LASの形、心の形


Because, I need you









「・・・・・・それで・・・『碇シンジ』の病室の『碇シンジ』のベッドにどうして『鈴原トウジ』が居るのかしらねぇ・・」


トウジの前で腕組みをしているミサト。

トウジもヒカリもただただ、顔を見合わせるしかなかった。


「それはですね・・・その・・・そう。シンジは便所に・・・」


「あ〜らそうなの♪シンちゃんたら1時間もトイレで何してるのかしらねえ・・」


「ははは・・・・」


トウジの乾いた笑いが病室に響く。

目の前のミサトもそれに会わせて不気味な笑みを浮かべている。


「あ、あの、そのミサト先生・・・・」


ヒカリがそこまで言いかけると、ミサトが人差し指を立ててヒカリを制した。


「洞木さん、今は先生じゃなくて、特務機関ネルフ作戦部長として来てるの。・・・つまり目的は、元エヴァンゲリオン、サードチルドレン碇シンジ君の捜索♪・・・それで、なにやってるのかしら『碇シンジ』の病室の『碇シンジ』のベッドに寝ていた鈴原トウジ君♪」


どてっ。

ミサトの目を盗んでその部屋から脱出しようとしていたトウジだったが、その作戦もミサトによって阻まれてしまった。

トウジが顔を上げると、ミサトの鬼のような形相がこちらを見ている。


「鈴原君・・・『あなたも』トイレかしら?」


思わずため息をつくヒカリ。

トウジはただただ笑うだけである。


「さ〜て、どうしたもんかしらねえ・・・・」


ピリリリリ・・・ピリリリ。


「っとに、だれよ・・・・・・・・・はい、もしもし。」


おもわず、ほっとするトウジとヒカリ。

なにはともあれ、わずかであるが、休憩を取れたのだから。

だが、次の瞬間、二人の安堵はミサトによってかき消された。


な、なんですってぇ!!・・・うん、うん。わかった、つないで頂戴。」


ミサトの一変した態度に顔を見合わせる二人。

二人の表情も緊張の色を隠せないでいる。


「・・・あの、ミサトさん。」


「しっ!・・・・もしもし、シンジ君?・・・・・・・あなた今どこに居るの?」


「は?・・・・・・なんですって〜!!?」


「なんで、あなたドイツなんかに居るの!?」


驚きを隠せないミサトを尻目に、ガッツポーズを取るトウジとヒカリ。


「それで!?はあ?・・・アスカの母親の住所を知りたい?ちょ、ちょっと・・・・」


わけがわからないと言う様に、聞き返すミサト。

今回はトウジにもヒカリにもわけがわからなかった。

ミサトは困ったように、1度受話器から耳を離した。

そのとき・・・・


『・・・おねがいします。』


受話器からシンジの深い声が響き渡った。

はっとして受話器を耳に当てなおすミサト。


「おねがいします。」


再度受話器から聞こえるシンジの声。


「・・・あ・・・あんた!何ふざけたこといってるの!

あんた自分の立場わかってんの?あんたは、ネルフのこの病院から脱走したわけ!

つまり、悪く言えば犯罪者なのよ・・・そんなあなたに・・・・・」


「・・・ミサトさん、おねがいです・・・僕に力を貸してください・・・」


「だから!何度も言うようだけど・・・」


「ミサトさん、わしからもおねがいします・・・どうか、シンジに教えたって下さい。

・・・ミサトさんしかいないんです・・・・・・」


「私からもおねがいします・・・どうか碇君に・・・」


ヒカリも当時に続いて深々と頭をさげる。


「あなた達・・・・」


「「「・・・・・おねがいします・・・・・」」」


「あーっ!もう!・・・・・日向君!聞いてる?」


くしゃくしゃと頭をかきながらぶっきらぼうに言うミサト。


「今から私がこの相手に言うことはぜーんぶ独り言だから!

そうMAGIに処理させて!・・・・そう!早く!・・・・ありがとう。

理由はあとで本人から直接言わせるから!・・・・・シンジ君!聞こえる!?」


「・・・はい、聞こえます。」


「今から、『独り言』いうから、良っく聞いてなさいよ!」


「・・・・!!!・・・・・ミサトさんアリガトウございます・・・」


「・・・お礼なんかいいから・・・でもシンジ君、すべておわったら、誰よりも先にこのアタシに報告すんのよ!いいわね!

