この作品は1024×768の環境で書いてますので、それ以下のサイズだと読みにくいかもしれません(^^;



 
 

「碇家の野望!」

by あっくん


朝廷の腐敗、幕府の衰退より群雄割拠したこの時代。
その戦乱の時代にも終焉の兆しが見え始めていた。

東の碇家に西の惣流家。

関東の碇家は武蔵の国、江戸に本拠を構える弱小大名であったが、当代の当主である武蔵守ゲンドウの
当代随一と言われる謀略手腕によって隣国を懐柔、又は征服し、今では押しも押されぬ二百五十万石の大大名。

関西の惣流家は近江の国、安土に本拠を構える名門大名であり、当代の政治手腕によって近隣諸国を懐柔し、
外国との貿易で得た膨大な資金力を背景に、強力な軍団を擁している二百八十万石の大大名。

この二つの大勢力は近年ついに激突した。
だが拮抗する勢力の戦いは一進一退の様を呈し、膠着状態に陥っていた。
それでも民達は、この二大勢力のどちらかが天下を掌握すると確信していた。

時に天正十年。師走。
 
 
 
 

はぁっ!

おっとぉ!

駿府城内の稽古場で二人の侍が稽古をつけている。
一人は三十台前半の侍で、相手の凄まじい剣撃を軽々受け流している。

まだまだぁ!

受け流された侍は、気合いと共に再び相手に向かって激しい攻撃を開始する。
こちらの侍は若い。歳は十七か八ぐらいだろう。
繊細な顔立ちに華奢な身体つきをしているが、その太刀筋は力強く、むしろ受け流している相手の力量に驚愕すべきだろう。

「そうこなくっちゃな……だが、まだ甘い!

くぅっ!!

今まで木刀を受け流し、防戦一方であった侍が反撃に転じた。
迫り来る若侍の木刀を力任せになぎ払う。そして若侍の木刀は道場の壁に飛ばされてしまった。

「ふふふ、随分と腕をあげたが……まだ拙者には及びませんでしたな」

切っ先を若侍の面前に向けて、余裕の笑みを浮かべながら侍が言った。
その言葉に若侍はさぞ悔しがるかと思えば、以外にもサッパリした表情で言葉を返した。

「はは…まだまだ敵いませんね、加持殿には」

「そうでもないさ。拙者の部下…いや、我が軍団の中でも若殿に勝る武者は五指にも満たない」

「それは誉めすぎですよ」

「はは、相変わらずの謙遜家でござるな」

そして加持と呼ばれた侍は、木刀を床に置くとその場に座り込み笑い出す。
それに釣られて若殿と言われた若武者も床に腰を降ろす。

「しかしまぁ、若殿は今までにも増して稽古熱心になられたが、如何なされた?」

「え?……大した理由ではありませんよ。ただ碇家の次期当主として部下に恥じない、そして父の名を貶めない様に努力しているだけですよ」

「そうでござるか?」

加持は相手の言葉を鵜呑みにしなかった。
確かに若殿、武蔵守ゲンドウの嫡男であるシンジは生真面目な性格をしている。
だが此処数日の彼の様子は誰が見てもおかしいものであった。まるで何かを振り払うかの様に様々な稽古に励んでいる。

「…そうですよ」

「拙者にはそうは…」

若君!

加持が再び問い質そうとした時、道場に一人の女性が大声を上げながら飛び込んで来たのだった。

「あ、葛城殿」

「よぉ、どうした?そんなに慌てて」

「やっぱ此処に居たわね。ったく!探し回ってしまったわよ」

葛城と呼ばれた女性は、大げさに肩を落として文句を言う。

「で、そんなに慌ててどうしたのですか?」

「そうだったわ。若君、殿がお呼びです」

「父上が」
 
 
 
 

「父上。お呼びとの事でしたが…」

着衣を正したシンジは、すぐさま父が居る間に足を運んだ。

「縁組みだ…」

シンジが腰を降ろすと同時に、ゲンドウは呼びつけた要件を言い渡す。
だが、言い渡されたシンジは父ゲンドウの意図が読めずに間抜けた声を出してしまう。

「………はぁ!?」

「拒否は許さん…」

「え、縁組みって……誰の?」

ゲンドウの物言いをシンジは掴みきれない。
普段は明晰なシンジも、この突然の申し渡しに上手く頭が働かない。
そんなシンジを見て、ゲンドウの側に控えていた筆頭家老の冬月コウゾウが説明をする。

