燃 え よ う ぜ !
HEAT END!



ヒンキイ・ディンキイ
パーリィ・ヴゥ
Hiroki Maki
広木真紀




−煉獄の章−





Keithキースさん。大丈夫ですかね。こいつ、死んだんじゃないんですか? 凄い血ですよ」
「フン。頭ってのは割れると無闇に血が流れるものなんだよ。それに、こいつが死のうが死ぬまいが、俺にはどうだっていいことだ。……いや、オレたちのテリトリーからドブネズミが1匹駆除されて、寧ろ喜ばしいくらいだろう?」
 ――頭上から、耳障りなイングリッシュと下卑た嘲笑が聞こえてくる。
 聞き覚えのある声。そして、このシチュエーション。思い出したくもないが、どうやら何時かと同じ展開らしい。



Chinatown London WC U.K.
GMT 20 September 1996 00:11 A.M.

1996年 9月20日 深夜00時11分
ロンドン中央西部 “中華街”


 ゆっくりと目蓋を開くと、例によってジワリと滲むように視界が開けていく。その後、呆れるほどのスローペースで、解釈が認識を追随し、やがて並ぶ。前回は、この段階で自分が病院のベッドに寝ていることに気付いたわけだが――今度は生憎と、そんなことを考えるより早く、頭蓋骨を叩き割られたような激痛が襲ってきた。
「う……ぁ、」
 自分が意識しないところで、呻き声が漏れる。不思議な感じだ。
 声を出すつもりがないのに、自然と出てしまう。初めて体験する事態に、オレは困惑した。だが状況を正しく認識すれば、そんな悠長なことを考えている場合ではないことに気付く。
 ――気を失っていたのは、どうやら一瞬だったらしい。オレは後頭部からヌラヌラと生暖かい液体が滴り落ちてくるのを感じながら、周囲の状況を窺った。
 最初に分かったのは、自分が地面とキスするような恰好で倒れ伏していること。それから、頭部を濡らし、今も広がっている液体の正体が自分の鮮血であること。ポツポツと断続的に流れ落ち、アスファルトに赤黒い染みを作っていることでも、これは明らかだ。
「くっ……」
 これは凄い出血だ。気が付けば、地面に大きな血溜まりができている。頬に触れてみると、手がベッタリとした深紅の感覚に染まった。
 状況から推測するに、オレは後頭部をビールの空き瓶か何かで思いきりブン殴られたらしい。最後に聞いた『バリン!』という破壊音は、きっとガラスが弾ける音だろう。詩的に表現すれば、頭蓋骨とガラス瓶が奏でる戦慄のハーモニィだ。
「おい、祐一! 大丈夫か!?」
 と、やけに遠くから、気遣うような日本語が振ってくる。勿論、親父だ。
「あ、ああ。なん、とか」
 立ち上がろうと最大限の努力を振り絞りながら、なんとかそう応える。
「ったく、ドジ踏みやがって。お前のマヌケのせいで、スッカリ囲まれてしまったではないか」
 そう言われてはじめて気付いたが、オレたちは10人近い青年グループに周囲を囲まれていた。親父が殴り倒したジーンズの少年、それからオレが後ろから蹴り倒したパーカー男。この2人はまだ地に伏したままだが、彼らの仲間だろうか、同世代の体格の良い青年が物騒な鉄パイプやナイフを手に、オレと親父を包囲している。
「く、ぅ……」
 頭がクラクラする。度の強いアルコールを一気にあおったような感じだろうか。膝に力が入らない。立ち上がろうと苦労してみるも、結局それは徒労に終わった。関節がガクガクと震えて、立ち上がるどころではないのだ。完全なダウン状態から、漸く手と膝をついて四つん這いになるのがやっとだった。
 ――やばいな。本能的が警鐘を鳴らしている。いや、別に動物的カンに頼らずとも、自分と親父が危機的状況にあるのは容易に判断できた。オレたちを囲んでいるのは、合計8人の体格の良い青年たちだ。その口元には、ニヤニヤと獲物を追い詰めた狩人の薄笑いを浮かべている。手には拳銃こそないが、それでも殺傷能力さえ持ち合わせている武器が其々に握られていた。
 と、オレは連中の顔を一通り見回しながら、その中に見知った顔があるのを発見し愕然とした。忘れる筈もない。2ヶ月前、オレを集団で殴打し今の全身の骨折や打撲を生み出した男。屈辱的な、生涯初めての敗北の相手だ。
 180cmの巨体に、後で無造作に束ねた長いブロンド。そして、オレを人間とも思わない蔑みの色を持って見下すブルーアイズ。
 忘れないぞ。こいつの顔だけは、絶対に忘れねェ……!!

