垂直落下式妹
Hiroki Maki
広木真紀




17



6月15日、木曜日

 祐一たちが、高校の旧校舎で若い男性の縊死いし死体を発見した翌々日のことである。または、祐一たちが停学処分を食らって2日目の朝という表現もできようか。ともかくこの日、例の事件は一般に報道された。地元紙の朝刊には一面に大きく取り上げられたし、TVニュースでもトップの目玉として盛んに取り上げられた。
 その大まかな内容は、以下の通りである。
 死んだ男は、竹下啓太たけしたけいた。18歳。佐祐理や舞と同じ、市内の名門大学に通う1年生で、母校であった高校の旧校舎で首を吊った恰好で発見された。第1発見者は、学校の関係者(もちろん、祐一たちのことだ)。
 死体は教室の天井から吊るされていた。右手の手首が切断されていたことから、事件(つまり殺人)の可能性もあると見て、警察は捜査を続けている。なお、6月5日にも同校に通う女子生徒が自宅で自殺しているが、目下のところ2件の死に関連性は見出されていない。
「なんだ、こりゃ……」
 祐一は新聞を奇天烈な形をしたガラス・テーブルに投げ放ると、そのまま腰掛けていたソファに仰向けに寝転がった。信じられないくらい柔らかなソファは、微妙に形を変えて祐一の体を優しく受け止めてくれる。
「目新しい情報なんて、1つもありゃしねえ」
「仕方ありませんよ」
 その傍ら、何やらイスラエル辺りのものと思われる新聞を広げていた美汐が、顔を上げて祐一を一瞥する。
「何のために私たちを自宅に押し込めているんです? 学校は、できるだけ情報を外に洩らしたくないんですよ。報道を規制してくるくらいは容易に予測できるというものです」
「でも、密室のこととかも全然発表されてないよ? これもそうなの」
 祐一が放り投げた新聞を手に取りながら、名雪は不思議そうに首を捻った。
「そうよ」その隣、コーヒーカップを片手に寛いでいた香里が即答する。「そもそも、考えてもみなさい。他の殺人事件の報道で『現場は密室でした』なんてコメントを見たり聞いたりしたことがある? そんなミステリィのネタにされそうな情報は、一般には伏せられるものよ」
「もっとも、現実の事件で『密室殺人』なんかがザラにあるとは思えませんけどね」
 姉のコメントを補足するように、妹の栞が言った。
「あははー。それもそうですね。密室なんて、推理小説の中だけの話でしょうから。実際、警察もそういった謎には、あまり拘らないのではないでしょうか? それが殺人であった場合、犯人を捕まえて、その人物に白状させれば密室のトリックなんてわざわざ考えなくても済むわけですし」
 部屋のオーナーである佐祐理が、何時もの笑顔で言う。
 ここは佐祐理が建てた高級マンションの4階で、その名も『情報メディア・フロア』である。一種のマルチメディア・図書室とでも言おうか。5階建てのマンションの4階フロアを丸ごと使った巨大ホールのような空間で、主に「図書エリア」と「AVエリア」の2ブロックに分かれている。
 そのうちの「AVエリア」は、名前の通りオーディオ・ヴィジュアル型の情報設備を主役とした空間だ。
 まず、年に1回のペースで新型機種に入れ替えられるという、パソコン端末が30台設置されたパソコンルーム。もちろん、これらは24時間ネットワークに接続されており、利用者はいつでも高速データ通信が可能だ。
 その他には、100インチを超える大型プラズマ・ディスプレイ+3次元立体音響システムを導入したホームシアターがある。この部屋でDVDを上映すれば、まさに個人映画館として機能するだろう。映画好きには夢のような環である。今夜はAMSコネクション全員がこのホームシアターに集まり、皆で映画を見る予定だ。
 ――他にも、バーチャル・リアリティで様々なシチュエーションを再現しながら音楽を楽しめるという、VR音楽室などといった洒落た設備もある。はじめて見た祐一たちは、あまりに充実したこれらの設備に仰天させられたものだ。
 そしてもう一方の「図書エリア」は、その名の通り紙の本を集めてある空間だ。小・中学校学校の図書室をイメージすれば分かりやすいだろう。一般のルートでは入手し難い専門書が殆どを占めていて、全体の蔵書は約7万冊だという話だ。
 それに興味がない人間は、毎週一括購入される50種類に及ぶ雑誌を閲覧できる。もちろん、新聞も国内のものは勿論、海外のものも毎日取り寄せられ、過去3年分のものがそのまま保存されている。それ以前のものに関しては、デジタル化して「AVエリア」の方に回されるそうだ。
 それから、両エリアの境目には小さな『カフェテリア』のようなスペースがとってあり、そこで飲食ができるようになっているのも特徴だ。ここでならば、談話・談笑も許される。祐一が寝転がっているような、大きなソファも幾つか置かれているから、仮眠をとることも可能だ。
 この空間だけは、片面が総ガラス張りになっているせいで採光性に優れており、雰囲気も明るい。憩いの場として、非常に重宝されていた。

