ、分かったわよ!後で行く!」

「ホント?ちゃんと行ってよ?」

「行くってば!!!」

んなもんパスに決まってんでしょ!
あああ、またフリダシじゃないのよぉ・・・。

屋上のドアが閉まり、ヒカリの姿が完全に消えたのを確認して、もう一度気を取り直す。

「えと・・・、それでね、シンジ。」

「うん。」

「あ、あ、あたしとしては、こーゆーの、不本意なんだけど、その・・・。」

あーーっ!前置きが長いっ!
早く言うのよっ、アスカっ!

「ま、まぁ、あんたとは結構な馴染みだし、これを・・・。」

ポケットからバースデーカードを出そうとした、その時。

バタン!

「ギュイィィィィィィィィィィィン!バリバリバリバリバリ!!!」

「んな!?」

屋上のドアが開け放たれ、戦闘機のプラモを片手にケンスケが乱入してきた。
どうやらいつも昼休みはここで一人戦争ごっこをやっているらしい。

「ダダダダダダダダダダダッ!!!ズッドーーーーーーン!!!」

なんとも言えない楽しそうな顔で効果音を叫び散らしながら、戦争ごっこに興じるケンスケ。怒りにメラメラと燃えたぎらせた二つの青い瞳に睨み付けられていることなど知る由も無い。

「ぐわぁぁぁーーーっ!エンジン部に被弾!撤退せよ!撤退せよーーーーーっ!!!」

あんチクショォォォ〜〜〜〜〜。
そんなにあたしの邪魔をするのが楽しいワケ?

もちろん、ケンスケに悪気は無い。が、タイミングがあまりにも悪すぎた。
何も知らない彼の背後に、拳を握りしめたアスカが歩み寄って行く。

ツカツカツカツカ・・・

「お、惣流じゃないか。丁度良かった。ヒトラー役が足りな・・・。」

バチーーーーーーーーーーーーン!!!

「へぶッ!」

振り向きざまに強烈な平手打ちを叩き込まれたケンスケはその場で3回転した後、静かに沈黙した。

「シンジ、行くわよ。」

「う、うん・・・。」

ケンスケ・・・。
無事だといいんだけど・・・。

地べたにぐったりと伸びて、不条理そうな顔を浮かべているケンスケを心配しながら、シンジはアスカに手を引かれて屋上を後にした。



((テニスコート裏))

ここなら、誰もいないわよね・・・。

昼休みにはほとんど人気の無いこの場所。アスカは念には念を押して、さらに人目の付きにくそうな木陰にシンジを引っ張って行く。

「ねぇ、アスカぁ、一体なんの用なのか教えてよ。」

ワケも分からないまま連れ回され、半ば呆れ顔のシンジがアスカを見やる。

「わ、分かってるわよっ。え、えっとね、その、今日は、あれよね・・・。」

「僕の誕生日だろ?もうそれは分かってるよ。」

「う、うっさいわねっ。あたしだってそんなコト分かってるわよ。」

い、行くわよ!アスカ!

「シ、シンジ、これ、あたしからの・・・。」

ポケットからバースデーカードを出そうとした、その時。

「逢い引きなら他でやってくれんかぁーー?」

「ヒッ!!?」

アスカとシンジのいる木陰の裏側から、ひょいと顔を覗かせるは、浪速の黒ジャージこと、鈴原トウジ。

「んななな、なんであんたがココに!?」

「ひなたぼっこや、ひなたぼっこ。」

なによ!
なんで今日に限ってこんなに邪魔が入るのよぉ!

「全く、こんな暑い日に見せつけんといて。よけい暑くて適わん。」

「ち、ち、ちっくしょーーーーーーっ!」

「うわわわわわわわっ!?」

白い肌が災いして、この上なくまっ赤に染まってしまった顔を隠すように、猛烈な勢いでシンジの手を引っ張って走り去るアスカ。

「おおきにーー。」

人気の無いテニスコート裏に、トウジのお気楽な声が木霊する。



((体育館倉庫))

表沙汰の場所ではどうも風向きが無いと判断したアスカは、ついに体育館の倉庫にまで連れ込んできてしまった。

「ちょっとアスカ!?こんなトコ連れてきて、一体なんなんだよ!?」

「フ、フフフフ、ここなら、誰にも邪魔させないわよ。」

「ど、どういうことだよ!?」

何やら鬼気迫る様子でジリジリと迫られて来て、思わず後ずさるシンジ。どこか吹っ切れたのか、アスカの目は薄暗い倉庫の中でキラリと怪しい閃光を放っている。

もう前置きなんて言わないわ!
単刀直入に行くわよ、アスカ!!!

