新世紀エヴァンゲリオン if story
   「続・自分の場所」    著 すけっち・ぶっく


 その日。
 いつになく、惣流・アスカ・ラングレーの寝起きが、良かった。
 時計の針は、七時少し前を指している。
 ゆっくりと、半身を起こすと、

 (そっと・・・)

 カーテンの隙間から、外の様子をうかがう。
 すると隙間から、さっと、まばゆい朝の光が差し込んできた。
 同時に、アスカの顔に笑顔が広がる。
 まさに、

 「日が差すような・・・」

 笑顔、である。

 「よかったぁ、晴れたんだあ」

 差し込む朝日を受けながら、アスカは、

 「ほっ・・・」

 と、ため息をつく。
 なにしろ昨夜は、早めに布団に入ったのはいいのだが、なかなか、

 (眠れなかった・・・)

 のである。
 初めの内は、それこそ、

 (浮き立つような・・・)

 思いで、なかなか眠れなかったのだが、そのうちに・・・、

 (明日、晴れるかなあ・・・)

 思う度に、カーテンをめくってみては、空を見上げ、

 (シンジ、疲れてた様だけど、明日大丈夫かなあ・・・)

 考えては、寝返りをうっていたのである。
 と、まあ、そんなわけでなかなか寝付けなかったのだが、どうやら本人も気づかぬ内に
 眠りに落ちていた様である。
 頭もすっきりしているし、体の調子もすこぶる良い。
 そして、天気は快晴。
 後はもう、

 (シンジの体調・・・)

 だけが、心配になってくる。
 正に、

 (いても、たっても・・・)

 いられない様な状態なのだが、アスカは布団から出ようとは、しない。
 何故か?
 それは、アスカにとって一日の始まりとは、

 (シンジが、あたしを起こす声)

 で始まるからに、他ならない。
 そんなわけで、今も布団の中で、

 (うずうずと・・・)

 しながら、シンジの声がかかるのを、ただひたすらに、

 (待っている・・・)

 のである。
 と、その時。

 「あっ」

 かすかにだが、確かに襖の開く音がアスカの耳に届いた。
 そして、ひそやかな足音がアスカの部屋の前を通り過ぎていく。

 (シンジ・・・ちゃんと、起きたんだぁ)

 布団の中で顔をほころばせているアスカ。
 後はもう、

 (シンジが起こしに来てくれるのを・・・)

 待つばかり、である。
 とはいえ今の時刻は、

 「七時十五分」

 で、ある。
 シンジがアスカを起こしに来るまでには、まだ、

 「四十五分」

 もあるのだが、アスカは苦にはしていない様である。

 「まだかな、まだかな」

 楽しそうにつぶやきながら、布団にくるまっている。
 しかしながら、念の為に申し添えておくと、アスカは、

 (待たされるのが好き)

 な、わけでは、けして無い。
 もしも、アスカと約束をして時間に遅れようものなら、
 良くて、

 「罵声」

 で、あり、悪くすれば、

 「平手」

 が、飛んでくる。
 だが、今日は違う。
 約束の時間は八時であるし、時間の指定をしたのもアスカである。
 それに、最近気がついたのであるが、シンジを待つのは、

 (意外と、楽しい・・・)

 のである。
 シンジの表情やら、シンジとの会話などを思い浮かべていると、時間がたつのは、
 それこそ、

 (あっという間・・・)

 なのである。
 今も・・・、

 (森林公園って、どんなトコかな?シンジと並んで歩けるかな?お昼は何を食べるの
 かな?シンジが、お弁当を作ってくれるのかな?水族館なんて久しぶりだな。シンジ
 が好きな魚って、どんな魚かな?喫茶店て、どんなお店なのかな?御夫婦って、どんな
 人達なのかな?)

