「こ、これよ・・・、私はこれの為にここまで研究を続けてきたのよ!・・・20年とちょっと、やっと完成したわ!!」
三角フラスコに入っている半透明の液体は、すでに色が危ない。これは人間、というより生物が口にしてはいけないと言う警告の色なのだと思うのだが、偉業を達成した彼女にとっては、そんな些細な事は気にもならないようだ。ちなみに20年とちょっとの「ちょっと」の部分に、彼女の最後のプライドが重く圧し掛かっているのは秘密である。
改めて。
いつものようにマッドのお部屋。が、今日はいつもの少し様子が違った。『真っ暗な中にモニターの光だけが・・・』と言うのがお決まりのパターンなのだが、今日は明るい部屋に、目の前に並ぶのは、化学実験用の器具と、果てしなく続くと思わせるような名前をもつ薬品の数々。変わりないものと言えば、白衣を着たマッドのみ。が、この人物がいる限り、この部屋に人が寄り付くと言う奇跡は起こらないだろう。
「さて、今回は・・・」
口元が妖しく斜めに歪んだ。
発明5
「きり〜つ、れぇ〜」
ヒカリの号令で、今日の学校での生活が終わり、3−Aそれぞれがアフタースクールを楽しむべくカバンに手をかけ次々と教室を後にする。
もちろん彼らもその一人となるわけで、とくに彼女はいつものように、どこでケーキを買うか、もしくはドーナツにするか、それともパフェ?なんて妄想を張り巡らせて、かつよだれなんぞをたらしていた。
「霧島さん、よだれよだれ」
「ハッ、じゅる・・・、エヘヘ〜いけないけな〜い。ねぇねぇ、ヒカリちゃん、マユミちゃん、今日はどこ行く〜?」
万年ノ〜天気娘のマナが、なぜか腕をぶんぶん振りながら、左右にいるマユミとヒカリを困らせていた。
が、しかし、このクラスには、アフタースクールを中学生らしくエンジョイできない者達もいるのだ。まぁ、言わずともわかるであろうことなので、その辺の説明はカットしたいと思う。
「あれ〜?アスカ、ふきげ〜ん。あ、今日はネルフだもんね〜。じゃあ、アスカの分まで遊んできてあげる〜♪」
「くぅ〜、あ〜・ん〜・た〜・わぁ〜〜〜!!」
「わぁ〜〜、待った待った!アスカ、もう時間無いからね?ほら、行こう!綾波、右手お願い!」
「・・了解」
がっしりと両脇を抱えると、アスカを後ろ向きで引きずるように連れて行く二人。
「くそ〜、離せ〜〜、一発殴らせろ〜・・・」
ネルフ三人組、早々に退場。
「センセ、相変わらずの猛獣使いぶりやなぁ」
「あれにはさすがに脱帽だよ」
「さすがシンジ君だね。そんな君もステキさ・・・」
「ん?渚、お前は行かんでええんか?」
赤い目をした彼は、一般の女子の皆さんを間違いなく虜にするであろう笑みを浮かべ、静かに答えた。
「どうやら、ネルフのみんなは僕の事が嫌いみたいでね、どうやら故意にずらされているようなんだ。。・・あぁ、シンジ君との愛の語らいが出来る場所が減ってしまうじゃないか・・・。一体、何故なんだろうねぇ?」
((それがあるからだよ・・・))
ケンスケとトウジは、口に出しても絶対に判ってくれない事は理解していたので、無駄な労力は使わず心の中だけで突っ込んだ。彼と知り合いなだけで、すでに無駄な労力を必要としている事実は、この際無かった事にしようと心に決めつつ。