「若。殿は若に縁組みがあると言っておられるのです。それも良き良縁が」

「わ、私の縁組みですかぁ!?」

冬月の説明に漸くシンジは事態を把握した。
そしてそれは驚くしかない話しであった。

「そうだ…」

「ま、待って下さいよ、父上。そんな事をいきなり言われても承諾は出来ません。それに断れないって…」

狼狽するシンジ。
まぁ、いくら戦国の世とは言え、いきなり縁組みせよと言い渡されれば焦るのも仕方がない。
もっとも、シンジが焦るのには別の訳もあるのだが…

「殿。一体何処の家とのご縁組みなのでしょうか?ご当家が断固しなけれなならない相手とは?」

シンジの後ろで畏まっていた葛城、見事な戦運びに天下に名を馳せた女傑がゲンドウに尋ねた。
彼女の問いも当然だろう。碇家は天下で一、二を争う大名家なのだ。その嫡男の縁組みとなれば他の大名は我先にと自慢の姫をシンジに嫁がせようとするだろう。
なのに殿自ら縁組みの拒否はならぬと言わせた相手に興味を抱くのは至極当然。

「ま、まさか、惣流家?」

同じ様に考えていた加持、碇家の剣術指南役を勤めると共に、天下一と謳われた勇将が口を開く。
確かに加持の言う様に、惣流家であれば分からないでもないのだ。
だが、ゲンドウの答えは異なった。

「違う。越後百万石の渚家、その妹姫がシンジの相手だ…」

「え?渚家ですか!?」

渚家は越後百万石の大大名であり、石高で言えば惣流家、碇家に次いでいる有力大名である。
だがこの渚家は天下の覇権を狙う他の大名とは異なり、専守防衛の姿勢を保ち続けていた。
確かに、勢力の大きさといい、敵対する惣流家との地理的な戦略要素といい、縁組みを成し得て両家が手を結べば惣流家を屈服させる事は可能かもしれない。

「そうだ。これにより渚家は我が朋友となって共に惣流と戦うと申しておる」

「渚家の妹姫………確かレイ姫でしたね。歳は十五」

ゲンドウの言葉にミサトはシンジの相手を思い浮かべる。
線の細い、美しい姫だったと記憶している。
確かに、あの姫がシンジの相手であれば家柄、器量共に十分だろう。

「ま、待って下さい。父上!」

シンジは慌てて父の話に抗議しようとする。
しかし…

黙れシンジ!これは私が決めた事だ。何人たりとも覆すことはできん!」

ゲンドウがシンジを一喝する。
流石は天下に覇を唱えようとする男。威厳のある声でシンジの口を封じる。

「くっ!…」

「お前もいい歳だ。生涯の伴侶を得てもなんの問題もない。それともシンジ、お前には想いを寄せている相手がいるとでも言うのか?」

「うっ!…」

流石は年の功と言うべきだろうか。
シンジがこの縁組みに躊躇している理由をあっさりと見抜く。

「ふ…そうか、お前も男だと言う事か………だが、ならぬぞ。お前の相手にレイ姫以上相応しい姫は何処にもおるまい」

「………………」

「ふ…かなり未練があるか。なら側室にしてしまえば良かろう。それならば私に文句は無いぞ」

シンジの性格を知り尽くしているゲンドウは、シンジがそんな事が出来ないと分かって提案する。
そして案の定、シンジはその提案を拒否した。

「そんな事……私に出来る訳がない!二人の女性をだなんて…相手に失礼だ!」

彼は決してキリシタンでは無いが、ことキリシタンの縁組みの考え方に関しては共感を示している。
生涯愛する女性は只一人。この時代の武家の嫡男としては異端と言っていい考え方だ。

「ふ…情けない」

ゲンドウは不甲斐ない息子を鼻で笑う。
これにはシンジも怒った。そして強烈な反撃を繰り出した。

何が情けないんですか!それは父上だとて同じ事でしょう!
 母上に憚って側室を持てないんですから!!