「んん? 手前は、たしかこの間の日本人。なんだ、あれだけ殴ってやったのに生きてたのか?」
 ヤツもオレを思い出したらしい。
「流石はムシケラだ。しぶとさだけは、一人前だな」
 そう言ってスッと目を細めると、楽しそうに笑う。情けないことに、オレの身体は2ヶ月前の恐怖を覚えているのか、意思とは無関係に震え出した。
「ハァ、ってことは何か、祐一」
 オレたちの遣り取りを聞いていたのだろう。親父が呆れたように言った。
「お前、こんな弱そうな金髪兄ちゃんに負けたの?」
 沈黙を肯定だと受け取ったのだろう。親父は更に深深と溜息を吐く。
「ハァ〜〜、信じられねー。幾ら体格で負けてるとは言え、こんな馬鹿そうなのにやられるとは」

「馬鹿言ってんじゃねぇ。オヤジ、気を付けろ。そいつはシロウトじゃない。強い、ぞ」
「オレをお前と一緒にするなよ、祐一。誰にモノを言ってるつもりだ?」
 親父は親指で自分を指し、不敵に笑った。
「――オレは、相沢芳樹だぜ?」
「フ、勝手にしろ」
 そう言えば詳しい名前は忘れたが、親父の曾祖父さんは『心〜』とか言う怪しい格闘技使いだったそうだ。そもそもそのジイさん、日本人じゃないらしく、確か南アジアの回教徒だったとか。その曾ジイさんの影響で、相沢の男児は生まれた時から半強制的に格闘技マニアとして育て上げられることになってるらしい。オレが奇妙に色々な戦闘術の知識に詳しいのは、一重にこのせいだ(精通しているのは『知識』の部分だけであり、オレに『技術』はない)。

 ――それで、そのジイさんが相沢家に持ち込んだという『心……以下謎拳』。これがまた親父にピッタリの戦闘術で、「退く暇があるならとりあえず前進しとけ。防御は攻撃で賄っとけ」とかいう思想の、どう考えても出所の怪しい流派なのだが、とにかく親父はチェロと同じくらいそれを使いこなす。
 それに加えて、親父の運動能力と反応速度の速さは人間の規格からズバ抜けたものがあるって話だ。天賦の才ってやつだな。オレもそれを受け継いでいる筈なんだが……。
 ただ気になるのは、「粘法」という独特の考え方ある八極拳と並んで、『心なんとか』は超近接戦闘が基本スタイルだってことだ。つまり得意とするのは、近接(ショートレンジ)〜密着(クロスレンジ)での打撃戦。間合いに持ち込めば鬼神のような強さを発揮するが、果たして、武器を持っている間合いの広い(ロングレンジ)相手に通用するか――
 まあ、相手はシロウトに近しい連中だから大丈夫だとは思うが。

「まあ、そういうことだ。来な、小ボウズども」
 親父はイングリッシュでそう告げると、自分を取り囲む8人の男たちをクイクイと挑発した。
「フン……くだらん」
 だが、リーダー格のブロンドのあいつは、取り合わない。数で圧倒していることから生まれる、程度の低い余裕のせいだろう。
「お前、誰を相手にしているのか知っているのか? オレはこう見えても、マクノートン家の跡取。キース・マクノートンだぞ」