・・・・・・・じゃあ、行くわよ!・・・〜〜の〜〜〜通り〜〜〜118・・・わかったわね!」


「・・はい、本当に恩に切ります!ミサトさん。」


「ええ・・・あ!シンジ君怪我は?大ジョブなの?ねえ!・・・・・シンジ君!?・・」


ふうっとため息をついて受話器をはずすミサト。


「・・・やれやれ・・・」


「あ・・あの。」


怪訝そうに尋ねるトウジとヒカリ。

ミサトは返事の代わりに、ひょいと肩をすくめて見せた。


「行っちゃった・・・ほーんと、人騒がせな子。

特務機関の情報使って人探しなんて・・・聞いた事ないわ・・・・」


そう言って苦笑するミサト。

だが、その目はやさしく、慈しみに満ちていた。


・・・・シンジ君、しっかりやんなさいよ・・・


「ミサト先生。」


「んー?」


「・・・碇君、大丈夫でしょうか?」


「さーてね・・・そればっかりはMAGIでも調べられないわ・・・でも・・・

なんとかなるわよ・・・・・・・きっと・・・・・・・」










「・・・・・・・・」


アスカはため息を吐いた。

先ほどの、涙の代わりに出てくるそれ。

吐き出しているのに、心の中のなにかを吐き出そうとしてそうしているのに・・・心の中の鉛は重くなる一方だった。

さっき、たまらなくなって降りたバスと同じ色のバスが通りすぎて行く。

それを流すように見て、そしてまた、ため息。


・・・あたし・・・馬鹿だ・・・

シンジによく、馬鹿っていってたけど・・・本当に馬鹿なのは・・・・・・あたし。

すべて知ってるふりして、なにも知らなかったあたし・・・

シンジの気持ちに答える方法さえ・・・知らなかった私・・・


アスカは首を振った。

そして、ゆっくりと上を向いた。

そうしなければ、辛すぎて耐えられなかった。


「・・・・シンジ・・・・・」

アスカはいつも側にいたはずの彼の名をふと口にして自嘲した。


・・・・・フフ・・・・・・・・


・・・もし、映画の世界だったら・・・

ここできっと後ろから、声がして・・・・・HAPPYENDってとこよね・・・

苦笑するアスカ。

だがその瞬間、アスカは背後になにかの気配を感じた。


「・・・!??」


・・・・・・そんな・・・・わけないじゃない・・・・・

・・・・・・・・そうよ・・・・・・・・


自分で心臓の音が高鳴って行くのが手に取るように感じられる。

恐る恐る後ろを向くアスカ。

だが・・・・




「ほ〜ら・・・・ね。・・・そうよ、いるわけないのよ。

ここはドイツよ・・・それにたとえここが日本だって・・・」


アスカはそう言いながら、足にまとわりついたものを手にとった。


・・・・・ふう、ただの紙切れじゃない・・・・・まったく、こんなも・・・

・・・・??!!・・・・これって・・・・・


その紙には殴り書きではあるがたしかに、アスカ自身の住所が書いてあった。

だが、そんなことはアスカにとってなんでもなかった。

どことなく几帳面さをあらわしているようなその小さな文字に見入るアスカ。


・・・・・・シンジ?・・・・・・


その瞬間、アスカの手元をどこからともなく吹いてきた風がさらった。


「あ!!」


ひらひらと飛んで行く切れ紙。


「ちょ、ちょっと・・・・」


風に乗っているせいであろう、紙切れは落ちる気配を見せない。

中々落ちてこないそれを必死に追いかけるアスカ。


「待って!この・・・・・待ちなさいったら!」


・・・・・・っとに、なんでこのアタシがマラソンなんてしなきゃいけないのよ!


