心の形、LASの形


 








ーーーーートン、トン、トン・・・







立ち並ぶマンションの空間に響き渡る軽快な音。

シンジはとりあえず1日の決まりきった仕事の中の一つをこなしていた。

彼の目の前には一見地味そうな紫色の布団とそれとは対照的に目の覚めるような赤でカラーリングされた布団が二枚仲良く並んでいる。

手を休めそれらを満足げに眺めるシンジ。

そして、布団を叩くために使っていた棒を両手で握ると爪先立ちになって伸びをする。

太陽がシンジとベランダに干された二枚の布団を、さんさんと照らしている。

シンジは片手を目の前にかざして、嬉しそうに太陽を眺めた。


「今日も良い天気だ。」


そう言うと、つっかけていたサンダルを脱ぎ散らかして部屋の中へと消えていった。
















「アスカ〜〜?」


シンジは今ちょうど仕事が終わって部屋の中をうろちょろしている。


「・・・おかしいなあ・・・・どこ行っちゃったんだろ・・・

普段ならそろそろ、昼ご飯の催促してくる頃なんだけどな・・・」


壁にかかっている時計に目をやりながら独り言を言うシンジ。

そして、また再度同じ名前を呼びながら別の部屋に向かう。


「アスカ〜・・・・・・居ないの〜?」


だが、相変わらず返事は返ってこない。

・・・これだけ探しても返事すらしないってことは、どこかに出かけたのかもしれないな・・・

まあ、いいや・・・気長に待とう・・・


シンジはお気に入りの料理雑誌を広げながらソファに腰を下ろした。

窓からさんさんと太陽の光がさしこんできている。

それを背中に受けながらゆっくりとくつろぐ。


・・・・あーあ・・・・なんか眠くなってきちゃった・・・・

アスカが帰ってくるまで、ちょっと休もう・・・


そうして目を閉じた瞬間、シンジの耳に自分を呼ぶ聞きなれた甲高い声が聞こえてきた。


「・・・シンジ〜・・・」



「・・・あれ?・・・誰か呼んだ?・・・・・・・・・そんなわけないか・・・

空耳だねきっと・・・・」


良く聞こえなかったせいと睡魔が襲ってきたため自分でそう決めつけると、もう1度まぶたを閉じた。


「シンジ〜!!」


はっとして目を開くシンジ。

今度は先ほどよりも大きな声でシンジを呼ぶその声。

それは他でもないさっき自分が探していた人物のものであった。

シンジは急いでソファから立ち上がった。

そして、雑誌をその辺にぽーんと放り出すとベランダへと走った。

勢い良くドアを空け名前を叫ぶ。


「アスカ〜!!」







「・・・シンジ〜!!」


数秒ほど遅れて返事が返ってきた。

どうやら声は下のほうからしている。

身体を乗り出すようにして下をのぞく。

地上10階からの眺めはいくら元EVAのパイロットで慣れているシンジでもなかなかスリルがあるものだった。

眼下には予想どうり、先ほど探していた人物がいた。


「・・・お〜い!アスカ!!」


もう1度彼女の名前を呼んで見る。

アスカはシンジの声に気付きはしたが、どこに居るのかわからないらしく辺りをきょろきょろしている。

仕方なく、彼女に自分の居場所を伝えるべくもう1度声を出すシンジ。


「アスカ〜!上、上!上見て〜!」


はっとして頭上を見るアスカ。


アスカの視線の先にはシンジが嬉しそうに手を振っている。


「ちょ・・・・っちょっと!シンジ!!こっち降りてきて!!はやく!」


何か不自然な動きをしながら上に向かって怒鳴るアスカ。


「・・・・なんで?何やってるのアスカ?」


アスカの姿以外はマンションの側に生えている木の影になっていてよく見えない。


「いいから!はやく!!」


・・・しょうがないなあ・・・・


ブツブツ文句を言うシンジ。

そして面倒くさそうに返事をすると外に出て、そのまま階段を降り始めた。

リズムカル身体を揺らしながらてれてれと階段を降りる。

階段をおり終わるとすぐ側にアスカの姿が木にまじって見えた。

すかさず、声をかけようとする。


「アスカ〜、どうし・・・・「もう!!あっち行きなさいよ!!」


シンジの声はものすごい剣幕のアスカの声にかきけされた。

しかも、そのないようは激しい拒絶。

とたんにシンジの顔に不快感がにじみ出てくる。


・・・・な・・なんで・・・せっかく僕が下に下りてきたのに?

