新世紀エヴァンゲリオン if story
   「自分の場所」      著 すけっち・ぶっく


 「え〜!?ほんと!?加持さん!」

 夕食後のリビングに惣流・アスカ・ラングレーの声が響き渡った。
 なにやら嬉しそうに携帯電話にまくしたてている。

 「ホントにホント!?約束だからね、加持さん!もうキャンセルはきかないんだからね!」

 と、まあ元気な事この上ない。
 そんなアスカを見つめる二つの視線。同居人の碇シンジと家主の葛城ミサトである。
 シンジは、

 (ふぅん。アスカは明日加持さんとデートか)

 と、察して再び夕食の後片付けへと身を入れる。が、もう一つの視線は・・・

 (ふぅん。加持君は明日アスカとデートなのね)

 と、面白くなさそうにえびちゅをあおる。
 明日は日曜なのだが、ミサトは休日出勤しなければならない。
 自分が仕事をしている時に、たとえ一回り以上歳が離れているとはいえ、女性と遊びに
 行くというのは、

 (面白くない・・・)

 のである。

 「はい。ミサトさん」

 いつの間にやら後片付けを終えたシンジが、えびちゅの缶をミサトの前に置いた。

 「・・・ありがと、シンちゃん」

 シンジは何も言わずに微笑みつつ、茶をすする。
 そんなシンジを見てミサトは軽く息をついた。どうやら、

 「シンジ君に免じて・・・」

 許す事にしたらしい。

 「じゃ、明日八時に駅前でね!」

 電話を切ったアスカが満面に笑みを湛えてダイニングの自分の指定席に腰を下ろす。

 「はい。アスカ」

 「ん、ありがと」

 よほど機嫌が良いのか、いつもは何も言わずに受け取るティーカップを
 礼を言いつつ受けとっている。

「どういたしまして」

 そんなアスカをちらりと見やり、ミサトが口を開く。

 「アスカ、明日加持君とお出かけするの?」

 「ま、ね」

 「ふ〜ん。良かったわねぇ」

 「加持さんもや〜っとあたしの良さに気づいたって事よね」

 「・・・」

 「ま、どっかのズボラ女に比べられちゃたまんないケドぉ〜」

 さすがにムッときたミサトが口を開こうとした刹那、

 「じゃ、明日出かけるんだ?」

 シンジが二人の間に割って入る。
 瞬間、アスカの顔にちらりと微笑みが浮かんだ様に見えたのは気のせいか・・・

 「ええ、そうよ。決まってんじゃない」

 「何時に出るの?」

 「駅に九時だから、八時半くらいかしら」

 「じゃあ、いつもよりゆっくりなんだね。朝御飯、食べてく?」

 「あったりまえでしょ!一日の基本は朝食からよ!」

 「じゃ、明日は七時半ごろに起こすね。いい?それで」

 「いいわよ」

 「わかった。・・・それじゃ、アスカ。明日の為に今日は早めにお風呂に
 入ったほうがいいよ」

 「・・・そうね。そうさせてもらうわ」

 アスカは紅茶を飲み干すと、自分の部屋へと戻っていった。それを見送るミサト。

 「・・・はい。ミサトさん」

 目の前に置かれるえびちゅ。顔を上げるとシンジが申し訳なさそうに自分を見ていた。

 「・・・ありがと。シンちゃん」

 ミサトは再びシンジに免じる事にしたようだ。



 アスカと入れ替わる様にしてミサトがバスルームへと消える。
 シンジは空き缶やティーカップの後片付けをしている様だ。
 アスカは自室でクローゼットをかきまわしている。

 (う〜ん。ドレを着ていこうかしらねえ?)

