「弐号機パイロットを観察せよ!」
by オズ





「レイ、弐号機とシンクロできないかしら?」

赤木博士から突然尋ねられた。

無理ですと答えたけど、とにかくやってみての一点張り。

その上、少しでもシンクロ率を上げる事ができるように、弐号機パイロットの行動パターンを

一日観察しろとの命令だ。

どうやら予備パイロットを模索しているらしいわね。

気が進まなかったけど、とにかく命令なので仕方ないわ。

わたしは、弐号機パイロットの行動を観察することにした。





めんどうな事はさっさと済ましてしまうに限るわ。

次の日、さっそく弐号機パイロットの観察を開始する事にした。

昨夜の内に忍び込んで、葛城三佐のマンションに超小型カメラとマイクを備え付けた。

これで弐号機パイロットが、どの部屋にいても観察できるわ。

さて任務開始ね。





午前7時。



弐号機パイロットはまだ寝ている。

ごにょごにょごよ・・

なにか寝言を言っているらしい。

マイクの感度を上げる。

「うーん・・シンジぃ・・むにゃむにゃ・」

・・・碇くんの名前だ・・・・。

弐号機パイロットの顔がにやけきっている。

「やん、シンジ・・ダメだってばぁ・・むふふ」

どんな夢を見ているのだろう?

ちょっと気になる。

碇君にされているダメな事って何?

どうして、むふふ、なの?

分からない。





ぴぴぴぴぴぴぴぴ・・・

目覚ましが鳴った。

どうやら弐号機パイロットも目が覚めたようだ。

以外と目覚めは良いのかしら?でも、まだちょっと眠そうね。

あれ?ベットから起き上がって机の引き出しの中を探っている。

なにか捜し物かしら。

カメラをアップにした。

碇君の写真だ。

何故?・・・・・・・・・・・そう、分かったわ。

でも、違うわ弐号機パイロット。

貴女は勘違いしている。

「碇」違いね。

眠気覚ましに使うなら、碇司令の方。

効果は抜群よ。くすくす。





「お・は・よ。シンジ」

あら、写真に挨拶してるの?

そんな事をしても写真は喋らないわ。

弐号機パイロット、貴女、寝ぼけているのね。

あれ?写真に唇を押しつけた?

・・・?

何してるんだろう?味見?

写真って美味しいのかしら?

弐号機パイロットの正体は・・・・・・・・・・・・・ヤギ?

分からない・・・・・。





午前7時30分



再び弐号機パイロットがベッドの中に戻った。

また寝るつもりかしら?

・・・・・どうやら、二度寝する気はないらしいようね。

目を開けて、ドアの方を伺っているもの。

何かを待っているのかしら?

今日は学校がある日。そんな事をしている時間は無いはずだけど。





「アスカ、起きてる?時間だよ」

ドアの外から碇君の声が聞こえてきた。

どうやら弐号機パイロットを起こしに来たようね。

でも弐号機パイロットは既に起きて・・・って弐号機パイロットは目をつぶっている。

・・・?・・・・

ついさっきまで目を開けていたはずなのに。

「アスカ〜、時間だってば」

碇君の声にも反応しない。

また寝ちゃったのかしら?

・・・弐号機パイロットは寝つきも良いようね。





「しょうがないな〜。入るよ、アスカ」

碇君が部屋に入ってきた。

「アスカ、アスカ〜。朝だよ、起きてよ」

碇君が弐号機パイロットの肩を揺すっている。

困った顔してるわね。

碇君、こんな時は耳元で大声を出すのが一番効果的よ。

そうそう、そんな風に顔を近づけて・・・・。

えっ!!突然、弐号機パイロットが碇君に抱きついた。

「うわっ、ア、アスカ!ねねねねね寝ぼけているの?」

碇君、声が裏返っているわよ。

弐号機パイロットは・・・・まだ寝ているのかしら?

・・・・弐号機パイロットは寝相が悪いらしい。





弐号機パイロットが目を開けた。

ようやく今、覚醒したのかしら?

二度寝なんかするからよ。

でもその割にしっかりした顔ね。真っ赤だけど。





「いやぁぁ!ばか!えっち!変態!しんじられなーい!!」

弐号機パイロットが叫び声をあげた。

とても怒っている・・・のかしら?

