「せんぱ〜い、こっちで〜す!!」

遠くの方で声をあげている後輩を見つけ少し落胆した。黄色いTシャツにベージュのハーフパンツと言ったいでたちの彼女なのだが、

(猫耳バンドは止めなさい・・・・。冗談で言ったのに、あの子本気にしたのね・・・)

基本はいい子なのだが、如何せん真面目すぎるのだ。先日確かに

『猫耳バンドか・・・、悪くないわね。マヤ、あなた意外と似合うかもしれないわよ?』

とは言った。だが、お茶目な冗談だ。しかし、気に入られようと(あくまで先輩後輩としてで、彼女にそっちの趣味はない)必死な彼女は間に受けてしまったらしい。

どうやって止めさせようか思考の5%を使う。と、隣にいる自分の連れが声をかけてきた。

「博士・・・・・・、お母さん」

殺気を感じて慌てて言い直す。

「なあに、レイ」

「・・・何故マヤチョムはあのようなものをつけているのでしょう?」

「・・・・その前に質問があるわ。・・・・・マヤチョムって何?マヤのことよね?」

「葛城三佐がそう呼ぶようにと」

(折檻ね)

「レイ、これからはマヤさんと呼ぶようにしましょうね。それで、さっきの質問の答えだけど、きっと彼女はあれが好きなのね。レイはあれを見て変だと思ったのね?」

「はい」

「多分それは正常だわ。ただ本人の前では言わないようにしましょう」

「はい」

「じゃ、みんな待ってるから行きましょうか?愛しのシンジ君もいるわよ?」

少し頬がピンク色に染まった。

「お、お母さん」

「フフ・・・、あなたは十分可愛いわよ」

彼女たちは海を目指す。

 

 

 

発明4

 

 

 

 

 

 

 

「おっそ〜い!何やってたのよあんたたちは!」

娘の恋敵、もしくは息子のお嫁さん候補、最近ぐんと大人っぽくなったアスカを見てリツコは少し微笑んだ。

「ゴメンなさい。お弁当の用意をしていたら思った以上に時間を取っちゃって」

言いながらちらりと右手にぶら下げたバスケットを見た。今回のは一味違う。これだけは息子に食べさせなくてはならないものだ、何を犠牲にしても。

「あ〜〜〜!!!ファースト、あんたそのカッコウ!」

オーバーリアクションだとは思うのだが、乙女の問題と言うのは、どれだけ注目を集めても解決するものではない。

レイは水色と白のストライプのTシャツに、白い短パン、大き目の白い帽子が彼女の頭をすっぽり覆っている。掛け値無しの美少女だ。

「あらあら」

リツコはアスカのカッコウを見てそう呟いた。赤と白のストライプのTシャツ、白い短パンに、大き目の麦藁帽子がチャーミングだ。彼女に色気が加わったら落とせない男はいないだろう。

さて、お分かりだとは思うが・・・、

「二人とも、ペアルックみたいだね」

毎度毎度、いらないところでいらない突っ込みを吐く鈍感一直線の彼、少なくとも4人の少女の心を掴んで離さない新世紀の色男こと、碇シンジはそう声をかけた。

「分かってるわよそんなこと!」

そう言って右手を大きく振りかぶった。

 

 

 

 

 

 

「シンジ君に、もう少し女心がわかればなぁ」

少し遠くで行われている微笑ましい騒動を横目に、タバコに火をつけるネルフの種馬こと加地リョウジ。

「あんたはもう少し自重しなさい」

その婚約者、葛城ミサト。この後リツコに折檻される事が決定している彼女は、ジト目でそうのたまった。

「そのうち後ろから刺されるわよ」

「き、肝に銘じておくよ」

その発言は冗談に聞こえない。

彼らの関係はやっと婚約、そう婚約なのだ。ここから先に進む予定はまだ立ってない。むしろ、この『婚約』と言う言葉が、彼の口説き文句の一つに加わっている事は秘密だ。

「さて、そろそろ出発しないとやばいんじゃないか?」

仕切りなおしとばかりにミサトに声をかける加地。

「ん〜?そうね、こんな時間か。あなたたち〜、そろそろ行くわよ〜!!」

 

 

 