 あれやこれやと体に当てては首を傾げている。
 アスカは元々容姿が良いのだから何を着ても似合うのだが、本人にしてみると、

 (なんか、いまいち・・・)

 なのである。
 しかし、このままではただ時間が過ぎていくばかりである。
 どうしたものか、と思案にくれていたアスカの顔が不意にほころんだ。
 何やら妙案でも思いついたのであろうか。  
 アスカは部屋を出てリビングへと向かう。

 (いたいた)

 視線の先にはSDATで音楽を聴きながら雑誌をめくるシンジの姿があった。 
 シンジに気づかれない様にそっと、背後に回ると、大きく息を吸い、

 「ばかシンジっ!!」

 SDATの音量を遥かに上回る声量でシンジの名を呼んだのである。

 「ひゃっ!?」

 家事が終わり、くつろいでいたところにこの大音声である。飛び上がって驚くのも
 無理はない。
 アスカといえば、こちらは楽しそうに笑っている。シンジが予想通りの反応をしたのが
 おかしいやら嬉しいやらで、すこぶる機嫌が良い。
 ところが、

 「な、なんだよ!いきなりっ!」

 シンジはひきつった顔をして、胸を押さえている。
 よほどに驚いたと見える。

 「なんだよ!いきなりっ!じゃないでしょ!あたしがあんたの事何度も呼んでんのに
 無視するからでしょうが!」

 アスカは不機嫌そうにシンジを睨みつけている。 

 「え、そうなの?ごめん。イヤホン着けてたから気づかなくって・・・」

 シンジはイヤホンを抜き取ると本当に申し訳なさそうにしている。
 ちなみに、アスカがシンジの事を何度も呼んだ、というのは無論の事

 「嘘」

 で、ある。
 だが、人間というのは不思議なもので、本当に申し訳なさそうな表情のシンジを見るに
 つけて、アスカは自分が本当に何度もシンジを呼んだような気分になってしまった。
 そう思うと返事をしなかったシンジに対して腹がたってくる。

 「まったく、ほんとに悪かったって思ってんの!?あんたって何かにつけて
 ポンポンポンポン謝るから真実味ってモンに欠けるのよね」

 「あ・・・ごめん」

 「ほら!またぁ!」

 「ご、ごめん・・・っ!?」

 再び同じ言葉を口に上らせてしまい、シンジは慌てた。

 「で、でも本当に悪いと思ってるよ。最近忙しくて、ちょっと疲れてたから
 気が抜けちゃって」

 そこでアスカは、はたと気がついた。今の自分は、

 (嘘をついてシンジを騙して、理不尽な難癖をつけている)

 だけなのである。しかも、

 (シンジの疲労の原因は半分以上あたしのせい・・・)

 なのである。
 だが、いまさら引っ込みがつくわけがない。

 「ったく忙しくて疲れてるって、あんた男でしょ!?もっとシャキっとしなさい!」

 腰に左手を当てて、右手の人差し指をシンジに突きつける。

 「わかったよ。それで何の用なの?」

 シンジはそっと、ため息を漏らしつつアスカに訊ねた。
 が、アスカは少々ためらっていた。
 はたして、この疲れきった表情のシンジを自分の我が侭に付き合わせて良いものか?
 しかし、明日は滅多に無い加持とのデートなのだ。

 (ごめんね、シンジ)

 心の内で手を合わせつつ、アスカは強気な態度を崩さずに言った。

 「あんた、ちょっと明日着ていく服の事で話があるから、あたしの部屋に来なさい」

 「明日着ていく服って・・・何で僕が?」

 「何でって、今ここにいるのはあんただけでしょうが!」

 「ミサトさんがいるじゃない」

 「あんたバカぁ!?ミサトに相談できるわけないでしょうが!」

 「・・・どうしてさ?ミサトさんだったら加持さんの好みの服装とか知ってるだろうし」

 何の屈託も無い表情のシンジにアスカは思わず眉間に指をあてる。

 「・・・あんたなんかに女心のなんたるかを期待したあたしがバカだったわ」

 「何だよ、それ」

 「ああ、もう!いいからあたしの部屋に来なさい!」

 怒鳴るアスカにシンジは折れた。

 「分かったよ。でも、僕服の事なんて良く分かんないけど、いいの?」

 「あんたにセンスが無いのは百も承知よ」

 「・・・だったら何で?」

 「無いよりはマシでしょ?」

 「・・・」

 シンジはため息を漏らしつつ、アスカの後をついていく。

 「さ、入って」

 「おじゃまします」

 律儀に挨拶をしてからシンジは部屋に入る。
 そして、ちょっと部屋を見回して、はにかむ様に微笑んだ。
 なにやら、部屋中から

 (アスカの匂いがする・・・)

