Dの微熱
Hiroki Maki
広木真紀




10



 春休みであるということもあって、特別補習の名目で行われる『生徒イジメ』は午前中で終了する。 熱心な生徒は、補習終了後も教室に残り、或いは図書室に移動して独自の勉学に勤しむものであるが、生憎と北川潤はそんな勤勉な類いの生徒ではなかった。
 彼は全過程終了を告げるチャイムが鳴った瞬間、慌ただしく筆記用具を纏め帰り支度を始める。そしてHR終了と共に、教室を走り去っていくのが常であった。
「それじゃ、オレは家に帰るぜ」
 北川は支度をすっかり整えると、斜め前に座る香里に言った。
「で、空き巣が入ってないかを確認して、それで何も無ければそのまま寝る」
 何せ昨夜は徹夜だったからな、と彼は胸を張って威張った。
「好きにすれば」
 呆れ顔の香里の返答は、実に素っ気無いものだった。
「あたしは、これから相沢君と雑技団の公演に行くから。その時ついでに、アナタが無事だったってことは伝えておいてあげる。でも、相沢君、アナタの無事の確認が取れたら警察に行くって言ってたから、多分付き合わされることになるわよ。北川君だって、乱闘騒ぎの時、相沢君と一緒にいた当事者なわけだから」
「は〜あ。まったく、相沢のヤツ」深々と諦めの溜め息を吐きながら、北川は肩を落とす。
「余計な物拾ったりするから、おかげでエライことになっちまったじゃないか」
「あら、いいことだってあるわよ」
 香里は、怪訝そうな顔をする北川に悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。
「そのおかげで、『シリウスの瞳』が持ち主の元に戻ることになるんですもの。盗品が戻れば、当然、支払われた保険金は保険会社に返されることになるわ。このままいけば、4億円の損失がゼロになって保険会社は大喜び。もしかすると、相沢君にはお礼として金一封がいくかもよ。そうなると、お零れくらいは与れるんじゃないかしら?」
「なるほど。そういう考え方もあるか」
 北川は感心したように香里を見詰めながら言った。
「常にあらゆる可能性を考えておくことね。この世に、パーセンテージ=ゼロは成立し得ないんだから。生きてさえいれば、何が起こるか分からなくてよ?」
「御忠言、あり難く拝聴しておくよ」
 苦笑交じりにそう言うと、北川は踵を返した。
「それじゃ、オレは帰るな。美坂も気を付けろよ」
「――そうね。そうするわ」
 香里はそう言うと、足早に教室から去っていく北川の後ろ姿を見送った。そして自らも支度を進め、教室を後にする。学年主席の彼女であるが、実は北川と同じように、補習が終わればさっさと帰宅するグループに属していたりする。香里に言わせれば、勉学は集中力だ。長くやればいいと言うものではない。目指す大学のレベルにもよるが、毎日2時間も真面目に自宅学習をしていれば、彼女にとっては充分過ぎる。如何に効率的に、如何に集中してやれるか。結局、そこに全ては懸かってくるのだ。

 校門を出ると、既に人影は疎らだった。
 補習授業というのは、クラスによって終了時刻に誤差が出てくる。いや、正確には担当教師の力の入れ具合に左右されると言うべきか。これによって、補習が早く切り上げられたり、延長されたりするのである。もちろん、時間になればキッチリ終わってくれるタイプの教師もいたりするから、帰宅時間は各クラスで結構ズレ込むのが普通だ。しかも、春休みであるからして、登校して来ているのは今度3年生になる200人前後のみ。周囲に人影が無いのも無理はなかった。
「ミサカ、カオリだな」
 突如、背後からの低い声。それは質問ではなく、事実の確認でしかなかった。
 振り向こうとした香里は、首筋にゾクリとした冷たい感触を感じて、その身を強張らせた。顔を動かさず、視線だけを首に向けると、鋭い光を放つナイフが突きつけられているのが分かった。
「声、出すな。振り向くな」
 奇妙な訛りのある日本語である。香里は瞬時に、相手の正体を悟った。
「騒ぐと、殺す」