誰が言い出したわけでもない。気がついたら行く事が決まっていた。何故彼らだけがと言えば、きっぱり「面白い」からだ。深く考えてはいけない。

ワンボックスカーに、七名は各々の指定席に乗り込む。

運転席には加地、助手席にミサト、その後ろにはマヤとリツコが乗り込んだ。そして大人たちの酒のつまみたる三人は最後尾に、シンジを真ん中に右にレイが、左にアスカが陣取って異様なオーラを放っていた。もう一人忘れてはいけない、シンジの膝の上にちょこんと乗る物体、ペンペン。

「クワ〜」

シンジとペンペンは、言い知れぬ左右から来るプレッシャーに耐えながら、楽しいものになるはずであろうこの小旅行が、迅速にかつ無事に終る事を、まだ始まったばかりなのに祈っていた。

 

 

 

 

 

 

道路は大きく右にカーブする。さて、この場合の後部座席の三人を見てみよう。

レイ・・・・・・・・・・・右側はドアなので問題なし。

シンジ+ペンペン・・・・・踏ん張りが利かず、大きく右へ。

「うわ〜〜〜!」「クワ〜!」

結果、

「・・・・・・・・碇君(ポッ)」

「あ、綾波、その、ゴメン!」

アスカ・・・・・・・・・・自分が抱きつくべき相手が、なぜか自分のライバルに覆い被さっているのを発見、即殲滅。

「何やってんの〜、バカシンジが〜!」

 

道路は大きく左にカーブする。この場合はどうだろう?

レイ・・・・・チャンスとばかりに自分から進んで左へ。が、思惑と異なり、いるのは鳥のみ。

ペンペン・・・先ほどの教訓を生かし、体全体で支える。が、突然蒼い髪の少女が突進、押しつぶされる。

「く、クワ〜〜」

シンジ・・・・学習能力なし。

「うわ〜〜〜〜!」

アスカ・・・・予想範囲内。しかし、思い人が覆い被さってくると言うシチュエーションは、彼女のCPUの処理速度では追いつかなかったようだ。

結果、

「バ、バ、バカシンジ〜!」

パシ〜ン

 

結論・・・・碇シンジに明るい未来はない。

 

 

 

 

 

加地の確信犯的なドライビングテクニックにより、一人の不幸な少年と不幸な鳥以外は、全く退屈せずに目的地に到着。

青い空、白い雲、引いては返す波、そして人人人・・・・・・。まぁ、夏場(毎日が夏だが)にしては、すいている方だ。

そう、ここは海。彼ら七人+一匹は母なる海へと帰ってきたのである。が、彼らにそんな感慨は無い。

「パラソル部隊、突入〜〜〜〜!」

ミサトの掛け声と共に、パラソル部隊事加地とシンジが駆け出していった。ちなみにシンジは、食料部隊、買出し部隊を兼任していたりする。

「さて、私たちは着替えに行きますか」

牽制しあっている残りのチルドレンを宥めすかせるような仕草を見せると、そうにこりと笑った。これから、彼女たちは戦場に向かうのである。

 

 

 

 

 

 

すでに水着を着ていたシンジたちは、面倒と言う一言によりその場で着替える。

「まだかな〜みんな」

「シンジ君、女性には色々準備ってのが必要なんだよ」

「はぁ、そんなもん何ですか・・・・」

「君も大人になれば分かるさ。それと、これは助言と言うより忠告なんだが、彼女たちが出てきたら、一人一人水着を誉めてあげる事だ。でないと、殲滅されるぞ」

「・・・はい」

遠い目をしてそう呟いた加地に、自分と同じ匂いをかいだシンジは思わず一滴の涙をこぼした。が、男たちの親睦会は長くは続かない。

「おっ、イタイタ〜!まったく、もうちょっとましなとこに作りなさいよ」

先頭にミサトとリツコ、後ろにマヤ、そして真打アスカとレイ。目を引かないはずが無い彼女たちは、このビーチを一瞬にして虜にしてしまったのだ。

では、簡単にそのいでたちを見ていこう。

ミサトは真っ黒なワンピース、だが露出部分は異様に多い。リツコは黄色いビキニの上からパーカーを羽織い、麦藁帽子をかぶっている。マヤは花柄のワンピース。

加地はこの三人に得意の良く回る舌で順番に誉めていった。

次にレイ。彼女の水着を一度シンジは見たことがあった。確か、三人でプールに行ったときだと思い出す。真っ白なワンピースはまるで彼女自身をあらわしているようだ、そんなことを考えて、ふと我に変える。どうやら、彼女の白に吸い込まれていたらしい。

