『自分は何者で、何処から来て何処へ行くのか』

誰もが考える、この世の中で最も難しく極めて簡単な問いである。

『彼は誰の事が好きなんだろう?』

恋する乙女が毎晩悩まされる、なによりも崇高で愚かな問いである。

『チョコにすべきかキャンディーにすべきか』

何ものにも変え難い、重要な問いである。

『今日のおかず何かしら』

現実的かつ尊い問いである。

『何でみんな僕にちょっかいをかけてくるんだろう?』

鈍感一筋。

 

誰もが何かに疑問を抱きながら生きている。

疑問をもたないのは無知か全知−つまりは神という事になろうか。

ただ、世の中上手くいかないもので、全ての疑問に答えが用意されているわけではない。上に挙げたのがいい例である。

では一つ問いを出してみよう。これは答えが用意されている物だろうか。

 

 

 

 

 

 

現実か夢か

 

 

 

 

 

「「いってきま〜〜す」」

「は〜い、いってらっさ〜い」

台所からニョキっとはえている缶ビールのついた手に見送られながら、すっかり秋になった空の下を学校目指して二人並んで歩く。最近は、隣で歩かないとアスカが怒るから適度な距離を開けて歩くようにしている。他愛もないことを話しながらいつもの集合場所、四つ角のカーブミラー下へと足を向かわせる。みんなの姿が見えると、アスカの表情が少し曇った気がしたけど、多分気のせいだ。

いつものように集団登校。どうも美人どころがたくさんいるせいで、みんなの注目の的になっちゃうんだよね。女子からも、カヲル君のおかげですごい眼差し、それこそ人が殺せるんじゃないかと思えるくらいで見つめられて、自分に向けられてるわけじゃないのに顔を赤らめて下を向いての登校になる。そんな僕を面白がってか知らないけど、時々「シンジく〜ん♪」なんて声をかけられたりして、ますます恥ずかしい。

玄関につくと、みんなの下駄箱の掃除が僕の日課。よくもまぁ懲りないなぁといった数のラブレターをみんなの下駄箱から取り出して、ついでにいたずらで入っている(これも毎日、少しへこんじゃうよね)自分のところのラブレターもどきをビニール袋に入れると、ようやく上履きにはきかえることが出来る。

その間のアスカや綾波やマナの視線が、殺人光線を含んでいるような気がして気が気じゃないんだけど、それを顔に出したら(何でかはわからないんだけど)折檻されるような気がして、いつも苦労するんだ。

階段を三階分上がって、廊下の突き当たりが僕たちのHR。

ドアを開けると、山岸さんがトテトテと走ってきてペコリと頭を下げる。

「おはようございます」

「おはよう、山岸さん。今日も早いね、図書当番?」

「はい」

ここでも他愛のない話をして、でも後ろから突き刺さる視線がすごく痛くて。

 

 

 

最近夢を見る。あの海岸の夢を。幻想的で、二度と思い出したくないあの日。確かめたわけじゃないけど、多分僕以外の全ての人の記憶から消えてる。何故僕だけに残ったのか?あの時何が起こったのか?どちらもいまだにわからない。

 

 

 