「ごごごごごごごめん、すぐ出て行くから」

碇君はあせって部屋を出ていった。

相変わらず真っ赤な顔の弐号機パイロット。

でも、両手を頬にあてて、まるでイヤンイヤンしているようにも見える。



・・・・ドイツでは、きっとああやって怒るのね・・・・



人種間の相互理解が難しい事を実感したわ。





午前8時15分



碇君と弐号機パイロットが、マンションから出発した。

そっと後を付ける事にする。

弐号機パイロットが、碇君に何か話しかけている様ね。

集音マイクの感度を上げる。

「う〜、朝っぱらから暑っついわね〜」

「しょうがないよ、日本は年中、夏なんだから」

「バカシンジのくせに口答えしないの!」

「ちぇ。でもせめて日差しが柔らかいと、少しは涼しいかもね」

「そっだ、アンタ、アタシの日傘になりなさいよ」

そう言って、弐号機パイロットは碇君の隣にピタッと寄り添った。

「ア、アスカ??」

「ア、アンタの影に隠れれば、アタシは日が当たらなくて、す、涼しいのよ」





影・・・黒い物。ディラックの海な物。

影は碇君の足下。

何処が隠れているのだろう?

・・・弐号機パイロットの足首?

そんな所が隠れても、涼しくならない気がする。

碇君も弐号機パイロットも、真っ赤な顔をして暑そうだ。

いいえ、どう見ても暑苦しい。

それなのに弐号機パイロットは、なぜ碇君にピッタリくっついてるの?

分からない。





午前8時30分



学校についた。

下駄箱で上履きに履き替える。

弐号機パイロットと言えば・・・まだ履き替えていない。

碇君もまだの様だ。

二人とも碇君の下駄箱の前で何やらもめている。

何だろう?

集音マイクの感度を上げる。





「さあって、今日は何通入っているのかしらぁ?」

弐号機パイロットが碇君の下駄箱の前で、両腕を組んでにっこり微笑んでいる。

その笑顔が・・・・・・・・ちょっと怖い。

碇君は・・・・引きつっているのね。

おまけに汗、ダラダラ・・・・・そんなに暑いかしら?

「さっ、シーンジぃ、上履きに履き替えましょ?」

・・・・・凄い猫なで声・・・背中がザワザワする・・・

碇君が引きつりながら、自分の下駄箱を開けた。

バサ、バサ、バサ・・・

碇君の下駄箱から数通の手紙が出てきた。

ごくり。

碇君、ツバ飲み込んだのね。

ここまで音が聞こえたわ。

弐号機パイロットが、一層の猫なで声を上げたわ。

「知り合いからの手紙かしらぁ?」

「い、いや、違うようだね・・・」

「ふぅーん。知らない人からの手紙なんて、気持ち悪いわよね?シ・ン・ジ」

「は、ははは。そ、そうだね」

「じゃあぁ、そ・の・手紙、どうするのっかなぁ?シーンジぃ」

弐号機パイロットは、その笑顔を碇君に近づけた。

にぃーって言う音が聞こえてきそうな笑顔ね。

でも、口元は笑っているけど、その目が・・・・・

・・・・・・・・昔テレビで見た、人食いトラの目に似ているわ。

どきどきどき。

弐号機パイロットの笑顔を見ていたら、脈が早くなってきた。

胸も苦しい・・・・・・ん?どきどきして胸が苦しい?

はっ、ひょっとしてわたしって恋する乙女?

そうなの?

背筋もぞくぞくするし、手だって鳥肌立っちゃっているし、悪寒までしてるわ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんか違う気がする。





碇君、手紙をどうするのかしら?

あれ、全部弐号機パイロットに渡すのね。

弐号機パイロットも当然の様に受け取っているわ。



バサ、バサ、バサ、バサ、バサ、バサ、バサ、バサ、バサ



今度は弐号機パイロットの下駄箱からも大量の手紙が出てきたわ。

「はあ〜。まったく男ってのは、どうしてこうバカばっかりなの?」

弐号機パイロットは、碇君と自分の手紙を、まとめてゴミ箱に捨ててしまった。





それにしても、何故、碇君と弐号機パイロットの下駄箱に手紙が入っていたんだろう?