11




「キタカワ、ジュン、お前だな?」
 帰宅途中、人気のない路地裏で、北川もまた香里と同種の歓迎を受けていた。癖のある日本語と、同じ黄色人種ではあるが日本人とは微妙に異なった特徴を持つ相貌。なるほど、祐一の忠告通りである。
「――あんた、この前のカンフー男の仲間かい?」
不敵に笑って見せるが、今日は武器になるものを持っていない。
「人気のない暗がりを狙ってくるとは、痴漢みたいなやつだな。でも、オレは生憎と男だぞ。それにキタカワじゃなくて、キタガワだ」
 向かい合うアジア系の男に、全く隙らしい隙はなかった。おまけに、背後からもう1つの気配を感じる。振り向いてその気配の主を確認すると、スタンガンを持った見覚えのある男が立っていた。先日、河原で北川が相手をした2人組みの片割れである。
「へぇ。頭は悪くなさそうだな。オレの短棒術の腕を知ってるから、今度は武器をもってきたってわけか。スタンガンなら、一撃入れればレスラーでも倒せるからな」
それに応えるかのように、男の手の中にあるスタンガンが、バチッと弾けるような破裂音と共に青白い火花を上げた。――そして、それが全ての始まりの合図となった。




12




 香里が連れ込まれたのは、学校の正門から少し離れた路地裏だった。まだ昼間だというのに、周囲の建造物の影になっているせいで薄暗く、とけ残った雪も所々に見られるような場所だ。当然、人気は全くない。視線の先には、そんな所にあっては逆に不自然に思える黒のワゴン車が一台止まっていた。男は香里にナイフを突きつけたまま、そのワゴンに向けて彼女を歩かせていった。恐らく盗難車であろう、年季の入ったワゴン車には数人の男が既に乗っていた。全員が覆面で顔を隠している。
「乗れ」
 ナイフの男は、後部座席のドアをスライドして開かせると、香里を小突いてそう言った。ここで抵抗しても、力尽くで抑え込まれるのがオチだ。怪我をするだけ損である。しかも、相手はプロだ。少女が相手だからといって手加減は期待できないだろう。素早くそう判断した香里は、やむなくその指示に従うことにした。大人しくワゴンに乗り込もうと、その身を屈める。――その、瞬間だった。
 まるで爆発でも起こったかのように、香里を脅していたナイフの男の体が突如、まるでマネキンのように数メートル先まで吹っ飛ばされた。男はブロック塀に激突し、そのまま気を失って崩れ落ちる。並の衝撃ではなかった。
「なっ……」
 あまりに突然の出来事に、流石の香里も、何が起こったのか理解するのにかなりの時間を要した。逃げ出すチャンスであることにも、気付けない。
 そうこうしている内に、騒ぎを聞きつけて、ワゴンの中から屈強な男が3人降りてきた。「拙い」と思ったときにはもう遅い。絶好の機会を逸した己に気付き、香里は戦慄した。
 だが、彼女を救った何かは、すぐに新たな敵にも反応した。視覚で捉えるのが困難なほどのスピードで、それは男たちとの間合いを一気につめる。その様は、香里に闇を疾走する「黒豹」の姿を連想させた。
 現れた男たちを、流れるような動作で次々となぎ倒していく黒い疾風。繰り出される拳を交わし、蹴りを受け止め、関節を極めながら急角度で投げ飛ばす。男たちは踊るように周囲を舞う、彼女に触れることすらできず排除されていった。

 全てが終わるまでに、果たして3分かかったであろうか。香里に仇なす者が全員倒され、地に崩れ落ちたとき、その中央に勝利者として立つ一人の少女がいた。スラリとした長身に、後ろで無造作に纏められた長く艶やかな黒髪。身に纏っているのは、男物の黒いシャツとブラック・ジーンズ。全身、黒一色である。香里が、一瞬その姿を疾走する黒豹と錯覚したのはこのせいだ。
 並みの男性より背が高いが、後姿でもプロポーションを見れば、その人物が女性であることは一目瞭然であった。何より、香里はその女性を良く知っている。いや、在校生の中で彼女の名を知らない者はいまい。それほどの有名人だ。
 だがそれよりも、なぜ彼女がここにいて、なぜ自分を助けてくれたのか。それが、香里には不思議だった。
「川澄先輩?」
 香里の声に、静かに振り返った黒髪の女性は小さく頷いた。間違いなく、川澄舞その人である。
「一体どうして?」
「……保険。祐一に頼まれた」
 愛想の欠片も見当たらない口調で放たれたその言葉で、香里は全てを悟る。つまり、自分のボディ・ガードとして、彼女――川澄舞は派遣されてきたのである。その依頼者は、もちろん相沢祐一だ。本人が語るように、万一の事を考えての保険だったのだろう。そして、それは見事に役立ったというわけだ。
「気取られないように守れと言われたけど、さらわれそうだったから介入した。家まで送る」
 そう言って、返事も待たず、舞は踵を返してさっさと歩き始めた。その先には、黒い大型のバイクが止められている。恐らく、川澄舞の足となる機体だろう。香里は倒れている誘拐未遂犯4人を一瞥すると、慌ててその後を追った。
「あの、川澄先輩。あたしの家の所在、ご存知なんですか?」
 その言葉に、舞はピタリと足を止める。そしてゆっくりと振り返ると、表情を変えずに言った。
「そう言えば……知らない」




