外伝其の参 I saw Mammy kissing Santa Claus

written on 1997/12/23


 

 

 はあ――ッ………

 

 

 白い息。

 

 降り積もる雪。

 

 街を行き交う幸せそうな人々。

 

 

 いつもは背を丸くして耐えるこの寒さも。

 

 いつもは気が重くなるこのどんよりとした暗い空も。

 

 いつもはうっとーしくてしょうがないこの人混みも。

 

 

 今日だけは特別。

 

 

 きゅっ、きゅっ。

 

 踏みしめる雪の音が楽しくて。

 

 高い靴だったのも忘れて一人ステップを踏む。

 

 きゅっ、きゅっ、きゅっ。

 

 ちょっと派手めの赤いコートがくるくる回る。

 

 

 しゃん、しゃん、しゃん。

 

 今度はどこからか心浮き立つ鐘の音色が。

 

 日本に来て初めてこの習慣を知ったときは、なんてバカな民族なんだろう

と思ったけど。

 浮かれた気持ちになれるのはそんなに悪いコトじゃない。

 

『メリー・クリスマス!!』

 

 今日一日で、いったい何回この言葉が囁かれるのだろう。

 

 

 

 そして鐘が6時を知らせる頃。

 

 あたしのサンタがやってくる。

 

 

「ごめんごめん。ちょっと仕事が抜けられなくて」

 

「ったく、こんな日に女の子を待たせるなんてサイテーね」

 

「ホント、ごめん。悪いと思ってるよ………」

 

「心の広いこのあたしでなきゃ、今頃とっとと帰ってるわよォ?」

 

「ごめんっ。ほんっとーに、ごめん!」

 

 そう言うと、あたしのサンタは慌ててコートの内ポケットから何かを取り

出した。

 

 その手に握られていたのは綺麗にラッピングされた細長い包み。

 

「あの……これ、クリスマスプレゼント」

 

 あたしのふくれっ面は10秒ともたなかった。

 いつの間にやら女の子の扱い方を覚えているシンジに驚きながらも、あた

しはその包みを受け取った。

 視線だけで『開けてもいい?』と問いかけてみる。

 

 シンジはにっこりと笑った。

 

 厚手の手袋を外して、ちっちゃなリボンをほどく。

 そして、寒さに震えているのか、期待に震えているのかよくわからない手

でゆっくりとそれを開けてみた。

 

 曇り空の下でも失わない輝き。

 

 シルバーのネックレス。

 

 小さいけれど、えらそーにダイアモンドなんか付いてる。

 そんなに有名じゃないけど、センスの良いブランドのやつだ。

 シンジの安月給じゃ、きっと給料一ヶ月分はする………

 

 あのバカ………

 

「これ、高かったでしょ?」

 

 ううん、お金の問題じゃない。

 

 そのお金を稼ぐために使った時間。労力。

 シンジのことだから、きっとプレゼントを選ぶときにも、凄く時間をかけ

て悩んでるはず。

 

 つまり、シンジは、あたしと一緒でないときも、あたしのことを考えて、

あたしのために努力して、あたしに喜んでもらえるよう頭を悩ませてくれた

ってことが嬉しい。

 

「ありがと………」

 

 そんなシンジにあたしはなにをしてあげられるのか。

 

 研究に没頭して自宅にいる時間は不規則。

 帰ったら帰ったで、わがままばかり。

 こっちの都合でシンジを呼びだして、こっちの都合で帰ってもらう。

 

 きっとシンジでなきゃ愛想を尽かされてる。

 

 シンジはあたしと一緒になって、本当に後悔してないのか。

 

 絶対に口には出さないけど、あたしはいつもそんなことを悩んでいる。

 

「仕事って、どーせカワイイ教え子たちに『せんせぇ、一緒にクリスマス・パーティーしません?』って、黄色い声で囲まれてたんでしょ」

 

 でも、出てくる言葉は、いつもこんな意地悪なセリフばかり。

 

 照れ隠し………なのかもしれない。

 

 条件反射………それもあるわね。

 

 相手に対して常に優位に立ちたい性格の表れ?

 

 ………いいこと言うじゃない。否定はしないわ。

 

 でも、それは全部わかってるから。

 

 シンジがあたしのことを全部わかってくれてるから。

 

 だから、言える。

 

 信じてるから、言える。

 

 

「ほら、さっさと行くわよ」

 

 予約しているレストランまでは、ここから歩くと15分はかかる。

 急ぎ足で歩き始めたあたしの横にシンジが慌てて並んだ。

 

 歩きながら、ちらちらとあたしの顔見てる。

 

「なによ?」

 

「え、いや、別に………」

 

 わかってる。

 

「あたしの顔になんか付いてる?」

 

「ん………そうじゃないけど………」

 

 わかってるわよ。

 

「忘れてないわよ。プレゼントでしょ?」

 

 シンジは、ちょっと恥ずかしそうに視線を地面に落とした。

 

 ………驚くかな、シンジ。

 

 あたしからのプレゼント聞いたら。

 

「今年はサンタさんから凄い贈り物が届いたわよ」

 

 あたしは突然立ち止まってシンジの方を振り向いた。

 あいつはきょとんとした顔で歩みを止める。

 

「贈り物?」

 

 首を傾げるシンジの顔を見てると、なんだか可笑しくなってくる。

 もういい大人なのに、こーゆー時は本当に子供っぽい顔つきになるんだか

ら。

 この子は、どっちに似るのかしら。

 

 

「できたの」

 

 

 あたしはこみ上げてくるシアワセを感じながら呟いた。

 

 

「あたしたちの赤ちゃん」

 

 

 

                              Fin.

 


 リハビリも兼ねて外伝に取り組んでみました。

 去年、途中まで書いて時間切れで中断してたヤツですけどね(^^;)

 本編も今年中に一本は書きたいところだけど………

 もう、みんな忘れてるかな(^^;)

 

 では、みなさんも楽しいクリスマスをお過ごしください!



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