息を切らし、髪を乱しながら走るアスカ。


「あー!もう!ハイヒールなんてはくんじゃなかったわ!」


そう愚痴りながら、ハイヒールを両手に持ったまま走りつづける。

だが、アスカは、気づいていなかった。

自分の表情がいつのまにか変わっていることに。

額の汗をぬぐいながらなんの変哲もない紙切れを必死に追う彼女の顔は、あふれんばかりの活気に満ちていた。


「・・・・よし!追いついた・・・・・もうちょっと・・・・・・」


手を伸ばすアスカ。

アスカのてに吸いこまれる紙切れ。

だがその瞬間。







ドンッ!!



「「イタタタ・・・・」」


「・・・ご、ごめんなさい。」


「いえ・・・・・こちらこそ・・・ちょっと、急いでいたもので・・・」


そういって、アスカに手を差し伸べる。


どうやら男性のようだ。


「・・・・・どうもありがとうございます・・・・・・私のほうこそ・・・・」


彼の行為を嬉しく思い、手を取るべく笑顔で顔を上げるアスカ。

その瞬間、アスカは時が止まったような衝動に刈られた。

風景も、人も、そして、風も・・・・

自分達を取り巻くすべてが映画のワンシーンであるように・・・


重なる二人の視線。


「・・・・・・・・・」


そして、アスカが口を開こうとした時、アスカの視界は宙へ舞っていた。

・・・・彼女を懐かし香りが包んだ。


「・・・やっと、やっと・・・会えたね。・・・アスカ。」


・・・・シンジ・・・・・??


ドンッ・・・


アスカはシンジの腕から逃げ出していた。

そして、1歩1歩シンジから遠ざかる。


「だめ・・・よ・・・」


アスカが小さくそう答えたと同時にシンジはアスカに駆け寄った。

その瞳に深い悲しみの色を浮かべながら・・・


いつのまにかアスカの瞳には涙があふれていた。


・・・・・アタシは・・・・・アタシは・・・・・・


これらえきれない感情が胸をアスカの胸をさす。


「・・・シンジ・・・どうして、どうしてアタシなんかのために・・・・

アタシは・・・・・・あんたを・・・・・・・・!!!」


「「・・・・・・・・・・・・・・・・・」」


重なる二人のシルエット。

そして・・・・・・・・・



「・・・アスカ・・・大好きだ・・・・」


「・・・・・・・・・!!!・・・・・・・・・・」


その瞬間、アスカの蒼い瞳からあふれる大粒の涙。

それをぬぐってやるかのようにアスカをしっかりと包むシンジ。

それがシンジの答えだった。

シンジがここにいる理由。

そして、シンジの思い。

・・・Because, I need you・・・

そっとアスカの髪に手をやるシンジ。


「・・・シンジ・・・」


口を開くアスカ。

シンジはアスカの髪をなでたままゆっくりとうなずいた。


「・・・あんた、ほんとに・・・馬鹿よ・・・」


「・・そうかも・・・しれない・・・」


目を閉じてゆっくりと息を吐き出すシンジ。

アスカもシンジに身体を預けながらゆっくりと目を閉じた。



・・・・もし、どんなときもあなたを追いかけてきてくれる人がいたら・・・

その人を、その人だけを信じて・・・

そして・・・・幸せになってください・・・




アスカの中にリフレインするあの手紙。


・・・・シンジ、また、側にいてくれるの・・・・

・・・アタシはシンジの側にいてもいいの・・・


今度はアスカが自分からシンジの身体を抱く。

それも、強く、アスカができるかぎりの力で。

それがアスカのできる唯一の意志表示だった。

それを察してだろうか、わずかに微笑むシンジ。


「・・・僕はもう絶対に・・・アスカを放さない・・・・」


おもわず、目を見開くアスカ。

涙で青く輝くアスカの瞳・・・それに重なる琥珀色のシンジの瞳。


「・・・シンジ・・・アタシも・・アタシも絶対シンジを放さない!!

・・・大好きよ・・・シンジ。」


アスカの瞳がゆっくりと閉じられる。


・・・・・アスカ・・・・・・・


浮き上がるいろいろな思いを胸に抱き、シンジは唇を重ねた。

アスカの細い腰にそっと手をかける。

今にも消えてしまいそうなアスカの細い身体。

シンジはアスカをもう1度強く抱きしめた。

もう、この目の前の幸せをこぼさないために・・・



to be coutinued


今回は2話同時投稿です。次回、ついに完結。
感動の最終話、「それから・・・」へ!


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