 ――キース。
 オレはじっと奴の顔を見上げ、その名を反芻する。
 キース・マクノートンだな。忘れねェぞ。いつか必ず、あいつはオレが潰す。カリは返させて貰う。
 だが、そんなオレとは対照的に、親父はヤツの名前や素性に興味はないらしい。
「なんだそりゃ?」
 そう言って、キースの言葉を逆に笑い返す。
「マクノートンだか幕ノ内だか知らんが、それがどうした。どこぞの田舎の没落貴族か? ケンカに名前は関係ないぞ。ボウズ。能書きはいい。さっさと片つけようぜ。掛かって来いよ」
 親父はアホだが、計算のできる男だ。武器もった8人の男に囲まれた場合、いつもなら迷わず一目散にトンズラすることだろう。ヤバけりゃ、逃げる。それが護身の奥義だからだ。そして、親父はそれをよく知ってる。
 だが、身動きできないオレという荷物を背負っている以上、今回は逃げるわけにもいかない。この8人を相手にして、全員叩きのめすしか場を切り抜ける術はないのだ。そしてその目的を達成しやすいようにするには……、そう。今の親父がやっているように、相手を挑発して激昂させるのが1番だ。頭にカッカと血が上ってる奴ほど、料理しやすい敵はいない。

「この日本人が――!!」
 親父の物怖じしない態度は、明らかにキースの逆鱗に触れるものがあったらしい。その顔から薄笑いが消え、碧眼が激怒も露に吊りあがる。ここまでは計算通り。親父の思惑通りの展開だ。だが――
「お待ち下さい、キースさん」
 怒りに任せて親父に殴りかかろうとしたキースの肩に、背後から手がかけられる。そこには、いつの間に現れたのか、見上げる様な黒スーツの大男が立っていた。
「おお、なんてデカイ奴だ。大木だ。大樹だ。ウドだ」
 親父が驚くのも無理はない。身長は190前後。見上げるような体格は、巨大な『人食い熊』を連想させる。スーツの上からでも分かる、盛り上がった屈強な筋肉。丸太のような太い腕。不自然に膨らんだ左脇は、彼が拳銃を持っていることを示している。

「フリッツ! 手前、邪魔するな!!」
 キースは、大男の手を払い除けると睨みを利かせながら、怒鳴りつける。どうやらフリッツと呼ばれた熊男は、キースの部下――多分、ボディガードのような存在らしい。
 これだけデカイと、流石の親父でもキツイだろう。しかも、恐らく奴は銃を持っている。たとえ勝てるにしても、こいつと闘うのは明らかに割りに合わない。逃げるのが上策だ。
 くそっ! 何でこんな危急の際に限って、体が動かないんだ。
 今のオレは、明らかに親父の足を引っ張ってる。オレという足手まといがいなければ――親父が1人であれば、簡単にこの場を切り抜けられるというのに。全てオレに力がないせいだ。

「キースさん。ボスがお呼びです。至急戻られるようにと」
「親父が? チッ……」
 キースは舌打ちすると苦々しく呟く。どうやらコイツは、自称するように何処ぞのお坊ちゃんらしい。そしてそういう坊主は、往々にして強大な権力を持つ父親には逆らう術を持たないものだ。
「分かったよ。帰りゃいいんだろ。帰れば」
「恐れ入ります」
 フリッツと呼ばれた護衛らしき大男は、表情を変えずに頭を深く下げた。
「オイ、お前ら。後は任せる」
 踵を返しながら、キースは少年グループたちに言い捨てる。
「方法は構わん。その小生意気な口を二度ときけないように、キッチリ始末しておけ」

「分かりました、キースさん」
 下卑た笑みを浮かべながら、グループの雑魚たちは頷いた。こいつらみたいな連中は、ボキャブラリが貧困で助かる。オレの中学レベルの英語力でもなんとか会話の内容が掴めると言うものだ。
 ただし、今度ばかりは会話の内容を理解できない方が幸せだったみたいだけどな――。
 路地の向こう側にキースが消えていくと、残された連中は転がっているオレと、身構えている親父を再び包囲した。
「まあ、そういうことだ。お前らみたいな小汚い東洋人は知らないだろうけどな――この国にいる限り、あの人に逆らっちゃいけないんだよ。あの人は、この辺りを牛耳ってるダルトン・マクノートンの1人息子なんだからな」
「テメエらには仲間も2人やられてるしな。キースさんにも言われてる。死んでもらうぜ?」