・・・・ひょっとして、二人は郵便屋さん?

分からない。





午前10時



授業中。

さっきから、弐号機パイロットは何をしているのだろう?

目をうるうるさせて、何かを見つめているようだ。

黒板でも見ているのだろうか?

黒板に注目してみる・・・・・・・・・・・・ううっ、難しい。

「ここ、テストの山だぞ」と先生の声。

・・・私もうるうるしてきた。





しかし、弐号機パイロットが見つめているのは、黒板ではない様だ。

その視線は、碇君の背中に注がれているらしい。

弐号機パイロットは、頬杖をつきながら、時折ため息をついている。

その顔はこころなしか赤い。

碇君の背中に何かあるのかしら?

わたしも見つめてみる事にする。

じーっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぐう。

・・・・・・はっ!いけない、寝てしまった様だ。





弐号機パイロットは、相変わらず碇君の背中を見つめたままだ。

一体、何がそんなに面白いのだろう?

分からない。

わたしは眠たくなっただけなのに・・・

・・・!!そうか、弐号機パイロットは寝ようとしてたのね。

納得、納得。





午後0時



お昼休み。お昼ご飯の時間。

弐号機パイロットは委員長と一緒に食事をとっている。

いつもの様に碇君のお弁当だ。

「それにしても、碇君って凄いよね。冷たくなっても美味しい厚焼きたまごって、すっごく手間暇かかるんだから・・・アスカ、愛されてるわね?」

委員長、そのニヤリとした笑い方、弐号機パイロットに似ているわね。

さすが親友って奴かしら?

「な、何言ってるのよヒカリ!た、単にアイツがまめなだけよ!!」

・・・・弐号機パイロット、口の中に物入れて怒鳴らない方がいいと思うわ。

委員長の顔、米粒だらけで真っ白。

ちょっと気の毒。

弐号機パイロットの方は顔が真っ赤。

でも紅白そろっておめでたいわ。

良かったわね2人とも。





それにしても、弐号機パイロットはよく顔が赤くなるのね。

きっと血圧が高いに違いないわ。

ん?そう言えば、碇君がまめって言ってたわね?

まめ・・まめ・・まめって何だろう?

分からない。

国語辞典で調べてみる。

まめ。

1.豆科の植物の種。2.大豆。3.形の小さい物。「ー電球」。

1は・・・違うと思う。碇君は種じゃない・・・タネを持っているけれど。

2は・・・これも違う。碇君はおみそ汁に入っていない。

3は・・・・・・・・・そう、碇君って小さいの?くすくす。

でも、どうして弐号機パイロットがそんな事知っているの?

こっそり覗いているのかしら?

分からない。





午後1時30分



わたし達は、急にネルフに呼ばれた。

臨時の起動実験のためだけど、わたしはちょっと遅れてしまった。

碇君と弐号機パイロットは一足先にネルフについているはず。

とりあえず、更衣室に向かった。





「アスカ、先に行くからね」

そう言って、ちょうど、碇君が更衣室から出てきたところだ。

碇君はこちらには気づかないで、起動実験棟の方に歩いていった。

弐号機パイロットはまだ更衣室の中にいるらしい。

中で二人っきりで鉢合わせするのは、なんとなく嫌だったので、弐号機パイロットが出てくるのを待つことにした。

・・・・・・・・・・・・・・・・・?

なかなか出てこない。

何故?中の様子をこっそり覗いて見ることにする。

何処にいるのだろう・・・・いた。

碇君のロッカーの前だ。

?・・・何かを抱きしめている様だ。何だろう。

白い物。

あれは・・・・碇君のカッターシャツ?

