今日こそが、その時さ



バイト・オン
ザ・ブレット
Hiroki Maki
広木真紀




−圧殺の章−






GMT Fri,21 July 2000 17:31 P.M.
15 Oak Hill Way NW7
Hamsted


7月21日 午後5時31分
ハムステッド 佐祐理の別荘


――旅人は、疲れている。そう、基本的に長旅というのは疲労を伴うものなのだ。
増して、地球の裏側まで遥々海を渡っての旅となれば、その疲労も距離に比例して深まると言うもの。
ご多分に漏れず、オレは疲労の極地にあった。なんでも良いから、今日はさっさと休みたい。
そんな切実な願いとは裏腹に、難航を極めた部屋割り。それが漸く決定されたのは、佐祐理さんの別荘に到着してから、タップリ1時間以上経過してからのことだった。

「――で、あれだけ渋っていたにも関わらず、結局オレは天野と同室になったわけか」
どういう心境の変化か、天野はオレと同じ部屋で寝泊りすることを最終的には承諾したらしい。
なんでかな? ……まあ、この際理由は何でもいいか。これで漸く落ちつけるわけだし。
「女心とUKここの空ってか。――変わりやすいもんな、この国の天気」
鷹山さんの部屋まで呼びにきた女の子たちと一緒に、早速2階の客室に荷物を運び込むことになったオレは、小さくそう呟く。
すると、それを耳聡く聞きつけた香里がニジリ寄ってきた。

「フフフ。可愛いじゃない。天野さんも女の子ってことね」
天野本人に聞こえないように、彼女はオレの耳元で囁いた。
「ん、どういうことだ?」
女の子だからこそ、オレと相部屋になりたくなかったのだと思うんだが――。

たとえば、それが名雪や舞であったなら、天野ほど嫌がりはしなかったと思う。
名雪や舞、それからあゆは、多分――オレの自惚れな勘違いでなければ――相沢祐一に、それなりの好意を持ってくれている節があるからだ。
無論、それは友人としてでもあるが、異性として恋愛対象としての好意を意味する。

だが天野からは、名雪たちがオレに向けてくるものと、同種の視線を感じたことがない。 彼女は単純に、オレを友人としてしか考えていないように見えるのだが……。まあ、全く脈が無いかと言うと、そうでもないけど。
名雪やあゆの様に、感情をストレートに表現する単純なヤツならまだしも、内向的で感情を露にしたがらない天野みたいなタイプは、とにかくその思考が読み難い。これは、オレが鈍感だとかそういうのではなく、万人に言えることだろう。

だが、香里は天野を理解しているらしい。
「……相沢君。アナタ、恋人と長続きしないでしょう?」と、彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべながら言った。
「なんでだ?」オレは問う。
彼女は言った。「女心が分かってないから」

「大きなお世話だよ。第一、オレは恋人なんか作った経験は無くてね」
「あら、そうなの。――それは、良かったわ」
女は色んな種類の微笑を持っている。先程とは雰囲気の違う香里のその微笑みが、果たしてどんな種類に属するのか。残念ながら、オレにはまだ分からない。

「良かったって、それはどういう意味だ?」
「――フフ。言葉通りよ」そして、彼女はまた嫣然と微笑む。
今度のは、流石に判別できた。『何も分かってない』とオレをからかって遊んでいる笑みだ。
だが、どうせ訊いてもこれ以上ははぐらかされるだけ。そう判断したオレは、口を噤むことにする。

「私が思っていたより、結構、天野さんも乙女してるのね。ちょっと意外だわ」
「だから、一体何のことだよ? あいつは乙女って言うより、おばさんっぽいぞ」
香里の言っている言葉自体が理解しきれない。多分、考えても無駄だ。オレはそう直感した。きっと、これは永遠に謎のままなのだろう。

「相沢さん、どうしたんですか? 部屋はこちらですよ」
香里と話し込んでいたオレに、天野が怪訝そうな声を掛けて来る。
足元には、紺色の大きな旅行鞄。彼女も年頃の女の子ということか、結構大きめだ。
「ああ、スマン。今行くよ」
オレはスーツケースのグリップを握り直すと、この国にいる間、寝泊りすることになる部屋に向かった。
入り口前の廊下で、天野がドアを開いて待ってくれている。
「じゃあな、香里」
「ええ。ディナーでね」



佐祐理の別荘2階部・見取り図と部屋割り表
C
護衛(女)
護衛(女)
遊戯室
ビリヤード&バー
カード用テーブル
D
護衛(男)
護衛(男)
廊下
B
オレ
天野美汐

中央階段
E
護衛(男)
護衛(男)
A
美坂香里
美坂栞
吹き抜け F
水瀬秋子
水瀬名雪



――2階には、全部で7つの部屋がある。
その内、6つまでが客室。2人ずつの相部屋になっているから、ホテルで言えばツインのスイートに相当するだろう。まだ中は見てないが、佐祐理さんの別荘だ。きっと豪華絢爛な造りをしているに違いない。
さっきまで鷹山さんの部屋にいたから、その予想は容易につく。