 様で、思わず顔がほころんでしまったらしい。

 「でね、シンジ」

 そこでシンジは我に返った。慌ててアスカの方へ顔を向けると、何やらクローゼットの前で
 ごそごそと中をかきまわしているアスカがいた。

 「こっちの服と、こっちの服。どっちがいいかなぁ?」

 右手には落ちついた感じの青のワンピース、左手には赤のタイトなミニスカートに、
 そろいの赤のジャケット。
 それを着たアスカを思い浮かべたシンジは、

 「どっちもいい・・・」

 と、言いそうになったが、そこである事に気がついた。

 「ねえ、明日どこに行くのさ?」

 思いがけないシンジの問いかけに、アスカはしばし、きょとんとしていたが、

 「まだ決めてない」

 あっさり言った。

 「まだ決めてないって・・・アスカが決めるの?明日行くトコ」

 「そうよ。まあ、本当は加持さんに決めて欲しかったんだけど、せっかくデート
 するんだからアスカの行きたい所にって、加持さんがそう言うもんだから」

 「だったら先に行くトコを決めて、それに服を合わせればいいと思うけど」

 「それも一理あるわね」

 頬に指をあてて考え込むアスカ。

 「じゃ、じゃあ、僕はこれでっ」

 何やら慌てた様に部屋を出ていこうとするシンジを見て、アスカが止めに入る。

 「ちょっと待ちなさいよ!まだ用は済んでないのよ!」

 「で、でも・・・」

 シンジは戸口の所で、あたふたとしている。心なしか頬が赤い。

 「?何焦ってんのよ」

 アスカにしてみればシンジが焦るような事をした

 (心当たりが無い)

 のである。
 故にいきなりあたふたとしているシンジを本当に不思議に思っている。

 「べっ別にどうもしてないよ!」

 「それがどうもしてない人間の態度だと思ってんの?さ、キリキリ白状なさい!」

 「白状することなんて何も無いってば!」

 そう言い残して一目散にリビングへと逃げ出した。
 言えない。言えるわけが無い。
 アスカの甘い匂いに包まれて、ぼんやりとし始めたところに、

 「頬に指をあてる・・・」

 と、いう何気ないが、非常に女の子らしいしぐさを見せられた途端に、

 (抱きしめたい・・・)

 などと思ってしまったとは、

 「口が裂けても言えない・・・」

 のである。
 リビングの中央でシンジはゆっくりと深呼吸する。
 二度、三度と吸っては吐き、また吸っては、吐く。
 ようやくに気が鎮まったかに思えたその時、

 「ちょっとシンジ!用はまだ済んでないって言ったでしょうが!」

 手に何冊か雑誌を持って、アスカがリビングに入ってきた。

 「ア、アスカ!?・・・よ、用って何さ」

 再び動揺しそうになるが、かろうじてシンジは我を保つ事が出来た。
 そんなシンジの様子を見ていたアスカはちょっと物足りない様な顔つきになったが、
 思い直した様に手に持っている雑誌をシンジに突きつけた。

 「な、何だよ。この雑誌がどうかしたの?」

 シンジは突き出された雑誌の表紙を見た。

 「Tokyo 3rd Walker」

 それは、第三新東京市にある娯楽施設を紹介する事を主とした情報誌であった。

 「・・・これが、どうかしたの?」

 アスカの言わんとしている事を大方予想しつつ、恐る恐るシンジは訊ねた。

 「どうかしたのって、ほんとに鈍いわね!明日、加持さんと行く場所を一緒に
 考えろって事よ!」

 (やっぱり・・・)

 既に諦めてはいたが、それでも、

 (最後の抵抗を・・・)