・・・それなのに近寄るだなんて・・・ひどいよ・・・・ひどすぎるよアスカ・・・

アスカが呼んだのに・・・だったら、呼ばなきゃいいじゃないか・・・


滅多に怒らないシンジだが今日ばかりは腹を立てたらしく、アスカに背を向け階段のほうに向き直った。

シンジが階段に足をかけたその瞬間もう1度拒絶の言葉が発せられる。


「あっち行ってって言ってるでしょ!!」


そのとたん、シンジの怒りが爆発した。

いらいらした強い足取りでつかつかとアスカの方に向かう。


「なんでそんな事言うんだよ!来いって言ったのはアスカじゃないか!

・・・・いいよ。わかったよ・・・そんなに言うなら戻るよ・・・」


悲しそうに背を向けるシンジ。


「・・・・シンジ!!・・・何言って・・・キャ!」


突然、アスカの悲鳴が背を向けたシンジに突き刺さった。

はっとして振りかえると、そこにはまるまると太った大きな猫がアスカに飛びかかろうとしていた。

アスカは手の中の何かを必死に守っているようで、かわすのが精一杯のようだ。

見ると、引っかかれたのだろう、アスカの白い腕や足に赤い色がにじんでいる。

次の瞬間シンジは先ほどのことは忘れて走り出していた。


「・・・このバカ猫!!よくも・・・アスカを!!」


そして、怒りに任せて次の攻撃態勢に入っている猫を思いきり蹴飛ばした。

猫はフギャっと変な声を立てるといちもくさんに走っていった。


「まて!このやろ!!「待って!」


シンジは怒りで混乱状態になっていたためさらに追いかけようとしたが、アスカがそれをひきとめた。

アスカのほうに振り向くシンジ。


「・・・いいの・・・大丈夫だから・・・・」


「でも、アスカ!ほら・・・・傷が!

・・・・・ちょっと僕に見せて・・・」


シンジは傷を見るためにアスカの腕を掴もうとした、がその瞬間・・・





・・・・ドンッ・・・・・・







シンジの手を振り払ったアスカの手がシンジの胸を押した。

おもわずよろめくシンジ。


・・・・な・・・・どうして・・・・


・・・・・アスカに嫌われた・・・

・・・・・・・アスカに拒絶された・・・・

・・・・・・・・・アスカにどつかれた・・・・


「・・・アスカ・・・ぼ・・僕は要らない子なの?

僕の気持ちを裏切ったな・・・・・・父さんと同じで裏切ったんだ・・・・

・・・僕の事を大事にしてよ・・・・僕に優しくしてよ!!!」


アスカにされた事があまりにもショックだったのか、わけのわからない事を叫び、そのまましゃがみこむシンジ。

何かブツブツと言っているのが聞こえる。


「・・・シンジ・・・・アンタなに言ってんの?」


シンジの行動の意図が掴めず困った顔をしているアスカ。


「ほら・・・立ってよ。」


シンジは相変わらずのようだ。

アスカは深く溜息をついてシンジに顔を近づけた。

シンジのブツブツがかろうじて聞こえる。


「・・・助けてよ・・・アスカ・・・・助けて・・・」


思わずガクっとなるアスカ。


「あのねえ。シンジ・・・・・何いってんのかわかんないけど・・・

別にどついたわけじゃないのよ!ほら、見てよ!」


「・・・・え?私を見て?・・・・

・・アスカ・・・僕が要らないんじゃなかったの・・・

(・・・必要だから呼んだまでだ・・・)

・・・そんな・・・見たことも聞いた事もないのに・・・・・痛って!


突然シンジの耳に激痛が走る。

面倒くさくなったアスカが、シンジの耳を掴んで無理矢理上を向かせたためだ。


「ほら!馬鹿言ってないで、見るのよ!」


アスカが自分の両手に乗せられたものをシンジに見せる。

仕方なく目を開きアスカのほうを向く。


「ア・・・アスカ・・・これは?」


アスカの手の上には小さなスズメが乗せられていた。

まだ毛が生えそろったばかりで寒いのか小刻みに震えている。


「さっき、外に出た時に見つけたの。

たぶん、巣から落ちちゃったんだと思うんだけど・・・

それで、家に連れて帰ろうと思ったらさっきのバカ猫がよってきてさ!