残るもう1つの部屋は、遊戯室になっている。
階段を上り切った真向かいにあるので、チョット覗いて見たが、これが結構広い。
部屋の中央にビリヤードの台が3つ、左の壁際にブリッジ(カード)用のテーブルセットが5つ。
そして右側の壁沿いに、カクテルの並んだバーがある。

入り口向かいには大きなガラス製のドアがついていて、そこからバルコニーに出られるようになっているようだった。いずれにせよ、かなり本格的な造りである。
夜はきっと、皆がここに集まってワイワイやることになるんだろう。夏の間ずっとここにいるわけだから、その機会もきっと幾度かはあるに違いない。

「――思っていたより、随分と良い部屋ですね」
部屋に入ると、天野は開口一番そう言った。勿論、オレも彼女と同じ感想を抱いている。
予想していた通り、部屋の造りは鷹山さんが使っている部屋と殆ど同じだった。が、グレードは少しこちらが上だろうか。幾分、オレと天野の部屋の方が広いように思える。内装も豪華だし、細々としたものが色々と揃えられていた。

「ミッシーはどっちのベッドにする? オレは一緒でも全然構わないけど」
寝室に入ると、重いスーツケースを床に下ろしながら訊いた。
ベッドは、少しの間を挟んで2つ綺麗に並んでいる。セミ・ダブルほどのサイズはある大きなものだから、細身の天野が相手なら充分並んで眠れる筈だ。無理なら上下に重なって眠れば良い。……フッ。

「今、なにやら貞操の危機を感じましたが――とにかく、相沢さんが使わない方であれば私はどちらでも結構です」と、天野はいたってクールに返してくる。
せめて、チョッピリ頬を赤らめるくらいのサービスは付けて欲しいものだ。
香里はさっき、天野がオレを異性として意識しているという節のことを口走っていたが、この反応を見る限りとてもそうは思えない。

「んじゃ、オレ右側な。……とうっ!!」
宣言し、早速ベッドへ身体を投げる。着地の瞬間、柔らかなマットレスがバイーンとオレを弾いた。
いやあ、実に柔らかくて快適だ。トランポリンの要領で遊べる。
「子供ですか、あなたは……」
ぼい〜ん、ばい〜んと宙を美しく舞うオレに、美汐は呆れたような視線を送ってくる。

「ん、どうした。ミッシー。一緒にやりたいのか?」
「――そう見えますか?」
相変わらず冷たい視線を投げかけてくるミッシー。
「ウーム。見えないこともないな」

確かに真琴じゃあるまいし、ベッドの上で元気に飛び跳ねるというのは天野のキャラクターじゃない。
だが、だからこそ、それに憧れるというのはあり得ることだ。
フィクションが現実性を求め、ノンフィクションがファンタシーを求めるように。
今の自分から脱皮し、未知の世界に向かって羽ばたきたい。今までに無かった自分に変身してみたい。
これは人間として、実にナチュラルな欲求である。

「よし。そうと決まれば一緒に楽しもうぜ、天野っち!
クール&ビューティの殻を破り、新たな自分に目覚めるんだ。昨日まで自分に、ここでサヨナラ言おうぜ。
さあ、共に未知の世界へ羽ばたこう。ヘイ、カモン!ミッシー!!
オレは歯を無意味に光らせながらパンと手を打ち鳴らし、そのまま両手を広げて彼女を招く。

「……」
だが、ミッシーは相変わらず冷ややかな目をこちらに向けるだけで全くの無反応。
……な、何故だろうか。発音が悪かったのだろうか。
やはりここは英語発祥の地、イングランド。並みの発音では振り向いてもらえないのかもれしない。
よーし、ならば――

「さあ、共に未知の世界へ羽ばたこう。ヘイ、カマーン!ミッスィー!!
――完璧だ。ハッキリ言って、もはや現地の人間と比較しても遜色ない。
クイーン・オブ・クイーンズ・イングリッシュ。まさに英語の中の英語とも言えそうな発音である。
自分で自分が怖い。怖いくらいなのだが……

「……」
考えられ得る限り、殆どパーフェクトと表現しても過言で無いオレのイングリッシュを前にしても、天野の絶対零度を思わせる目線は氷解しない。
何故だ。オレに一体何が足りないというのだろう。
まだ発音が悪いというのか。至高を越えて、究極になれというのだろうか。そうなのだろうか。
上等じゃねえか。やってやる。お前にも、本物の究極ってやつを教えてやるよ。
いくぜ、天野。しかと聞くがいい。オレの熱いビートをよ――!!