 などと、とりとめの無い事を思い浮かべている。
 そして、時々思い出したかの様に、

 「まだかな、まだかな」

 つぶやいては、微笑んでいる。
 と、リビングの方から足音が聞こえてきた。
 アスカは、はっと我に返ると、目を閉じてゆっくりと呼吸をする。

 「おはよう、アスカ。朝だよ」

 「・・・」

 「ねえ、アスカ、起きてよ。今日出かけるんでしょ?」

 その言葉に、思わず頬がゆるむ。

 「ねえったらあ、起きてよ、アスカ!」

 「うっさいわね、朝っぱらから!起きてるわよ!」

 表情とは裏腹に、怒鳴り返すアスカ。
 普通であれば、この様な言い方をされれば機嫌が悪くなりそうなものなのだが、そこは
 シンジも心得ていて、

 「ん。おはよう、アスカ。お風呂沸いてるからね」

 いつもと変わらぬ口調で言い残すと、何事も、

 (無かったかの様に・・・)

 リビングへと、戻っていく。
 アスカは、元気良くはね起きると机に向けて、

 (ひまわりの様な・・・)

 笑顔を浮かべる。

 「・・・おはよう、シンジ」

 こうして、アスカの一日は、始まる。



 休日出勤のミサトを送り出した後、シンジは既に仕度を整えてリビングにいた。

 「お・ま・た・せ!」

 昨夜の内に用意しておいたレモンイエローのワンピースに、赤のポシェットを持った
 アスカが飛び込む様にリビングへと入ってきた。
 その、アスカの姿を見て、

 「あっ、その服・・・!」

 シンジが目を見張った。
 忘れもしない。アスカと初めて会った時の服である。
 ここだけの話、シンジは、
 アスカの、きらきらと輝く蜂蜜色の髪の毛に、白い肌。
 そしてなにより、

 (元気のかたまりの様な・・・)

 アスカの性格には、この、

 「明るいレモンイエローのワンピース」

 が、

 (なによりも、一番、似合っている・・・)

 と、密かに思っている。
 が、無論の事、シンジがそんな事を、

 (言えるわけが無い・・・)

 のである。

 「へっへえ〜。さすがのぼけぼけシンジでも、この服は憶えていたかあ」

 からかう様な口調ではあるが、頬がゆるんでいる。

 「そ、そりゃあ、さすがに僕だって憶えてるよ」

 シンジは頬を染めつつ、ほれぼれとアスカを見やる。

 「・・・やっぱり、その服が一番似合うよね」

 「ふえ!?」

 よもや、シンジにこの様な事を言われるとは、

 (夢にも・・・)

 思わない事、である。
 見る見るうちに顔が赤くなるのが、

 (自分でも・・・)

 わかる。
 片や、シンジは、というと・・・、

 「・・・」

 何も言えずに耳まで赤くして、まるで、

 「かかしの様に・・・」

 つっ立っている。
 何故にあのような事を言ってしまったのか。
 正に、つくづく、

 「自分で、自分に・・・」

 驚いている。

 「そっそんな、似合ってるなんて、当然でしょうが!」

 この雰囲気を何とかすべく、アスカが必要以上の大声を張り上げる。

 「なんたって、このあたしが、一番好きな服なんだからね!」

 得意げに胸を張る。
 が、次の瞬間、

 (はっ・・・!)

 と、なった。
 違う。台詞が、違う。
 本当は、

 「なんたって、このあたしが着てんのよ!?どんな服だって似合うに決まってんで
 しょうが!」

 と、言うはずだったのだ。
 慌ててシンジを見ると、

 「す」と「き」

 で、口をぱくぱくさせている。
 いけない。
 既に・・・、

 (声が出ない・・・)

 様である。

 「ちっ違うのよ!ほら、あんたの大事な場所に案内してもらうんだから、礼儀よ、
 れいぎ!」

 言ってから再び、

 (はっ・・・!)

 と、なった。
 シンジの、

 「大事な場所」

 に、案内してもらうのに、

 「礼儀として、一番好きな服」

 を着ていく、というのはとりもなおさず、

 (今日のお出かけを、ものすごく、大事にしている・・・)

 と、いう事になるではないか。
 昨夜、

 「下僕の行動範囲を把握するのは主の務め」

 と言ったにもかかわらず、である。
 既にシンジは全身が、

 「真っ赤・・・」

 で、ある。
 いよいよ、いけない。
 このままでは、シンジが倒れかねない。
 しかし、これも全身を真っ赤に染めたアスカに、この状況を、

 「なんとかしろ」

 というのは、酷であろう。
 なにしろ、今何かを言おうものなら、

 (とんでもない事を・・・)