最後にアスカ。当然と言うべきかなんと言うべきか、真っ赤なビキニだった。抜群なプロポーションと、放たれている雰囲気が、水着を着させられているのではなく着こなしているのを皆にわからせていた。ただ、シンジには刺激が強すぎて、どうも直視する事ができない。しかし、先達の言葉を守り、何とか自分の気持ちを口にしようとする。

「あの、そのう・・・、なんていったらいいのかわかんないんだけど、二人とも、その水着・・・、良く似合ってるよ」

二人のチルドレンはこのセリフに大いに不満が残った。どちらも、自分ひとりを誉めて欲しくて、自分だけを見て欲しかったからだ。が、14歳の彼にそれを要求するのは酷だと理解していた。よって、つたないセリフだが、彼の最大級の賛辞に、二人は最高の笑顔で答えた。

「「ありがと(う)」」

シンジ、笑顔に撃沈。

 

 

 

 

 

 

「あの、リツコさん・・・・」

パラソルの下で読書を決め込もうとしていたリツコは、自分の名前を呼ばれたので視線を上げることにした。

「シンジ君、何?」

そこには顔を真っ赤にして少しもじもじしたシンジがいた。

「あの、えっと、そのう・・・」

(まさかこれは愛の告白!?)

彼の表情行動から、リツコの天才的頭脳はそう答えをはじき出した。

(だめよ、だめ。私には愛しきあの人が・・・・・)

ここでまたもフル回転。

(でもシンジ君はあの人の息子、つまりDNAを受け継いでいて、将来有望・・・・)

乗り換え決定。

その旨を伝えようとしたその時、意を決したシンジが口をあけた。

「あの、リツコさん!前、頼んでおいた・・・・・その・・・・」

(いけないわ!まだ心の準備が・・・・、前?頼んでおいた?)

ようやく正気に戻ったリツコは何事かと思い出そうとする。

ポク、ポク、ポク、ポク・・・・・、チーン!

「あぁ、あれね。はいはい、ちょっと待ってね」

そう言って取り出したるは「リツコのバッグ」、通り名は「四次元ポケット」である。黒い革のバッグで、大きさは横50cm、高さが30cmくらいだろうか。そりゃあもう出てくる出てくる。容積の三倍くらいの物が出てきた時点で、シンジもさすがに気がついた。

(あの中、どうなってるんだろう?)

さすがに口には出せない。リツコに『入ってみる?』とか笑顔で言われたら、自分は正気を保っていられない、そう判断したからだ。

「あったあった、これよこれ。はい、シンジ君」

袋に入った白い粉薬を渡されたシンジは、救世主を見るような目でお礼を言った。

「ありがとうございます!」

いうや否や、自分の荷物から水筒を取り出して粉薬を流し込んだ。

「気をつけて、効果は3時間くらいで切れると思うから」

「はいっ!」

聞いていたのかいないのか、判断はつきかねたが、彼女はどちらでもいいと思ったのか、静かにまた持ってきた本に視線を落とした。

 

 

 

 

 

かけていった先にいたのは赤と青の少女。

「何やってたの、シンジ?」

待たされた事に少しお冠の赤の少女は、ぶっきらぼうにそう聞いてきた。

「ん〜、ちょっとね〜」

その返答に納得の行かなかった彼女は、少し困らせてやる事にした。

「それにしてもシンジ、良く来る気になったわね〜、泳げ無いのに」

(何言ってるんだよ、あれだけ『こなきゃ折檻!』って言ってたのに)

「大丈夫なのかしら〜♪」

しかし、アスカの予想を裏切ってシンジの返答は自信に満ちていた。

「任せといてよ」

(むっ、何よその余裕は)

訝しげに彼の顔を覗き込む。が、その自身げな表情を眺めているうちに、顔がピンクに染まっていく。あげく、トリップしてしまったようだ。

肩をトントンと叩かれ、後ろを振向いた。

「・・・・・碇君」

「綾波、大丈夫だよ」

心配そうな表情のレイに、にこりと笑顔を向けた。

「そう、よかったわね」

繋がっていない答えなのだが、それでもシンジはレイに笑顔を送りつづけた。

 