「さあ、共に未知の世界へ羽ばたこう。
ヘイ、カムァーン!ムゥウィットゥスゥィー!!
「……」
「……」

――それは、既に原型を留めていなかった。









GMT Fri,21 July 2000 22:21 P.M.
同日 午後10時21分
佐祐理の別荘 2階 遊戯室


これは、UKに行ったことのある日本人なら口を揃えて主張することなのだが、イングランドの料理はあまり美味くない。……いや、オレらしくハッキリ言おう。不味い。
迂闊にスーパーで缶詰なんかを買ってきて、それを期待と共に口に放り込むような無謀な真似をすれば、そいつはきっと自分の浅はかさを大いに後悔することになるだろう。
どうも、日本人の口には合わないんだよな。こっちの料理ってのは。

だから、イングランドにある日本料理店が、観光に来た日本人で賑わうって話にも頷けるものがある。
元々、長く外国にいると祖国の素朴なメニューが恋しくなるのは良くあることだし、その国の食事が口に合わないのなら尚更その傾向は強まることだろう。
まだ中学生の頃、夏休みを利用してUKの農村にホームステイしにきた日本人の女の子と偶然知り合う機会に恵まれたのだが、彼女はトランク一杯に、携帯用食品――カロリーメイトを詰め込んできて、それをいつも齧っていたくらいだ。ま、あれは極端な例なんだろうけど。

そんなわけで、食事に関しては過剰な期待はせず、むしろハズレを覚悟してすらいたのだが、予想に反して、佐祐理さんの別荘で振舞われた最初のディナーは最高に美味いものだった。
まあ、作ったのは佐祐理さんを筆頭とするAMSお料理大好き部隊だったし、それに秋子さんも応援に加わったから不味くなるはずはない。
なんとなく家事が似合わないイメージのある鷹山さんも、そしてオレも、夏休みにキャンプに出かけた学生よろしく全員でやる食事の支度に加わったこともあって、夕餉の席はいつも以上に盛り上がった。

程好く腹が膨れたところで、今度は2階の遊戯室に集まりイングランドで最初の夜を優雅に過ごすことになった。良いのだろうか、こんな贅沢。
まあ、この夏の間だけ許されることだし、折角だから満喫しないと勿体無いかな。……この『せっかくだから』とか『勿体無い』というフレーズに、オレに染みついている貧乏性が窺えるような気がするが。

遊戯室にはAMSの面々ばかりでなく、護衛の人たちも集まっていた。今回は彼等にとっても仕事抜きのバカンスだ。当然の権利である。
彼等は主にビリヤードとブリッジを楽しんでいるようだった。バーでカクテルを飲んでいる人もいる。
お、珍しいスコッチがあるな。後でいただいてみよう。オレはあと数日で満18歳を迎えるから、飲酒は法的に許されても良い筈。こっちは、18から飲めるからな。

1つ気になったのは、鷹山さんの姿は見えないことだった。
恐らく、まだ自室で仕事を続けているのだろう。なんだか昼間あったときも忙しそうだったし。
明後日から単独行動をとって何処かに行くとか言ってたから、その準備で大変なのかもしれない。まあ、人には其々プライベートな事情ってのがあるもんだし、夜は特にそれが強調されるべきだ。オレが首を突っ込むような問題ではない。

「ねえねえ、祐一君。トランプしよう」
部屋でシャワーを浴びてから一足遅れて遊戯室に足を踏み入れたオレを、目聡く発見したあゆが嬉しそうな顔をして駆け寄ってきた。
「トランプねえ」見ると、あゆの手にはファンシーなトランプが握られていた。
「やりましょう、やりましょう。大富豪がいいです」
あゆに少し遅れて寄って来たのは栞だ。どうやら、彼女も参加するらしい。

「他の連中はどうしてるんだ?」
「香里ちゃんと美汐ちゃんは、なんか良く分からないことやってるよ」
「良く分からないこと?」あゆの返事が要領を得ないので、仕方なく彼女たちの姿を探してみる。
彼女たちはテーブル席に向かい合って座り、紅茶を飲んでいた。香里はカバー付きの文庫本を広げているが、美汐は紅茶のカップ以外なにも持っていない。

「ふたりで茶ァしばいとるだけやないかい。あれのどこかわけ分からんちゅうんや」
「何故いきなり似非関西弁なのかは不明ですが、ワケが分からないのは2人がなにかゲームをやってるみたいだからなんですよ」栞が横から言った。
「ゲーム?」
少なくとも、彼女たちはカードを広げているようには見えなかった。勿論、ビリヤードをやっているようにも見えない。そう見えるんなら、オレは即刻眼科か精神病院いきだ。

「ホラ、よく将棋のプロの人が、頭の中だけで将棋をやってたりするじゃないですか。盤も駒もなしで」
「ああ、記憶力だけでやるやつな」
どうやったらあんな真似ができるのかは分からないが、確かにそういう方法で将棋をやる人間の存在は知っている。TVなんかでも時々見かけたりするものだ。
「それに似たことをやってるんだよ」あゆはUFOでも見たかのような調子で言った。
「五の17とか、テンゲンとかコモクとか、なんか難しいこと言ってたけど」