13




「香里、すまん。ちょっと遅れたかもしれない」
 そう言って、祐一が美坂家の玄関前に姿を現したのは、約束の13時30分を7分オーバした頃だった。
 考えてもみれば、香里にとってプライベートな事情で、血縁以外の男性と待ち合わせをすることになったのは、これが初めての経験だ。だから、デートの待ち合わせをしたとき、男性がどんなタイミングで現れるのか、彼女は比較すべきデータを持たない。そこで香里は、自分を基準に判断することにした。つまり、時間は守るべきだと思うが、7分なら許容範囲だろうという結論を出す。
「――7分の遅刻よ、相沢君」
 結果的に、彼女は息を切らせて駆けて来る祐一を笑顔で迎えることができた。だが対照的に、舞と香里が並んでいるのを見た祐一は、眉を顰めて深刻な顔つきをする。
「おいおい、まさか、オレの危惧していた出来事が起こったってわけじゃないだろうな?」
 祐一は、『香里に気取られることがないように』と念を押して、舞を送り出した。その舞が香里と一緒に立っている。これはつまり、彼女たちが顔を合わせなくてはならない何かが起こったということだ。
「川澄先輩のおかげで助かったわ。危うく拉致されるところだったから」
 香里が肩を竦めてそう言うと、祐一は血相を変えて彼女に駆け寄った。そしてその華奢な両肩を掴んで、瞬き一つせずに香里の顔を覗き込む。
「それ本当か! で、大丈夫だったのか? 酷いことされたりしなかったか」
「だ、大丈夫よ。何もなかったわ」
 そのあまりの勢いに気圧されるように、香里は急いで言う。それを聞いて、祐一は香里の肩に手を置いたままガックリと体の力を抜き、深い安堵の吐息を漏らした。
「よかった……。もしかしたら、昨夜のオレは尾行されていたんじゃないかと思ってな。念のために舞にガード役を頼んでおいたんだが。悪かったな、怖かったろう?」
「昨夜って、一緒に北川君の家に行ったとき?」
「――ああ」
 少し驚いた様子の香里に、祐一は頷いて見せた。
「水瀬家を家捜ししたが、肝心のダイヤは見つからない。そうなると、連中はどう考える? オレがどこかに隠したか、或いは身に付けているかもしれないという可能性に行き着くだろう。だったら、オレを監視してダイヤを持っているかを確認しようとすることも、多分に考えられる話だ。そうなれば、外出の時、尾行がついてもおかしくないからな」
「なるほどね」香里は納得したように言った。
「相沢君を尾行して監視していたなら、あたしのことも向こう側にはバレてる。だから、危険があたしに及ぶことを恐れたのね。相沢君は」
「まあな。香里はこの件に無関係なんだ。危害が及ぶ可能性があるなら、絶対守らないといけない」
「相沢君……」
 香里は一瞬、頬を染めかけた自分に気付き、慌てて話題を変えることにした。
「それにしても、川澄先輩って強いのね。屈強な、しかも武器を持っている男4人を一度に相手にして、瞬殺だもの。実際見ていたはずなのに、未だにあの光景が信じられないわ」
「おいおい。舞、まさか剣で斬り殺したんじゃないだろうな?」
 流石に青くなりながら、祐一は舞に詰め寄った。実際、川澄舞というのはそれくらい平気でやりかねない凄味というものがある。
「武器は使ってない。素手でやった」
剣を使うほどの相手じゃなかったから、と舞はぶっきらぼうに呟く。
「いや、そこは問題じゃない。殺したか、殺してないか、だ」
「殺してない。全員気を失っただけ」
「本当だろうな。ついハリキリ過ぎて殺っちまったとかいうことはないのか?」
 なかなか信じようとしない祐一に、舞はチョップを一撃お見舞いした。
「祐一、失礼」
「そうよ。あたしも見てたけど、死ぬほどの打撃じゃなかったわ。それは、骨の2〜3本は折れてるかもれしないけど、気を失っただけよ。彼らは」
 助けてもらったこともあり、香里はあまり口の上手くない舞の弁護に回った。