碇君が、さっきまで着ていた物。

弐号機パイロットはそのシャツをギュッと抱きしめている。

その顔はこの上なく幸せそうだ。

やがて弐号機パイロットは、そのシャツに頬ずりをはじめた。

何度も何度も、愛おしそうに繰り返している。

あっ、今度は碇君のシャツに顔を埋めた。

大きく息を吸っている。

「・・・シンジの匂いだ・・・・」

ほうっとため息をついて、弐号機パイロットが呟いた。

その顔は、真っ赤に染まっている。

弐号機パイロットは、もう一度ギュッと抱きしめた後、碇君のロッカーを開けてシャツを戻した。

そして、更衣室を出ていった。





碇君のシャツ・・・弐号機パイロットはとても幸せそうだった。

・・・・そんなに気持ちいいのかしら?・・・・ちょっと羨ましい気がする。

わたしは、ロッカーから碇君のシャツを取り出して、匂いをかいでみた。

すーっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ううっ、くちゃい。





午後5時



起動実験が終了し、わたし達は家路につく。

帰り道は一緒なので、3人一緒に帰ることになった。

弐号機パイロットが先頭を歩き、3歩遅れて碇君。さらに3歩遅れてわたしの順で歩く。





「はあ〜、今日はつかれたわね」

弐号機パイロットが、チラリと後ろを振り向く。

「ははは、そうだね。リツコさん、今日はピリピリしていたもんね」

碇君が楽しそうに答える。

「まったく副司令も、よけいな事を言ってくれたもんだわ」

再び、チラリと後ろを振り向く弐号機パイロット。

「くすくす・・突然、”赤木博士は結婚しないのかね?”だもんね。ミサトさんも引きつってたし」

「デリカシーに欠けるのよ。あの年頃には微妙な話題って事が分からないのかしら?」

「でもさ・・・」





弐号機パイロットと碇君は、楽しそうに会話を続けている。

会話の度に、後ろをチラチラ振り向く弐号機パイロット。

ちょっと物足りなさそうだ。

それにしても、なぜ弐号機パイロットは、碇君の3歩先を歩いているの?

横に並んで歩けば、会話もし易いと思うけど。

それとも、碇君と並んで歩きたくない理由でもあるのだろうか?

その理由を聞いてみたくなった。





「どうして、並んで歩かないの?」

「「えっ?」」

そんなに驚く事、言ったかしら?

「並んで歩けば、話がし易いわ。どうして離れて歩いてるの?」

一瞬の間。

「なななな、何言ってんのよ〜〜〜ファースト!!!!」

顔を真っ赤にして叫ばなくても聞こえるわよ、弐号機パイロット。

しかし、よく真っ赤になる顔ね。

「どうして?」

「べ、別に、理由なんか・・・・無いわよ。ただ・・・」

「ただ?」

「ば、バカシンジがアタシの後ろを歩いているだけで・・・」

弐号機パイロットが照れたように、下を向いて答える。

「そうなの?碇君。だったら並んで歩いた方が合理的だわ」

「えっ、いや、その・・・・いいの?アスカ?」

「か、勝手にすれば?」

「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて・・・」

「・・・うん・・・」





二人は並んで歩き始めた・・・と思ったら、突然弐号機パイロットが振り返り、わたしに近寄って囁いた。

「・・・ありがと・・ファースト」

はにかんだ様な笑みを見せて、弐号機パイロットは再び碇君の横に戻っていった。

ちょっと驚いた。

何か、お礼を言われるような事したかしら?

分からない。

でも・・・少し、ほんわかした気分になった。





午後7時30分



二人と一端別れてから、気づかれないように葛城三佐のマンションに向かった。

再び監視カメラとマイクをオンにする。

どうやら夕食の最中の様だ。





テーブルの一角に葛城三佐が陣取って、何やらわめき散らしている。

「ぶうわぁ〜かやろうぅ!どぅぉくしんの何が悪いっていうのよ〜〜〜〜〜〜!!」

目が据わっている。かなり酔っぱらっている様だ。

葛城三佐の前には、大量のビールの空き缶・・・・ひょっとして、全部飲んだの?





「み、ミサトさん、もう、その辺にしておいたら・・・」

「そ、そうよミサト、せっかくシンジが造ってくれた夕食が・・・」

碇君と弐号機パイロットが止めに入った様だけど、あまり意味が無いようだ。

「ぅるさぁーい!・・・あたしだって、あたしだって、好きで独身やってるわけじゃ無いんだ

から・・・だけど、あのバカが・・・あのバカが、ずうえーんぶ悪いんだから!!