本日の訓練はあっけないものだった。いや、そう呼べるものだったのかさえ怪しい。プラグスーツに着替える事もなく、格闘訓練をする事もなく、リツコに怪しい人体実験をされたわけでもない。強いて言うなら、三人でネルフの食堂の定番Aランチを、今日もネルフに泊まりで二、三日は帰れそうもないとぼやいているミサトにご馳走になったことぐらいだろうか。
このAランチが曲者だと言う事は、もうすでにお分かりだろう。
「アスカァ〜、時間だよ〜、起きて〜」
不可侵の領域外からお姫様を起こそうとするも、中々反応がない。このまま放って置いてびんたを二発食らうか、中へ入ってびんたを一発食らうか・・・、どちらも選択したくないとちょっと必死になるシンジ君。
「アスカァ〜〜ッ!!」
「・・・今日調子悪いから休む・・・」
それはいつになく元気のない声だった。その声は遠くから聞こえたように感じた。
「ちょ・・、アスカ?大丈夫なの?・・・・入るよ」
いつもならドアを開けた瞬間に枕の一つでも飛んでくるのだが、今日はそれもない。先ほどの声がどもって聞こえたのは、布団を頭から被っていたせいだった。
「アスカ、大丈夫?」
「・・・ちょっとだるいだけよ。今日は大人しく寝てることにするわ・・」
布団から顔を出さずにいるアスカを見て、寝起きの顔は見られたくないんだと勝手に自己完結した。
「今日はミサトさんも帰ってこないからアスカ一人だけど・・・僕も休もうか?」
顔が赤くなるのを感じた。
「あ、アンタは学校に行きなさい!私一人でも・・・平気よ・・・」
「・・うん、判った。なるべく早く帰るようにするから。朝ご飯どうする?」
「今は食べたくない・・・」
少し心配そうに、布団の中にいるアスカを見るが、取り敢えず一つ頷く。
「じゃあ、おかゆ作っとくね。昼の分もあわせて作っておくから」
「・・・ありがと」
素直に感謝の言葉が出てきたことに、アスカ本人が驚いた。
「じゃあ、僕は学校に行くから。安静にしてなきゃダメだからね」
ドア越しにシンジの声が聞こえた。
「うん・・・・」
極めて気弱そうに、かつ病人風な返事をする。
「いってきま〜す」
パシュ
ドアが閉まった音だ。
「・・・さて・・・・・」
タンクトップに短パン姿のアスカは布団を勢い良く跳ね除けると、足取りもしっかりと洗面所へ向かった。蛇口の前にある鏡の前に恐る恐る立つものの、まだ中に映っている自分の姿を見る事が出来ない。
(多分・・・怖いのね)
この自己分析がどんな役に立つのか判らなかった。
ゆっくり、極めてゆっくり俯かせた顔を上げていく。
そして・・
「なんじゃこりゃぁぁぁぁ!!」
彼女の頭の上には、いつものヘッドセットの代わりにとばかりに、かわいい猫耳がちょこんと乗っていた。
「これ」に気付いたのは朝起きてすぐの事だった。最初に気付いたのはおしりの方。
サワサワサワサワ
「・・・・・・・」
そう、確かに尻尾なのだ。直感的にこれは夢ではない事を悟るアスカ。叫びだしそうになる自分をどうにか自制し、次におかしな感覚のある頭の方を触る。
「・・・・・・・」
多分耳だと言う事は察しがついた。
次にアスカは考える。このときの冷静さは驚嘆に値する物だった。
(どうしよう・・・そろそろシンジが起こしにくる頃だ。・・・・・・この「格好」じゃ行けないわねぇ)
即座に仮病を使う事を決めたアスカ。この後はさほどと同じなので割愛する。
と言うわけで、やっと大声で突っ込むことが出来たアスカは、取り敢えず一安心・・・