 ――さて、折角の機会である。ここで佐祐理と舞のマンションの内部の間取りをざっと紹介しておこう。今現在ですでに、このマンションはAMSの拠点となっている。把握しておくことに損はない。
 まず、地上1階。ここは、玄関ホールになっている。(図1:AMSマンション 参照)
 総合案内のインフォメーション・カウンターや、マンションを警備している守衛室、そして佐祐理専属のボディガードである鷹山小次郎が生活している3LDKの部屋などがある。また、正面玄関の右手には3基のエレベータがあり、全てのフロアを繋いでいる。
 次に、2階。これは、普通の住居用フロアになっている。3LDKの部屋が6つ横並びになっていて、普通なら大体2〜5億円程度で売りに出されるだろう。だが、佐祐理は基本的にこのマンションを分譲してはいない。よって、普段は完全な空き部屋になっている。
 その上の3階も、普通のマンションと同じだ。普通の住居用3LDKが6つ並んでいる。しかし、2階の部屋とは違って、これらはAMSコネクションが遊びにきたときに利用する、専用の客室として機能している節がある。左から順に、「カオリンの間」「シオリンの間」「ミッシーの間」「アユアユの間」「ナユキヴィッチの間」「マコピーの間」とドアプレートに大きく彫り込まれているのがその証だ。
 そんなわけで、彼女たちがこのマンションに泊りがけで遊びにきたときは、それぞれの部屋に彼女は寝泊りする決まりになっている。もちろん、今回の停学期間中もそうなる予定だ。
 ちなみに、この部屋割りと各部屋の名付けの親を担当したのは、言うまでもないが相沢祐一である。
 ――4階は、先程も紹介したように『情報メディア・フロア』となっている。
 ここから上の階は、殆ど個人の住居といった感じではない。非常にダイナミックなフロアが続く。たとえば、『イヴニング・フロア』と名付けられた最上階の5階。これは、その名の通り夕食後に利用されるフロアだ。具体的には、佐祐理と舞、祐一の寝室。その右隣に、いつも客人が招かれる応接室。そして更にその隣に、3LDK2部屋分を使った、巨大な食堂がある。10人以上が1度に揃って食事ができるという、大きなスペースがあるから、AMSのような大所帯でも全員揃って食事をとることが可能だ。
 また、この食堂と応接室に跨るようにして、カウンター式のキッチンがある。ここで、佐祐理はいつも昼食用の弁当を作っているわけだ。もちろん、このキッチンは「厨房」と呼ぶほどに大きく、業務用の冷蔵庫やガス台などが幾つも並んでいるそうだ。
 そして、屋上。ここは、浴場だ。大浴室と、露天風呂の2つがあって、両方ともプールのように広い。これらに関しては、旅館やホテルの大浴場を想像すれば、かなり近しいイメージが得られるだろう。また、その2大風呂以外にも、地下1階のボイラー室の隣には、特設のサウナボックスがある。ここは、主に香里や祐一が好んで使っているようだ。
 地下といえば、こちらは合計2フロアあって、1階はその大半が地下駐車場になっている。舞のBMWも、時々使われる黒塗りのリムジンなどもここに全て停められているそうだ。
 その下、2階には31基の並列スーパーコンピュータが据えられていて、このマンションの全てを管理している。いわば、マザー・システムだ。他にも、この地下2階には、鷹山小次郎が毎日訓練を行うための射撃用の施設や、トレーニング・ジムが存在しているという噂だが、祐一はその真偽を確かめた事はない。
「しかし、こう立て続けに生徒が死んだとなるとな……」
 祐一は、ソファから起き上がるとカウンターでアイス・コーヒーを注文した。この4階フロアの談話フロアには、佐祐理お抱えのシェフたちが何故か常駐しているらしい。
 勿論、祐一たちは無料で彼らの提供するサービスを受けられる。メニューに『イチゴサンデー』があることを知ってから、名雪などはここに入り浸りだ。
「武田玲子さんはともかくとして、今回の竹下さんという人は自殺だったんでしょうか?」
 栞は、ストローでミックス・ジュースをすすっている。残念ながら、アイスの類いが入荷されるのは来月以降だという話だ。
「状況から考えて、佐祐理は10中8・9は他殺――殺人だと思いますよ?」
 そう言う佐祐理はソファに舞と向き合って座り、あやとりに興じていた。
