「ハクシュン!」

「あれ、アスカ風邪ひいたの?」

「チ〜〜〜ン!・・・・そうみたい。昨日暑かったから、クーラーかけっぱなしで寝ちゃったのよね」

「・・・あなたが風邪をひく筈無いわ」

「どういう意味よ、ファースト。あんた『バカは風邪ひかないわ』とか言う気じゃないでしょうね」

「・・・あなたバカだったの?」

「違うって言ってるでしょ!」

「クスクス・・・・・・・、猿は風邪ひかないわ」

「ファースト!」

「まあまあアスカ、押さえて押さえて」

「むっき〜、あんたまでファーストの肩を持つの!」

「違うってば!もう・・・とにかく、後でリツコさんのとこいって薬貰ってこよう」

 

 

発明2

 

 

 

 

りつこのおへや。相変わらず猫尽くしである。

「風邪薬か・・・・ちょっと待ってて」

言うや否や、机の引出しを開けごそごそ探し出した。

「えっと、これ・・・はちょっと・・・、こっちは前のだし・・・あっ、これね」

取り出したるは錠剤の薬。

「はい。食前に飲めば良い筈よ。効果はすぐ現れるから。取り敢えず三回分渡しておくわ」

「すみません、リツコさん」

お礼なんていいそうも無いアスカに変わり、深々と頭を下げるシンジ。

「お礼なんていいのよ。未来のお嫁さん候補なんですからね」

始めは何のことか分からなかった二人だが、アスカだけはすぐに気がつき、顔を真っ赤にして詰め寄った

「な、何言ってるのよリツコ!誰がシンジのお嫁さん・・・・」

最後のほうは恥ずかしさで消えてしまっている。ようやく事に気付いたシンジは、あらぬ妄想に突入したようだ。

「あら、私は可能性の話をしたまでよ?そこにいるレイだって可能性はあるわ。そうでしょレイ」

片隅でポツンと立っていたレイは真紅の瞳を瞬いてこくんと頷いた。

「それともアスカはすでにお嫁さん気分でいるのかしら?」

「な、何言い出すのよあんたは!い、い、行くわよシンジ!」

左手をむんずと掴んでさっさと部屋を出て行くアスカと引きずられていくシンジ。その後ろに頬をピンクに染めたレイが続いた。

 

 

 

「面白いわね、あの3人。ミサトの気持ちがわかるわ」

机に置いてある、デスクトップ型のパソコンの電源を入れる。

「さて・・・今回はどんな騒動になるのやら」

確信犯のようである。・・・・どうやら、色々あって、性格は彼女の親友に大いに似てきたようだ。

 

 

 

 

 

 

「「ただいま〜」」

「・・・おじゃまします」

靴を脱ぎ、部屋へと入る。

「お腹すいた〜。シンジご飯早くしてね」

セリフだけを残し、部屋へと消えていく。

「綾波、すぐご飯にするからリビングででもいてくつろいでてよ」

ぷるぷる

「・・・手伝う」

「でも、お客様にそんな事」

「いいの」

彼女は瞳を逸らすと言う事はしない。いつも真っ直ぐに、居抜くような視線を向けてくる。始めは少し苦手だったのだが、この頃は苦手というよりは恥ずかしくなってきた。

「そっか・・・じゃあお願いしようかな。制服のままじゃ汚れるとまずいから・・・、アスカ〜、エプロン借りるよ〜」

台所から声を張り上げ自分の部屋に居るであろうアスカにお伺いを立てる。

・・・・・・

「勝手にすれば〜」

「よかった。それじゃこれ使って。えっと、何を・・・・。うん、ジャガイモの皮でもむいてもらおうかな」

皮剥き機とジャガイモを袋ごと渡す。

「今日はシーフードカレーの予定なんだ。一緒に海藻サラダとジャーマンポテトでもってね」

「・・・わかったわ」

 

 

 

 

シャ、シャ、シャ、シャ・・・・・・

「・・・・こんなもんかな」

シャ、シャ、シャ、シャ、シャ・・・・・・

「えっと、後は・・・」

シャ、シャ、シャ、シャ、シャ、シャ、シャ、シャ、シャ、シャ・・・・・

「って、綾波!何してんの?」

彼女の目の前には、皮剥き機でよくぞといった感じのジャガイモのスライスが。

「・・・碇君(涙)」

「ほ、ほら、大丈夫だから。ジャガイモは僕がやっておくから・・・、レタスを千切るのを任せて良いかな」

「・・・わかったわ」

 