「出来るか!!!な、何なのよこれぇ〜!」
ようやくパニックになることができ、大いに慌てる。
一通りパニックしたあと、今度は何ができるのかを試していく。それで判ったのだが、耳にも尻尾にもちゃんと神経が繋がっているようで、触ればちゃんと感じることが出来るし、尻尾の方は自分の意志で動かすことも可能だった。
鏡の前で尻尾を振り振りしながらポーズを決めてみる。
「にゃ♪」
沈黙。
喪失感。
何か人間として大事な物をなくした気がした。
「何この状況に甘んじようとしてんのよ〜〜〜!!」
しかし・・・、
(シンジってこういうの スキかなぁ?こういうのスキだっていう人種もいるようだし・・・。この格好で迫ってみたら『僕は猫耳属性なんだ〜〜!』とか言って襲われちゃったりしてぇ〜〜、きゃあ〜〜〜♪)
鏡の前で一人妄想に身もだえする猫耳少女と言うシチュエーション、なかなかシュールではある。
たっぷり五分間、尻尾をフリフリしながら身悶えた後、唐突に現実に戻った。
「はっ、こんな事をしてる場合じゃなかったわ!」
(こういう時は5W1Hよね)
つまりはいつ、どこで、誰が、何を、どのように、そして何のためにを模索するのである。
「まずは一番重要な『誰が』ってのだけど・・・」
ここで一つため息が漏れる。
「はぁ・・・、あの金髪マッドしかいないわよね・・・」
頭に浮かんだ彼女の笑みがあまりにも妖しかったのか、思わず身をブルっと震わせた。
「次に『いつ』と『どこで』だけど、・・これは昨日ネルフにいったときしかないわね」
ピコピコと尻尾が左右に揺れている。目の前にある鏡を見つめながら顎に手を当て難しい顔をしているのだが、頭についたその猫耳がその外観を台無しにしていた。
「『何を』、このわけのわかんない格好を、『どうやって』・・・・そう、これは今は棚上げね。で、『何のために』・・・・あのマッドのことだから『科学のためよ!』とか言いそうだけど・・・、どうせ楽しむためでしょうね」
もう一度ため息が漏れた。つまりは『自分ではどうする事も出来ない』事がわかっただけで、この先の指針になるような事を思い付かなかったからだ。仕方なくキッチンへ行って、シンジの作ったおかゆを食べる事にする。
お鍋の中には少し多めに梅粥が用意してあった。と、テーブルの上にメモ用紙が置いてあるのに気が付き、自然にそのメモの内容に目がいった。
『たくさん食べて早く良くなろう!!』
「・・・ばか・・」
「碇君、アスカどうしたの?」
「ちょっと体調が悪いって。多分今日一日安静にしてたら治るんじゃないかな?」
「そう、それならいいんだけど・・」
「アスカ風邪ひいたの〜?それじゃお見舞い行かなきゃ〜♪」
「ジャイアンさん・・それはダメ」
「何で〜??」
「マナさん、それ本気で言ってるんですか?」
「え?本気も本気〜。ねぇ何でいっちゃダメなの?」
(((((必要ない熱を出させるから・・・)))))
「それにしても、惣流のやつがおらんだけで、このクラスもえらい静かになりおるわ」
「まぁ、起爆剤的存在だからな」
「僕にとっては願ってもないチャンスだけどね。こうしてシンジ君との愛を確かめ・・」
ゲシ、ゲシゲシ!!
「・・・殲滅完了」
「あら、私ったら何てはしたない」
「シンちゃんのための戦いはマナちゃんの勝利に終ったので〜す♪」
「フ〜ケ〜ツ〜よ〜〜〜!!!」
ゲシゲシゲシゲシゲシゲシ!!!