 

 

 

 

全員一致(とはいっても、アスカが意見し、その意見に残りの二人が反論しなかっただけだが)で、すもぐりをする事になった。

そのアスカは少し戸惑っている。泳げない筈のシンジがやけにはしゃいでいる、元気がいい。はじめは開き直っているだけだと思っていたのだが、内から出てきている余裕に、そうではないと思い始めていた。

「じゃ、僕から行くよ」

少し高い岩場から少し身を乗り出し、笑顔でそう告げた。

「ちょ、ちょっと、大丈夫なの?」

「まあ、見ててよ」

にやりとすると身を海へと投げ出した。

5秒・・・・、10秒・・・・、浮かんでこない。

「シンジ!」

慌てて飛び込もうとしたその時、ザブンという音と共にシンジの頭がひょっこり出てきた。

「どお?ビックリした?」

とびっきりの笑顔を二人に見せ、少年は嬉しそうにそう言った。それは、彼女たちを驚かせた満足感からと言うよりは、自分が何の道具も使わずに(と言うのには少し語弊があるかもしれない)泳ぐ事ができたと言う事実によりくるものだろう。

海に来てから押されっぱなしのアスカは、シンジに見とれている自分を自覚し、慌てて正気に戻ると不敵な笑みを浮かべた。

「シンジの癖に、生意気よ!」

そう言って彼のもとに飛び込む。

「うわ、あ、アスカ!」

ザブ〜ン

「ちょ、ちょっとアスカ!危ないじゃないか!」

「シンジのくせに、私を驚かしたバツよ!」

泳げる筈のアスカがなぜか自分の首に捕まって浮いているので、自分に当っている胸の膨らみを感じてドキドキしていた。

遅れてレイも海へと飛び込む。そしてなぜか、シンジの首へと捕まりに来る。

曰く、

「二号機パイロットだけズルイ」

シンジは嬉しい悲鳴をあげるしかなかった。

 

 

 

 

 

それから小一時間ほど泳いだ後、そろそろお昼だと言うリツコの声を聞いて上がる事にした3人。まだまだ遊び足りなかったが、空腹には勝てず即座にパラソルの方へと歩いていった。

途中、先に行ってしまったアスカをよそに、レイを呼び止めたシンジ。

「綾波、あのさ・・・・」

そう言って差し出したのは薄いピンク色の貝殻。

「これ、綾波にと思って。さっき泳いでる時に見つけたんだ」

「何故二号機パイロットでないの?」

普通の女の子ならば、素直に受け取るのだろうが、彼女は疑問に思ったことを口に出した。

「これは、綾波に似合うと思ったんだ。あっ、いらなかったら捨てていいよ」

プルプルプルプル

(ありがとう・・・感謝の気持ち、でもお母さんが感謝の気持ちは口に出さないと伝わらないって・・・・)

だから彼女は先ほどにも勝る笑顔で答えた。

「ありがとう碇君。・・・嬉しい」

「よかった、喜んで貰えて」

なんだかいや〜んな感じ。

 

 

 

 

さて、お昼ご飯。シンジが大量に作ってきた物とは別に、リツコが持参してきたお弁当があった。

「「「「「「「いっただきま〜す」」」」」」」

ペンペンに作法を要求しても無駄だ。彼はすでに魚を丸呑みにしている。

「プハ〜!この一杯のために生きてるのよね〜!やっぱ、海で飲むエビチュは違うわ〜!」

誰もが心の中で突っ込んでいるのだが、面倒なのか誰も口に出す事は無かった。

「これ全部シンジ君が作ったの?」

卵焼きを頬張りながら、マヤが心底驚いたように聞いてきた。

「ええ、そうですけど?」

「凄いわね〜。あぁ、お婿さんに欲しいわ〜」

「そんな・・・・・」

顔を真っ赤にしてテレまくるシンジと、殺気を放ってマヤを威嚇する少女たち。そんな彼らを見て、秘密兵器を出す事にしたリツコ。

「シンジ君、これ食べてみてくれるかしら?」

そう言ってバスケットから取り出したのは、少しだけいびつだが、必死で形を整えたのが伺えるおにぎり、そして足が6本しかないタコのウインナ―、ちょっと焦げている厚焼き玉子の入ったお弁当箱だった。