 

 

「あ、綾波、何してんの〜!」

「・・・楽しそうね」

こちらは、何故か自分の部屋でドアにべったり張り付き、外の様子を伺うアスカ嬢が一人。

「バカシンジ、何で私を誘わないのよ」

白魚のようなこの肌を〜、といつも言ってる事は、片隅にも残ってないらしい。

「まったく・・・ハクシュン!」

豪快にくしゃみをしてから、先ほど貰った薬の事を思い出す。

「そうだ、これがあったんじゃない」

嬉々として、外界との境にあるドアに手をかけた。

 

 

 

「あれ、アスカどうしたの?」

ラフな格好をしてでてきたアスカを見つけ、首をかしげる。

「夕飯はまだだよ?すぐできるから、もうちょっと待ってて」

「わかってるわよ、そんな事。リツコに貰った薬を飲みに来たの」

そう言って錠剤を一粒、手のひらに乗せた。

「あぁ、そっか。はい、水」

この受け渡しを見ると、やはり阿吽の呼吸だと思わされる。あの特訓はいまだに活きているのだろう。

「ありがと」

パク、ごくん。

「・・・・にが〜い」

多分気のせいだ、錠剤なんだから。

「風邪、治るといいね」

「あのマッドが出したものだから・・・心配だわ」

 

モニターの向こう側で、青筋を立てている金髪一人。

 

「碇君」

盛り付けが終わったサラダの器を持って、トテトテと近づいてくる。

「上手に出来たね〜、すごいや。ありがとう」

(ふん、それくらい私にだって出来るわよ!)

(ありがとう、感謝の言葉・・・・・私と一つになりたいのね)

「問題ないわ」

何故か赤くなっている頬には気がついたが、次元を一つ超えないと辿り着かないような結論を思いつくわけがない。

「よし、それじゃあご飯にしようか」

(あれもうできちゃったの!?)

「ん?どうしたのアスカ。ご飯だよ?カレーは煮込んであったからね。言ったでしょ、すぐできるって」

「あ、ええ。わかってるわ」

(くっ!『最近密かに練習してる料理でシンジをアッと言わせて、イチャイチャ大作戦』は失敗ね・・・)

作戦名の句読点以下が前半と繋がらないのは、気のせいに違いない。

 

 

 

 

(何食べてもおいしいわね〜)

「どう、シーフードカレー。結構うまくできたと思うんだけど・・・」

「まあまあね」

「ありがと。綾波は?」

「おふぃひいふぁ(おいしいわ)」

もう一年以上暮らしているのだ、アスカのまあまあは最上級の誉め方であるのは承知である。対してレイは包み隠さず前面に気持ちを言葉にする。が、顔に出ないのは何故だ?

「モグモグ・・・、にしても、よく効くみたいだね、リツコさんに貰った薬」

「そうね・・・・。ハ、ハ、ハクシュン!!」

「「「・・・・・・・・・」」」

本来なら『言ってるそばから・・・これだからマッドは』と続くはずだったのだが、部屋は静寂に包まれたままだ。なぜかと言えば、

「・・・碇君、何故二号機パイロットに抱きついているの?」

・・・・・・・・・・。

「・・・・きゃ〜〜〜〜!!!バカ、エッチ、変態!!!」

パッシ〜ン

小気味よい音だけが無情に響いた。

 

 

 

 

「今度やったら殺すわよ!」

「違うんだって!体が勝手に!!」

(もう・・・、もう少し気の利いた言い訳しなさいよね。・・・まったく、もうちょっとムードのあるとこならOKなのに・・・)

目の色を変えてアスカに抱きつくまで3秒足らず。思考が止まったアスカが再起動してシンジを昏倒させるまでが8秒。そのシンジが復活するまで3分あまり。

「ったく、油断もすきもありゃしないんだから!」

顔で怒って心で笑うという、非常に器用なことをやってのけるアスカ。

「だから、気がついたときにはアスカに抱きついてた・・・「クシュン!」

抱き。

「だだだだだだからね、このように、体が反応してしまって・・・・」

「一度ならず二度までも・・・・」

真っ赤になった顔は、テレなのか怒りなのか・・・判断はできない。

「バカシンジが〜!!」

「二号機パイロットだけ・・・ずるい」

綾波レイ・・・彼女だけはペースを崩さず、一人海藻サラダを頬張っていた。

 

