澄み渡った空には

第4話

夢の続き


 




「シンジくーん、大ジョブ?」


返事はない。


「シンジくーん?」


不思議に思って後ろを向くマナ。


「・・・・なんだ、寝ちゃってたんだ。」


マナはほうっと一つため息をつくと少しだけアクセルを踏んだ。







・・・シンジは夢を見ていた。

いや・・・それが夢なのか現実なのかわからなかった。

どこまでも続く黄色い砂、そしてオレンジ色の海。

横になったシンジの体をそれらがゆっくりと包んだ。


・・・アスカ・・・


自然とその言葉が頭に浮かんだ。

ゆっくりと探るようにして砂の上で手をはわせる。

だが・・・・



そこに彼女のぬくもりはなかった。


身体を半分起こして辺りを見渡すシンジ。

その瞬間・・・シンジは息を呑んだ。


「・・・アスカッ!!」


シンジの目には空と同系色の海の中に溶けて行く彼女が映っていた。

彼女の栗色の髪がゆらゆらとほどけていく。


「アスカ!!アスカ!!」


シンジは彼女の名前をひたすらに叫び、そして走った。


・・・もう少し・・・もう少し・・・


そう心の中で繰り返しながら無我夢中で泳いだ。

そして、ついに彼女の手の平にシンジの手の平が届いた・・・はずだった。


「どうして・・・なんで、なんでだよ!」


ただ、オレンジ色の液体をかきまわすシンジ。

だが何度やってもシンジがアスカの手に触れることは出来なかった。


「アスカ!!目を開けてよ!!」


ゆっくりと沈んで行くアスカの華奢な身体。

シンジはそれを必死で追いかけた。


・・・ここで何も出来なかったら・・・・僕は、また同じだ!!

・・・・必ず・・絶対に僕は!!