「い、イインチョ・・・それ以上やったら、さすがに渚でもやばいんとちゃうか・・・?」
彼らはまだ、アスカに起こったことを知らない。
「さて、ミサトは確か二、三日は帰らないはずだから、問題となるのはシンジだけよね・・」
お腹いっぱいになったアスカは、そのままひなたでお昼寝をするなど、意外と余裕があるところを見せた。ちょっと寝すぎた彼女は、そろそろ学校が終るという時間に目を覚まし、慌てて対処策を練り上げなければならなくなったのだ。
「出来ればこの格好は見られたくないんだけど・・リツコの仕業だって言えば、信じてはもらえるわね」
これまで何度となくあの金髪マッドにはめられてきただけに、大概の事は『リツコの仕業』と言えば納得できてしまえるようになってしまったのである。とはいうものの、この恥ずかしい(であろう)格好を見られたくないのもまた事実。
「家の中で帽子・・・・は、はげるわね」
ホントか嘘かは知らないが、思ったことを口走る。
「新しいヘッドセット、カチューシャ・・・って見られたくないのよあたしは!」
リビングのソファーの上で一人突っ込みをする可憐?な美少女。
と、
パシュ、タッタッタッタッタ
「ただいま!!ちょっと早く帰ってきちゃった!アスカ、調子は?大丈・・・・・・・・ブ〜〜〜〜〜〜ッ!」
「お、お帰りぃ〜〜〜・・」
手を振るさらに右側で、尻尾がゆらゆらと振られていた。
「ど、どうしたのそれ?」
一定の距離を保ちつつ(もしもそれがアスカの趣味ならばなるべく静かにしておきたいと彼は思ったのだ)、当然の質問を投げかける。
「アンタ、今これがあたしの趣味だと思ってるでしょ」
「ち、違うの?」
「アホかぁ〜〜〜!!いくらなんでもこっち系の趣味は持ってないわよ!マヤならいざ知らず・・」
はぁ〜と嘆息を一つ。
「じゃ、じゃあ何でそんなのつけてるの?新しいファッション?それにしては少し斬新過ぎるんじゃなかなぁ・・・」
「これ、本物」
「・・・・・・・」
「ほら」
そう言って尻尾を左右にフリフリ、耳をピコピコと動かしてみる。一見飾り物に見えるそれは、アスカの意識したとおり、前後に左右にと自在に動いた。
シンジは今度こそ完全に絶句した。
「ま、リツコの仕業なのは明らかね」
こともなげにそう言い放つ。シンジは失いかけた自分をようやく取り戻し、事の経緯を聞いたのだ。
「朝起きたらいきなりこれだもの、驚いたわ。さすがに学校にはいけないと思って仮病を使ったわけ。しっかし、どうしたいのかしら、あのマッド」
「義母さんの考える事はいまいち解んないから・・」
少し慣れてきたのか、引いていた彼も少し興味が出てきた。
「ねぇアスカ、それ触覚とかあるの?」
「それって、尻尾の事?有るわよ。な〜んか変な感じなんだけど、触られてる感触は伝わってくるわ」
「ちょっと触ってもいい?」
長さ的には80cm程だろうか。触ってみると本当に猫の毛のような感触とほのかな暖かさが伝わってきた。
「アン♪」
「わっ、ご、ゴメン!」
「ヘーキよ。ちょっと敏感みたい♪」
「・・・・・・・」
顔を真っ赤にしたシンジ。それを見て、からかったアスカの方も照れてしまう。
「ば、バカねぇ、じょ、冗談よ。まったく・・・」
「そ、そうだよね」
座っていたソファーから慌てて立ち上がると、足早に台所へと向かう。
「ア、アスカお粥しか食べてないんだよね?ちょ、ちょっと早めに夕飯の支度するよ!!」
その後姿を眺め、自分も真っ赤になりながらも小さな笑みを浮かべる。
「・・・・鈍感。まったく、お子様なんだから。でもあいつ、ホントに猫耳属性とかなのかしら?」
頭にあるその耳に触りながら、尻尾の毛づくろいを始めた。
その日の夜は、少し期待していたシンジの夜這もなく、2時半ごろにはうとうとし始め、極めてさわやかな朝を迎えた。
「あっ、アスカおはよ〜」
「・・・おはよ」
「ん?どうしたの?って、そんなのついててぐっすり眠れるわけないか」
「ちょっとね・・・」
『あんたの夜這いを待ってたのよ!』とはけっして口が裂けてもいえないアスカは、誰にもあたる事が出来ず必然的に機嫌も下り坂なのである。
「今日、学校どうするの?また今日も仮病使って休む?」
「いいわ、今日は行く。ま、教わる事なんかは何もないけど、家にいるのも退屈だし」
「い、行くって・・・・、その格好で?」
「何とか誤魔化すわよ」
『アンタが他の女にちょっかいかけられるのが嫌なのよ!』とけっして口が避けてもいえないアスカは、考えてちょっと頬が赤くなった。
「それにしてもリツコのやつ・・・、見つけたらただじゃおかないわ!」
それを誤魔化すかのように目の前に置かれたトーストにかぶりつきながら、闘志の炎を目に灯す。
「ネルフにもいないみたいだし、自宅にも帰ってないって、父さんが・・・」
「おおかた、『秘密の研究所』とかそんな場所に隠れてるんでしょ!」
笑えない冗談だとシンジは思った。
「でもホントどうすんのさ?マナとかにばれたりしたら良い笑いもんだよ?今日は大人しく家にいた方が・・」
「行くって言ったら行くの!」
(ただでさえ横一線なのよ!ここで差を広げられるわけにはいかないの!そこんとこ判ってる、バカシンジ!)