「ぐっ!……な、何を申す。私は表だって側室を持たないだけでちゃんと…」

「あらぁ〜、それは初耳です事。詳しくお聞かせ願えないでしょうか?殿ぉ〜

奥の間へ続く襖の向こうから突如声がした。
この声が聞こえた瞬間、居間に居た家臣達は『ギクリ』とし、シンジもこめかみを押さえて俯いた。
そして、呼ばれた本人であるゲンドウは、慌てて部屋の中を見回して隠れる場所を探していた。
だが、それは間に合わず、ゲンドウの前に正室ユイが姿を現す。

「さぁ殿。先程の件について………包み隠さず申しなさい!

「ま、待てユイ。あ、あれはだな…」

仁王様と化したユイに怯えるゲンドウ。
斯くして碇家の真の主が誰かを家臣団に知らしめる夫婦喧嘩が始まった…
 
 
 
 

「ふぅ………私は何故此処に来てしまったのだろう…」

縁組みの話しを聞いてから三日後、シンジは城を出て単騎で遠乗りに来ていた。
既に碇家と惣流家は国境が接しているので、シンジの行動は危険極まりない。
だからシンジは、誰にも告げずに城を出たのだった。
今頃は駿府城では大騒ぎになっているやも知れない。

「未練を断ち切る………いや、未練を断ち切るのを理由に逢いに来たかっただけか…」

山道を馬で進みながらぼやき続けるシンジ。
そしてシンジは山道を登り終えた場所、富士を見渡せる場所に出た。
恐らく此処が彼の目的地、そして誰かと逢う為の場所なのだろう。

「いっそ、来てくれない方が…」

シンジ!

またぼやき始めようとしたシンジを呼び止める声がした。
若い女性の声だ。

「あ、アスカ殿…」

呼ばれた方を振り向いたシンジは、そこに彼の待ち人。アスカが姿を現した。
現れたアスカはシンジと同じぐらいの歳だろう。

「待った?」

「いや、私も今着いたばかりですよ」

「良かった………ねぇ、あそこでお話をしましょう」

言ってアスカは座りやすそうな大きな石を指差した。
そしてアスカの言うがままに、シンジはその石に腰を降ろした。

「でも、ホントに来てくれて嬉しいわ。あのままお礼も出来なかったらどうしようかと心配してたのよ」

笑顔で語りかけてくるアスカ。
とても、本当にとても魅力的な笑みだ。
この笑みを見ると、いっそ父の事、家の事など捨てて彼女と何処かへ逃げ出したくなる。
だが、シンジの性格がそれを許さない。

「約束…しましたから」

「そうね。貴方は約束を違える様な人じゃなさそうだもんね」

「はは…」

一言一言を交わす度に、シンジは胸が締め付けられる思いをした。
たった一度、一月程前に一度だけあった女性にここまで惹かれてしまうとは…シンジはそう思った。

「でね……お礼なんだけど…」

それまで明るく元気に語りかけていたアスカが急に落ち込んだ口調に変わる。
それを見たシンジは、即座に慰めの言葉をかけた。

「いえ、気になさらないで下さい。別にお礼が欲しくてお助けしたわけではないのです。
 こうして逢いに来て下さっただけで、私は十分ですよ」

シンジはアスカがお礼を用意出来なかったと思い、そんな言葉をかけた。
しかし、シンジの予想は外れていた。

「違うの。お礼は……持ってきてるの…けど…」

「けど?」

「アタシって……料理って初めてだったから……その…上手く……」

アスカはもじもじしながら後ろ手に物を隠している。
その言葉にシンジは優しく手を差し伸べながら語りかけた。

「アスカ殿のお礼、頂けますか?」

とても魅力的な優しい笑み。
その笑みを見たアスカは、思わず頬を朱に染める。

「でも…」

「アスカ殿が気持ちを込めて作って下さったのでしょう?ならそれは最高のお礼ですよ」

その言葉に、アスカは決心して隠していた物をシンジに差し出した。

「こ、こんなのしか出来なかったの………ごめんなさい」

それは葉で包まれた握り飯だった。
しかも形は整っていない。

「有り難う。有り難く頂きますよ」

言ってシンジは、握り飯を一つ掴むと口に頬張った。
味は……少し塩加減が疎らだった。
だが、そんな事はシンジに関係ない。彼女が自分の為に頑張って握ってくれたその気持ちが嬉しかった。
 
