// 最後の... Junchoon版//




 決戦前夜。

 

 ジオフロント内、半壊のパイロット更衣室。

 

 プラグスーツを装着しているレイ。
 カーテンで仕切られた向こうの空間では、同じようにシンジがプラグスーツに着替えている。
 二人とも終始無言である。

 

 ――――今日、この時のために、お前はいたのだ。

 

 あの人の言葉、私が生まれてきた理由、無に帰る瞬間。

 


 目の前が霞んで、暖かい滴が、頬を伝う。
 滴は、世界が軋む音をたてながら床で弾け飛ぶ。

 


 碇君、碇君、い か り く ん。

 


 涙は止まった。

 



 シャッ

 



 カーテンが開く音に、シンジは顔を上げた。

 


シンジ:綾波、準備はいい?

 

 レイ:………

 

 レイは無言のまま、シンジの目の前までつかつかと歩み寄ってくる。

 

シンジ:どうしたの?

 

 何も言わずに、レイは、そっとシンジの頬に触れる。 そして...
 レイの小さな唇が、すっとシンジの顔に近づいてくる。
 誰も気付かない、肩の震え。 でも、意を決したように。
 そのままシンジの首筋に腕を絡め、唇を重ねる。

 

シンジ:な...あ、綾波?!

 

 レイの白い頬がほんのりと桜色に染まって見えるのは、気のせい?

 

 レイ:………最後、だから………。

 

シンジ:………ちょ、ま、待ってよ!

 

 レイ:………

 

 紅い瞳は、シンジの心を必死に読みとろうとしているようで。

 

シンジ:こんなの、やだよ………

 

 レイ:………そう。ごめんなさい。

 

 心とは裏腹に、声からは何の感情も読みとれず。

 

シンジ:あ、ち、違うんだ、そうじゃなくて………
    その、あの、そんな、最後だなん、て...別れのキス、みたい
    じゃ………ない………か………。 そんなの、やだよ!

 

 レイ:………

 

 2回、瞬いて。

 

シンジ:僕たちは、きっと生きて帰ってこれるよ。

 

 レイ:………

 

 しかし、希望の光は、絶望の闇を一段と際だたせる。

 

シンジ:今まで何度も奇跡を起こしてきたんだ。今度も大丈夫だよ。

 

 レイ:………

 

 全てを知る瞳は、大切な人に何も告げない。

 

シンジ:その時は………今度は………僕から………キスしても………いい?

 

 レイは、何も答えない。 でも、シンジには、レイの瞳が確かに頷いたように見えた。

 

 レイ:………時間よ。行きましょう。

 

 感情の無い声と、差し伸べられる細い腕。

 


 シンジはその手をしっかりと握りしめると、横に並んで歩き始めた。

 

 握る手に力を入れると、同じように力が返ってくる。

 

 何ものにも負けない暖かい力が、身体中にみなぎってくるような気がした。

 



 レイの無表情な横顔を見ながら、シンジは心の中で呟く。

 




       無事に戻れないとしても、

 

        君とずっと一緒にいるから。

 

              もう一人にはさせないから。

 

                     だ、か、ら…………





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