「――そりゃ、目隠し碁じゃねえか」
「碁って、囲碁のことですか?」あまり良くは知らないのだろう。栞が自信なさそうに言う。
あゆにいたっては、囲碁の存在すら知らないようだった。
「多分そうだ。天元や小目ってのは、確か基本的な囲碁用語だったと思う。あと布石とかな」
がしかし、十九路盤の目隠し碁は熟練者でも難しいと言われている筈。将棋やチェスとは違って、碁盤の目が多過ぎるからだ。まあでも、あの2人の頭脳を以ってすれば或いは可能かもしれないが。

「しかし、なんてシルバーなことやってんだ。きっと、天野が誘ったに違いない」
囲碁といえば、盆栽、ゲートボールと並んで年寄りの代名詞となっている――ように思う。
思いっきり偏見だが、そういうイメージが一般に浸透しているのは否定しようのない事実だ。同様に、AMSの内部に限定すれば、盆栽や囲碁や番茶が似合うのは天野美汐と相場は決まっている――ように思う。
思いっきり偏見だが、そういうイメージがオレに根付いているのは否定しようのない事実だ。

「で舞と佐祐理さんは?」
「バルコニーにいるよ。2人でお話してたみたい」あゆはニッコリ言うと、オレの服の袖を引っ張った。
「ねえねえ、祐一君。ババ抜きしようよう」
「ババ抜きかい。海を越えてイングランドにやってきておいて、やることはコタツでミカン食いながらやることと変わってないとは。……所詮、お前はあゆあゆ止まりよな」

「うぐぅ。だって、ボク神経衰弱やると本当に衰弱しちゃうし。後は7並べくらいしか知らないけど、7並べは祐一君が意地悪するから嫌いだもん」
「馬鹿者」膨れるあゆの頭を、軽く小突く。「持っていても敢えて出さないというのは、戦略に他ならない。つまり、立派な技術なのだ。決して意地悪ではない」
「うぐぅ……」あゆは納得いかないらしく、フグのように頬を膨らませていた。

「秋子さんは? この時間だと、名雪に関しては聞くまでもないが……」
「秋子さんは、夕食の途中で夢の世界に旅立ってしまった名雪さんを、部屋に連れていかれましたよ」
名雪の目が横線になったラヴリィな寝顔を思い出したか、栞はクスリと笑う。
「そっか。じゃあ、名雪のことは秋子さんに任せておけば安心だな。喜べ、あゆ。オレが直々にトランプの相手をしてやろう」

「大富豪やりましょう。大富豪。革命を落として、愚民どもを極貧のどん底に陥れてやるのです!」
なにやら、異様にハッスルしている栞が鼻息も荒く言った。こいつは可愛い顔して、勝ち負けがハッキリ出る勝負となると、死ぬほどえげつない手をイロイロと駆使してくるタイプだ。侮れない。
「分かった分かった。まあ、そう熱くなるなよ。慌てなくてもトランプは逃げないから」
相も変わらずお子様なあゆと栞を従え、オレはカード用の空きテーブルに向かい、ドッシリと腰を落ち着ける。
「さあ、流離さすらい賭博士とばくしと呼ばれた相沢祐一が、身包み剥いでやるぜ! Come on, girls. Get serious!」


――2時間後。

「うぐぅ。イキナリどうしていいのか分からないよ……」
覚えたてのポーカーを途惑いがちな手付きで進めるあゆが、困惑したように呟いた。
自分の手札をじっと見詰めて、ポヨポヨの眉毛をハの字に顰めている。
「はぁ?」
カードが配られて、まだ1巡目だ。どうやら、こいつはまだルールを飲み込めてないらしい。

「ボク、新しくカードを取ってもどうしていいのか分からなくて」
たかがカードゲーム如きで、あゆは半分泣きそうな顔をしている。
「あゆさん、ちょっとカードを見せてくれませんか?」
「うぐぅ」栞の要請に、あゆはバカ正直に手持ちの札をテーブルに開けた。
オレと栞は綺麗に並べられた5枚のカードを、揃って覗きこむ。

「……って、ストレート・フラッシュやないかい!!」
信じられないことに、あゆのカードは9から始まるダイヤの連番が完成されていた。
恐ろしい話だ。最初に配られた札で、いきなりストレート・フラッシュなんぞ作られたら、技術も駆け引きもあったものではない。
「確かに、捨てるカードがないと言うのも頷ける話です」
そう呟く栞も、オレ同様呆然とした表情をしていた。

「ぐはっ。身包み剥がされた――」
理不尽を嘆きながら、キングのワンペアが出来あがっていた手札を放り出す。気分は、ガチガチの本命を逃したレースのハズレ馬券をばら撒く時のそれだ。……競馬、やったことないけど。
「うぐぅ。良く分からないけど、これで祐一君にタイヤキいっぱい奢ってもらえるんだね」
オレとは対照的にホコホコ顔のあゆが、更に鬱になるようなことを言い出す。
「ちくしょう。誰だ、賭けポーカーやろうだなんて言い出したやつは」
「祐一さんです」栞に痛恨の突っ込みを入れられ、オレは完膚なきまでに叩きのめされた。