「アスカぁぁぁぁぁぁ!!」


・・・・アスカ・・・・


水面下で言葉になるはずもなかった。

だが、シンジはただ彼女の名を呼びつづけた。

口から、海水が流れ込み意識が朦朧とする中、シンジが最後の力を振り絞って口を開こうとした時、

アスカの唇がゆっくりと動いた。

そして・・・




・・・・サ・・・・・・ヨ・・・・・・・ナ・・・・・・ラ・・・・・




少し微笑んだように思えるアスカの唇。

髪を揺らしさらに奥深く沈んで行く彼女の姿はあまりにも美しかった。

そして、あまりにも安らかだった。


「・・・あ・・・・あ・・・あ・・・」


深く深くLCLその見をゆだねるアスカ。

シンジは彼女を見守ることしか出来なかった。

届かないとはわかっていても賢明に手を伸ばすシンジ。

だがそれもむなしくLCLをなでるだけだった。


「アスカ・・・アスカ・・・・・・・

アスカぁぁぁぁぁぁ!!!」


















・・・・・・・り君・・・・・


「・・・・・・う・・・うう。」


碇君・・・・・・起きて・・・・碇君。


「だ、誰?僕を呼ぶのは・・・」


シンジは不思議な声によって目を覚ました。


・・・・碇・・・・君・・・。


どこか聞き覚えのある声。


「ねえ、どこに居るの?」


シンジが身体を起すとそこには先ほどの砂浜も海もなかった。


・・・・・・・・ここよ。


声はいつのまにかシンジのすぐ後ろに来ていた。

ゆっくりと後ろを向くシンジ。


「あ・・・綾波。」


「ひさしぶりね。碇君」


四年前と変わらない蒼く光る髪をたなびかせレイはそこにいた。

シンジの琥珀色の瞳とレイの赤い瞳がゆっくりと交差する。


「う・・・嘘だ・・・そんなはずないよ。僕は、きっと夢を見てるんだ・・・」


「どうして、そう思うの?」


「だって、僕は・・・さっきマナって子にあって・・

だから・・・・」


「・・・そう。」


シンジとは対照的に落ち着いた返答をするレイ。

だがこの冷静な返答がかえってシンジをあせらせた。


「・・・そう、そうだよ・・・それに綾波は・・・」


シンジは赤い空の向こうに見えた崩れ果てた彼女を思い出していた。


「・・・そう、あなたが考えているとおり。

ここに居る私は私であって私ではいわ・・・夢・・・

そうあなた達、リリン達はそうたとえるのかもしれないわね。」


シンジは一瞬耳を疑った。

もちろん綾波の発した『リリン』という言葉に。

明らかに人間という存在と自分を区別したその言葉に。

だが、レイはシンジを無視して続けた。


「でも、夢という世界が完全に現実と切り離されているとは限らないわ・・

今のこの世界ではね・・・

あなただってそれをさっき実感したはずよ。」


「さっき?綾波、何を言って・・・」


「忘れてしまったの?二号機パイロットのことよ・・・」


おもわず、はっとするシンジ。


「そうだ!アスカ!アスカは?」


「ここにはいないわ・・彼女はもっと別のところにいるの。」


「別って?一体どこに・・どこにいるの?」


シンジがそう言うとレイはくすりとわらった。


「・・・フフ、大丈夫よ。あせらなくても・・・

少なくともあなた達の世界にはいるから・・・

そのうち会えるわ、そのうち・・」


レイの言葉にシンジは再度違和感を感じていた。


・・・まただ・・・『あなた達の世界』ってどういうことだろう?


レイだってこの世界の・・・それとも、違うのか・・・


その瞬間レイがまたクスリと笑った。


「フフ、そのうち解るわ。

すべてね・・・・」


・・・・・・・!!!???


「あ、綾波・・・・・・どうして・・・・」


「・・・・今私が言えることはただ一つ・・・」


ごくりと息を飲んでレイの答えを待つシンジ。


「・・・・・・・・・」


「え?!」


レイが口を開こうとしたその瞬間、突然シンジとレイの空間が離れ始めた。


「ちょ、ちょっと待ってよ!綾波!」


シンジが呼びとめようとしても二人の距離はゆっくりと、だが確実に広がって行った。

レイはいまだ微笑しながら唇を動かしている。

・・・・そして、ゆっくりと世界が閉じられていく。

暗く深く沈んでいくシンジの足元。

そして世界はゆっくりと闇に包まれる。

遠ざかるシンジの意識。














碇君・・・すべては・・・夢・・夢の続き・・・












「シンジ君!シンジ君!」


シンジの身体を揺るマナ。


「う・・・アスカ?・・綾波?」


ゆっくりと目をあけるシンジ。

その瞬間・・・・・・


「わあああああ!!ちょ、ちょっと!なにやってるんですか!!」


飛び起きるシンジ。


「はぁ?ただ、『やさしく』起こしてげようとしただけよぉ。」


・・・やさしく??

先ほどシンジが薄目を開けた時には確かにマナはすごい形相で自分の首に手をかけていた。

今も微笑んでいるが、マナのそれはかなりひきつっている。


「まったくシンジ君たら!このあたくしがせっかく起こして差し上げてるのに!

別の娘の名前を呼ぶなんて、いくらあたしでもちょっと切れちゃうわよぉ、おほほほほ!」


「え?・・・・僕、誰かの名前を・・・?」


「もうシンジ君たら!!寝ぼけちゃって!」


ガスッ!!


・・・・ぐは・・・・


故意にかどうか、その意図はわからないがマナの肘は確実にシンジのみぞおちに入った。

女性とは言え特殊訓練を受けたマナの肘打ちの威力は尋常ではない。


「あら?シンジ君どうしたのかしら?

ごめんなさいねえ、あたくし、アスカさんとか綾波さんと違って野蛮で・・・・ほほほほ。」


「げほ・・・げほ・・・そ、それでマナさんそれ本当ですか?」


「あーら、シンジ君あたしはどうして、マナ『さん』なのかしら〜?