この子を抱いてたせいで、両手がふさがっちゃってどうにもできなかったってわけ。」


とたんにシンジの顔が明るくなる。


「じゃ・・・じゃあさっき、来ないでって言ったのはあの猫に対してだったんだね!」


「そうよ。どうして?」


「そうかあ!・・・じゃあ、僕はここに居てもいいんだね!」


うんうんと独り満足げに頷くシンジ。

シンジの頭の中ではシンジにしか見えない黒い壁が音を立てて崩れていた。


(おめでとう!)・・・ 【おめでとう!】・・・『めでたいな・・!』・・・「クワッ、クワッ」・・・


「・・・・・ありがとう・・・・・」


「はあ?シンジ、さっきから何言ってんの?」


アスカの宇宙人でもみるような視線にはっと我に返るシンジ。


「・・・ん?い・・いや、なんでもないよ。

ほら・・・その子も震えてるよ!はやく家に戻ろう!」


見るとたしかにその小さなスズメは寒そうにしている。


「そうね。じゃあ、行きましょ!」


アスカはもう1度その子を手で覆うと軽やかに階段を上り始めた。

シンジもその後に続く。

そして、二人の部屋の階まで登ったとき、急にアスカが立ち止まった。

息を切らして追いかけてきたシンジも不思議そうに、一段下の階段で立ち止まった。


「・・・アスカ・・・どうした・・・・・・・・・の?」


シンジの声は最後まで続かなかった。

少しかがむようにしてシンジの唇に自分の唇を重ねるアスカ。

シンジの肺を彼女のラベンダーの香りが満たしていった。


「・・・さっきはありがと・・・・シンジ・・・ちょっと、かっこよかったわよ・・」


そう言うとシンジの首の後ろに腕を回すアスカ。

シンジもアスカの背中を抱き、そっと髪をなでた。

ややあって、アスカがシンジから離れる。

風になびいたアスカの長い栗色の毛がシンジの鼻をくすぐった。


「・・・じゃ!行きましょうか!」


アスカのはりのある元気いっぱいの声。

シンジもその声にできる限りの気持ちをこめて応答した。


「うん!」


そして、二人でいっしょにドアのノブを持つと一気に開け放った。

春を象徴するような暖かい風が家の中に吹き込んでいった。
















「えぇ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」


突然響き渡るアスカの声に思わず背中をのけぞらせるシンジとシンジの手の中のすずめ。


「ど・・どうしたんだよ、アスカ。ほら、この子もびっくりしてるよ。」


シンジのそんな言葉はお構いなしで、ずかずかと大きな足音をたてて、シンジに接近してくるアスカ。


「どうしてレイの所に行かなきゃならないのよっ!!」


「・・・どうしてって・・・・リツコさんに見てもらうのが一番手っ取り早いんじゃないかって思って・・」


現在、綾波とリツコさんはこの近くのマンションで同居している。

父さんに愛想を尽かしたもの同士というか、何と言うか、なかなかうまくやっているようである。


「嫌よ!」


腕を組んで顔をぷいっとやるアスカ。


「・・・だって・・・アスカ・・・父さんや母さんのところに行くのとどっちが良い?」


前にアスカと二人で、父のすむマンションを訪れたとき、ひどい目にあったのをシンジは覚えていた。

きっとアスカの脳裏にもあの時の光景が浮かんでいるに違いない。

青ざめたような表情をしている。


「・・・・確かに・・・・きっとまた、子供はできたのかとか、できないなら回数をもっと増やせとか・・・

いろいろ言われるに決まってるわね・・・」


「そうだよ・・・だから、まだリツコさんのところのほうが、ましなんじゃないかなって思って・・・」


アスカは数秒ほど考えると残念そうにうなずいた。


「・・・・・そうね・・・・・・仕方ないわ。

でも、用が済んだらすぐ帰るんだからね!!」


「わかってるよ。この子に餌もあげなきゃ行けないしね。

・・・にしても、どうしてアスカそんなに綾波と会いたがらないのかなあ?」


「アンタバカッ?!!

レイったらシンジが会いに行くと、いっつも潤んだ目でアンタのこと見てるんだから。

・・・・・なにしでかすかわからないわよ。」


「・・・そう?ぜんぜん気づかなかったよ・・・

・・・でもアスカと僕は結婚してるんだし・・・」


「そんなこと言っても、あの子のことだから、知らないわ・・・多分私は3人目だと思うから。

とか何とか言ってごまかすにきまってるんだから!」


綾波レイの口調をまねているアスカにおもわず微笑を浮かべるシンジ。


「とにかく!すぐに帰るんだからね!」


「わかったよ。まあ、とりあえず、急ごう!」


そういうと、空いたティッシュの箱にスズメを入れると二人は部屋を出た。







休日のせいか、外の緑道にはたくさんの人たちが子供を連れて家族で歩いている。

アスカも嬉しそうにシンジの腕に絡み付く。

とおりすがる人々が微笑みながら二人を振り返る。


「ね、シンジ!名前、何にしよっか?」


「え?!」


「だーから、この子のな〜ま〜え!」


思わず、固まるシンジ。

今にもピシッという音がしそうな顔をしている。


・・・この子・・・

・・・この子ってどの子だ・・?


思わずシンジはアスカの下腹部に目をやる。


・・・見た目はあんまり変わらないように見えるけど・・・

いや・・でも、アスカはもともとやせてるからわからないだけかもしれない・・・

・・・やっぱり・・・そうなのかな?