「頭には包帯でも巻いておけば良いでしょ、実験で事故があったとか何とか言ってさ。尻尾は、服の下ね。背中のほうへ回してその上から制服着れば良いんじゃない?」
本音はシンジと片時も離れたくないという事なのだが、彼女のプライドがそれを見せないようにする。これが邪魔さえしなければ、一緒に住んでいる彼女がこのレースの主導権を握ったに違いなかったのだが、それが彼女のアイデンティティであり、彼女が彼女たる所以である。
「わかったよ。でもばれても知らないからね。まぁ、フォローはするけどさ。今日は出来るだけ僕といっしょに行動してね」
「し、仕方ないわね」
思わぬ展開に、心の中でガッツポーズと万歳三唱をしながら高らかな笑い声を上げていたのを、まったくシンジに気づかせなかった彼女の自制心に感服である。
いつもの待ち合わせ場所で、彼女は宣言したとおり頭に包帯を巻いてやってきた。
「アスカ!あなた、大丈夫なの?」
「おっはよヒカリ!全然へ〜きよ、ちょっと大げさにしてあるだけ」
「アスカ怪我したの〜?」
「ちょっとね〜、一昨日の訓練で」
レイが訝しげな顔をする。
「?」
それを見たアスカは先手を打つ事にする。
「ファースト、ちょっと」
一団とは少しはなれ、声が聞こえない距離まで移動すると、念には念をという事でさらに一段声のトーンを落とす。
「ファースト、何も聞かないで協力して欲しいの」
「・・・・・」
後ろからシンジの声がかかった。
「綾波、今日一日アスカの話にあわせて欲しいんだ。お願い!」
「・・・・・」
二人を見つめ、少し考えるそぶりを見せる。そして、(彼女には珍しい動作だが)拳をポンと打ち、何かを思いついた。
「にんにくラーメンチャーシュー抜き」
「うっ・・」
「今度の日曜、碇君と二人でお買い物」
「ううっ・・・」
「僕は・・構わないけど?」
(私が構うのよ!)とは口が裂けてもいえない彼女。
「ラーメンは了解したわ。けど!買い物の方は・・・私も同行!これでどう?」
再び思案。シンジは苦労が二倍になるこの案を却下したいのだが、多分自分の意見は反映されないだろうと思って何も言えなかった。
「・・・了解」
ここでごねても、最悪の場合買い物にいけなくなるという可能性もあったので、ここは無理せず実を取る事にした。まあ、二人きりではなくてもシンジと一緒にいるという事が今の彼女にとっては大切な事なのだ。
何事も無かったようにまた一団へと戻る3人。が、そこにはもう一人ネルフに通う彼がいた。
「事故があったのかい?おかしいね?昨日行った時そんな話は聞か・・」
ゴッ!