 試みる事にシンジは決めた。

 「何で僕が?」

 「何でって、今ここにいるのはあんただけでしょうが!」

 先程の会話と、全く同じ流れである。

 「いや、だってアスカのって・・・もういいや。僕で良ければ相談に乗るよ」

 「始めっから、そう言やいいのよ」

 アスカは満足そうにうなずくとリビングの床に腰を下ろして雑誌を広げる。
 シンジもアスカに気づかれない様に、そっとため息をつくとアスカの横に腰を下ろした。

 「それで、アスカは明日加持さんと、どこへ行きたいのさ?」

 「う〜ん、そうねえ。やっぱりデートっていったら映画とかショッピングとか・・・」

 そう言いながらアスカは頬に指をあてて考え込む。
 そのしぐさに頬を赤く染めつつ、シンジは言った。

 「そうじゃなくてさ、」

 「そうじゃなくて?」

 「デートとか関係無しで、アスカはどこに行きたいのさ?」

 「・・・あたしの行きたいところ?」

 「うん。アスカってさ、何度か加持さんとデートしたことあるんでしょ?」

 「うん」

 「だったらさ、今回は加持さんがアスカの行きたいところにって言ってくれてるん
 だからさ、素直にアスカの行きたいところとか、アスカの好きなところに行けばいい
 と思うんだ」

 アスカはシンジを見た。シンジはアスカの視線に気づかずに横顔を見せたまま、話を
 続ける。

 「何て言うのかな?自分の好きな場所とか、行くと楽しい場所、心が落ち着く
 場所とか・・・そういう自分の場所を好きな人に知ってもらうっていうのも、たまには
 いいんじゃないかなって」

 思うんだけど、と言葉をつなごうとしてシンジは雑誌から目を上げる。
 そこで、はたとアスカと目が合った。

 (何故だか・・・)

 見つめ合う二人。そして、同時に我に返ると、これまた同時に明後日の方を、慌てて向く
 二人。見る見る内に顔に血が上っていく。

 「ま、まあ、そんなわけだからさ。気張らないでアスカの行きたいところに決めればいいと
 思うよ」

 妙な雰囲気を打ち払うかの様に口早にまくしたてると、

 「じゃ、じゃあ僕、部屋に戻るね」

 シンジは早々にリビングを後にしようとした。

 「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

 これも慌てた様にアスカがシンジを引き止めた。

 「な、なに?」

 「そ、その・・・さ、参考までにあんたのす、いっ、行きたい場所てのはドコなのか
 教えなさいよ!」

 「ぼ、僕の?」

 「そうよ!」

 「何で?」

 「何でって、今ここにいるのはあんただけでしょうが!」

 「だけど、別に僕が加持さんとデートするわけじゃないし・・・」

 「んなの当たり前でしょうが!」

 「だったら何で?」

 「あんた、あたしの言った事聞いてなかったの?参考までにって言ったでしょうが!」

 「参考って・・・ふぅ、分かったよ」

 ため息をつきつつ、再びアスカの横に腰を下ろすシンジ。

 「で?」

 シンジを睨む様に見ながらアスカは先を促した。

 「ん・・・そうだなあ。僕だったら森林公園と水族館と住宅地にある喫茶店かなあ」

 「森林公園?」

 「うん。アスカ知らない?箱根方面にある結構大きな公園でね、ほとんど森みたいな
 ところなんだけど池があったり四阿があったりしてね。大きい割には人も少なくて
 静かだし、そこでのんびりしてると心が落ち着くんだ」

 「へ〜え。いかにもあんたっぽいわね。じゃ、水族館てのは?」

 「ほら、駅前にムーンライトタワーっていう総合デパートがあるでしょ?あそこの十階の
 フロア全部が水族館になってるんだよ。特に珍しい魚とか派手な催しなんかは無いんだけ
 ど、割と落ちついた感じでね、僕は好きなんだ」

 「へえ、あんたが魚が好きだなんて、ちょっと意外ね。で、喫茶店てドコの喫茶店よ?」

 「アスカは多分知らないと思うよ。ここから少し行くと閑静な住宅地があるでしょ?
 その住宅地のはずれの方に小さな公園があってね、その公園のそばにある喫茶店
 なんだけど」