「なら良かったぜ……。なにせ、舞の強さは反則的だからな。相手が拳銃持ってても、心配になるくらいだ。勿論、敵が」
「そ、そんなに強いの?」
 確かに長身で、トップモデルのように均整の取れたその身体をしているから、手足のリーチは長いだろう。香里が黒豹をイメージしたように、野生の猫科の動物を連想させるような「しなやかさ」と「鋭さ」が舞にはある。
 だが、所詮は女性だ。筋肉質というわけでもないし、ウェイトも50kg前後だろう。純粋なパワーでは、やはり男性には敵いそうにない。少なくとも、外見上はそう見える。
「祐一には、1人CHARLIE'S ANGELSチャーリーズ・エンジェル※1)って呼ばれてる」
 舞はちょっと困ったような顔で、そう言った。
「舞は異常体質なんだよ。この細腕で、物理法則を完全に無視したパワーを発揮するからな。この前アームレスリング(腕相撲)やったが、両腕使ったのに左手1本の舞に勝てなかったし」
「そ、それは凄いわね」
 ちょっと舞から身体を退きつつ、香里は言った。
「それはいいとして、そろそろ行かないと次の公演時間に間に合わないわよ。行くんでしょ、雑技団の会場に。その約束ですものね」

「おお。そうだったな」
 左手首の洒落た腕時計を示して言う香里に、祐一は頷いた。
「祐一。私も雑技団見に行く。トラさん」
 ピッピッと、祐一のコートの袖口を引っ張りながら、舞はそう主張した。実は彼女、無類の動物好きである。凛とした雰囲気のキャラクターに似合わず、動物の名の付くものになら何でも飛びつくのだ。 遊びに行くとなれば、真っ先に『動物園にいく』と言い出すし、町で動物のヌイグルミを見つけると、必ず足を止める。シリトリをすれば、口から出るのは必ず動物の名前だ。
 とにかく、彼女の動物好きは徹底している。殆ど、遺伝子レベルで刷り込まれているのではないかと疑いたくなるほどだ。
「そうだな。香里を守ってもらったお礼もあるしな」
「トラさん、出ると嬉しい」
 どうやら、舞の目当ては出るかもハッキリしない虎らしかった。サーカスにトラやライオンが出ることはあるだろうが、果たして中国雑技団ではどうだろうか。首を捻る祐一だったが、カリがあることもあり、舞の同行を許可することにした。
「じゃ、私のバイクでいく」
 話が纏まったのを見計らって、舞は路肩に止めてある黒いサイドカー付の大型バイクを指すと言った。妖しい程に煌く黒のボディに、見知った青と白のエンブレムが際立つ機体だ。