うーっ!シンちゃん、ビぃール!!!」

葛城三佐はグイッと手を伸ばして碇君を睨み付けた。

できあがっているわね、葛城三佐。



「だ、ダメですよ・・・ミサトさん・・」

「いいから!!ビぃーール!!!」

「や、やめときなさいよ、ミサト・・」

「いや!ビぃーーール!!!」

「「み、ミサト(さん)」」

「ビぃーーーーール!!!」

「「・・・・・」」

「でビぃーーーーーール!!!」

・・・あれは誰、誰、誰・・あれはでビール、でビールマーン、でビールマン・・・

・・・番組が違うわ(ボソ)・・・はっ、何を言ってるの?わたし。

分からない。





それにしても葛城三佐は飲み過ぎだと思う。

べろべろに酔って、大声で加持一尉の悪口を繰り返している。

ちょっと、いえ、かなりうるさい。

毎日、こうなのかしら?

おまけに顔は真っ赤っか。

ん?うるさくて、赤い・・・・・・よく似ている気がする・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

そう、弐号機パイロットも嫁き遅れるのね。

くすくす。





午後10時



ようやく葛城三佐の内部電源が切れたようだ。

テーブルに突っ伏して、大いびきをかいている。

ちょっと、みっともない。

碇君が寝室に運ぶのね?

葛城三佐をおんぶしようとしているもの。

けっこう重そうなので大変そう・・・。

えっ?突然、碇君の首に葛城三佐の手が回わった?

「ん〜、加持い〜〜〜〜〜〜」

「「み、ミサト(さん)!!!」」



ちゅう〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!



葛城三佐の唇が、碇君の首筋に押しあてられている。

にへら〜と笑った顔が気持ち悪いわ。

碇君は・・・・・そう、硬直して固まっているのね。顔が真っ赤だわ。

一方、弐号機パイロットは・・・・・・・・

ひっ!!

なんまんだぶ、なんまんだぶ・・・・お、鬼がいるわ!

じゃあ、あ、あの頭の赤いのはヘッドセットじゃなくて角?

そ、そう、ここは地獄だったのね(汗)。

「こ、この、バカシンジい〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」

赤鬼の踵落とし。

碇君、もうダメなのね・・・・・・・合唱。





「あー、どうしよう。やっぱり痕が付いているよ」

碇君が、自分の首筋を鏡で見てため息をついている。

あれは、葛城三佐に吸われた痕ね。

それにしても碇君。あの踵落としを食らって、もう回復しているなんて・・・

ゴキブリなみの生命力。

んっ?ゴキブリ男と鬼娘・・・・・・・・・・・・・・・・

はっ、電波が!!

(あんまりそわそわしないで、あなたはいつでもキョロキョロ)・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やめましょう、年がばれるわ。





「も〜う!アンタには隙があり過ぎるのよ!!」

「しょうがないじゃないか、突然の事だったんだし・・・」

「なに言ってんのよ!そんなの言い訳になってないわよ」

弐号機パイロットが体を震わせて、碇君に詰め寄っている。

どうしてそんなに怒っているのかしら?

別に、弐号機パイロットが被害を受けた訳では無いと思うけど・・・・。

分からない。





「だいたいアンタ、明日どうやって学校行くつもりよ?」

「それってどう言う意味?」

「首筋のマーク、どうするのって聞いてるのよ!!」

そう、碇君の首筋には、葛城三佐が吸い付いた痕がくっきり残っている。

「えっ、あの、その・・・絆創膏でも貼って・・・」

「アンタばかあ?そんな事したら、自分からキスされましたって宣伝してる様なもんじゃない!」

「そ、そうかな?」

「そうなの!!」

「・・・ど、どうしよう〜アスカぁ・・・」

碇君、本当に困っているようね。

だって、その表情がすっっっっごく情けないわ。





「・・手が無い事も無いわ・・・」

ソファーに戻って、碇君の隣に腰掛けていた弐号機パイロットが呟いた。

何か名案があるのかしら?