「それはね、今日朝早くから起きて作ったレイの作品なの」

「ホントですか!?」

素直に驚くシンジ、そしてアスカ。ちなみにミサトはすでに酔っ払いと化し、加地に絡んでおり、マヤはペンペンとじゃれあっていたりする。

受け取ったシンジは、取り敢えず卵焼きから食べてみる事にする。

パク

「おいしい!おいしいよ綾波!」

(愛情がたっぷりだもの、おいしくて当然よ)

リツコはどこか満足げだ。

「パクパク・・・・、これならどこにお嫁にいっても大丈夫だね」

さらっと凄い事を言うシンジ。レイはもう真っ赤だ。

「あら、それならシンジ君が貰ってくれるかしら?」

「!そ、それは・・・・」

パンクしそうなレイと、撃沈寸前なシンジに変わって、出し抜かれた形になったアスカが反論した。

「何馬鹿なこと言ってるのよあんたは!」

「どうして?アスカがお嫁さんになるからかしら?」

マッド兼お母さんは、真っ赤になった三人を見てクスリと笑った。

(・・・止められないわね)

 

 

 

 

何とか無事に昼食を食べ終わり、今度は少し遠くまで泳ぎに行こうと相談をする3人。ボートを出して、そこから海岸まで競争。一番遅かった人がバツゲームと言う趣向で決定したようだ。

「泣きを入れたって無駄だからね、シンジ!」

「アスカこそ、後悔するなよ」

いつもよりちょっと強気なシンジにアスカは少しドギマキしていたが、顔に出さないように必死に努力していた。

綾波嬢は相変わらず無表情だが、先ほどのお嫁さん発言がまだ引きずっている事は確実なようだ。

(お嫁さん・・・碇君のお嫁さん・・・・ポッ)

 

 

 

 

加地は最後の追い込みに入っていた。

「だからさ、一度だけだって」

「え〜でも・・・・」

「俺さ、実は婚約してるんだ。だからさ、君みたいな美人と最後の思い出をこの海で・・・」

ジャキ

「へぇ・・・この海で最期を迎えたいの」

「じゃ、じゃあ、私用事があるので・・・・・」

即座にその場を離れた彼女。その判断は正しい。

「か、葛城・・・質問があるんだが・・・」

遺言ね、いいわ」

「・・・後ろから刺すんじゃなかったのか?そりゃどう見ても・・・」

背中に当てられているそれの感触を感じて、ゴクリと唾を飲み込む。

「・・・だって、こっちの方が確実でしょ?」

加地は黙するしかなかった。

 

 

 

 

海岸までは結構な距離があるだろう。そこまでゴムボートで来た3人。ここから海岸まで競争する事にしたようだ。

「それじゃ行くわよ、よ〜い・・・・ドン!」

最後の『ドン』は飛び込みながら言ったアスカ。それを読んでいたレイが後に続く。

「アスカ、ズルイよ〜」

そう呟いて、シンジが後に続いた。そんな事を言いつつも、多分僕が負けるんだろうなぁなんて事を想像していた。

(二人とも・・・・・。ねだられるのはショッピングかなあ、映画かなあ・・・)

れっきとしたデートのお誘いなのだが、彼にハッキリと言わない限りそれがデートだと気付く事は無い。そうだとは分かっている二人だったが、何となくはっきりとは言わないようにしていた。

 

 

三分の二くらいまできた時だった。急に体に違和感を感じたシンジは、クロールのペースを落とした。

(なんだろ、体が重くなった・・・)

と、遠くでリツコの声が聞こえてきた気がした。泳いでいるため、断片的にしか聞こえない。

「シンジ・・・・時間・・・・切れ・・・」

(時間切れ?・・・・・・・・あぁ、・・・・薬の・・・・)

彼は大量の水に呑まれていった。

 

 

 

 

 

