【最後に見た物】

 

作:Fの紋章

 


 

 その日も、いつもと同じように俺は巡回時間までの一時を、同僚達と警備員詰め

所で、雑談にふけっていた。

 

 「そういえば三尉、もうじきお子さんが生まれるんですよね?。」

 「ああ、そうだよ女房のやつ、『今からどっちが生まれるのかを知ると生まれた

  ときの喜びが薄れる!』とか言って超音波検査の結果聞くの嫌がるから男か女

  どっちかまだわからないんだ。」

そう言って俺の上官は嬉しそうに、コーヒーをすすった。

 

ジリリリン、ジリリリン、

 

話を中断して俺は無粋に呼び出す内線をとる。

 「はいこちら、C−13ガードステーション」

それは警備本部からの命令の通知だった。俺はその内容に驚きを隠せなかった。

 「三尉、全員甲2種装備にて車両ゲートで第一種警戒体制をとれだそうです。」

 「甲2種装備だと!?、何かの間違いじゃないのか?」

 配備されている最も強力な対人武装の装備による戦闘警戒体制、すなわちそれは、

重武装された戦闘集団・軍隊が侵攻してくる事を示していた。にわかには信じたく

はなかったが、アラートディスプレイに表示された、第一種警戒体制達の表示がそ

れが事実だと知らせた。

 

 複雑な思いでガンロッカーから装備を取り出し全員が装備する。直ちに、配置場

所に急行、一班が、装甲車両と共に通路入り口にバリケードを築く、俺を含む二班

は通路出口側に車両止めを配置し警戒に当たった。

 

 配置について2時間、妙な地鳴りが響く、上で大型火器でも使用しているのか?

となると、相手はUN、いや戦自か・・・まさか、俺の古巣の連中に攻撃されてい

るのか?なぜ?

 

 さらに1時間、30分前に地鳴りはやんだ、地上に対する掃討攻撃が一段落がつ

いたのか?となると残存する兵装ビルがほぼつぶされたのか?まさか・・・新米の

柿崎が震える手でタバコに火を付けようとしているが火を付けることが出来ない。

 「おい、新米ここは禁煙区だぜ」

その俺の言葉を遮るように、三尉が柿崎のタバコに火を付ける。

 「まあ、良いじゃないか、少しは気を落ちつけないと・・・」

 

ガコン! ガコン!  ガコン!

 

 三尉の言葉を遮るように分厚い金属を貫通する鈍い音がする。俺達はその音源の

目を向ける、装甲車両が不自然に浮かび上がり、そして爆発した。俺はたたき込ま

れた反射動作によって伏せながら銃を構える。そして、爆風が通り過ぎると

 

タタン!タタタタタタン! タタッタン!タッタタン!!

 

俺にとって聞き慣れた22口径のライフル弾の連続発射音が鳴り響く、

 「うぐぅ!」

 「ぎゃぁ〜っ!!」

 その声に、俺が目を向けると爆風によって火傷を負い、銃弾に貫かれた三尉と柿崎

が崩れ落ちる姿であった。それだけではなかった。第二班の半数が倒れていたのだ。

絶え間なく続く銃撃、近づく軍靴のの響き、この数は小隊以上か?炎の先に兵士の

姿が見えてきた、この数ではここは持ちこたえないだろう。三尉が倒れた今、俺が

現場指揮官だ即座に残った者に指示をとばす。

 「行動不能な者をおいて全員ここから1ブロック後退する。その際全隔壁、防御

  壁を閉鎖しロックしろ」

 だが負傷した者の事が気になるのか後退速度が遅い。当たり前だ、この班の中で、

軍隊出身は俺だけだ。この状況に即座に対応出来はしまい、だがそうも言ってられ

ないのも事実。

 「お前ら死にたいのか!、奴等も重傷者にまで手をかけることはない!急げ!」

 その声にはじかれて皆は後退を始めた。俺はその事を確認して、隔壁開閉のスイッ

チを入れた。そして隔壁が完全に閉じる直前。俺は自分の耳を疑った。単発の銃声、

そして、短いうめき声・・・

 

 1ブロック後退したところで無線を傍受されないように通信機器をターミナル端

子に接続し、隔壁を破る爆発音が伝わる中、本部に状報告する。そして連絡の後あ

と俺は気が滅入る思いだった。相手は、やはり俺の古巣、戦略自衛隊。その規模は

知らされなかったがたぶん連隊か、それとも師団規模か・・・。そして何より俺の

気を滅入らせたのは、「残存メンバーにて垂直シャフトの侵入者を迎撃せよ」俺以

外は対人戦闘は素人だと言うのに・・・

 とにかく命令だ行くしかない、今この戦闘団のを指揮しているのはこの俺だ、指

揮官が作戦遂行意欲をなくしてどうする。

 「これより、ポイントを移動する。目的地はドグマ境界の垂直シャフト任務は、

アンブッシュ攻撃により侵入者の進行速度を低下させることにある。最長5分

間攻撃を行い。後退。攻撃地点を変更し、再度攻撃する。撃退する事は考える

な。本部が次の手を打つための時間が稼げればいい。何か質問は!」

三田村兵長が沈痛な面もちで質問を投げかける。

 「一曹、相手は誰なのですか?」

やはりこの質問が来たか・・・はぐらかしても仕方がない・・・

 「侵入者は、想像通り戦略自衛隊、つまり日本人、規模は確認されていないがた

  ぶん連隊か、師団規模の戦力を投入しているだろう、そして我々が今対峙して

  いるのはたぶん習志野の空挺団あたり・・・」

思い空気があたりを支配する。当たり前だ我々は使徒と呼称されている未知なる侵

略者相手に集っているのだ、人類を救うためで、人間同士殺し合いをするためにこ

こに居るんじゃない。しかし、相手は対人戦闘専門の集団がしかもジェノサイドが

目的だ、嫌がっていられない。

 「我々の任務はあくまで、相手の足止めをすること、相手を殺す事じゃない。我

  々が時間を稼いでいる間に本部が対策を立てるはずだ。どうしても相手を撃つ

  のが嫌やなら、威嚇射撃でも構わない、これ以上質問がないのなら出発するぞ」

俺達は足取りも重くその場を後にした・・・

 

 俺達は、戦自がまだ進入していない、知られていないルートを注意深く探り、交

戦することなく垂直シャフト近辺に到達した。ターミナル端子にに接続した小型端

末より状況を把握する。どうやらシャフトには侵攻がすでに開始しているらしい。

他の部隊もアンブッシュのためにこのエリア周辺に到達しているようだ。何処で待

ち伏せる?吹き抜けになった空間にあまり待ち伏せられる所はそうある物でもない、

となると側溝を使うしかないか?・・・

 2〜3人単位に人数を分け、側溝を使ってアンブッシュを行うことにした。そし

て俺はあまり径の大きくない側溝を選んで、待機した。

 

5分、10分、15・・・

 

 しかし、やっぱりかつての仲間に銃を向けるのは気が進まない、ネルフに配属さ

れるとき、人類を救う機関だと聞かされたのに、自分の与えられた任務の範囲でそ

の使命を果たしてきたというのに。何で俺達が殺されなきゃならないんだ?俺達が

何をしたというのだ!

 

キュィーーーン

 

どこからかジェットタービンの高周波音が近づいてくる。そして強力なライトに照

らされた俺が最後に眼にした物は、無生物のくせにまるで生物の様にのたうち、俺

達をポイントする35mm速射機関砲の銃口、そしてそこから開く炎の花・・・・・

 

                  糸冬


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