 

 

先程よりも復活が30秒早くなったのは、耐性がついたおかげなのだろうか。両の頬に綺麗なもみじを咲かせ、少女に平謝りをする少年。

「ゴメン!でも、自分でも気がつかない間にアスカに抱きついてて・・・。もう何がなんだか」

「碇君、私にも」

「どうすんのよ!傷物になっちゃったじゃない!」

「あとのことを考えたら、できるわけないんだ。なのに・・・」

「碇君、私にも」

「これはもう、責任とって貰うしかないようね」

「僕はマゾじゃないんだ!いくらなんでも、そんな・・・」

「碇君、私にも」

「子供は三人でね・・・、庭のブランコで・・・フフフフフ・・・・・・」

「叩かれるのは好きじゃ無いよ!マゾなんて、そんな・・・・」

「碇君、私にも」

「それで、私は言うの、あなたが世界で一番・・・・・、クシュン!」

 

 

 

「もう、分かったから、理解してあげるから、泣いて土下座するのは止めなさい」

碇シンジ、哀れな少年である。

 

 

 

その後は、シンジの発作も起こることなく、どうにか夕食を食べ終わる事に成功。現在はリビングにて対策会議の真っ最中である。おつまみは、先ほどレイがスライスにしたジャガイモがシンジの手によって生まれ変わったポテトチップスである。

「怪しいのは、やっぱりリツコね」

ご名答。

「パリパリパリパリ・・・・・」

「って事は、・・・・・さっきの薬!」

ポンと拍手を打つ。

「きっとそうよ!・・・・って事は原因は私!?」

「今の推測だとそうなるね」

「パリパリパリパリ・・・・・」

「でも何がきっかけになるんだろう。こうやって話してても何も起こらないって事は、何か引き金になる事があるはずなんだけど」

「パリパリパリパリ・・・・・」

「う〜ん・・・。ファースト!あんたも少しは考えなさいよ!」

「パリパリ・・・・。これおいしいわ」

「おいしいのは分かってるわよ。あ〜っ!あんた、いったいどれだけ食べたのよ!」

見ると、山のように作ってあったのが、今では砂場の山級になっている。

「ちょ・・・・・・・クシュン」

抱き。

「そう・・・・、くしゃみがきっかけね」

「そそそそそそうみたいだね。は、ははっ・・・」

「笑っとらんで、はなれんか〜!」

シンジ、本日3度目のK.O。

 

 

 

 

打ち付けた後頭部を濡れタオルで冷やしながら、何も聞いてなかったレイに説明してやる。

「・・・ということなんだよ。多分、異性にしか効かないんだろうね。リツコさん、最近そういうの好きだから。だから綾波は何も心配しなくていいんだよ」

「・・・その薬、今は何処?」

こんな質問をされると思ってなかったので、少し驚いた。

「え、えっと、三回分貰ったはずだから、アスカ、何処?」

(表面上は)ご立腹のアスカに聞いてみた。

「ここにあるわよ」

ポケットから出てきたのは、禍々しい物体。左右の頬と後頭部の痛みの恨み言でも言いたくなったシンジは、少し情けなくなって肩を落とした。

無言でアスカに近付いたレイは、やはり無言でアスカの手のひらから裸のままの錠剤を一粒取り上げた。何をするのだろうと固唾を飲んで見守る二人。

と、

パク、ゴクン。

「「あ〜〜〜〜〜!!!!」」

二人の表情を片目でちらりと見ると、そのまますたすたとキッチンへ。まだ再起動を果たせない二人。

戻ってきたレイが握り締めていたのは、『胡椒』。

「あんた、何を・・・・」

言い終わる前に彼女が取った行動は、自分の周りに胡椒を振りまき、思い切り息を吸い込む事だった。

「・・・・クシュン」

抱き。

「・・・・碇君(ポッ)」

慌てて離れる。

「ああああああ綾波〜・・・」

「ファースト!あんた何やって「クシュン」

抱き。

「・・・碇君(ポッ)」

取り敢えず、すぐ離れたのだが・・・。

「シ〜ン〜ジ〜・・・・」

(浮気がばれた亭主みたいだ)

恐怖の片隅に思えたのは、貴重な経験。たぶんこの先、浮気なんてできそうにないから(理由は問うまい)。じりじりとにじり寄ってくるアスカをどうする事もできず、ただただ慄くばかり。