そりゃあ・・・思い当たることがないわけじゃないけど・・・

そんな急に言われても・・・


「ねえ、シンジぃ、聞いてるの?早く考えてよ。」


「え?・・・そ・・・そうだね。

・・・あの・・・女の子だったらマナ、男の子だったら・・・」


つっかえながらその場を必死にしのごうとする。


「そ、そうだ!!アスカのお母さんの名前をもらって、キョウジなんてどうかな?」


「はあ?・・・シンジ・・・何言ってるの?」


「へ?」


見るとアスカがさも不思議そうに自分を見ている。

状況が飲み込めずただひたすらに目を白黒させるシンジ。


「あのねえ・・こんな小鳥の性別なんてわかるわけないじゃない。

それにそんな人間みたいな名前つけてどうするの?」


「え?小鳥?」


「だーから、この子の名前は何にしよっか、ってさっきから言ってるじゃない。」


アスカはティッシュ箱の中で体を丸めているさっきのスズメを指差している。


「え?なんだ、この子ってスズメのこと?僕はてっきり・・・アスカの子供のことかと・・・」


「あたしの?」


シンジの視線を察して自分の下腹部を眺めるアスカ。

見る見るうちに顔が赤く染まっていく。


「もうっ!!アンタバカッ??!!

何勘違いしてんのよ!あたし妊娠なんてしてないわよ!

シンジまでお父様やお母様みたいなこと言わないでよ!」


「いや・・・ごめん、ほんと・・その僕・・・でも、アスカと僕の子供だったらいつでも・・」


頭がパニック状態になっているのであろうか、シンジは支離滅裂なことを連呼している。

ますますほてりを増すアスカの頬。


「もう!知らないっ!」


そう言うと、アスカはシンジを置き去りにして駆け出してしまった。

美しい栗色の髪が左右にゆれている。

一瞬見とれていたシンジだがはっとして、アスカを追うべく走り出す。


「待ってよアスカ〜!」


シンジの幸せを象徴するような声が響き渡った。








こんばんは!シンクロウさん!

そして、俺の作品なんぞを読んでくださった心やさしいあなた!

ついにできました。自称純粋にLASで幸せな話!

いつも、あっちにひねったりこっちにひねったりしている僕がこんなものをかくなんて?

僕自身驚いてます。

ちなみに、もっと短くする予定だったんですけど、なにぶん長くなっちまいました。

しかも、まだ終わってません・・・

多分、次の話でとりあえず完結ですね。

題名のとおり、楽しいLASの形を追求する物語です。

もちろん、エンドも愛がなきゃね!

では、自作も頑張りマース!

 八色の姓(やくさのかばね)さんの「心の形、LASの形」でした〜〜!(^^)実は八色の姓さん、シンクロウの投稿時代の初期からお世話になっている作家仲間さんなんです。そして先日、ご投稿を予告されて間もなく、早速作品を頂いてしまいました!こんなに早く頂けたなんて、とっても嬉しいです!

 そしてそして、早速拝見開始!おお!今回は、アスカと同棲しているシンジの物語みたいですね。そしてタイトルもさることながら、内容も斬新ですね!ギャグ、シリアス、ラブラブと、3拍子揃ったミスマッチが目新しい試みです(^^)。なにかとあると、いじける過敏反応シンジがメチャメチャ面白かったです(笑)。特に、お馴染み「おめでとう」連呼からの「ありがとう」には大笑いしてしまいました(笑)。その他にも、思わず「なんでやねん!」と突っ込みたくなるような、爆笑いじいじシンジがとっても面白かったです。しかし、こうも簡単にいじけてばかりでは、アスカに愛想を尽かされてしまうのでは?(笑)。でもでも、ただのラブコメ枠に縛られていない、こういうとっても柔らかな作風は読んでいて心地よいですよね。この辺りの雰囲気作りは八色さんのグッドステータス!(^^)。

 それと、八色の姓さんから、皆様へのメッセージとして「アスカ&シンジの子供の名前を皆さんに考えて頂きたいです。」とありましたので、是非是非、ご感想と一緒にお願いします!(^^)。ひょっとしたら、八色さんの次の名作の重要な一端を担うのはあなたかも!?

 八色の姓さん、この度は本当に素晴らしい作品をご投稿して下さり、ありがとうございました!これからも、八色さんの日進月歩、進化し続けるLAS作品、メチャメチャ期待してますよ!是非とも頑張って下さいね!(^^)
 ご覧になった皆様も、是非とも是非とも、八色の姓さんにご感想を送りましょう!たった一言の感想が、このような素晴らしい名作を生み出す大きな力になるのです。皆様、なにとぞ、ご感想をよろしくお願いします!w(_ _)w

 私達に名作を提供して下さった、八色の姓さんへのご感想はこちらか、掲示板へ!
是非ともお願いします!m(_ _)m

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