 
 
 

「もぉ!アタシもお料理勉強しないといけないわね。野盗に襲われかけていた所を助けてくれた方にこんなお礼しか出来ないなんて」

「気になさらないで下さい。本当にその気持ちで私は十分嬉しいのですから」

歓談を楽しみながら三つあった握り飯を食べ終えたシンジに、アスカはそうぼやく。

「でもまぁ、この前はホントに凄かったわね」

「え?」

「だから、剣の腕よ。六人の野盗をあっと言う間に倒したんですもの」

アスカは一月前の、自分がシンジに助けられた時の事を話し出した。

「はは、私も戦国の世に生きる武将ですからね。まぁ、日々の鍛錬を怠らなかった成果でしょう」

「謙遜ね。その若さで貴方程の腕を持つ武将なんて滅多に居ないわ」

「そうかもしれまん。けど、過信は己を誤ります。精神面での精進がまだ私には足りませんから」

言いながらシンジは少し目線をアスカから逸らした。
そのシンジの態度を見たアスカは、怒るどころか嬉しそうに微笑む。

「ふふふ」

「わ、私は何かおかしな事を言いましたか?」

「ううん、べっつにぃ〜、ふふふ」

「?」

楽しそうに笑うアスカの意味が分からず、シンジは不思議がる。
アスカはシンジが自分に好意を寄せているのに感づいて、それが嬉しくて笑っていたのだった。
だが、普段から女性に好意を寄せられている事に気付きもしないシンジは、この時もアスカの気持ちには気付かなかった。

「そうそう、今度は何時なら逢えるかしら?アタシも今日はする事があってのんびりもしてられないの。
 今日は無様だったけど、次はもっと上手く作って来ようと思うし、ゆっくりお話もしたいわ」

嬉しそうに微笑んだままのアスカは、シンジに次の逢い引きの約束を取り付けようとした。
そして、それにシンジは快く承諾してくれると思っていたのだ。
しかし、その一言がシンジに翳りを落とした。

「………そ、それは…」

「どうしたの?」

急に寂しそうな顔をしたシンジを見てアスカは慌てて問い質した。
自分は何か変な事を言っただろうか?と不安と共に。

「じ、実は………貴女と逢うのは今日が最後になります…」

「な!?ど、どど、どうしてぇ!

シンジの答えに、思わず声を上げるアスカ。
当然だろう。自分が好意を寄せた男性が、もう逢えないと言ったのだから。

「………それは…」

どうして!?アタシは貴女に何か嫌な思いをさせたの?アタシの料理が不味いのが気に入らなかったの?」

「そ、そうではありません!アスカ殿に不満なんて………ただ」

「ただ?教えて。教えてよ!

納得出来ないシンジの言いように、アスカはシンジの肩を揺さぶって問い詰める。

「………わ、私は今度……婚礼をあげる事になりました。だから、この様に逢い引きをするのは…もう」

「こ、婚礼!?

「はい……父の命で縁組みする事になりまして…だから」

「父の命?……って事はシンジの望んだ婚礼じゃないって事?」

シンジの口調に悔しさが混じっている事を感じ取ったアスカは、シンジの本音を聞こうとする。
もし、シンジが本心から望んだ婚礼で無いのなら、アスカにはまだ手が無い事も無い。
いや、無かったとしても諦める訳にはいかない。シンジはアスカが初めて想いを寄せた男性なのだから。

「ええ……私が望んだ事ではありません。しかし、断るわけにも参りません」

「どうして?……もし相手の家柄が問題だとしたらアタ…」

「私の我が儘で多くの民の平和を失うわけには……私さえ我慢すれば天下が平和になるのです…」

はぁ!?多くの民…天下が平和って……何を言ってるの?」

シンジの言葉、その言葉の意味があまりに大きいのでアスカは呆然としてしまう。
そして次の言葉は、アスカを驚愕の縁へと叩き込んだ。

「黙っていましたが……私は碇家の嫡男なのです。この縁組み…渚家との縁組みが成れば、天下を二分する勢力の均衡が崩れます。
 東海道と北陸からの挟撃、碇と渚の両軍団で宿敵惣流家に圧力をかければ、長く続いた戦国の世に終止符が打たれるのです。
 この国に住む多くの民の幸せを考えれば………私は縁組みを拒否出来ない」

「し、シンジが……碇家の嫡男…」

「このままアスカ殿と逢い続ければ……私は自分の気持ちを抑えられなく…いや、既に抑えがたいのです。
 だから………御免!