このポーカーはオレが『おごり回避権』、栞が『アイス奢ってもらう権』、あゆが『タイヤキ奢ってもらう権』と書いたチケットをそれぞれ10枚作り、それを賭けて勝負するというものだった。
勝った者が、相手の権利を剥奪することができるというシステムである。
あゆが今決めたストレート・フラッシュで、オレは自分の持つ『おごり回避権』を全て奪われ、あゆが持つ『タイヤキ奢ってもらう権』×7から逃れる術を失った。つまり、帰国したら彼女に7つものタイヤキを奢らなければならないことになる。

「はう……。こいつ、ニッコリ笑って人の身包み剥いでいきやがって」
罪のない笑顔と信じられない程の強運で、オレを破滅に追いやってくれたあゆを睨みつける。
「ビギナーズ・ラックの範囲を超えてるぞ。お前、天使でも味方につけてんじゃないだろな?」
「うぐぅ。たまたまだよ。ボク、ポーカーってやるのはじめてだったし」
そのはじめての奴に、ケチョンケチョンにやられてK.O.されたオレは一体何なのだろう。
「うぅ……。ちょっと夜風に当たってきます」
不意に人生について考えたくなったオレは、席を立ってバルコニーへ向かった。

この別荘には、かなり洒落た感じのそういう場所がある。
映画の中で、麗しのレディがパーティの喧騒から離れ、夜風に当たって酔いを覚ますのに使うような場所だ。少なくとも、あゆや栞には似合いそうも無い、アダルティな雰囲気がある粋な空間であることは確かだ。オレでも多分、独りだと浮くだろう。最低でも香里クラスの色気みたいなのが無いと、きついものがある。

「――あれ、珍しい取り合わせだな」
そのバルコニーへと続く洒落たデザインのガラス張りのドアを開けると、そこには先客がいた。
外見、特にプロポーションにおいては対極的な2人。天野美汐と川澄舞である。
2人は言葉を交わすことなく、静かに景色を眺めていたようだった。
白くドッシリとした大理石の手摺には、天野が持ち込んだらしいカクテルグラスが置かれている。でも多分、真面目な天野だからして中身はきっとノンアルコール・カクテルか、ジュースだ。流石の彼女でも、カクテルグラスで番茶という展開だけは無いだろう。そう祈りたい。

「相沢さん」
天野はオレの登場に少し驚いたようだったが、すぐに平静を取り戻して言った。
「――偶然ですよ。先程まで、倉田先輩がおられましたし」
舞も振り返ってオレを一瞥したが、それも一瞬のことで、また視線をロンドンの夜空に戻した。
「邪魔じゃなかったか?」2人の間に入り込むようにして並び立ちながら、天野に問う。
「いえ」手摺においてあったカクテル・グラスをどかし、彼女はオレにスペースを譲ってくれた。

「当ててみよう。サラトガクーラ?」
「正解です」ミッシーは、目を細めて微かにグラスを揺らして見せた。
サラトガクーラは、ライムジュースとジンジャーエール、それにシュガーシロップだけを使った、代表的なノンアルコール・カクテルだ。
甘いものが多いノンアルコールの中で、オレでも唯一飲めそうなタイプかな。勿論、ジュースなんだから未成年者でも飲めるし、結構夏に似合うやつだから、彼女の選択は決して間違いじゃない……と思う。
因みに、親父に聞いたことがあるが、サラトガってのはアメリカで有名な競馬場がある場所らしい。

「そう言えば、香里との勝負はどうなった、ミッスィー?」
ロンドンの夜風は少し肌寒かったが、緑に囲まれた閑静なハムステッドの夜景には、何か癒されるような不思議な美しさを感じた。
「その無駄に発音の良い呼び方、是非ともやめてください」天野は鋭く目を細めてオレを睨む。
「囲碁のことなら、込みを入れて9目半差で私の勝ちです」
「良い勝負だったみたいだな」
「はい。中押しで勝てなかったこと自体、久しくなかったものですから。先輩には感謝しています」

「――で、舞は何をしてたんだ?」
右隣の舞にも声をかける。普段から寡黙な天野と舞とでは会話も弾むことはないだろう。2人並んで静かに景色を眺めるに終始することになるのは目に見えている。
「星を見ていた」舞は夜空に視線を固定したまま、ぶっきらぼうに言った。
「私は、日本から出たのは初めてだから」

「何か発見はあったか?」
「……あった」コクンと頷きながら、舞は言った。
「ほう。何を発見した?」
はじめて海外にやってきた彼女が何を感じたのか。大いに関心ある話だ。
特に、常人とはちょっと違う感性を持った舞だ。きっとオレとは違うものを見て、違う感慨を抱くに違いない。左を横目で見ると、天野も舞の反応に興味があるらしく、オレたちの遣り取りに耳を傾けているようだった。