彼は夢を見た。

女神がゆっくりと近付いてくる。誰かが彼女の事を女神と読んだわけではないのだが、少なくともシンジには女神に見えたのだ。

ぎりぎりまで近づいた彼女の顔が目の前に広がっていく。

そして彼女は彼に「祝福」を授けた。

彼女はニコリと微笑む。

「・・・あの」

しかし彼女はシンジの呼びかけには答えず、来た時と同じようにゆっくりと遠ざかっていく

「待って!」

彼はその場から走り出した。そうしないと、一生彼女とあえなくなるような、そんな気がしたから。

全力で走る。

苦しくなって息をしようとしたとき、唐突に目覚めた。

 

 

 

 

 

 

 

ゴホッゴホゴホッ

飲んでいた水を吐き出し、シンジは貪るように新鮮な空気を吸い込む。

「シンジ、シンジ!!!」

「ア、アスカ?」

「シンジ〜〜〜〜〜〜!」

彼のあまり厚くない胸板で涙を流すアスカを見て、あやすように頭をなで続けるシンジ。

「ゴメン、でも、もう大丈夫、大丈夫だから・・・」

背中の砂が少し熱い気がするが、それよりも彼の胸に流れ落ちる彼女の涙の方がもっと熱かった。

「碇君・・・」

レイが自分の傍らに座っているのに気付いて、弱弱しいがそれでも笑顔を向けるシンジ。

「ゴメンね、心配かけて」

コクン

大きく頷いた彼女の目にも涙が溜まっていた。

(僕は二人の女の子を泣かして・・・最低だ)

この夏、彼は少しだけ大人になった。

 

 

 

 

結局、そのまま帰る事にした一行。念には念をと言う事で、しぶしぶ精密検査を受けることにしたせいもあるが、大人たちの体力が限界だと言うのが本音だろう。

帰りの運転手はよりによってミサト。しかし、彼女をもってしても、無茶な運転をする事はできなかった。

右肩をレイに、左肩をアスカに貸し眠りこける3人。そんな三人を見てリツコは微笑まずに入られなかった。

「あんた、お母さんしてるわね〜」

バックミラー越しにミサトが声をかける。隣のマヤもウンウンと頷いていた。

「あら、そうかしら?」

少しこそばゆい気がして曖昧な答えを返したものの、なぜか暖かい気持ちになった。

(こういうのも悪くないわね)

取り出したのはデジカム。それを再生し、少しにやりとする。

「?先輩、何見てるんですか?」

「あぁ、これね。さっきのマウストゥマウスの絵よ。結婚式で使えると思って」

「か、隠し撮りしてたの、あんた?」

お母さんの役目だもの、当然だわ」

きっぱり問い言い放つリツコに、マヤとミサトはただ笑うしかなかった。

 

こうして6人は、無事に小旅行を終らせる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあペンペン、お前どうにかできないか?」

誰もいない砂浜で顔だけを出して呟く加地。縦に埋められているので、足はもちろん手も動かす事ができない。その横で砂とじゃれあうペンペン。

「そろそろ潮が満ちてきて、非常にやばくなって来るんだが・・・」

聞いているのかいないのか、今度は加地の髪の毛で遊ぶ事にしたペンペンは、くちばしで加地の頭をつつき始めた。

海水を目の前にして、彼はただ祈る事しかできない。

 

こうして加地は無事に(?)人生を終らせる事となった♪

 

 

 

 

と言うわけで、四つ目です。

今回はいつもに増して落ちが薄い。と言うか、毎度毎度内容が薄い。

まあ、海ネタと言う事でこんなのしか思い浮かばない自分のひらめきもどうかと思ったりもするんだけど、まあこんあもんかなぁ。

 

 

ここで掲載されてる連載物のほうなんですが(この「発明」は、短編であってけっして連載ではないのです)、いろいろ考えるとこがあるのです。で、もしリクエストと言うか、続き見せろ〜と言う方がいれば、メールでその旨を伝えて下さい。三章までは書きあがってるので、順次掲載してもらえるよう作品を管理人さんへ送らせてもらいます。が、もしそういう方がいなければ、しばらくの間エヴァクエはお休みさせていただきます。勝手を言ってすみません。

 

発明のほうは、いい加減ネタが尽きたのです。何か良い発明品があれば教えてやって下さい。書くとしたら今度は学校編かな?

では、またどこかで会いましょ〜。

 

 

 




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