言ってシンジは、繋ぎ止めていた駿馬に飛び乗ると、城へ向けて馬を駆った。
そしてあまりの事に、アスカはシンジを留める事も出来ず、ただその場に立ち尽くしてシンジの去った方を見つめていた。
 
 
 
 

年が明けて、いよいよ婚礼の時期が迫ったシンジは、急に母であるユイに呼び出された。

「お呼びでしょうか?母上」

「ええ……まぁお座りなさいシンジ」

母のユイに促されて、シンジはユイの正面に座る。
恐らくは婚礼についての申し付け事を伝えるつもりなのだろうとシンジは思っていた。
しかし、ユイの口から出た言葉はシンジを驚嘆させる事だった。

「渚家のレイ姫との縁組みだけど……取り止めとなりました」

な!?何ですと!

「ですからレイ姫との婚礼は取り止めです」

思いも寄らぬユイの言葉だった。
だが、その意味を理解したシンジは、胸の奥底から怒りが沸き上がってきた。

「ふ、巫山戯ないで下さい!何で今更そんな事を!!

普段の温厚なシンジからは想像も出来ない程の怒りをユイは見た。
例え戦場で戦いの真っ最中でもこれ程の殺気を出さないシンジが、この時ばかりは本気で、自ら望んで人を殺したいと思った。それが例え母であっても…

「巫山戯てなどいません。まずは私の話を…」

五月蠅い!わ、私が…私がどれほど悩んで、自らの気持ちを封じてこの縁組みを承諾したとお考えですか!
 人をなぶるにも程がある!!

シンジ!私の話を聞きなさい!!

話しを遮られたユイもシンジに負けじと怒鳴り返す。
だが、今日のシンジはそれでも怯みはしなかった。
諦めねばならぬという事実が、より一層とアスカへの想いをシンジの中で育てていた。
その想いを封じ込めた後に破談したなど………シンジの感情は爆発するしかなかったのだ。

聞きたくありません!所詮、母上や父上にとって私は息子では無く便利な道具なのでしょう?
 なら勝手にすればいい!!人の意見を聞く気もない癖に話しを聞けなど!!!

シンジは立ち上がるとユイの部屋から立ち去ろうとした。
だが、ユイの側仕えの侍がユイの指示でシンジの前に立ちはだかる。

「シンジ様、どうか落ち着かれませ。そしてユイ様の…」

「どけ…」

背筋の凍る視線と殺気を含んだ冷たい言葉。
普通の者ならそれだけで竦み上がってしまっただろう。
だが、仮にもユイの側仕えを許された侍である。辛うじて言葉を返す。

「ど、退けません」

「そうか…」

次の瞬間、シンジの手には振り切られた刀があった。
そしてシンジの前に居た侍が、その場に崩れ落ちる。

「忠義者ゆえ……峰打ちで許す」

「し、シンジ…」

流石のユイも驚く他なかった。
例え峰打ちであろうとも、太刀筋が見えなかったのだ。そして本気の剣を自らの家臣に向けて放った事に…

「待てシンジ…」

部屋を立ち去ろうとしたシンジの前に、今度はゲンドウが現れた。
その後ろには加持と葛城を控えさせて。

「………………」

「レイ姫との婚礼は無くなったが、お前の縁組み自体に変わりはない…」

「………………」

「状況が変わった。渚家よりも有利な相手の婚礼話しが出てきた…」

ゲンドウを無視して立ち去るとしていたシンジも、流石に今の言葉は聞き流す事が出来なかった。
天下で第三の勢力を持つ渚家以外で有利な縁組み相手とは一体…

「そんな相手が何処にいるのですか?」

「惣流家だ…」

な!?