「……月は、いつもそこにある」
舞は、ただそう告げた。どこかで聞いたような言葉だ。格言かなんかだっけ。
まあ何にせよ、オレにはその言葉の意味が良く理解できなかった。だから、暫く考えてみた。
そう言えば、この地球上の何処からでも月は見える。国が違っても、文化が違っても、気候や緯度経度が違っても、やっぱり月は見える。
そんなことくらい考えなくても想像がつくわけだが、実際に見知った場所を離れてそれを実感すると、またそれは別の意味を持ってくるのかもしれない。――オレには良く分からなかったが、舞はきっと、そこに言い知れない何かを感じ取ったのだろう。彼女は、とても感受性が高い人間なのだから。

「そうか」結局、オレはそんな言葉しか返せなかった。
「天野、まだここにいるのか? オレはそろそろ部屋に戻って休もうと思ってるんだけど」
「そうですね。もう暫くいるつもりです」天野は何故か横目で舞を見ながら言った。
「相沢さんは先に戻っていて下さい。多分、10分ほどで戻ると思いますから」
「――分かった。じゃな、舞。お休み」
オレは舞にも挨拶すると、踵を返して部屋に戻った。なんだかんだと、今日は疲れていた。多分、ベッドに身体を横たえた瞬間、すぐに眠りは訪れるだろう。

だが、オレはこの時、居残って天野と舞との間で交わされる話の内容に耳を傾けておくべきだったのかもしれない。無論、オレが場を外したからこそ、その密談が行われたことは事実であるわけだが――
2人のその会話は、それだけ相沢祐一という人間にとって非常に深い意味のあるものだったのだ。









後に本人たちから確認したところによると、その話の口火を切ったのは天野の方だったそうだ。
2人の性格を吟味するに、それは妥当な線かもしれない。舞はそこまで積極的な性格をしていないから、こういう場合、受け手に回るのがパターンだろうからだ。
ただその話題は、舞としてもいずれは天野に問質さねばならないと思っていた類のものだったらしい。
彼女たちに宿った特殊な血が、2人を引き合わせた結果である。

「――川澄先輩」
何を語り合うでもなく黙して夜空を見上げていた天野は、やがて静かに身体の向きを変えると、舞を見詰めて言った。勿論、それがAMSの今後に多大な影響を齎す一石となることを承知の上でだ。
「1度、貴女とは話をしておくべきだと思っていたのです。もし宜しければ、暫くお付き合い戴けますか?」
「……構わない」

「何からお話すべきでしょうか」天野は刹那だけ思案すると、再び口を開いた。
「川澄先輩は、特殊な力をお持ちですね。“魔”と呼ばれている具象思念体然り、物理法則を凌駕した身体能力然り、また研ぎ澄まされた第六感然り。これらは、一般に浸透しているレヴェルでの現代科学では認められておらず、『超心理学』の分野に押しやられている類の力です」

「……」舞は、無言で先を促した。
「その特殊な血を以って私を見た時、何かお気付きになったことはありませんか?」
天野にとって、その問いを発することは大きな勇気を必要とされることだったのかもしれない。
「……ある」やや逡巡するような様子を見せたが、結局舞はそう応えた。
「何度か遊んだことがある。丘の上の不思議なキツネさんと同じ感じ」

「えっ? では、ものみの丘の彼等を?」
「……動物さんはかなり嫌いじゃないから。それに、私には祐一以外に動物さんしか友達がいなかった」
「そうでしたか、ご存知だったんですね」
流石の天野にしてみても、そこまでは予測できなかったらしい。だが、舞が持つ独自の嗅覚を以ってすれば、ものみの丘に不思議な力を持つ狐がいることを察知するのは、それほど困難なことではないかもしれない。
「その通り、狐です。妖狐、と言います」
「……聞いたことは、ある」

恋しくば尋ねて来て見よ和泉なる信太の森のうらみ葛の葉
天野は星空を見上げると、抑揚ある声で歌う様に唱えた。
「これは、歌舞伎、浄瑠璃から落語にまでなった白狐びゃっこ伝説『葛の葉物語』で詠まれる有名な一首です」
まるで旅人が遠くなりにし故郷を語る時のように、天野は微笑する。

「川澄先輩が彼等の名を耳にすることも、あり得ない話ではありません。私たちの街にも伝説として残っていますし、もともと日本ではメジャーな存在です。御伽噺にも度々登場しますし、芸能や古浄瑠璃に至っては妖狐の名は当たり前の存在です」
かと言って実在を信じる人間など現実世界には存在しませんが、と苦笑交じりに美汐は付け加える。

「ですが、妖狐は実在します。天野祟嘉が存在したように。沢渡真琴が確かにいたように。
決して歴史の表舞台に登場することはありませんでしたが、千年を超える永きに渡り、ひっそりと人間との交流さえ続けてきました。彼等と親しい人間たちは、歴史上最も有名な妖狐である安倍晴明の母が『葛葉姫』と呼ばれていたため、それに倣って彼等を『葛葉くずのは』と呼びます。そして――」
そこで一旦言葉を切ると、天野はクスリと悪戯っぽく笑った。

