いつまでも忘れない   6th phrase

               テスト

 


 

 

  カヲルが転校してきてから一週間、カヲルはクラスに慣れて、クラスもカヲルに

慣れてきた。

 

 相変わらず、レイの、カヲルに対する態度は厳しいものだったが、けんか腰ながら

も、多少の会話は交わすようになった。

 

 そんな二人の様子は、いつもの事として定着しつつあった。

 

 カヲルはといえば、シンジと必要以上に仲良くしているので、他の女子は取り付く

しまも無かった。

 一部では、シンジとカヲルの関係は、特別なのでは、という説も流れてしまうほど

だった。

 実際、カヲルはかなり危険な発言をしたりするし、シンジも否定せずに顔を赤くし

ながら、ただ慌ててしまうだけなので、疑惑は深まるばかりである。

 

 シンジを良く知っているアスカは、まさかな、と思いながらも、一様注意を怠って

いない。

 

 

 そんな日常にも、一つのイベントがやってきた、中間テストである。

 

 それぞれの学力としては、アスカが、学年一位を独走している。

 シンジとケンスケは、中の上で、当たり障りの無い成績を取っていた。

 トウジは、ヒカリに助けられても、下の上程しか取れない。

 そのヒカリは、アスカに及ばないとはいっても、好成績である。

 レイとカヲルは、転校してきたので、まだデータが無い。

 

 

 中間テストのカリキュラムも終わり、待っているのだが、見たくない結果が返って

くる。

そして、休み時間に答案の見せ合いが始まる。

 

「今度の数学、シンジはどうだった?」

 

「うん、あんまり良くなかったよ。」

 

「どれどれ? ばっかねー、こんな所でぼんミスしてぇ。だからあんたはいつもボケ

ボケしてるって言われるのよ。」

 

「はは…。」

 

 そんな事を言うのは、アスカだけだ、と思いながらも、笑って受け流した。

 

 アスカは、まだ未知数であるレイに、結果を聞いてみた。

 

「レイ、あんたはどうだったのよ、ちょっと見せて。」

 

「う、うん。」

 

 レイは少しためらいながら、アスカに答案を渡した。

 

 アスカは、レイの答案をしばらく見ていた、そして、

 

「あんた、なによこの答案は。」

 

 アスカは、少し怒っているような様子でレイに聞いた。

 

「え、何かあった?」

 

「何かあった?じゃないわよ。こんなのシゲルが見逃しても、この私は見逃さないわ

!まず、こっちの問題ができてて、何でこっちができてないのよ。それからここ、途

中まで完璧なのに、不自然な計算ミスで点を落としてる。どうしてよ!」

 

 ちなみに、シゲルとは数学担当の教師である、アスカはなぜか呼び捨てだが。

 

 レイは、明らかに狼狽していた。

 

「出来るのにできない振りをするなんて、許せないわ!」

 

「アスカ、そんなに怒らなくてもいいじゃないか、綾波も困ってるよ。」

 

「あんたは黙ってて!」

 

 アスカは自分が馬鹿にされたような気がして、腹が立っていた。

 もちろんレイにそんな気はない。

 アスカもそれを分かってはいるが、収まりがつかないのである。

 

 そんな様子を見かねたカヲルが、アスカの側にやってきた。

 

「まあまあ、僕の答案でも見るかい?」

 

 アスカは、カヲルを睨み付けながら、答案をひったくった。

 

「 … うそ …。」

 

 アスカは驚いた、自分でも為し得なかった答案がそこにあった。

 まさに、一分のミスも無い完璧な答案だった。

 

 カヲルはいつもの微笑みをたたえながら、アスカに言った。

 

「僕たちはしょうがないんだよ、生まれたときから、こういう事になっているん

だ。」

 

「カヲル! やめて!!」

 

 レイは悲痛に叫んだ。顔は青ざめている。

 

「 … 分かった、レイが自分で言えるようになるまで、僕は黙っているよ。

というわけで、レイが言うまで、この話題には触れないでいてあげて欲しいな。」

 

 アスカは先ほどのショックと、今の二人のやり取りを見ていて、呆然としていた

が、正気に戻ると、闘志を燃やし始めた。

 

「ふふふ、いいじゃない?今までライバルというライバルがいなくて、張り合いが無

かったのよね。

レイ!あんたもカヲルみたいに出来るなら、遠慮は要らないわ、私も全力でやるか

ら。今度変な事をしたら承知しないから。」

 

 多少乱暴であるが、アスカらしい心遣いであることが、シンジには分かっていた。

 

 レイもその言葉で、少し気を取り戻して言った。

 

「分かったわ、今度の期末では手加減しないから、覚悟しといてね!」

 

「望むところよ!」

 

 シンジは、アスカの優しさを、うれしく思う反面、自分の出る幕はないな、と少し

寂しかった。

 

(レイとカヲル君にどんな過去があったんだろう。綾波のあの反応は普通じゃない

な…。でもカヲル君の言う通りに、綾波が自分で話してくれるまで待とう。それが今

の僕に出来る事だな。)

 

 

 そして、すべての結果が出た。

 カヲルはアスカを抜いて、学年トップ、レイは今回、上の下ぐらいであった。

 シンジ、その他は、いつもと同じだった。

 

(見てなさいよ、レイ、カヲル、次は負けないから!)

 

 アスカはライバルが増えて、ますますやる気を出していた。

 

<続く>

tetrapot@msn.com 1998 9/15 HAL



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