あれ、その顔がほんのり赤い気がする。

「ま、マークが一つだけだから、目立つのよ・・。逆にいっぱい付けておけば、湿疹か

何かだと勘違いしてくれるわ」

「そ、そうかな?」

「そうなの!!」

「でも、どうやって付けるのさ?」

「あ、アタシが手伝ってあげるわよ」

そう言うと、弐号機パイロットは碇君の首筋に両手を回した。

碇君・・・また固まっている。

きっと下もそうなのかしら?くすくす。





「い、いい?これはアンタに貸しを造るためにやっているんだからね!」

「う、うん。でも、ホントにするの?」

「し、しかたないじゃない。それともアンタ、ミサトにキスされたってみんなに自慢でもしたいの?」

「そんな事、あるわけないだろ!」

「だったらやるしかないでしょ」

「で、でも、このままにしておいても、正直に話せばみんなには分かってくれるんじゃあないかな?」

「・・・・このままじゃあアタシが嫌なのよ・・・・」

「えっ、良く聞こえな・・・」

「いいから!!男のくせにぐじぐじしない!覚悟をきめなさいよ」

「う、うん」

「いくわよ、シンジ」





・・・・・・・・・・・・・・・・ゴクリ・・・・はっ!

つい、見入ってしまったわ。

な、なかなか情熱的ね、弐号機パイロット。

傷つけられたプライドは10倍にして返すってとこかしら。

でも・・・。

なんとなく・・・なんとな〜くだけど、ちょっと違う様な気がする。

これって、立場が逆?

テレビや本では迫るのは男の方だった。

そういえば、葛城三佐も、リードするのは男の役目だって言っていた気がする。

この場合、男は碇君。

・・・碇君・・・・・・・・・・・・・・無様よ。





午後11時30分



「やっぱり湿疹にみえないよー、アスカ」

再び碇君が、自分の首筋を鏡で見て情けない声をあげている。

そりゃそうね。

いくら数が増えたからって、キスマークはキスマーク。

見間違う訳がないわ。

「そう?ま、しょうがないじゃん」

さっきとは打って変わって上機嫌ね、弐号機パイロット。

「そんなー、こんなにあるんじゃ隠す事もできないよ」

「じゃあ、隠さなきゃいいじゃない」

「えーっ!みんなになんて説明したらいいんだよ」

「しーらないっと。さっ、もう遅いしアタシ寝るね」

「あっ、ちょっと、アスカ〜〜〜」

足取りも軽やかに、弐号機パイロットが部屋に戻って行った。

何がそんなに嬉しいのかしら?

鼻歌なんか歌っちゃっているし・・・・。

分からない。





あれ、部屋に入ろうとしていた弐号機パイロットが立ち止まった?

何かあったのかしら。

横目で碇君をチラっと見つめて、また赤くなったわ。

碇君もきょとんとして弐号機パイロットを見つめている。

「正直に言ってもいいよ、アタシに付けられたって」

「えっ!?」

「何でもない。お・や・す・み、バカシンジ」

そう言うと弐号機パイロットは部屋に入ってしまった。

居間に残されたのは碇君。

ボーッとしている姿は・・・・・・・・まぬけね。





ふう、ようやく一日が終わったわ。

さて弐号機パイロットの行動パターンを整理してみよう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

うーん・・・・・要するに碇君に付きまとっているって事ね。

これを実行すると弐号機とシンクロできる様になるのかしら?