「白狐伝説と全く同じですね。母が妖狐で、父が人間。私の身体にはその葛葉の血が半分だけ流れているのです。……だから、相沢さんが連れていたあの子が妖狐であることを、一目で知ることもできた」
「――薄々は感じていた」暫くの沈黙の後、舞は美汐の方を見ずに言った。

「でも、それを確認することに躊躇いを覚えていた。特別な存在であることは、とても辛いことだから。……私はそうだったから」
「お心遣い、感謝します」天野は、静かに頭を下げた。
実際に知るわけではないが、同じ異能者として、舞の経験してきた苦悩を天野は想像できたのだろう。或いは、同じ苦しみを身を以って体験したことがあるのかもしれない。

「普段、私は人間として生活しています。ある方法で、それが可能であることに気付いたからです。
その方法とは、自分を2つに割ることでした。人間の血に属する、『天野美汐』。そして妖狐葛葉の血に属する『葛葉美汐』。この2つの人格を仮面のように使い分けることで、社会に溶け込む。これが、私の選択した生き方でした」
「……私は、不器用だから」舞は少し悲しそうに言った。

「そうですね。でも対照的に、キツネは器用なんです。妖狐が人間を化かす話が多く残っているように、妖狐にとって人間は愚鈍な生物に過ぎない。妖狐は生物学的に、人間より上位に位置される生物なのです。知能も生命力も、人間のそれを大きく凌駕しているからです。
……だから、その血を半分宿す私も、こういった力を行使できるのです」

ボッと、小さく空気が爆ぜるような音がした。
視界の端に不自然な光を感じて、舞はその方向に視線を遣る。その目が一瞬大きく見開かれた。
常人には見えない様々なものを目視できる舞だが、流石にそれを見たのは生涯初めてだった。
――舞の表現をそのまま借りれば、天野美汐が掲げた右手は燃えていたという。
比喩表現ではない。本当に、彼女の手は朧げな炎に包まれていた。ただし、それは普通の炎ではなかった。人間が自然界に存在すると認めるものとは、違う世界に属する炎。

「妖火、と言います。人魂だとか、不知火と呼ばれることもありますね」
天野は、右手を翳しながら言った。煌煌と燃え盛っているにも関わらず、舞は不思議と、その熱を感じなかったそうだ。何故かは分からない。ただ本能のレベルで、それが自分の知る種類の火とは決定的に異なることだけは理解できたらしい。

「天野美汐は無力ですが、内に眠る葛葉の血の力を借りればこんな芸当も可能だと言うことです。
ただ、葛葉の力は危険過ぎます。葛葉美汐はあまりに強大で、極めて超越的です。故に、私は葛葉美汐の人格を普段は封じています。使い方によっては、神にも悪魔にもなれるほどの力を宿しているからです」
そう言うと、天野は炎を収めた。まるで最初からそんなものなど無かったかのように、忽然と妖火は消え去ったと言う。

「――川澄先輩は、相沢さんにも私や貴女と似たような、特殊な力があることにお気付きですか」
その一言に、舞は一瞬ビクリと身体を震わせた。
「やはり、知っていたのですね」
沈黙は、時に言葉よりも雄弁に物を語る。この場合が、まさにそれだった。
「相沢さんの中には、極めて――そう、極めて強大な力が眠っています。人の命すら左右することが可能な程のエネルギー。その潜在能力は、川澄先輩のそれにも匹敵することでしょう」

コクリ、舞は小さく首肯した。
「……祐一には、私と同じ力がある」それは、もうずっと以前から気付いていたことだった。
「魔と共に、私は自分を封じようとしたことがある。そして、その割腹は確実な致命傷となる筈だった。
だから私は、本当ならあの時死んでいた筈だった。……だけど、生きている。それは祐一の力」
「そうでしたか。貴女はその身を以って体験したのですね」
天野は納得したように頷いた。

力は力を引き寄せる。舞の持つ特別な力に触発されて、何かの弾みで相沢祐一の潜在能力が一時的に開放されるということも、あり得ない話ではない。そう考えたのだそうだ。
「恐らく月宮あゆさんの例も、相沢さんの力が関与していたのでしょうね。彼女は病院のベッドにその身を横たえながら、同時に街を闊歩していたと言います。あれは、そういう種の力が無くては実現しない奇跡ですから」

「……でも、祐一には言わないで」舞は悲しげに言った。
「祐一は自分でそのことに気付いていない。気付かないなら、そのままでいた方が良い。力があることを知れば、祐一はきっと悲しむから。普通の人間として生きられることは、とても幸せなこと」

「ええ、そのつもりです。強大な力は、決して人の為にはならない。あの人は、ある意味で川澄先輩と同じです。その能力を上手く使いこなし、折り合いをつけることができるような器用さを持ち合わせていない。きっと正面から受け入れて、正面から苦悩することになる。果たして、それに耐えきれるかどうか」
「……祐一の力は強い。きっと、私のより強い。だから、苦しみも哀しみも強くなる」