テンプルにアスカのストレートがクリーンヒットした音。グリンと白目をむき、そのまま前に崩れ落ちるカヲル。
「そうだね〜〜、いこっかぁ〜」
「え、えぇ、そうしましょうか・・」
女子四人がいつものように前を歩き、その後ろに男子4−1人が続く。
「ま、いつもの事やしなぁ」
「でも、今日のはちょっと危ない音だったぜ」
(ゴメンねカヲル君・・、骨すら拾えないけどきっと復活する事を信じてるよ・・)
後ろを振り返らず、滝のような涙を流しながら、シンジは友人に最後の別れを告げた。
ただでさえ目立つ彼女が、包帯などしてきたらさらに目立つわけで、教室についた早々彼女の机の周りにはちょっとした人だかりが出来ていた。ヒカリ、マナもそれに加わっており、ちょっと居辛くなったシンジは自分の席へカバンを下ろしにに行った。
「おはようございます」
「あ、山岸さん、おはよう」
これがマユミの日課である。一緒に登校出来ない分、朝必ず最初にシンジに挨拶をする。
「アスカさん、どうしたんですか?」
「一昨日、ちょっとね」
少しの罪悪感とともに言葉を濁す。そのまま少し朝のSHRまで他愛のない話をする。今日は戦自娘やネルフの核爆弾が乱入してくることも無さそうなので、この少しの間の最上級の幸せを噛み締めるようにシンジに笑顔を向けるマユミ。ここでレイの存在を忘れていたのが彼女の失敗だったりする。
最初の問題は二時間目の体育だった。
「泳ぎたい!」
シンジは泣きそうになった。どうしたらその発想がでてくるのか、一度彼女の頭の中をリツコに調べてもらおうとさえ思ったくらいだ。何故彼女のフォローをするなんていったのか、少し後悔する。
「ダメだって・・・」
「だって、炎天下の中一時間中制服でプールサイドで見学なんて拷問よ!」
「だったら、保健室にでも行ってればいいんじゃない?」
早く着替えないと自分も遅れてしまうと、少しそわそわするシンジ。
「それだと暇でしょ!」
「それくらい我慢しなよ・・・」
「いや!・・・シンジ、アンタ話し相手になりなさい」
「・・・は?」
「アンタも保健室に来て私の話し相手になるの」
軽い眩暈がした。確かにフォローするとは言ったが、わがままに付き合うと言った覚えはなかったからだ。しかし、彼女の中で両者が同義であることは多少なりとも理解できた。
はぁ〜
今日一日の自分の運命が少し判った気がした。
その後は事あるごとに「シンジ、頭痛い〜さすって〜」やら「ここがいたいの〜」「シンジ〜♪」。そしてその度に殺気のこもった視線を三方からいただく事になって、神経をすり減らしてすり減らして・・・胃にいくつか穴があいたかもしれない。
「シンジ〜手がしびれて箸がもてない〜」
そして、最大の難関がやってきた。
「えっ?」
「お弁当。なんか手がしびれちゃって〜。箸がもてそうにないの」
周りにはこの先どう動くのかを興味津々で見守る面々と、ごく一部これまで以上に込められた殺気を含んだ視線を感じて、逃げ出したい衝動に駆られるシンジ。
「ね〜シンジ〜」
彼は何を迫られているのかはすぐにわかったし、どう粘っても結局しなければならない事も判っていたのだが、それでもこの場はとぼけなければいけなかった。
「な、何かな?」
(もう、トボケちゃって!私だって恥ずかしいんだから!)
「た・べ・さ・せ・て」
ピシっとどこかの空気が凍った音がする。
「今日一日はフォローしてくれるって言ったのに」
ボソッと声が聞こえた。
(僕は猫耳になったアスカをフォローするとは言ったけど、怪我をしたアスカをフォローするとは言ってないよ!)
