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// 黒 猫 天 使 (2) //
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written on 1997/4/13
剥き出しの壁。
無造作に捨てられている包帯。
締め切られたカーテン。
血の付いたシーツ。
机の前に立つ紅い瞳の少女が手に力を込めた。
バキン
眼鏡が割れる音。心が割れる音。
まるでそれが合図だったかのように黒猫が現れた。
前足で顔を一撫でして鳴く。
(決心したのかにゃ?)
少女はこくんと頷くと言った。
「人間になりたい」
それを聞くと、黒猫は満足そうに髭を震わせた。
すると少女は小さくうめいて、白い手で自分の胸をそっと押さえた。
微かに微笑んでいるその瞳には、美しい涙が浮かんでいた。
次に黒猫は、ぴょ〜んと一跳びすると、とあるマンションのベランダに飛
び降りた。
そこには少年がペンギンを抱いて呆然と立ち尽くしていた。
「ミサトさんも、アスカも、もういない………」
「綾波にはどんな顔をして会えばいいのかわからない………」
「誰も僕を見てくれない………」
(だったら、どうしたいんにゃ?)
突然現れた黒猫に驚くこともなく、少年は呟いた。
聞き取れるか聞き取れないかの声。
(わかったにゃ)
黒猫は心をのぞき込んで彼の意志を確認すると、満足そうに髭を震わせた。
ちょうどその時、慌ただしい足音とともに、息を切らせた少女が部屋に現
れた。
「碇君! わたし………」
嬉しそうに声を上げた少女の表情が途中で凍り付く。
そんな彼女を二羽のペンギンが不思議そうに見つめていた。
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//おまけの砂糖//(ほろにが派)
暗闇の中、がばっとベッドから身を跳ね上げた影が一つ。
「夢………か………」
汗でびっしょりの額を拭って少年は呟いた。
慌てて服を着替えて部屋を飛び出す。
行き先は一つ。
同時刻。
暗闇の中、がばっとベッドから身を跳ね上げた影が一つ。
「夢………なのね………」
汗でびっしょりの額を拭って少女は呟いた。
慌てて服を着替えて部屋を飛び出す。
行き先は一つ。
さらに同時刻。
星降る夜空に浮かぶ一人と一匹。
(最後の願いだったのに、ホントにこれで良かったのかにゃ?)
(そ。これで良かったのよ)
栗色の髪を月の光に煌めかせながら、少女は天使の輪をぴんと指で弾いた。
(じゃ、おいらが案内するからついてくるにゃ)
無言で頷くと少女は黒猫の後に続いて天国へ向かった。
−おわり−
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