「そうですね」美汐は頷いて、それに賛同の意を示す。「右の手首が切断されていたこと、その切断された手が室内に無かったこと。そして、切断されたにしては血痕があまりに少なかったこと。他にも細かい状況証拠は山とありすが、どれもが殺人の可能性を示唆しているのは間違いありません」
「でも、そんなにいっぱい殺人の証拠があるのに、どうして密室なんか作ったの? 密室って、普通は他殺を自殺に見せかけるために用意するって聞いたよ」
「へぇ。あゆにしては、なかなか鋭いことを言うな」祐一が驚いた顔をする。
「ボクにだって、これくらい分かるもん」
 ぷくっと頬を膨らませて、あゆは言った。
「でも、月宮さんの指摘は1番のポイントになると思うわよ」
 香里はコーヒーカップを傾けて、静かに言った。
 もちろん彼女が嗜むのは、たとえそれが真夏の午後だろうと、いつだって地獄のように熱いブラックだ。アイス・コーヒーなんて邪道だし、コーヒーに砂糖やクリームを入れるのは、彼女に言わせれば神をも冒涜するに等しい暴挙だ。
 でも、実は彼女、どちらかと言えば紅茶党であったりする。このあたり、乙女の神秘だろうか。
「密室を作るのは、冷静に考えてみると結構面倒なものよ。それにも関わらず、今回の殺人の現場は密室だったわ。でも、見つかった死体は明らかに他殺体。何故、犯人は現場を密室にしたのかしら。そして、何故自殺に見せかけるのに手首を切ったの? この辺り、問題のポイントになるとは思えない?」
「ミステリィとかだと、手を切断するのは指紋を採れなくして、身元を隠すためだよね?」
 本日6杯目になるイチゴ・サンデーを突つきながら、名雪が言った。
 彼女の場合、寝ている時とイチゴを食べている時には何故か通常より脳の働きが活性化される。
 コイツは、人類として絶対に間違っている。常々、従妹の変人ぶりを見せつけられる祐一は思っていた。
「でも斬られたのは右手だけですよ。左手は残っています。それに、顔は完璧に無事なんですよね。生徒会の事務書記長をやっていた有名人ですし、死体が見つかった場所がその母校であったことから考えても、身元を隠す目的で手首を切断したとは思えません」
 栞はその子供子供した容姿とは裏腹に、非常に論理的で現実的な思考ができる娘だ。その思考の大胆さと思いきりの良さは、ある意味で姉の香里を凌ぐ程である。
 また長期間に及ぶ闘病生活の経験を経て、彼女の精神は非常に発達している。精神年齢の高さは、つまり知能指数の高さ。美坂栞は見かけよりずっと大人なのだ。そういった意味で、最年少であるにも関わらず、栞は祐一たちから尊敬されてさえいる。
「もしかすると、そのことに途中で気付いた可能性もありますね。つまり、身元を隠そうとして手首や顔を切断して、バラバラ死体を作ろうとした。でも、今はDNA鑑定や科学捜査が進んでいる。そんなことをしても無駄であるということに、右手を切ってから気が付いた――」
「栞、それは面白いと思うわ。全くあり得ない話でもないしね」
 香里は目を細めて、妹を誉めた。
「殺した死体をバラバラに分解するのって、一見すると狂気的な行為かもしれないけど、実は合理的で理に適った行動なのよね」
「そうですね。バラバラに分解したほうが、持ち運びも便利ですし。扱いやすいですからね。死体というのは、いざ運搬しようとなると結構に面倒な物体だと思います。私でも、死体を隠そうと思ったらバラバラに刻みますね。きっと」
 可愛い顔をして、美汐は血の凍るようなことをサラっと言ってのける。
「ほう。で、刻んだ後は。ミッシーなら如何する?」
 殺人者となった美汐がどんな行動に移るか。祐一は興味を抱いたらしい。
「とことん、バラバラにします。ミキサーでも使って、ジュースになるくらい粉々に」
 ミッシーは即答した。
「それで、養豚場か養鶏所にでも持って行って、家畜のエサにするでしょうね。あるいは、『栄養ドリンクです』とでも偽って、相沢さんに飲ませるのも有効でしょう。死体が見つからなければ、殺人は成立しませんから」
 それを聞いて、祐一は興味本位で彼女に質問してしまったことを深く後悔した。
「ミッシー様。本当に人を殺すことがあっても、それだけはやらないでくれな?」
 青い顔をして、祐一は懇願する。美汐なら、もしかすると本当に――と思えてくるから尚更怖い。
「どうせなら、小麦粉と混ぜてタイヤキにして、あゆに食わせるとか。イチゴを沿えて、名雪に食わせるとか。そっちの路線で頼む」
 もちろん、この発言にあゆと名雪は黙っていなかった。
「う、うぐぅ……! 祐一君、酷いよ」
「そうだよ! 祐一、極悪だよ」