心の声とは裏腹に、彼の手は彼女の箸へと伸びていった。
昼休みもアスカが離してくれないため外へ遊びに行く事も出来ないシンジ。ニコニ顔のアスカを見ていると(まぁ、いっか)なんて思っているのだから重症なのかも知れない。
だから、一緒にいるアスカの様子が少しおかしい事に今やっと気がついたとしても変な話ではなかった。そう、窓際で今にも寝そうなくらい目を細めボ〜っとしてしまっている。隣で話し込んでいるヒカリやマユミの話にも入ろうとしない彼女を見て少し?マークを浮かべた。
「アスカ?」
声にちょっとだけ反応して首を少し傾けた。
「ん〜何?」
「いや・・大丈夫?なんか調子悪いんじゃない?」
「ちょっと眠いだけ。この日差しが眠気を誘うのよ〜」
(そう言えば猫って日向ぼっこしながら昼寝するのって好きだもんな。・・・?)
ここで少し疑問が生じた。
(リツコさんにしては少し淡白だよなぁ。ほんとにこれで終わ・・)
キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン・・
思考はチャイムのよって途切れた。しかし、その結論はもうまもなくでようとしている。
六時間目、一番たるく眠い時間。今日の地獄は日本史だった。アスカはこの授業だけは必死で勉強した記憶がある。来たばかりの頃、中間テストでレイに負けたのがよっぽど悔しかったのだろう。今ではどの100%日本人の血を引く者よりも自分は日本の歴史に詳しいと自負している。
先ほどから頬が痒い。
「ではこの問題を・・・そうだな、惣流」
「えっ・・・は、はい」
突然で少し驚くも、これくらいの問題は何ともなかった。
「えっと、ありわらのにゃりひらにゃ」
はっと口をふさぐアスカ。
「え・・・と、なんだって惣流?」
「にゃから、ありわらのにゃりひらにゃ」
空気が凍てつく様相を見せてきた。
「にゃりひらっていうのは何だ?」
「にゃ、にゃにがにゃ!にゃんでもないにゃ!」
迷惑な事に、軽い逆切れだ。しかし、よほど慌てたのだろう。気が立ったのかもしれないが、耳がピンと立ってしまった。そう、包帯で隠していた筈の耳が。
「ア、スカ?」
後ろのヒカリが目を疑いながらも声をかけてきた。
「にゃ、にゃに?」
「そ、それ何?」
頭を指差されて悟った。
「にゃ、にゃにって・・・」
ガタンと言う音とともにシンジが立つ。
「すみません、アスカと僕、体調が悪いので早退させてもらいます!」
取る物も取らず、アスカの手を引いて逃げるように教室を後にするシンジ。
彼らが見えなくなってからきっかり30秒後、教室は爆弾が投下されたような騒ぎになった。
「何あれ!耳よね耳!」
「作り物じゃないの?」
「でも、作り物には見えなかったぜ。ありゃほんもんじゃね〜のか」
「んなわけないだろ」
「逃避行よ逃避行!あれは愛の逃避行よ!」
「きゃ〜、碇君カッコよかったわよね〜♪なんか王子様みたいな〜」
「あの・・・授業」
「なんやセンセ、全然元気そうやったやないか」
「フッフッフ(撮った!)」
「アスカ、碇君・・・フケツヨ〜〜〜!」
「赤毛猿・・・許さないわ」
「また抜け駆けされましたぁ」
「シンちゃんが盗まれちゃった〜〜。もう〜、アスカめ〜」
ワイワイ、ガヤガヤ・・・・
「だから、授業・・」
「何となく、嫌な予感はしてたんだよね〜朝から」
ハァハァと肩で息をしながら、どうにか落ち着かせようと胸に手をおく。
「まったく、その通りになっちゃったよ」
アスカの方を見ると、手で口元を隠している。そろそろどこの学校も授業が終る時間で、こうして公園に中学生が二人ベンチに腰掛けていても不審がられる時間ではなくなってきた。
「アスカ、大丈夫?」
「にゃんともにゃいにゃ」
ぷっっと吹きだすシンジ。
「あ、アスカ、どうにかなんないのそれ」