 「公園のそば?・・・むぅ、知らないわねえ」

 「まあ、アスカは向こうの方へは行かないし、僕だって道を間違えて迷ってた時に、
 たまたま見つけたんだから」

 「道に迷ったって、相変わらずぼけぼけしてるわねえ」

 「・・・」

 「で、どんな店なの?」

 「・・・老夫婦のやってる小さな店でね。昔ながらのっていうか、古き良き時代のって
 感じでね。実を言うと珈琲や紅茶の淹れ方は、そこの御夫婦に教わったんだ」

 「へーえ」

 アスカは感心したように声を上げた。
 ここだけの話、アスカはシンジの淹れる珈琲や紅茶は、そこいらの喫茶店など、

 (足元にも及ばない・・・)

 とすら、思っている。
 そんなシンジが教わった店ともなれば、これはもう、

 「隠れた名店」

 と、言わねばなるまい。

 「まあ、今のところはそんなところかな?」

 それじゃ、とシンジは腰を上げる。今度こそ、部屋に戻るつもりである。

 「シンジ」

 「・・・なあに?」

 まだ何かあるのか、と疲れきった顔で振り向く。

 「あんた、明日あたしを今言った三ヶ所に案内しなさい」

 「はい!?」

 「あんた、あたしの言う事が聞けないってぇの!?」

 睨みをきかすアスカに、シンジは慌ててかぶりを振った。

 「ち、違うよ!アスカは明日加持さんとデートだろ?」

 それなのに何を言っているのか、とシンジが言わんとするその目の前でアスカは携帯電話を
 取り出すと短縮ダイヤルを押す。

 「・・・あ、加持さん?そう、あたしでーす。実はね、本当に申し訳無いんですけど
 明日のデート、キャンセルしたいんです」

 驚くシンジを尻目にアスカは話を続ける。

 「本当に残念なんだけどシンジが、明日はどうしても自分に付き合って欲しい、
 付き合ってくれなきゃ首吊って死んでやるって泣き喚くんです」

 目を見開き、口を開いたり閉じたりしているシンジを尻目にアスカは話を続ける。

 「えへへ、まあ、それは冗談ですけど。・・・ええ、そういうわけでゴメンね、加持さん。
 また今度どこかに連れってってね。・・・はい。それじゃ、お休みなさーい」

 通話終了。

 「ま、そういうわけだから、明日はあたしを案内しなさい」

 「・・・そういうわけって、どういうわけだよ・・・」

 力無くシンジは答えた。もう目の前で起きている出来事が、

 (何が何やら・・・)

 理解できなくなっている。

 「決まってんでしょ?下僕の行動範囲を把握しておくのは主の務めでしょ?」

 当然といった顔つきでアスカは言った。
 丁度その時、風呂から上がったミサトがリビングに入ってきた。

 「シンちゃんお先に〜って、どうしたの?」

 何だか虚ろな目をしたシンジに、ミサトは気がついた。

 「・・・いえ、何でも無いです。ちょっと、疲れちゃって」

 「確かに疲れた顔してるわねえ。そういう時はゆっくりとお風呂に浸かって、一日の疲れを
 流すのが一番よん」

 そう言いながら冷蔵庫に手を伸ばすミサト。心は既に、

 (お風呂上りのつめた〜い、え・び・ちゅ)

 へと、飛んでいる。
 もはや何かを言う気も無くしたシンジがよろめく様にリビングを出ていった。
 ついで、アスカも雑誌を持ってリビングを出ていく。

 「シンジ!」

 「・・・なあに?」

 「明日は九時に家を出るわよ。だから、八時に起こしなさいよね!」

 「・・・分かった」

 逆らう気力は、無い。
 シンジは素直にうなずくと、一旦着替えを取りに自分の部屋へと消えた。
 アスカは満足げに鼻歌なぞを歌いつつ自分の部屋へと戻った。

 「えっと・・・」

 クローゼットを探って、一着の服を探しだす。

 「あった、あった」

 手にしているのはアスカの一番好きなレモンイエローのワンピース。
 それをクローゼットの前に掛けておく。
 そして、一番気に入っている赤いポシェットに、お気に入りのハンカチやら
 手鏡やらをしまっていく。
 大体の準備が整ったのを確認して、アスカはベットへと潜り込む。