ゲンドウの言葉は、怒りに満ちているシンジを驚愕させるだけの威力があった。
それもその筈。元々渚家との縁組みによって打倒しようと考えていた相手が、変更した縁組み相手なのだ。
驚くなと言う方が無理な相談である。

「両家が手を結べば天下は統一されたも同然………太平を望むお前にも文句有る相手ではあるまい…」

「決してお前をなぶった訳ではないのですよ。よりよい相手との話に乗り換えたのです」

シンジの背後からユイも語りかけてくる。
この様な状況では、シンジの返答は一つしか無かった。

「委細承知…」

シンジは肩を落として小声で答えた…
そして、自らの生まれを呪った。
どうして自分は天下を左右する様な家に生まれたのかと…
 
 
 
 

本来、婚礼の約束が家同士の間で成立すれば、嫁ぐ姫が嫁ぎ先の家へ婚礼直前に入るのが常識である。
だが、ここ数年互いに争って、それも天下を賭けて争っていた碇家と惣流家である。
まずは和議を締結し、そして婚礼を行う者同士の顔合わせも行うとの運びとなり、互いに軍勢を率いての屋外での会談となった。

「ほらシンジ、もうすぐ相手の姫君が見えるのですよ。何時までも生気の無いを顔してるんじゃありません」

「分かってます…」

そうは言ったが、シンジはあの日以来、あの優しい微笑みを見せる事は無かった。
例え理屈で納得していても、自分の立場を心が呪わずにはいられなかったのだ。

「そう言えばユイ様。惣流の姫君と言えば、お転婆で我が儘な姫だと聞き及んでおりますが…」

側に控えるミサトがユイに語りかけた。

「そうね。でもシンジには深窓の姫君よりもそんな姫君の方が相応しいでしょう」

「確か………アスカ姫……でしたかな?」

同じく側に控える加持が相手の姫の名を確認する。

「そうよ。アスカ姫。私がまだ京に居た頃にお付き合いがあったキョウコ殿のご息女よ」

加持の問い掛けにユイは笑顔で答える。
そして、その加持とユイの会話で出てきた姫の名前に、シンジは自分が初めて惹かれた女性の事を思い返していた。

『なんて皮肉な話しだろうか………私がこの縁組みの為に諦めた女性と同じ名の姫とは…』

「殿。惣流家の者が来ました」

碇家の若武者が惣流家の到着を伝えた。

「よし。通せ」

「ははっ!」

そしてシンジは、自分の生涯の伴侶となるアスカ姫を見た………
 
 
 
 

その後、碇家と惣流家の和議締結の血判状が互いに交わされ、後に行われる両家の婚礼によって永代和議が取り交わされる事となった。

そして両家の婚礼も盛大に行われ、これをもってシンジがゲンドウより正式に家督を譲られる。
又、惣流家も碇家の親族となり、シンジが支配する領土は事実上五百万石を超える事となり、もはや碇家に刃向かえる勢力は無しと判断した朝廷は、
シンジに武家統領の証である征夷大将軍を認可する。
これによって天下は碇家に平定され、長く続いた戦国の世に終止符が打たれた。

時に天正十二年、皐月。
征夷大将軍、碇シンジの統治のもとで天下は泰平を迎えたのであった。
 
 
 
 

数年後。天下の居城、大坂城にて

上様!上様から申し付けて下され!将軍の奥方ともあろうお方が自ら台所に入るなど…」

「あれの好きにさせるがよい」

「ですが上様!」

シンジぃ〜♪お待たせぇ〜♪

「やぁ、アスカ」

上様!アスカ様!!

「うっさいわねぇ〜、将軍や将軍の妻って言っても夫婦は夫婦!庶民と同じ事をして何が悪いの!!」

「で、ですが…」

お黙り!もぉ、アンタは下がりなさい!これからアタシはシンジと楽しい夕餉の時間なの!!」

「局よ、悪いがアスカの言う通りにしてやってくれ。昼間、寂しい思いをさせている分、残りの時間はアスカの思うままにさせたいのだ」

「わ、分かりました………………」

「………さて、お邪魔虫も消えた所で……はい、シンジ♪」

「どれ………うん、とても美味だよ♪」

「あは♪嬉しいわ♪」

「でも、久しぶりにアスカの握り飯が食べたいなぁ」

「え!?………ふふふ、いいわよ。あの時とは比べ物にならない美味しい握り飯を作ってあげるわ♪」

「ははは、楽しみにしているよ」
 
 
 
 

シンジとアスカ………共に初恋の相手と結ばれ、生涯幸せに暮らしたのであった。
 
 
 
 

終劇
 
 
 
 

同じ頃、越後の国のとある城中にて

「レイ。話しがある…」

兄様!縁談ならば聞く耳持ちませんわ!