同い年なんだから呼び捨てで良いのよ〜♪」


マナの無気味な笑いにシンジの右手が思わず寒気を覚える。


「・・・あ・・・マナ・・・本当に、僕はアスカや綾波の名を?」


「そうそれで良いのよ!そしたら私もあなたを『シンジ』って呼べるしね♪」


思わずため息をつくシンジ・・・とは言ってももちろん、いつものようにあからさまではなくこっそりとだが。


「それで・・・その答えを聞きたいんだけど・・・・マナ」


「ええ、確かに呼んでたわよ。なんだかうなされてるみたいだったけど・・・

誰なの・・・・その二人って?」


・・・・やっぱり・・・・でも何故僕はあんな夢を・・・

・・・・いや、その前にあれは夢だったのだろうか・・・・

あんなリアルな夢・・・見たことない・・・でも、どこかで・・・

そうだ、あの感じ、あの風景・・・同じなんだ・・・・

サードインパクトの時と・・・・・

じゃあ、もしただの夢じゃないとして・・・一体どうして、アスカが・・・

そうだ・・・綾波も最後になにか言ってた・・たしか・・・




シンジはそこまででやめることにした。

理由として今の自分では判断しようがない問題であるということ。

そして、もう一つは・・シンジの目の前にあった。

まるでバックに鬼火でも灯しているかのようにものすごい圧力を放っているマナ。

シンジは思わず戦慄した。


「碇シンジ様・・・あたしの質問に答えていただけないでしょうか?」


「は・・・い・・・喜んで。」


にんまりと満足げに頷くマナ。

シンジもそれにあわせひきつりながらもゆっくり微笑んだ。


「その、アスカさんと綾波さんて、どこのどちら様でございますの?」


「・・あ、・・えーと、僕の友達です。四年前一緒にEVAのパイロットやってた・・・

僕がサードで・・・彼女達がファーストとセカンド。」


シンジが言い終えるとマナは先ほどのようににっこり微笑みうなずいた。


そして、同じ動作を数回繰り返したかと思うと突然その表情を変えた。


「・・・・シンジ。」


「っひぇ!!」


素っ頓狂な声をあげ震え上がるシンジ。

おもわず後ずさりしようとしたがマナの両腕はがっしりとシンジを掴んでいて放さない。

そしてマナがゆっくりと口を開いた。


「・・・・・・シンジ。それほんと?」


・・・・・え?


マナはいつのまにかシンジを助けてくれた時と同じ目をしていた。

自分と同じ琥珀色で強い意思を持った瞳。

シンジは直感からその場の雰囲気を感じとり、ゆっくりと頷いた。


「そう・・・それでセカンドの本名は・・・?」


「惣流=アスカ=ラングレー。」


「・・・・・・・・・・」


シンジはマナの沈黙からなにか違和感を感じ取った。

マナのそれはプロの成せる技であって、一般の人間では気づかなかったかもしれない。

だが、シンジは一般の人間ではなかった。

元エヴァンゲリオン初号機パイロット碇シンジである。

シンジの四年前の経験が何かを彼に告げていた。


「・・・シンジ・・・急ぐわよ、ネルフ本部へ。」


ゆっくりとマナに頷くシンジ。

マナも無言でそれに反応した。

彼女もまたシンジ同様、彼の中のパイロットとしての何かを感じていた。


そして、無言のままゆっくりとアクセルを踏んだ。

タイヤの焼けるようなにおいだけがあたりを覆っていた・・・









to be continued




≪TLFの部屋≫


シンジ:「第二回目となりました、でも、今回はストーリーの展開上、ちょっとシリアスに短く決めます。」






ついに自由の身となったシンジ

だが、それは仮初の自由でしかないのかもしれない。

ネルフ本部、4年ぶりの再会は彼になにをもたらすのか

彼のみた夢は本当に夢なのだろうか

何故、綾波がアスカが・・・そしてマナの真意は




八色の姓さんの連載「澄み渡った空には」の第4話、「夢の続き」でした!

過去にあったらしい辛いアスカの夢からレイの夢へ。
アスカの言う「サヨナラ」。レイの言う「全ては夢の続き」。これらの台詞が意味する真意とは一体!?
うむむむむ、だんだんとお話が難しくなってきて、レイ登場によってさらに伏線が引かれましたね。

そんなこんなで、さらに謎を残しつつ現実の世界に戻ったシンジ。そして待ち受けていた肘打ち(笑)。
マナってば、シンジにヤキモチ焼いちゃうなんて、早くもシンジに一目惚れしちゃったのかな?
でもマナさん、なんだかんだ言いつつ、目が笑って無いような・・・(^^;)。

なにはともあれ、一路ネルフ本部へレッツゴー!
果たしてアスカは生きているのか?シンジとの再会は果たされるのか?
物語が本格的に動き出しそうな様子の次回を乞うご期待!

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