休み時間は、よく当時の机のところに行く。『3馬鹿』(アスカ命名)とカヲル君でよく話をするんだ。

「そろそろ文化祭だね」

「そやな。なぁ、今年もバンドやるか?」

「去年は使徒のせいで潰れちまったからな。今年はそんな心配ないんだろ?なぁ、シンジ、やろうぜ」

そう、もうすぐ文化祭なのだ。クラスの出し物の他に、個人でステージの出し物に参加できるシステムなので(去年は潰れちゃったけど)、その話をしてるんだ。

「それは良いね。その話、僕も混ぜてくれないか?」

「お前、なんか楽器できるんか?」

「大体はね。バイオリン、チェロ、ピアノ、フルート・・・」

「いや、それはちょっと・・・。ドラムは?」

「もちろん」

「よし、大歓迎!な、シンジ、やろうぜ!」

断る理由は何処にもない。だって、この話題がしたくて文化祭の話をふったんだから。

「OKだよ。・・・あっ、肝心のボーカルどうするの?」

「おるやないかそこに、興味心身でワイらの話をきいとるやつらが」

顎でさした方を見ると、慌てて目線をそらす五人がいた。

「それにな、センセと渚が一声かければ、オーディションひらかなあかんくらいにぎょーさん集まるで」

「?・・・カヲル君はわかるけど、何で僕・・?」

「お前・・・・いや、いい。シンジの場合天然だったな」

「?」

時々、話についていけなくなることがあるけど、僕はみんなと話してるときが一番楽しいんだ。こういう雰囲気って、今まであまりなかったからね。

「さすがだよシンジ君、その天然ぶりは。教えてあげるから、さぁ僕の胸に!」

ゴス、ゴス、ゴス、ゴス

・・・チョークが当った時って、こんな落としたかな?四本とも綺麗にこめかみにヒットしたから、復活は放課後くらいになりそうかな。さすが元使徒の生命力というべきなのかはわからないけど、常人ならとっくにいき絶えてるだろうね。

「はぁ〜、ウチのクラスのおなごはあないなのばっかりやからなぁ。もうちょっとましなのはおらんもんかいなぁ」

トウジ、洞木さんがすごい目つきで睨んでるよ。もぉ、少しぐらい気付いたっていいもんなのにね、トウジって本当に鈍感だなぁ。

 

 

 

あの時の後遺症はまちがいなく残ってる。

時々先の事が見えるんだ。他人の意識が勝手に流れてくる事もあるし、心の声が聞こえてくる事もある。これはよっぽど無いけど、一瞬だけ他人を操れたりもするんだ。

僕にはまったく必要のない能力。

 

 

 

お昼ご飯兼昼休みの時間。いつものように屋上でみんなで食べる。ついで(なにがついでなのかはわからない)と言って、いつもアスカ達もついてくるんだけど、みんなで食べた方がご飯もおいしいから僕は毎日これを期待してる。

「今日のおかずは?」

赤い弁当箱を渡す時、目を輝かせたアスカが僕に聞いてくる。

「今日は、卵焼きでしょ、シャケの塩焼きに、ミニハンバーグ、後プチトマト」

「うむ、よろしい」

最近はおかずについて駄々をこねなくなったんだ。多分夜中に毎日台所でごそごそしてる事が関係してると思うんだけど・・・知らない振りしていた方がいい事だって世の中にはあると思うんだ。

「いいな、いいな、シンちゃんの手作り良いな〜」

「ダメ!あんたはあるでしょ自分の」

「む〜、けち〜」

「はい、綾波」

「ありがと」

「レイちゃ〜〜ん、おかず交換しよ〜」

「・・・ダメ」

「む〜〜〜〜!ケチケチケチケチ〜〜!」

「僕のでよかったら良いよ」

「やったね〜、シンちゃん優し〜♪じゃあね、卵焼きとから揚げ交換ね♪」

ギロリ

なんかすごく視線が痛いんですけど。山岸さんはなんかものほしそうなめをしてるし。

 

「はい、鈴原、お弁当」

「いつもすまんな、イインチョ」

「い、いいのよ、三つ作るのも四つ作るのも同じなんだから!」

「ほな、ありがたくいただくわ」

いつものこの儀式が終って、カヲル君は女子の皆さんに貰った大量のお弁当を完全に平らげて、ケンスケは何かぶつぶつ呟きながら血の涙流して・・・。僕はホッとするのと同時に、どこかで不安がまた募っていくのを感じてるんだ。

 

話題はやっぱり文化祭。クラスの出し物についてだね。

「喫茶店か、食事物か、後お化け屋敷か。大体そんなものじゃないかな」

「わたしはだ〜んぜんビビンバ屋さん♪」

なぜ、ビビンバ?