「……フッ、いるんだよな。こうやって、ツルまないと威張れない弱い奴。あと、強い奴の腰について、甘い汁を吸いたがるコバンザメみたいな奴」
 親父は流暢な英語で、肩を竦めながら言った。
「数が揃えば有利になるのは当然。でも、お前ら自身が強くなったわけじゃないんだぜ? そこのところを、キッチリ理解して欲しいもんだよな。拳銃持って、ナイフ持って、挙句数を集めて、それで強くなったつもりか? そりゃ、勘違いだぜ。ボウズ。ダンディなオジさんが、今からそれを教育してやろう」

「なんだと!」
「このクソ野郎!!」
 安い挑発に見事に引っ掛かった3人が、先陣切って親父に襲いかかる。1人は素手だが、2人は鉄パイプのような長い棒状の武器を持っている。3人とも恐らくハイ・ティーン(16〜18歳)。皆オレよりも随分と体格が良い。
 だが親父は、そいつらを真っ向から相手にしても全く怯まない。それどころか、薄く余裕の笑みさえ浮かべると、武器を持っている2人の方を迎え撃った。

 まず、鉄パイプを振り下ろそうと踏み込んできた男のスネの部分を、押し返すように蹴りつけ、その動きを封じる。そして相手の動きを止めた瞬間、振り上げたモーションで無防備になっている相手の胸部に右手の掌打、そしてそれを引っ込めずに続けて強烈な肘撃ち、更に繋げて肩を叩き込む。
 攻撃の動作が完全に連結されていて一見すると単独のアクションに見えるが、掌、肘、肩で3発の打撃を入れている。攻撃したあと引かずに、流れるようにして次の攻撃に繋げる。この思想は、同じく超近接戦闘を得意とする孟村八極拳と同じだ。

 ドムッ! という鈍い音が響き渡り、男は後部へ数メートル吹っ飛んだ。
 普通の格闘技は、「ガード・回避・受け流し」その後「攻撃」と2つから3つのパターンで動作が組みたてられる。が、親父が使う怪しげな戦闘術は、「避けながら・防ぎながら撃つ」というのが基本だ。防御が、攻撃と一体になっているわけである。
 この場合もそうだ。踏み込んだ足を「蹴る」のは攻撃だが、目的は相手の動きを止めること。つまり、防御なのである。そして、その防御も次から始まる怒涛の連続攻撃の布石でしかない。逆に言えば、最初に布石となる一撃が入れば、最後のショルダー・タックルまでの一連のコンボはほぼ連続して決まる。場合によっては肩の後に体当たり、掴んで投げという風に技は続くわけだが――
 とにかく相手がシロウトなら、あまりに洗練されたそのコンビネーションに、自分が何をされたか認識することすら難しいだろう。達人の技はそれだけ速く鋭く、そして滑らかなんだ。

 数で圧倒的有利に立っていた男たちも、親父の動きを見て相手が只者でないことを悟ったらしい。だが気付いた時にはもう遅い。動きを止めないこと、前に突き進むこと、攻撃を繋ぐことを基本思想とする親父の拳は止まる事を知らない。
 一端身体を低く沈め、それから浮上するよう勢いをつけると、そのまま肘を叩き込み鉄パイプを持った2人目を完全にKO。3人目の素手の男も一瞬で叩きのめされ、薄汚れたアスファルトに崩れ落ちる。
「……まあ、こんなもんだ」
 パンパン、と手で埃を払いながら親父は言った。
「力に飲まれたらお終いよ。器が小さい証拠だ。武器を持っていると、それを使いたくなるのが人情かも知れん。拳銃を持ったら、強くなったように錯覚してしまうのが人の性とも言えるだろう」

 この部分は、後に親父に日本語で解説してもらった言葉だ。親父は英語が流暢だが、オレは全く駄目。イングリッシュでこうペラペラと喋られては、ハッキリ言ってついて行けないのだ。
「――だが、本当に強いってのは、力に飲み込まれないこと。使い方を誤らないことだ。ナイフ持っていても、ピストル持っていても、敢えてそれを戦闘に用いない勇気。だが、使わなければならない時は躊躇せずに使い、そして他人を傷付ける覚悟を持つこと。そして自分がつけた相手の傷は、キッチリ背負うということ。それが出来て、はじめてオレのようなダンディおじ様(英国紳士風味)を名乗れるのよ」