 口走りかねない。
 が、その時。
 どこにいたのか、もう一人の家族、温泉ペンギンのペンペンが、リビングに入って
 くると、ゆっくりと、

 「二人の間を・・・」

 ぺたぺたと、通り抜けて自分の冷蔵庫へと、消えていった。
 その様を、ほうけた様に見送っていた二人は自然、顔を見合わせると、

 「吹き出す様に・・・」

 笑い始めた。
 大声で、笑うに、笑う。
 ようやくに笑いが収まったところで、アスカがいつもの、

 「気の強そうな笑顔」

 を浮かべると、シンジが、

 「優しい微笑み」

 を浮かべる。

 「それじゃあ、行くわよ!シンジ」

 「そうだね。行こうか、アスカ」

 二人は、いつもの様に部屋を出ていった。
 冷蔵庫の中ではペンペンが、

 「すやすやと・・・」

 寝息をたてている。



 「ところで森林公園って、どうやって行くのよ?」

 コンフォートマンションの入り口に立ちながら、アスカは振りかえった。
 太陽の光を受けて、蜂蜜色の髪の毛が

 「きらきらと・・・」

 輝く。

 「うん?僕はいつも自転車で行くんだけど」

 「え?あんた、自転車なんて持ってたの!?」

 「うん」

 「だって、あたし知らないわよ!?」

 「まあ、たまにしか乗らないし・・・ミサトさんぐらいかな?知ってるのは」

 「なんでミサトが知ってんのよ!」

 「え?だって、一応、保護者だし、駐輪所の場所も分かんなかったから・・・」

 「それじゃ、なんであたしには言わないのよ!」

 「なんでって、言われても・・・」

 思いきり頬をふくらませるアスカを前にして、シンジは、

 (困った・・・)

 様に、頭をかいている。

 「とりあえず、自転車とってくるからさ」

 このままでは、

 (埒があかない・・・)

 と考えたシンジは、自転車を取りにマンションの裏へと走っていった。
 それを、じっと見送るアスカ。

 (ったく、あの万年酔いどれ行かず後家めぇ、あたしに自転車の事、黙ってるなんてぇ)

 気に入らない。

 (シンジもシンジよ!あたしに隠し事するなんてぇ!)

 もっと、気に入らない。
 アスカがシンジの去った方を睨みつけていると、すぐにシンジが姿を見せた。

 「おまたせ」

 シンジが乗っているのは、

 「真っ赤な・・・」

 ATBで、あった。
 これはアスカの、

 (予想外・・・)

 で、ある。
 思わず、目を見張らずにはいられない。

 「・・・どうしたの?」

 「いや、意外だなって。てっきり、あんたのイメージだと、白とか黒とかの普通の
 ママチャリだと思ってたから、さ」

 その言葉にシンジは苦笑した。

 「そんなに意外かなあ?」

 「意外も意外よ。・・・どうして、コレ買ったの?」

 「う〜ん。何か、一目見て気に入っちゃってさ。どうしても、欲しくなっちゃってね。
 その場で思わず買っちゃったんだよ」

 「へ〜え」

 そっけなく相づちを打ってはいるが、その顔は、

 「満面の笑み」

 を浮かべている。
 シンジが、真っ赤なATBを買ったのが、妙に、

 (うれしい・・・)

 様である。
 更に、

 「一目見て気に入って・・・」

 うれしい。

 「どうしても欲しくって・・・」

 もっと、うれしい。
 何故か、突然機嫌の良くなったアスカを不思議に思ったが、

 「にこにこと・・・」

 笑顔のアスカを見て、

 (ま、いっか・・・)

 シンジも微笑を、返す。

 「じゃ、早速行くわよ!」

 「あ、待って」

 シンジは一旦ATBから降りると、後輪の車軸にハブステップを、

 (しっかりと・・・)

 取り付けた。
 そして、おもむろに着ていた真っ白な薄手のパーカーをぬぐと、

 「はい」

 アスカに手渡した。

 「?」

 手渡された白いパーカーを、きょとんと、見つめる。

 「腰に巻いた方が、いいよ」

 少し頬を染めつつ言うシンジに、アスカは合点がいった。
 が、

 「ど〜してえ?」

 「どうしてって、その・・・」

 困った様に頭をかくシンジを見て、アスカはくすくすと、笑いをこぼす。

 「もう!アスカ分かってて言ってるでしょ!」

 「ええ〜。あたし、わかんな〜い」

 「もう、いじめないでよ・・・」

 情けなく肩を落とすシンジ。
 アスカと、いえば、

 「もう、これ以上ないほど・・・」

 機嫌良さそうに、にこにこと、している。

 (まあ、これくらいで許してあげますか)