「あんたねぇ、短絡的過ぎるわよ」

た、短絡的なの?ビビンバ屋さんが。

「イインチョ、なんかええ案でとるんか?」

そう、先週から目安箱を設置して、クラスの出し物の案を出してもらってるんだ。毎日集計してるのが、委員長の洞木さん。だから最近洞木さんの帰りが遅くなって、女子1人じゃ帰りが危ないからという理由でトウジを残してるんだけど・・・、あの感じじゃ進展はないみたい。ちょっとがっかりかな。

「一番多いのは喫茶店。次点がお化け屋敷で・・・、後は横一線ね〜。まぁ、何をやるにしても、中学校最後の文化祭なんだし・・・」

「パーっと華咲かせないとねっ!」

最後、と聞いて少し切なくなる。このままだと、第一高校への進学は義務付けられてるし、チルドレン候補生の僕らへの扱いも変わらないはずなので、高校を出るときまではまず間違いなくこのままのクラスなのだろうけど、それでもこの学校で暮らす残りの事を思って、寂しくなった。

「そろそろ昼休み終りますよ?そろそろ戻った方がよくありませんか?」

「そうだな、行こうぜ」

 

 

 

あの時、僕は人類の中で一番神に近づいたのだとおもう。いや、もしかしたらあの瞬間、神そのものになったのかもしれない。けれどそれは一瞬のことで、でも、一瞬で十分事足りてしまって、神である事を止めた。

 

 

 

午後の授業は眠い。

どの先生がどんな風に授業をしても、眠いものは眠い。クラスの三分の一はこの欲求に耐えられなくて、机に突っ伏している。トウジやマナ、アスカも例外ではなく、とくにトウジはいびきまでかいて、先生のこめかみをひく付かせている。洞木さんがどうにかしようと試みてるけど・・・焼け石に水だろう。多分心地よい子守唄にしか聞こえない筈だ。

 

 

 

寝るのが恐い。目が覚めるのが恐い。

もしかしたら、今ここにいる自分は夢の中で、目が覚めるとあの海岸からの続きの現実が待ってるんじゃないかって。天国と地獄の狭間、昼と夜の間のあの時、静寂と沈黙の世界が待ってるんじゃないかって。

 

 

 

帰りのSHRが終って、トウジと洞木さんを残して邪魔者であるクラスの面々は、早々に教室から出て行く。アスカが間際に洞木さんに何か耳打ちをしていたけど、彼女のあのリアクションを見ると大体想像はつくね。

「さて、帰るわよ!」

アスカを待ってたんだけど、とはけっして口に出せない。今日はみんな用事があるらしくて、大人しく家に帰ることにする。

・・・アスカと二人っきりで帰るなんて久しぶりだ。むっ?なんだ?何を緊張してるんだろう、僕は。なんか手に汗かいてきたぞ。

「あ、アスカと帰るの久しぶりだね」

「何言ってるのあんた、昨日だって帰ったじゃない」

「そうなんだけどさ、その、二人っきりというか・・・・」

何を口走ってるんだ僕は。あぁ、アスカも下向いちゃった。・・・もしかしてアスカも意識してる?・・・・・まさかね。

 

結局会話らしい会話もできないまま、玄関の前まできてしまった。よく考えてみれば、アスカと二人っきりなんて、ミサトさんが帰ってこない日は、いつもそうじゃないか。何を考えてたんだろう。

何となく玄関のドアの前でたちつくしてしまっている僕らを別の視点から見てしまった感覚がして、思わず笑みがこぼれた。

「・・・はいろっか」

「・・・あ、当ったり前じゃない!」

よかった、いつものアスカだ。

 

「・・・もしもし、・・・何だミサト、何?・・・・・うん・・・・・・うん、分かった・・・・・・・・!な、何バカな事いってんの!用がないなら切るわよ!!え、何?・・・・・バカ!

がちゃん!

・・・・よくもまぁもつよね、あの電話も。もしかしてあの電話、リツコさん作なのかな?そうだとしたら・・・・ぞっとしないなぁ。

とりあえず目の前で着々と炒められている野菜たちを置いておいて、少し声を張る。もちろんリビングにいるアスカのところに声が届くようにだ。

「アスカ〜!ミサトさんなんだってぇ〜?」

「知らないわよ、あのバカ!!」

でてくるのは苦笑い。

「今日の夕飯のこといってなかった〜?」

「・・・・あんな奴のご飯、一生作んなくて良いわよっ!!」

やっぱり夕食はいらないんだ。多分今日もネルフに泊まりかな?結局アスカも僕もミサトさんには甘いんだよね。もし夕飯がいるんだったら多分アスカのセリフは「あまりもんでも食べさせとけばいいのよっ!」だろうな。こういうところがアスカのカワイイところだと思う。

