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      //  黒 猫 天 使  //

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                       written on 1997/4/13

 

 

「うー、ムカツクわねー」

 

 アスカは今日もシンジの反抗に怒り狂っていた。

 肩をいからせて下校中なのである。

 

「ばかシンジ!」

 

 コーンと気持ちの良い音をたててコーラの空き缶が草むらに飛び込む。

 

「フミャア!」

 

 悲鳴一閃。

 ガサガサと何かが遠ざかる音とともに、一匹の黒猫が通りに飛び出てきて

アスカの目の前に現れた。

 

「にゃーお」

 

 アスカはぎょっと目を見開いた。

 彼女の耳にはこう聞こえていたのである。

 

(ありがとうアスカにゃん)

 

「ななななななな、今の何???」

 

 アスカは2、3度あたりをぐるぐると見回したが、目の前でこっち見つめ

ている黒猫しか視界に生物がいないのを確認すると、ぎゅっと強くほっぺた

をつねった。

 

「イタタタタ」

 

 夢ではないようだ。

 

 黒猫が再び鳴いた。

 

(ちょうどここらのボス猫に襲われていたんだにゃ)

 

(アスカにゃんのお陰で助かったにゃ)

 

 アスカはまだ半信半疑のようである。

 だが続けて頭の中に言葉が直接響いてくる事実は動かしようがなかった。

 話を聞いてみると、どうやらアスカの蹴った空き缶が偶然にもボス猫に直

撃したらしい。

 

(おいらは天使の卵。修行中の身なのでこんな姿をしているんだにゃ)

 

 黒猫はぺろりと頭を一撫ですると、

 

(そーゆーわけで、願い事を一つだけ叶えてあげるにゃ)

 

 その言葉を聞いたアスカの目がキラリと輝いたのを見て、黒猫は慌てて付

け加える。

 

(まだ見習いなので簡単な願い事しかだめだけどにゃ)

 

 アスカは少し残念そうな表情を浮かべたが、

 

「簡単ねぇ………」

 

 ピンと閃いて、にやりと極悪な笑みを浮かべた。

 

「バカシンジをあたしの奴隷にして」

 

(わかったにゃ)

 

(それじゃさよならにゃ)

 

 黒猫が言ったとたん、突風が吹いてアスカは思わず目を閉じた。

 

 

 気がつくとアスカはマンションの前に立っていた。

 先程までの出来事が嘘ではない証拠に、つねった頬に痛みが少しだけ残っ

ている。

 アスカはさっそく、シンジにどんな無理難題を吹っかけようかと思案を始

めた。

 

 そして夕食の時間がくるまで、アスカは自分の部屋に閉じこもって考え続

けた。

 今日の夕食はアスカの大好物であるドイツ風ステーキ。

 そして料理はシンジが最も得意とする分野である。

 

 文句の付けようがない味だった。

 

 だからアスカは文句を付けることにした。

 

 

「ちょっと、シンジ!!」

 

 びくりと、シンジがテーブルの反対側で身をすくませた。

 

 アスカは憤懣やるかたなしといった表情で叫んだ。

 

 

「すごく美味しいわ!」

 

 

(あれ?)

 

 

 シンジが目をぱちくりさせてこっちを見ているので、自分が言った言葉が

空耳ではないことはアスカにもわかった。

 

 

(え?)

 

 

「今日もシンジの料理は最高ね!」

 

 

(ちょっ、あたしこんなコト言うつもりじゃないのに!)

 

 だがアスカの心とは裏腹に、出てくる言葉はシンジ喜ばせるばかり。

 

 シンジはほんのりと頬を染めてうつむいている。

 

「あ、ありがと………アスカ」

 

 

 そして次の日も、また次の日も、アスカはシンジに対してだけは、嘘をつ

けなかった。

 

 

 こうしてシンジはアスカの奴隷になったのである。

 

 

 

               「ま、悪くないわね」(*^_^*)  byアスカ

 

 

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