「アァ? なに語ってんだ、このオヤジ」
「殺されてェのか、テメエは」
 まあ、そうだろうとは思っていたが、親父の講釈は青年たちに何の感銘も与えることができなかったらしい。
「――だろうな。馬鹿はしななきゃ治らないって言うしな」
 親父もその反応を予測していたのだろう。頭を掻きながら、諦め果てたように言う。
「まあ、いいさ。さ、諸君。掛かってきなさい。今のでお前らの実力は把握できた」
「ハッ。馬鹿か、オッサン。何で俺たちが馬鹿正直にお前の相手してやらなきゃならないんだよ」
 キースに代わって指揮を採り始めた、副リーダー格の男がオレに歩み寄ってくる。
「こっちには、この人質ってのがいるんだぜ。オッサン」
 そう言うと、男はオレの腹を力任せに蹴り上げた。脳震盪でも起こしているのか、未だに殆ど身動きできないオレには、それを回避することさえ出来ない。

「カ……ハ……ッ!!」
 内蔵が破裂するような衝撃を受け、オレは辺りをのたうち回る。
「グゥ、ウァゥ……」
 クソ――最近、妙にサンドバックにされる機会が多すぎないか?
「1対7で、しかも武器使ってるってのに、その上人質まで取ろうってのか」
 親父は少年たちを睨みつけるが、彼らは涼しい顔でそれを受け流す。そして唇の端を吊り上げて、自分の頭をトントンと叩いて粋がる。
「馬鹿か。これも戦術だろ? アンタとは頭の出来が違うんだよ、オッサン!!」

 ドンッ!!

「オェ……ッ」
 再び腹部を貫くように蹴り上げられ、オレは躰をくの字に折った。凄まじい痛みと、激しい嗚咽感が込み上げ、胃液が逆流してくる。気が狂いそうな苦痛だった。
「貴様ら――っ!!」
 流石の親父も我慢の限界を迎えたか、自ら男たちに殴りかかろうとするが――
「おっと、動くな」
 オレの首筋にピタリと突き付けられたナイフに、その動きを凍てつかせざるを得なかった。
「動くと、このガキの喉がパックリ切り裂かれちゃうぜ。オレは臆病だからなぁ。ちょっとした弾みで、手が震えちまうかもしれない。気をつけてくれよ」
「クッ……!!」
 奥歯を噛み締め、視線の力で人が殺せたらという鋭さで連中を睨みつけるが、流石の親父にもそれはできない。

「親父、オレは……いい、から逃げ、ろ……」
 定まらない呼吸に苛立ちながら、なんとか搾り出すようにそう告げる。
「ガキが恰好つけてんじゃないの。ここで逃げたら、寝覚めが悪いだろうが」
 親父はそう言って、オレの言葉を突っぱねた。
「迷惑なんだよ。知ってる奴が、知ってるところで殺されるとよ。死ぬなら、オレの知らないところで死ねってんだ。後で気になるじゃねえか」
「なにゴチャゴチャと――」
 男たちが日本語で悪態を吐く親父に歩み寄っていく。
「喋ってんだ、オッサン!!」
「グ……ッ!!」
 抵抗できない親父のボディに、奴らの拳が埋め込まれる。

「今この場でムシケラみたいに殺してやってもいいんだけどよ。それじゃあ、俺たちの気が収まらねェ。お前らには、死ぬ恐怖をジックリ味合わせてやるよ。面白いゲームを思いついたぜ。そいつを精々楽しませてやるから、喜べや」
「ゲームだと?」
「そうだよ。だから、用意が整うまでチョット眠ってな!!」

 ガン!!

 男の1人が親父の背後に回り、その後頭部をナイフの柄の部分で痛打する。流石の親父も、無防備の状態で急所に一撃食らっては堪らない。気を失い、糸の切れたマリオネットの様に大地に崩れ落ちた。
「親父! オイ、親父!!」
「心配すんな、小僧。お前も、ちゃんと一緒に殺してやるから――よ!!」
 その言葉と共に、首筋に鈍い衝撃。抵抗する間も無く、一瞬で意識がフッ飛んで行く。
 世界が暗転するのを感じながら、この数週間で何度目になるだろう。
 ――オレは再び闇の世界に突き落とされた。







to be continued...
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2001/10/28 02:53:49

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