「まあ、誰に食べさせるかは、その時に考える事としてですね――」
 本気で事態を収拾する気があるのかと、疑わせるような言葉で美汐は両者の間に分けて入る。
「兎に角、この件に関しては流石に警察も動かざるを得ませんよ。明らかに殺人なんですから。ですから、私たちが素人探偵を気取って介入する必要もありません」
 そこまで言うと、美汐は微妙に口調を変えて続けた。
「問題は、この件が武田玲子さんの死と関連していた場合です。彼女の死について現状でアプローチのしようが無い以上、今回の事件は重要な足がかりとなります」
「――だな」祐一は暫く考えると、頷いた。
「竹下とかいう3択の女王みたいなヤツがどんな理由で殺されたのかは知らないが、武田玲子とは『生徒会』を通じて関連性がある。しかも、2人は同じ事務書記長をやってたわけだ。その2人が、今月に入ってから相次いで殺された。繋げて考えない方がおかしい」
「そうね。で、どうするの?」
 香里は全員の顔を見回しながら訊いた。
「今回の『竹下啓太殺し』なら、私たちでカナリのところまで調べられると思うわよ。大学は倉田先輩、川澄先輩が同じだから、こちらのルートで探りを入れられるし。第1発見者である私たちは、現場の正確な情報も持っているわ。勿論、彼の母校だった高校に在籍しているわけだから、こちらの面からも色々と調べられる」
「そう言えば、お姉ちゃん。現場の写真も撮ってましたよね?」
 栞は思い出したように言った。
「そうよ。こういう事態になるであろうことは、あの時点で予測できたから。まあ、念の為にってつもりだったんだけどね。学校も警察も、私たちに情報を提供してくれるとも思えないし。結果的に、正解だったわけだけど」
「うぐぅ。ボクは殺人事件を調べるなんてイヤだよ。死体とかの話だって、怖いし。これ以上、もう、誰も殺されたりしないといいけど」
「あ、そうか」祐一はポンと手を打った。「これが連続殺人だとすると、まだ死人が出る可能性もあるな」
「……うぐぅ。祐一君、いじわる」
「うむむ〜。でも、祐一さんの意見にも一理あります。武田さんの事件には、『口封じ』という明確な動機が見出せますが、今回の竹下さんの事件にはそれが見当たりません。少なくとも現時点では不明です。手首が切り落とされるという猟奇性から見ても、怨恨の可能性だって捨てきれません」
 顎にチョコンと人差し指を当てて、栞は冷静に分析する。
「はぇ〜。怨恨の線でいくと、確かに生徒会全体に対する嫌がらせといった可能性が出てきますね。つまり、まだ事件が続くとも考えられます」
 佐祐理が、とんでもないことに気が付いたといった声を出す。
「そうだねー。えっと、去年自殺した澤田さんに、武田さんに、竹下さんでしょ? この2年で亡くなった3人が、全員生徒会関係者なんだもんね」
 指折り確認しながら、名雪が言った。やはり、イチゴサンデーを食べている時のほうが、頭が働くらしい。
「よぉし。ほんじゃ、ここ2年の生徒会役員をちょっくらリスト・アップしてみるか」
 そう言うと祐一はスックと立ち上がり、図書エリアの方に走り去っていった。そして暫くすると、紙とペンを持って帰って来る。
「オレは元々、生徒会の内部事情に疎いからな。このあたりで、登場人物を纏めてみたい。香里、それに佐祐理さん。2人は生徒会に詳しいはずだ。協力してくれ」
「OK。いいわよ」
「あはは〜。佐祐理も勿論オッケーですよ〜」
 香里と佐祐理は揃って頷く。そして自分の知る限り、生徒会のメンバーの名前を列挙していった。それを祐一がメモしていく。そんな作業が5分ほど続いた。
「えぇと。ざっとこんなもんで良いかな……?」


