−−−=== 懊悩 ===−−−




みなさん、こんにちは! Junchoonです。



【SS】懊悩をお届けします。 TV版では「先生」と呼ばれ、コミックス 版では「伯父さん」と呼ばれている人物が、シンジを預かることになった、 その時の心の動きを邪推してみました。 なにぶん、設定の明かされていな い人物です(^^;。 完全に、私の邪推の産物と言ってしまっていいのですが、 それなりのリアリティを感じていただけると幸いです。








怨むぞ、外ン道...。



私は、年上の義弟をなじる。 心の中で。 だが。 それで何が変わるというのだ?



ユイを失った事は、やむを得ないと諦めよう。 本人の望んだ事だ。 シンジに、明るい未来を見せてやりたい...あの前日、確かにそう言ったのだ、ユイは。 だから...その事だけは、奴を怨むまい。



しかし、何故だ? 何故、私でなくてはならないのだ?



確かに、私はセラピストだ。 あの男よりは、うまくやれるだろう。



それでも、私は奴を怨む。 どうして...どうして、シンジを私に預ける?



子供のいない私たちにとって、シンジは、甥というより、息子と言っていいほど大切な子だ。 本来なら、喜ぶべきことなのに...。



でも。 シンジは、ユイの死を見てしまったという。 そして、そのショックから、ユイの記憶の全てを失ってしまった。 そう、私たち夫婦の事も含めて、全て...。 元々、神経質なほど感受性の強かったあの子にとって、自ら記憶を封じる事以外に、自我を保つ手だてなどなかったのだろう...。



あの子が父親の事まで忘れていてくれれば、私たちの子として育てる事もできた。 だが、いまいましい事に、シンジは父親の記憶は失わなかった。



そして、仕事柄、分かってしまうのだ...。 シンジにユイのことを...母親の事を思い出させる事は、シンジの精神を破壊する事になりかねない事が...。



だから、私は伯父としてあの子に接する事ができない。 できるはずがない!
私は...あの子の前では、あくまでセラピストでなくてはならないのだ...。
伯父として、シンジを愛してやる事は...抱きしめてやる事は、できない。



分かってはいるのだ。 あの男、外ン道もまた、本来なら治療を必要としているのだと。 だが、奴は拒んだ。 もう、私には止める手段など無い。 あの男の狂気を。
自分の無力が悔しい。 だが、悔やんでも、悩んでも、何の解決にもなりはしないのだ...。



シンジの心の傷は深い。 今まで見てきたどの症例も、シンジの心の傷の前には、無傷に等しい。 ただひとつ、外ン道だけが、同じ深さの傷を持っている。 迂闊に触れれば、心の全てが壊れてしまうほど、深い傷。 もはや、治療方法すら思いつかない。
私は無力だ。 私にしてやれるのは、シンジの心の傷がこれ以上広がらぬよう...自らかけた心の封印を護ってやる事。
ただ、それだけだ...。



幸か不幸か、私は父親似だ。 そして、ユイは母親似。 私はほとんどユイと似ていない。 それに、私は結婚と同時に「碇」の姓を捨てた。 そういう習わしだったからだが。



シンジが生まれた時には、悔しかった事だ。 だが、今は、それが救いとなるだろう...。 何と皮肉な事か!



いつか、シンジが全てを受け止められるほど強くなり、シンジに「伯父」と名乗れる日が来るのだろうか?



あの子の心の傷の深さを考えると、望みは薄い。 その日までに、私の心もまた、治療を必要とするのかもしれない...。



だが、諦めはすまい。 生きてさえいれば、希望はある。 そう信じるしかない...。 ユイが、口癖のように言っていた事だ。
生きてさえいれば、幸せになれるチャンスはどこにでもある...。 今は、それを信じて生きていこう...。 いつの日か、シンジが幸せを...支えあって生きていける誰かを、見つけられると祈って...。








いかがでしたか? 心に傷を残し、愛される事を知らずに育ったかのようなシンジが、それでもココロが壊れてしまう事なく育って来られたのは何故か。 その答えの一端に見えるでしょうか?



それでは、また!






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