「ねぇ、今日の夕食は何?」

「わぁっ!!!!」

「な、なによ。そんなに驚く事ないでしょ?」

「そ、そうだけど・・・」

僕の顔絶対赤いよ!ばれなきゃいいんだけど・・・・。

「ははぁ〜ん・・・さてはまたHな事でも考えてたなぁ〜」

「ちちちちちち違うよ!!!」

「なぁ〜に動揺してんのよ。あやしいわね、・・・・ほら!正直に白状しなさい!」

「や、止めてよアスカァ、く、くすぐったい・・・」

「ほれほれ〜、正直に言わないか」

「あ、アスカ、野菜、こげちゃう」

もちろん、野菜炒めはおしゃかになっちゃったんだけどね。まぁ・・・いっか。

 

そろそろ寝ないと明日起きれなくなる時間。アスカも眠たそうだし、自分の部屋って言っても物置なんだけど、行こうかな。

「アスカ、僕そろそろ寝るね」

「こんな時間か。私も寝るとしますか。・・・あっ、シンジ」

部屋に向かっていた足を止め、振り向く形で答える。

「ん?なに?」

「・・あんた最近何に悩んでるの?」

「えっ?」

完全に虚を突かれた形になった。

「気付かれてないと思ってるでしょ?ばればれよ。もちろん2馬鹿にもナルシスホモにもね。みんなの代表で私に聴けって言われたの」

あぁ、そうか。だから今日、みんな用事があるって・・・・。ハハ、それにしても随分時間がかかったなぁ。

「・・・それは私たちにも相談できない事なの?」

この時点でもうすでに随分心が軽くなった感じがした。そのせいか、余裕ができたようだ。

「う〜ん、そうでもないんだけど。これは自分で解決しなきゃいけない問題だと思うから・・・」

「そう。・・・・・」

何かを言うべきかどうか迷っているようだ。

「・・、だったら、愚痴ぐらい言いなさいよね!それぐらいだったら、聞いてあげれるんだから!」

言うやいなや、ダッと部屋の方へかけて行ってしまった。それを呆然と見送る僕。

「・・・・・・」

あのアスカが僕を励ましてくれた・・・。明日は雪だ。

「はは・・・、アハハハハ!」

最後、アスカの顔は真っ赤だったと思う。それが引き金になって、笑いが止まらなくなってしまった。

「そっか・・」

僕は何を恐れていたのだろう。どっちでも良いのだ、夢だろうと現実だろうと。どちらにいたってそれを確かめる術はないんだ。境界線がどうやって引ける?

僕はお腹を抱えながらベッドに横たわる。こんなに大笑いしたのは何年ぶりだろう?

ここには僕がいてみんながいる。僕を支えてくれる、僕を構成しているたくさんの人たちがいる。これ以上、何を望むというのだろう。だから戻ってきたんじゃないか。

布団をかぶると、暗闇の中へ落ちていく。けど今日は昨日までとは違う。今日は安らかな眠りが期待できそうだ。

「おやすみ・・・」

眠りが、意識を失う事が、死への練習だとしても、今日は大丈夫。

 

だって、あのアスカが僕を励ましてくれたのだから。明日降る雪を見るまで、死ねないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後書きみたいな物

 

どうも、GUREです。これを見てくれている皆様には、毎度毎度ご迷惑をおかけしています。重たい事です。DARU様にはもう感謝の一言しか出ません。いま、何とかしようとしているところなので、長い目でみて、且つ、待ってやって下さい。

ということで、1人称です。こっちの方が書きやすいですね(上手い下手は別にして)。色々あって、なれているというかなんと言うか・・・。が、ストーリー的にはまたシンジ君とアスカさんの絡みのみで終ってしまいました。いかんなぁ、何とかせねば。

日常が書きたかったのですが、明らかに失敗です。日常になってませんもん(爆)。

誰も待ってない次は、無茶な伏線を張った文化祭でいこうかなぁと・・・。じゅ、11月までには・・・。

もう3つ書きかけのがあるのですが、没になりそうな予感がヒシヒシです。

 

今回はこの辺で。またどこかでお会いしましょう・・・。

 




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