「シンジっ!これっ!!!」

勇気を振り絞って、今まさにバースデーカードを差し出そうとした、その時。

バサッ

傍らに置いてあったマットがめくり上がり、中からレイが現れた。

「あなたたち、何してるの?」

「ギャーーーーーーーーーーっ!」
「わーーーーーーーーーーーっ!」

いつからここにいたのか、レイの唐突すぎる出現に、シンジとアスカは耳をつんざくような悲鳴を上げる。

「なな、なんであんたこんなトコにいんのよーーーーーーーっ!!!」

「・・・、分からない。」

がくっ

なぜかしょんぼりした様子で言われて、もうアスカは怒る気力すら無くした。
なぜこうも肝心な時に限って邪魔が入るのかと、いっそ泣きたいくらいだ。

「もう、イヤ・・・。」

結果、すっかりげんなりしてしまい、トボトボと教室に戻り始める。
もう何をしても上手く行かないような気がする。

「ア、アスカ!?」

「もう、いい。なんでもない。付き合わせて悪かったわね・・・。」

トボトボトボトボ・・・

がっくりと肩を落としながら体育館から出て行くアスカを無言で見送るシンジとレイ。

「・・・、アスカ、どうしたのかな。」

「・・・、分からない。」

キーーンコーーンカーーンコーーン

全校生徒には昼休みの終わりを告げるチャイムが、アスカには試合終了のゴングの鐘の音が鳴り響いた。







((公園))

夕暮れの差す公園の中、キコキコと力無くブランコをこぐアスカ。
放課後になるなり、シンジを押し切って半ば逃げるようにここまで走ってきた。

はぁーーぁ・・・、なんで、ツイてないんだろ・・・。
せっかく徹夜で書いたのに・・・、明日になったら渡せないじゃない・・・。

ここまでツイてないと、きっと日頃からシンジに意地悪をしている自分には、プレゼントを渡す資格など無いのだと、神様が罰を下しているようにすら思えてくる。

キコキコ・・・

大きな夕陽を憂鬱に眺めながら、ブランコを小さくこぐ。
そうしていると、ふと、気付くコトがある。

意地悪なあたしへの、神様の罰・・・、か。

そう思って、ポケットからバースデーカードを取り出すと、改めて自分の綴った内容を見直して見る。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

シンジへ。

も掃除、洗事、ご苦労なこっ
い頑いよね。
れであも15
だまね。


流 アレー。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「・・・・・・・・。」

もし、自分がこんなバースデーカードを貰って、果たして喜ぶだろうか?
真に気持ちを込めていないバースデーメッセージを見て、感動するだろうか?
そうやって改めて冷静に考えて見ると、決してそうでは無いコトが分かる。

そうよ。
こんな、ひねくれたバースデーカードだから、バチが当たるのよ。
バースデーくらい、素直な気持ちを伝えてあげたっていいじゃない・・・。
ダメね、あたし・・・。

鞄から予備で持っていた白紙のバースデーカードとボールペンを取り出して、新たなバースデーメッセージを、丁寧に、一文字一文字、しっかりと書き込んで行く。
今度は、自分の、素直な気持ちと想いをペン先に乗せて・・・。

カリカリカリ・・・

・・・・・、よしっと・・・。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

シンジへ。

も掃除、洗事、ご苦労さま
ね。
れであも15
めでとう。

つもごめ
流 アレーり。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「・・・・・・・・。」

新たに書き直したメッセージを、僅かに微笑みを携えた顔でジッと見つめる。
その頬に差した朱の色は、決して夕陽の光だけのせいではない。

やっぱり、ちゃんと気持ちを綴ったバースデーカードの方が、
プレゼントするあたしも気持ちいいし、きっとシンジも喜んでくれるはずよね・・・。

くすっと笑った後、バースデーカードを丁寧に閉じる。

でも、やっぱ、こんな恥ずかしいのは、渡せないな。
来年・・・、来年には、ちゃんと渡せるようにしたいわね・・・。

そうして、苦笑しながら鞄にしまおうとした、その時。

ビュウーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ。

「キャッ!」

突然、辺りに吹き抜けた一陣の突風。
アスカは、しまおうとしたバースデーカードを風にさらわれてしまった。

「あっ・・・。」

空高く、舞い上がる、バースデーカード。
しばらく呆然と見上げていたが、徐々に小さくなり、ついには視界から消えてしまった。

「・・・・・・・・。」

思わず伸ばしかけた右手を、ゆっくりと降ろす。

・・・、ふふっ、あたしって、つくづくツイていないのね・・・。
なによ、素直になったって、バチが当たるだけじゃん・・・。

自嘲的に笑うアスカ。追いかけようともしたが、ここまで運に見放されているとあっては、もうそこまでする気力も無かった。

やっぱり、あたしがシンジに何をプレゼントする資格なんて、無いのよ・・・。

「・・・、帰ろ。」

ふぅっとため息をついて、傍らの鞄を手に取って公園の出口に向かう。

タッタッタッタッタッ

・・・、ん?

近づいてくる足音に、俯き加減だった顔を上げると、見慣れた顔の少年が、公園の入り口からこっちに駆け寄ってくる途中だった。

「アスカーーーー。」

「シンジ・・・。」

目の前まで駆け寄ってきた少年シンジは、よほど疲れているのか、肩を大きく上下させて息を切らせている。

「・・・、なによ。」

「はぁ、はぁ・・・。だって、アスカ、家に帰っても居ないんだもん。探したよ。」

「・・・、別に、関係ないでしょ。」

ブスッとした様子で顔を背ける。

「あたし、帰るから。じゃ。」

ふんっ。
もうあんた絡みのコトなんて、まっぴらよ。
ロクなコトがありゃしない。

「ちょっと待って、アスカ。」

「・・・、なによ。」

掴まれた手を振り払うように振り向くアスカ。

えっ・・・!!!

「シンジ・・・、それ・・・。」

「うん。」

満面の笑顔を向けるシンジの手には、風にさらわれたバースデーカードがあった。

「アスカ、プレゼントありがとう。すごく嬉しいよ。」

「シンジぃ・・・。」









たまには素直になるのも、悪くないかもよ?

そんな神様の囁きが、アスカには聞こえた気がした。



(fin)


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