 「自分の好きな場所、行くと楽しい場所、心が落ち着く場所・・・自分の場所を、
 好きな人に知ってもらう、かぁ・・・」

 天井を見つめながら、ゆっくりとつぶやく。

 「ばかシンジにしては言うじゃない」

 視線を天井から机の上のフォトプレートへと、移す。

 「このあたしが知りたいって言ってんのよ?感謝しなさいよね、鈍感シンジ」

 ガラスを二枚、重ね合わせたシンプルなデザインのフォトプレートには、加持の写真が
 こちらを向いて収まっている。
 だが・・・、

 「・・・今日は無理ばかり言って、ごめんね」

 その裏では、頬杖をついたシンジが淡い微笑みを浮かべている。

 「・・・お休み、シンジ」

 月が明るく輝いている。
 明日も晴れそうだ。






 あとがき
 皆様、はじめまして。小生は、すけっち・ぶっくと申します。
 ここまで、この話にお付き合い頂き、誠にありがとうございます。
 実は、小生は小説を書くのは、これが始めてなんです。
 当然の事ながら、投稿させて頂くのもまた、これが始めてなんですね。
 まさに正真正銘の初心者なので、いたらぬ所も多々ありますが、笑って許していただければ
 幸いです。
 ・・・では、今宵はこのあたりで失礼を。
                       2000年5月12日 すけっち・ぶっく


すけっち・ぶっくさんの初投稿作品、「自分の場所」でした!
すけっち・ぶっくさん、ご投稿ありがとうございましたーー!!!m(_ _)m
くおおおお、初作品にして、思い切り私のツボにハマった作品ですよぉぉぉ!ああもう、こういった純情系LASには、ホント、ゆで上がっちゃう体質なんすよぉ(笑)。

なにげなーーく、シンジを部屋に誘って、なにげなーーく、誘惑しちゃう所なんかは、アスカらしさがとても良く描かれていました。アスカってば、ホントは加持のデートの取り付けはシンジとのデートの為のただの前置きだったりして?やはり好きなシンジだからこそ、シンジのコトをもっともっと知りたいと思うのは当然の感情なのでしょうね(^^)。

そして、作品中から漂ってくる「透明感のある」綺麗な雰囲気は、すけっち・ぶっくさん独特の作風ですね。情景やキャラの心裏描写が読み詰まるコトなく、スラスラと頭に入ってきて、感情移入がスムーズに進行できました。
特に、フォトプレートの裏にシンジの写真を張っておく所なんかは、ホントに微笑ましい描写でした。表面上では大人ぶる自分と、その裏側ではまだまだ多感な本当の自分がいるという証明。つまりは、子供が妙に大人ぶることに憧れを持つ気持ちの「裏返し」を表現したワケですね(^^)。いやはや、お見事です!
>「・・・今日は無理ばかり言って、ごめんね。」
シンジの写真に謝りを告げるアスカ。今はまだ、照れと恥ずかしさとがあって、素直には言えない気持ちがなんとも心地良いもどかしさを表現されていますよね。でも、きっと、本人の前で素直に心を告げられる日は近いことでしょう(^^)。

すけっち・ぶっくさんの「自分の場所」、いやぁー、ホント良かったですねぇ♪
私としては、この後のシンジとのデートも読みたいくらいっす♪<贅沢言うなって(笑)

ご覧になった皆様も、是非とも是非とも、すけっち・ぶっくさんにご感想を送りましょう!
たった一言の感想が、このような素晴らしい名作を生み出す大きな力になるのです。
皆様、なにとぞ、ご感想をよろしくお願いします!m(_ _)m

 私達に名作を提供して下さった、すけっち・ぶっくさんへのご感想はこちらか、掲示板へ!
是非ともお願いします!m(_ _)m

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