「初号機 − 母の想い」

Junchoon


 

試作品の零号機でデータは取っていたはずだった。 充分、制御できるはず

だった。 でも、それは起こってしまった。 逃れられない事実。 実験。

未来を拓くための。 あの子に、シンジに、明るい未来を、希望を。 それ

だけを願って準備してきた。

 

あの子と手を携え、未来を拓くEva。 人類に残された最後の希望。 私

は、あの子に見せてあげたかった。 だから、連れてきた。 運命の、あの

日。 もう戻れない、あの時。

 

そして。 実験は失敗した。 暴走する実験体。 Eva初号機となるべき、

コア。 私は、成す術もなく、取り込まれるしかなかった。 おぞましい感

覚。 異質なモノとの融合。 いっそ、泣き叫んでしまいたかった。 でも、

できない。 そんなところ、あの子に見せるなんて、いけない。 このEva

は、あの子だけのもの。 あの子の未来をともに切り開く、かけがえのない

パートナー。 あの子がEvaを恐がってしまっては、全て水の泡。

 

もう、逃れる事はできなかった。 私には、あの子に精一杯の笑顔を見せる

事。 それだけしかできなかった。 恐くないのよ、と。 Evaを嫌わな

いで、と。 そして...。

 

次に気づいた時。 人間が、小さく見えた。 Evaの視点。 人間だった

時とは違ってしまった感覚。 司令室。 あの人がいる。 赤木博士も。

私を呼び戻そうとする手。 Evaから引き離そうとする感覚。 帰りたか

った。 でも、Evaは私を離さない。 帰れない。 帰りたい。 あの子

はどこ? 私のシンジ。 帰りたい。 もう一度、あの子をこの手で抱きし

めたい。 でも、帰れない。 Evaと一つになってしまった私。 自分の

中に、異質な何かがいる。 切り離せない。 純粋な、破壊衝動。 抑えな

ければ。 あの子まで、巻き込んでしまう。 それだけは、だめ。 眠ろう。

私の中の。 Evaの破壊衝動と一緒に。 全てを、眠りの中に。 サルベ

ージは、失敗。 薄れていく意識の中、あの人の中で、何かが崩れた、そん

な気がした。

 

どれだけ時間が経ったのかしら。 随分、いろんなものを失った気がする。

随分、いろんなものを植え込まれた。 そんな気がする。 残っているのは、

あの子への想い。 Evaの、破壊衝動。 人間だった時の記憶はある。

でも。 忘れてしまった感情がいっぱい。 変わってしまった感覚もいっぱ

い。 でも分かる。 あの子が来てる。 愛しい息子、私のシンジ。 大き

くなって。 でも、恐いのね、私が。 しかたないわね、あんなところを、

見てしまったんだもの。 でも、何か違う。 覚えてないの? 私を縛る、

この鎧。 これがあるから? それとも、ショックで忘れてしまったの?

恐がらないで。 私が、護ってあげる。 心配いらないわ。

 

振動。 爆発? 落ちるライト。 あの子が危ない。 私は思わず、手を出

していた。 動ける。 動力は来てない。 動けるはずはなかったけれど。

でも、動けた。 あの子を、護れた。 そう。 想いは、力になる。 あの

子のためなら、いくらでも強くなれる。 母親だもの。 あの子を護るのは、

私。 最後の砦は、私。

 

白い女の子。 もう一人の私。 あの子の代りに、大怪我してるのに、私に

乗ろうとした、あの娘。 その姿を見て、私に乗ると決めてくれた、シンジ。

あの子が帰ってくる。 私の中に。 幸せ。 だけど、ちょっと複雑な気分。

もう一人の私。 あの娘がいなければ、シンジは帰ってきてくれなかった、

きっと。

 

ぎこちないシンクロ。 でも大丈夫。 ちゃんと、合わせてあげる。 今ま

で、なにもしてあげられなかったんだもの、できる事なら、何でもしてあげ

たい。 何より、あの子を護りたい。

 

使徒。 天使の名を持つ、人類の敵。 やっぱり、来たのね。 あの子の意

識に支配された私。 あの子とEvaを結ぶだけの、私。 何もできない。

身を護るATフィールドさえ、張れない。 使徒の攻撃。 傷つく私。 気

を失った、あの子。 パルスは来てる。 でも、何の司令もない。 動けと

も、止まれとも。 今なら、動ける。 私の、意志で。 このままでは、シ

ンジも危ない。 戦わないと。 逃げちゃだめ。 私は、Evaの攻撃衝動

に任せる事にした。 目標は、あれ。 二つの顔の、使徒。 あれを、壊し

なさい。 私は、支配のたがを少しだけゆるめた。

 

 



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