「わらうにゃ〜。あたしだってにゃんとかしたいにゃ!」
たまらず笑い転げてしまった。
「も〜、知らにゃいにゃ!」
頬を膨らませて怒ってしまったアスカ。が、しかし、その頬を見てまた吹きだしてしまった。
「ハハハハハハハハ!!!」
「にゃ、にゃににゃ〜!」
「ハハハッ!あ、アスカ、鏡見て鏡」
お腹を抱えてヒーヒー言っている。
「にゃんだっていうんだにゃ〜」
ポケットから取り出して、覗いてみる。
「にゃ、にゃんにゃの〜〜〜!」
そこにはピンと三本、両方の頬に生えているひげ。
「ひげにゃ〜!」
「アハハハハハ!」
「笑いすぎにゃ〜!」
「だ、だって・・・プッ!アハハ!」
「うにゃ〜〜!」
公園にきていた人たちは不思議に思ったに違いない。ベンチでじゃれあう中学生二人組み、1人は優しそうな顔立ちに魅力的な笑顔、もう1人は美女には違いなかったが猫耳のようなものをつけたコスプレ少女なのだから。
その後どうなったのか。これ以上はさすがにやばいと思ったシンジがミサトに相談。飛んで帰ってきたミサトに散々なじられてアスカがマジ切れしたというエピソードを含めつつ、自宅の秘密の地下研究室に潜伏していた赤木リツコを確保。
「だって〜〜、かわいいと思ったんですもの〜〜!」
とはリツコ談。
すでに作ってあったワクチンを投入して一件落着となったわけである。
そんな中で二つだけ事件前と事件後で変わった事がある。
まず一つ、アスカの好物に焼き魚が加わった事だ。
「今日は秋刀魚にしてね〜」
一番暑い季節が終わりそろそろ秋。去り行く季節を思いながら日々もまた過ぎる。
もう一つは、
「シ〜ンジ!」
「お昼寝?」
「うん!」
シンジはソファーの上に正座する。
「いいよ」
彼女は、シンジの足の上に猫が丸まるようにちょこんと乗ると、そのまま目をつぶって夢の中へ落ちていく。これが変わった事その二。このままの体勢で約1時間から2時間は動けないので足がしびれるのは覚悟するのだが、それ以上に彼は幸せなのだから良いのだろう。
彼女の寝息が聞こえてきた頃、彼もまた夢の世界へと誘われていく。移り行く季節の中、自分を探して旅する旅人達に訪れた小さな幸せ。
そんなお話。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
後書きみたいな物
なんだこれ?こんなのにするつもりはまったく無かったんだが、気がついたらこう終ってて・・・。
ふむ、どこをどう間違えたんだろう?
お久しぶりです。
なんだかな〜。他のサイトに感想を貰ったお礼で一本だけ出したものの、それ以外はまったくの怠け者生活。
良いんです、大学生だから(爆)。
そう、謝らなければいけません。どうやら、この小説は重いらしく、原因は無駄なソースがいっぱいあるかららしいのですが、どうしたらいいのかわかりません(泣)。どうも、自分の環境ではどうする事も出来ないようで、なんか新しいソフトとかを入れないとダメなようです。と言うわけで、しばらくこのままです。ごめんなさい。
え〜、電波です。とりあえず猫耳アスカを出す事しか決めなかったらこうなりました。
次があるとすればレイさんにスポットが当るかな?その次はマナ、でマユミと。
と言うわけで、感想も貰えれば嬉しいですが、ネタをもらえるともっと嬉しいです。
誰か無いですか、ネタ。
映画だらけの8、9月ですか。映画館とビデオで8月入ってから15は見たでしょう(ほとんどが洋画ですが)。この先はジュラシックパーク3(期待はしてません)とカウボーイビバップ(これに完全にはまりました。期待大です)ですか。
9月はほとんどネットが出来ない環境になるので、その前に一本送ってみました。楽しんでいただけたらこれ幸いです。
では、またどこかで・・。