「ふぅ………レイは諦めが悪いんだね」

当然です!将軍の正室の座は本来私の物!諦めるものですか!!

「だけどね、将軍は愛妻家だよ。側室を持つのが当たり前の世の中でたった一人の女性だけを愛する。彼は好意に値するね」

兄様!兄様は悔しくないのですか!!本来なら兄様が天下の宰相の地位につけたものを……」

「私は平和が好きだよ………争い事は嫌いさ」

ああ!不甲斐ない物言いです事!……例え兄様が役に立たなくても、私は絶対になってみせますわ!
 シンジ様の側室に!!
 
 
 
 

レイ姫。後に彼女は越後の行かず後家と言われる事になる。


〜後書き〜

どうも、あっくんです(^^)/
いやぁ〜・・・べたべたの駄作ですね(−−;
展開はミエミエだわ、オチまでベタベタだわ・・・・・・最近、激甘の暴走作品ばっか書いてたからなのかなぁ〜(^^;
う〜ん、こんな駄作を投稿してもいいのだろうか?

まぁ、気に入らないかもしれませんが、投稿しますね(−−;
後、話が妙に隠れている部分がありますが、手抜きしたのでは無く、故意に外してます。
これ1本で、総ての内容を書くと、どうもまとまりが悪い作品になりそうなので・・・敢えて外しました。
一応、その部分の構想もあるので、確約出来ませんが、書くかもしれません。
その時にはまた、投稿をさせて頂きますね(^^;

では(^^)/〜


 あっくんさんの「碇家の野望」でした〜!(^^)なんと、遂にあっくんさんからも作品を頂いてしまいました!早くも、このような超著名ネット作家様達のご作品を頂けてしまうとは、もうシンクロウは感涙の極みでありますm(_ _)m。

 ではでは、早速ご拝見!
 おお!なんと戦国モノLASですね!しかも、シンジがカッコイイのなんの!もちろん、ストーリーもバッチリ。自分の意志とは裏腹に、縁組みを組まされてしまったシンジ。自分の幸せを取るか、民衆の幸せを取るかの瀬戸際での葛藤を繰り広げるのですが、そこはやはりシンジで、自分を犠牲にしてまで他人の幸せを選ぶんですね。シンジの優しすぎる心は、まさに両刃の剣。この辺りの心裏描写は、忠実に原作のシンジの設定に乗っとっていて、お見事!異世界ものという設定の中でも、あっくんさんは見事にエヴァ世界を、無理なく、そして違和感なく描かれていました。そしてそして、煮え切らない思いで縁組みを受け入れたシンジでしたが、なんとその相手が惣流家のアスカという大どんでん返し!やっぱり、この二人には、切っても切れない運命の糸があるのでしょうね(^^)。
 そしてラスト寸前。エエ話しやなぁと、あっくんさんワールドにすっかり浸っていたシンクロウ。このままハッピーエンドかなと思っていた矢先!やはりLASと言ったらこの人だ!溜まっていたうっぷんを晴らすが如く、伝家の宝刀、ラブラブコメディを一気に解放!夕飯をラブラブに過ごすシンジとアスカ。更にはカヲルとレイの爆笑トークまで!お、お見事です、LAS殿様ーーッ!!!m(_ _)m。いやぁ、読んでいてとっても心地良い素晴らしい作品でした!(^^)

 あっくんさん、この度は本当に素晴らしい作品をご投稿して下さり、ありがとうございました!檄甘LASも大好きですが、こういった純愛LASを描かれるあっくんさんの作品も最高です(^^)。なにより、あっくんさんの今後の更なるご躍進、心よりお祈りしております。

 ご覧になった皆様も、是非とも是非とも、あっくんさんにご感想を送りましょう!たった一言の感想が、このような素晴らしい名作を生み出す大きな力になるのです。皆様、なにとぞ、ご感想をよろしくお願いします!m(_ _)m

 私達に名作を提供して下さった、あっくんさんへのご感想はこちらか、掲示板へ!
是非ともお願いします!m(_ _)m

 《あっくんさんのホームページ:「あっくんの書斎」 http://www.rr.iij4u.or.jp/~asuka/》

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