「ばかー!」

「何でぼくが〜〜〜〜〜・・・・」

碇シンジ、本日・・・まだ増えそうなのでここでは・・・合掌。

 

 

 

 

暴走するアスカ、もそうなのだが、一番の難敵は所構わず胡椒を振りまく綾波レイ。おかげで、

「クシュン」

「わわわわ!ゴメンアスカ!」

とか、

「クシュン」

「碇君・・・(ポッ)」

とか、延々と繰り返されていたりして。

で、どうなるかというと、

「シンジ、ファーストを止めるわよ!」

賢明な判断である。

「でも、どうやって・・・」

「くっ!今回はやむ無しね。いいわ、許可するわよ!」

「りょ―かい」

アスカは胡椒圏外へ避難。顔は苦渋に満ちた表情だが、耐える。

「クシュン」

抱き。

「碇君(ポッ)」

何度やっても飽きないらしい。が、今回のシンジは違った。

「綾波、ゴメンね」

耳元で囁く。

チュ

おでこにワンキス。

ポン!

雪のように真っ白な肌がピンク、そこから赤へと変わっていく。ペタンと座り込むレイに一気に近付いて、素早く胡椒を取り上げたアスカ。

「ふう、任務完了。ん?アスカ?」

「・・・・・黙ってくらっときなさい!」

「なぜだ〜〜〜・・・」

自業自得とも言い切れない。損な?役回りの彼にあらためて、合掌。

 

 

 

 

ぐずるレイを、何とか宥めてすかして、どうにか家へと帰す。もう夜も深いのだが、保安部の連中がマッドと髭メガネの愛の巣へと送っていってくれるだろう。

そこら中胡椒だらけのリビングを、とりあえずの掃除で一応綺麗にする。まあ、後日掃除しなおす必要はありそうだが。

「ったく、とんだ一日になったわ」

(僕が一番災難だったんだろうなぁ)

なんて考える。なので、ソファーに座っていたアスカがこちらに向き直っているのにきづいた時は少し驚いた。

「ま、まあ、今回の不祥事については、許したげるわ」

そっぽを向いて、恥ずかしそうに頬をピンク色に染めていた。不覚にも可愛いと思ってしまったシンジは、二人きりで居る事を強く自覚してしまった。

「あ、ありがと・・・」

「な、何よ・・・照れるじゃない・・・・」

「「・・・・・・」」

気まずい、それでいて暖かな沈黙。が、それはすぐ破られる。

「やばいわ!くしゃみでそう」

「わあ〜、ちょっと待って!」

「待てない!・・・は、は・・・」

(まずい!今度抱きついたら自分を押さえれる自信ない!)

「堪えて!」

「は・・・・・ハクション!」

・・・・・・・・・・。

「「?」」

二人の予想に反して、何も起こらない。

「・・・・・・どうやら、薬の効果が切れたみたいね」

「そうらしいね」

・・・・・・・・・。

「プッ、アハ、アハハハハ・・・」

「ハハ、ハハハハハ・・・」

『取り敢えず笑っとけ』の域だと思う。

ひとしきり笑うと、二人同時に肩を落とした。

「「はぁ〜〜〜〜」」

長かった一日は、こうして終わりを迎えたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスカ、その後自分の部屋のベッドにて。

「フフ・・・、今日は散々だったけど、今度は二人きりの時に・・・・。見てなさいシンジ、絶対とりこにしてやるから」

笑みの先には、残ったもう一つの錠剤。

「あんたは私のものなんだからね♪」

騒動の種は、まだまだ尽きないらしい。

 

 

 

 

 

ごめんなさい。いや、前回の短編で謝るのを忘れてたようなきがして。

ネタはどこかで見たことあるようなものばかりです。仕方ないんです、許して下さい。

 

今回のは、らんまだったかなぁ・・・。自信はありません。

この短編ではレイの天然を押し出していきたかったんですが、辛かった。必要以上に彼女を動かさないと、消えちゃうんですよね。・・・精進が必要だ。ちなみに、前回のとは、彼女の設定を少し変えてありますので、あしからず・・・。

 

テレビで『俺の歌を聞け〜』と騒いでいるので、この辺で。感想、ご指摘、苦情、何でも待ってます。気が向いたら送ってやって下さい。リクエスト(そんな技量はないか・・・)も。

では、またどこかでお会いしましょう。




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