 スカートをパーカーで包む様に巻くと、袖を腰の前で、

 (しっかりと・・・)

 結びつける。

 「さ。準備できたわよ、シンジ」

 にっこりと、微笑むアスカに、

 (・・・アスカには、かなわないや)

 と、思いつつも、

 (何故か・・・)

 頬がゆるむのを、止められない。

 「さ。行くわよ、シンジ!」

 「うん。・・・あ、でも誰かを後ろに乗せるのって、始めてだから・・・大丈夫かな?」

 その言葉に、頬を、

 「とめどなく・・・」

 ゆるめつつ、アスカは後輪のステップに立ち乗った。

 「大丈夫かなって、あんた男でしょ!しっかりしなさい!」

 「・・・うん、そうだね。それじゃあ、行くよ、アスカ!」

 「いいわよ、シンジ!」

 きらきらと、輝く様な日差しの中を、真っ赤なATBが駆けぬけていく。
 見上げる空は、どこまでも青かった。





 あとがき
 皆様、ここまでお付き合い頂き、ありがとうございます。
 すけっち・ぶっくです。
 調子に乗って、続きを書いてしまいました。
 しかも、まだ、森林公園にすら、着いていません。
 ・・・えらい事になってしまいました。
 シンジ君とアスカさんは、いつ帰って来れるのでしょうか?
 本当に、もう、どうなってしまうのか小生にも分かりませんが、
 よろしければ、今しばらくお付き合い下さい。
 ・・・では、今宵はこの辺りで失礼します。
                       2000年5月15日 すけっち・ぶっく

すけっち・ぶっくさんの待望の続編!「続・自分の場所」でした!(^^)
うおおお、続編をメッチャ楽しみにしていた私にとっては嬉しい限りっす!

キャラと第3者視点のナレーションの融合が真新しい雰囲気を醸し出すこの作品。いやぁー、今回もほのぼのとしていて、とっても良いお話しですねぇ・・・(しみじみ)。明日のデートへの想いを駆け巡らせ、悶々として眠れないへっぽこアスカなどなど、冒頭からして、萌え全開!ううぅ、アスカめちゃめちゃ可愛いっす(*^^*)。前回のコメントでも述べましたが、やはり加持とのデートの取り付けは、メインであるシンジとのデートの布石だったのですね。しかも自転車如きでカンカンのお冠になってしまうなんて、シンジに対する内なるジェラシーレベルは相当のものと見ました!(笑)

>更に、
>「一目見て気に入って・・・」
>うれしい。
>「どうしても欲しくって・・・」
>もっと、うれしい。
ここの展開の仕方は、思わず「巧い!」と唸らされました。シンジの台詞を挟んでの、「うれしい」から「もっと、うれしい」という2段重ねの感情描写が、アスカの嬉しさの度合いを段階ごとに分けていらして、なんとも心地良かったです(^^)。それにしても、まっ赤な自転車とは、シンジ君、見せつけてくれますね♪

そして後半。自転車の後ろにアスカを乗せたシンジが、白いパーカーを渡す所は、今回、私の一番のベストヒットポイント!パーカーを腰に巻いてくれなんていう、意外にも鋭敏に気遣うシンジに、アスカはもう最高にご満悦。いつもは鈍感な彼だからこそ、こういった時折見せる鋭敏さが、なにより嬉しいのでしょうね。嬉しすぎて、思わずからかっちゃって、嫉妬させてしまう所なんか、ホントにアスカらしくて微笑ましい光景っす!(^^)
いやぁー、続編がメッチャ楽しみ!!!

そしてそして、すけっち・ぶっくさんの後書きを見て分かる通り、続編があるってことですよ、皆さん!
こりゃもうすけっち・ぶっくさんに感想をお送りして、お力添えをするっきゃありません!
皆様、なにとぞ、ご感想をよろしくお願いします!m(_ _)m

 私達に名作を提供して下さった、すけっち・ぶっくさんへのご感想はこちらか、掲示板へ!
是非ともお願いします!m(_ _)m

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