「ですが、いつまで隠し通せるでしょうか」
美汐が危惧するのは、まさにその点だった。杞憂であればと願うが、どうにも否定できない胸騒ぎ。天野が舞にこの話を切り出したのも、それがあればこそであったと言う。
「葛葉の血が、急を告げています。何かが変わり始めている。歯車はもう、動き始めている。そして一度流れ出した大いなる奔流は、決して塞き止めることはできない。それに逆らうことも、また」
そして天野は、葛葉の母が残した言葉の一節を、暗唱した。

“お前は生まれながらにして、神代の咒力を宿す者。高天より下りたもう我等葛葉の血を受け継ぐ者。
然れば、その忌まわしき命運尽き果てるその日まで、我等が血胤たるお前の咒は、同じく非業の宿命を背負う者たちを引きつけよう。お前は生涯その定めから逃れること適わぬ、人にして人に在らざる者……”


「――異能者は異能者を引き付ける。血は血を呼ぶ。母はそう言い残し、この世を去りました。
今、その言葉の意味を実感しています。私と貴女が出会ったのも、果たして偶然であったのか。
鷹山小次郎という女性にも、ただならない力を感じる。強大な力を持った異能者が、もうこの地に3人も集っているのです。相沢さんを入れれば4人。貴女ほどの人なら分かるでしょう。これは極めて驚異的な数です」

「……私も、そう思う」舞は表情を険しくして頷いた。
「不思議な胸騒ぎ。不穏な時の流れ。以前からずっと感じてる」
「全てが変わり始めています。私たちが望む平穏とは、違う方へ」

過ぎた力が悲劇を生むは必定。お前の往く所、常に哀しみが着いて回るでしょう。 故にお前は、これから多くの悲哀と共に生きていかねばなりません。なればこそ、強くなりなさい。我が仔よ。
己が力で、己が力を打ち破るために。その命運、切り開くために。
愛しき我が仔。美汐よ。いつの日か、お前に流れる我等の忌まわしき血汐が、霊注ぎ美しく清められることを願い、私はその名に祈りましょう。
強くなりなさい、美汐――

「己が力で、己が力を打ち破るために。その命運、切り開くために。
今となってはこの母の言葉、まるで迫り来る大いなる厄災を予見していたかのようにも思えます。
或いは、相沢さんもまた、異能者としての苦悩を背負う時が、否応無く来るかもしれない」
「祐一は――」舞は心に誓った言葉を、心に確かめるように唱える。「私が守る」


無論、彼女たちの出会いは偶然などではなかった。
未だ自覚に及んでいないが、砕破を始めとするエンクィスト財団の能力者との邂逅も既に果たされている。
数奇な定めに導かれ、異能者たちが集い、出会った。

――そして、少女たちを苛む悪しき予感は、既に現実のものとなり始めていた。







to be continued...


補足


葛葉くずのはと妖狐について

近年、風水や陰陽道のブームがあったせいで、安倍晴明あべのせいめいの名前は一般にも結構知れ渡るようになりました。彼は、最も有名な陰陽師(一種の占師+ゴーストバスター)として知られる平安時代の人物です。
そんな彼には色々な伝説がありまして、彼の母親である葛葉姫くずのはひめがキツネであったというのは、その代表的な例です。大阪の阿部王子神社には、キツネと共に描かれた葛葉姫の絵があります。
芸能の世界では、晴明の父が狐を助けたことから、その狐が女に変化して妻となり、生まれた子供が清明であるとされています。この話は、古浄瑠璃の『しのたまづまつりぎつね 付 あべノ晴明出生』などで有名だそうです(この話では、清明に霊力を授けたのは、この母狐となっています)。

岡野玲子氏は、晴明の母がキツネであるという伝説は、実は「橘女」=橘家きつけというのが誤って伝えられたのではないか、という仮説を立てているそうです。中国あたりの民話がモデルではないかという話もあります。
まあ、永遠に解き明かされることの無い謎ですので、解釈は自由というわけです。

これらの情報ネタから、妖狐=葛葉という設定は生まれました。
つまり、妖狐を葛葉と呼ぶ文化はありません。完全に私の創作ですのでご注意を。
(↑ 結局、これが言いたかった)

あ、そうそう。大阪には、『葛葉稲荷神社』といって葛葉姫を祀るシャイでグレートな神社が本当にあります。
天野美汐の実家として設定している『天之葛葉神社』はこれをモデルにしています。大阪在住の人は、遊びに行ってみると割とハッピーになれるかもしれません。


信太森葛葉稲荷しのだのもりくずのはいなり神社
住所は、大阪府和泉いずみ市葛ノ葉町3。JR阪和線北信太駅から徒歩で行ける距離です。
深い緑に囲まれたところで、社殿南にある楠の大樹は樹齢2000年を数えるとか。
姿見の井戸、白狐石、御霊石といった、伝説を偲ばせるものも多くあるそうです。晴明縁の地として割と人気があるような無いような…。
本気で行く読者がいたら、バシャバシャ写真とって、私に送って下さい(笑)。




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