「なにっ! あのデカい3輪、お前のだったのか?」
「ハチミツくまさん」
 コクンと小さく頷くと、舞はすたすたとバイクに歩み寄ってシートに跨る。そして懐から取り出したキーを刺し込み、回して見せた。途端に、エンジンが歓喜の咆哮を上げる。閑静な住宅街に、低く唸るようなその駆動音が響き渡った。
「オイオイ。どうしたんだよ。それ、外車――BMWだろ? しかも750の新車みたいだし。サイドカー付いてるし。相当高いんじゃないのか?」
 確か、舞は既に両親と死別している。高校卒業までは、親の残した保険金と親類の協力もあって何とか1人暮しをしてきたようであるが、どちらにしてもあまり裕福な家庭の育ちではない。本物であれば最低でも100〜300万の値が付くバイクを、ポンと買えるような余裕はないだろう。
「佐祐理がくれた」
「佐祐理さんが?」
「大学合格と、誕生日のプレゼント。わたしは、ゴリラさんのヌイグルミをあげた」
 それならば、納得できるような気がした。たしかに倉田佐祐理嬢なら、これくらい駄菓子でも買うように、気軽に購入できるものだろう。その財力は、今朝目の当たりにしてきたばかりだ。
 だが、片や『ゴリラのぬいぐるみ』片や『数百万の外車』。この金額的な落差はなんなのだろう。そこまで考えて、祐一は苦笑した。
 そう言えば、佐祐理も舞もプレゼントの金額のことを気にするような無粋な連中ではない。相手が自分のことを想い、何を贈れば喜ぶかを一生懸命考えてくれたこと。ただ、その事実を掛け替えのないもののように喜ぶ2人だ。
「それじゃ、香里はサイドカーの方に乗ってくれ。オレは舞の後ろに乗せてもらうから」
「分かったわ」
 そう頷くと、香里はバイクの左側に回り、サイドカーの座席からヘルメットを取り上げる。
「それにしても、サイドカーなんて乗るの始めてだわ」
「オレも、バイクに乗せられるのは初めてだよ。」
 祐一も感心しながら、手渡されたフルフェイスのヘルメットを装着し、座席シートの後部に跨る。そして舞の引き締まった腰に、抱きつくように腕を回した。
「しかし、舞がバイクの免許を取るとはなぁ。なんか、意外な感じがするぜ。いや。それも凄いが、ポンと外車バイクをプレゼントしてしまう佐祐理さんの財力も凄いよなぁ」
 嘆息する祐一と香里をよそに、舞はあくまでマイペースである。彼女は徐にアクセルを捻り込み、黒のBMWを発進させた。途端に車に乗ったときとは全く異なる種の風が吹きぬけ、やがて景色が流れ始めた。加速の時に感じるプレッシャがこれまた一味違う。香里はそのスリルに、コッソリと口笛を鳴らした。

 3人を乗せたBMWは、一戸建てが立ち並ぶ住宅街を瞬く間に通り抜け、祐一たちが通う高校を横目に流し、やがて広い自動車道路に出た。いつも徒歩で30分かけて通う道を、ものの5分弱で駆け抜けてしまう。極当たり前のことなのであるが、それでも祐一には何か新鮮なものがあった。
「そう言えば、相沢君。今朝、北川君に会ったわよ。彼、学校に来てたわ」
 最初の信号で止まった時、香里は後ろに首を捻って言った。
「なに、本当か?」
 舞の柔らかな肢体を後ろから抱きしめ、その感触にご満悦な祐一はハッと表情を引き締める。
「……ってことは、あいつ無事なのか?」
「ピンピンしてたわよ。何でも、昨夜は徹夜でロックグループのライヴに参加してたとか。それで家を空けていたそうよ。それから1度も戻らず、直接学校に来てたから、家が被害にあってるかどうかは朝の時点では分からないって言ってたわ」
「なんだろうねぇ、あいつは。人が心配して夜中に駆けまわったってのに、呑気にライヴでフィーバーとはなかなか良い根性してるじゃねェか。これは、なにか? オレたちへの挑戦と解釈してもいいものか?」
「まったくよ。この件が無事に片付いたら、まず北川君は滅殺ね」
「そん時は、オレも参加するよ」
 ――取り合えず、北川は殺る。両者は、ここに見解の一致をみたという。
 だが、祐一も香里も、自分たちが手を下さずとも、北川の命が既に風前の灯の状況下にあることを、まだ知る由もなかった。





※CHARLIE'S ANGELS (チャーリーズ・エンジェル)
 最高の頭脳と強さ、美しさを持つ(らしい)3人の凄腕女性エージェントのこと。姿を見せない「チャーリー」という謎のボスを持つ彼女たちは、「エンジェル」と呼ばれる。アメリカの有名なTVドラマシリーズで、日本でもかつてブームとなった。2000年、キャストを変えてハリウッドが映画化している。
 つまり、その3人分の仕事を1人でこなせるほど、舞は強いという意味(?)




to be continued...
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▼川澄舞の数値修正版プロフィール(公式データからの修正値)
誕生日:1月29日
血液型:O型
身長:176cm(+9)
体重:52kg(+3)
大型二輪、三輪免許所持。
スリーサイズは別にどうでもいいので、これは公式データのままでいいです。
他の女の子たちも、修正はなし。(ネットで適当に拾ってきたデータなので、間違ってるかも)



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