役職 1999年度
(前年)
2000年度
(今年)
セキュリティ・レベル
(=権力)
生徒会長 よしだたくろう
吉田卓郎
くぜとおる
久瀬透
LEVEL 4
事務書記長 たけしたけいた
竹下啓太
(死亡)
たけだれいこ
武田玲子
(死亡)
LEVEL 3
会計長 おだぎりたかゆき
小田桐孝之
おだぎりひでゆき
小田桐英之
LEVEL 3
風紀委員長 さわだのりこ
澤田紀子
(死亡)
うちだひろし
内田弘
LEVEL 2
■備考
1.竹下、武田、両事務書記長に兄弟姉妹はなし。
2.澤田紀子には、弟・武士(たけし)がいる。現在3年生。
3.会計長の小田桐は、兄弟
4.ウチの生徒会には、副会長や会長補佐はいない。
5.セキュリティ・レベル5は、理事会(学長・理事長クラス)が持つ。



「えぅ〜、こうして改めて見てみると、異様に死んでますね。特に、会館の3階以上に登れる人たちの死亡率は、1/3です」
 栞は小さく身を震わせる。
「生徒会の三役に上り詰めたヤツは、3人に1人が殺される――か」
 祐一の表情も険しい。
「事務書記長は全滅ね。問題だわ。下手をすると、生徒会が機能しなくなる」
「いえ、逆に生徒会長による独裁が始まるという考え方もありますよ?」
「ああ、確かに」佐祐理に指摘されて、香里は頷いた。「それは多分にありますね」
「うぐぅ。……じゃあ、久瀬さんって人が怪しいの?」
「それはどうでしょう」栞は首を捻った。「それならば、武田さんだけを殺せばいいことです。前年の事務書記長を殺害する動機にはなりません」
「澤田ノリピーは? こうなってくると、彼女の死も殺人だったって可能性が浮上してくるんじゃないか」
「しかし、そうだとすると犯行の時期が不規則過ぎませんか?」
 祐一の指摘を受けて、美汐が言った。
「澤田さんを殺してから、1年沈黙。そして今度は、武田・竹下両氏を2週間で連続して殺す。まあ、あり得ない話ではありませんが、少しおかしいですね」
「とにかく、竹下さんのことを少し調べてみませんか? 澤田さんや武田さんとの関連性にしても、それで何か分かるかも知れません。もし、今後も連続殺人が続くようなら、それを未然に防ぐためにも情報の収集は必要だと思いますよ」
 真面目に訴えかける佐祐理であったが、相方の舞は相変わらずのマイペースだ。あやとりのことしか考えていない彼女は、毛糸を指に絡ませたままズイっと佐祐理に迫る。
「……佐祐理、はやくとって」
「あはは〜。ゴメンね、舞」

 連続殺人が続くようなら、それを未然に防ぐためにも――
 佐祐理のその言葉に集約されるように、祐一たちの最大の関心はそこにあった。生徒会役員たちの死には、関連性があるのか。これは、生徒会を標的とした連続殺人なのか。武田玲子は、その犯罪に巻き込まれるようにして殺されたのか。
 その答えの一端は、4日後の6月19日。最悪の形で明らかにされることになる。
 その日、新たに2人の生徒会関係者が、死体となって発見されたのである。







to be continued...
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