深く考えても仕方ないわね。

明日から実行してみましょう。





次の日、ネルフ発令所。



定期の起動実験の為に、チルドレン3人が呼び出されているはずであった。

しかし、ここに碇シンジの姿が見えない。

「あれ〜?シンちゃんはどうしたの?」

のほーんとした声でミサトが尋ねた。

「しらないわよ!!あんなぶぅわ〜か!!」

アスカはこれ以上無いと言う位不機嫌な声で答えた。

ミサトがレイに説明を求める様に視線を向けた。

「碇君は弐号機パイロットの攻撃を受けて、医務室で沈黙しています」

「はあ〜?何があったの?」

「さあ?わたしには分かりません」

その時、アスカが怒りも露わにレイに向かって文句を言い出した。

「何いってるのよ、ファースト!!元はと言えば、あんたがシンジにベタベタ付きまとうからこうなったんじゃない!!!!」

「つまりこう言う事?レイがシンちゃんにくっついてたもんだから、アスカが焼き餅を妬いてシンちゃんを病院送りにしちゃったって・・・・」

「そう」

「焼き餅なんて妬いてないわよ!!」

それぞれの反応を見せる2人を見つめ、ミサトは天を仰いだ。





数時間後、リツコの研究室。



赤木リツコ博士と伊吹マヤが、デスクの前で何やら密談をしていた。

「結局、レイは弐号機とシンクロできなかったわね」

「シンジ君は入院しちゃうし・・・どうしましょう、先輩」

「ふう、まさか弐号機ばかりでなく初号機パイロットの予備まで必要になるとはね・・」

「かえって心配事、増えちゃいましたね」

「マヤ・・・」

「先輩・・・」

「「とほほ・・・」」





この後、ダミープラグの開発が始まったとか始まらなかったとか・・・

                                 おしまい

***********************************************************

あとがき

どうも、みなさん初めまして。オズと申します。

ここまで読んでくださってどうも有り難うございます。

なにしろ初めてのSSなので、いろいろ至らない点があったと思いますがご容赦下さい。

シンクロウさんの一言で書き始めたSSですが・・・・・・

こんなの載せちゃっていいんですか〜、シンクロウさーん!!

でもおきてに初心者オッケーってありますから、いいですよね?

ではこの作品が、みなさんに楽しんで頂ければ幸いです。

                           2000.3.6 自宅にて


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 オズさんの「弐号機パイロットを観察せよ!」でした〜〜!(^^)

 来たッ!来たッ!来たッ!遂に来ましたァーーーーーーッ!オズさんの初投稿作品がァッ!実はオズさん、シンクロウの処女作「今日、宇宙の片隅で」のご感想を送って頂き、知り合った方なんです。そして、その頂いた感想文が、毎回、凄く細かくご自分のお考えをまとめていらして、とても感慨を受けたんですよ。で、「是非ともオズさんにLAS作品を執筆してもらいたい!」と思い立ちまして、その旨をメールでお知らせしたら、なんと快諾!そして、それからウキウキワクワクと待ちわびて、遂に初投稿に至りました!しかも、まさかこのサイトにご投稿されるとは夢にも思わず!ううぅ、感謝感激感涙の10000乗です。

 そしてそして超期待の内容は!うぐおおう!やはり、このシンクロウの目に狂いはありませんでしたッ!アスカを隠しカメラとマイクで観察するレイという、この斬新な設定!面白い!オモシロ過ぎる!アスカ観察をするレイの、冷静で天然ボケ炸裂な分析がすんごく面白いです。特に、「味見?」と「くちゃい」は大爆笑!今年のエヴァ流行語大賞に間違いないでしょう(笑)。その上、LASも萌え萌えで素晴らしいのなんの!表層的には強がりなアスカの、知られざる一途な恋する乙女心。ああ、やっぱアスカはエエですなぁ・・・(しみじみ)。中でも、シンジの上着を抱きしめるシーンは、乙女アスカ炸裂で、一番お気に入りです。思わず、胸が「きゅん」となっちゃいました(笑)。
 そして後半の目玉、キスマーク討論場面。ミサトのつけたキスマークを良い事に、何かといちゃもんつけて、シンジへのキスへと迫るアスカ。この夢のようなシチュエーション!ぐうおおぉお!ローリングローリング!ごろごろごろごろごろ・・・(爆)。いやはや、思う存分転がさせて頂き、ありがとうございましたm(_ _)m

 オズさん、この度は本当に素晴らしい作品をご投稿して下さり、改めてありがとうございました!もうシンクロウは、オズさんの次回作が、今から楽しみで楽しみで仕方ありません!オズさん、マイペースでの次回作、期待大でお待ちしております。(^^)
 ご覧になった皆様も、是非とも是非とも、オズさんにご感想を送りましょう!たった一言の感想が、このような素晴らしい名作を生み出す大きな力になるのです。皆様、なにとぞ、ご感想をよろしくお願いします!m(_ _)m

 私達に名作を提供して下さった、オズさんへのご感想はこちらか、掲示板へ!
是非ともお願いします!m(_ _)m

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