小さな煉瓦作りの家が建ち並んでいる。

激しい市街戦があったのだろうか、家々はボロボロ、今にも崩れそうであり、

半壊、崩壊しているものが大半である。

壁は青いビニールで塞ぎ、屋根は鉄板が乗っているだけ。

絶望の表情の人々が歩く道は瓦礫でいっぱい。

血や肉片が転がっているところもある。

 

一つの大き目のテントがある。

通常一家族用として使用されるべきものだろうが、8人程が

寝泊まりしている。

家が崩壊し、住む所を無くした人々だった。

テントには、元々家があったであろう場所から寝具や衣類が持ち込まれ

すでにギュウギュウ詰めである。

娯楽もなく、楽しもうと思う余裕もなく、笑う気力さえ無くした今、人々が求めるもの。

それは、救いの情報である。

一つのラジオ。

テントに住む大人達6人はラジオを囲むように座っている。

このような情景はここだけではない。どこもそうだ。

みな、救いを求めている。

決して、自ら動こうとはしない。

自ら打開を考えようとはしない。

 

ラジオから流れてくるのは、近くで行なわれている戦争の情報。

また何処かの部隊が勝っただの、負けただの、しかし負けても損害は

ほとんど無いという。ならばこの状況は何なのだろう。

そんな疑問さえ、今の人々にはあがってこないのだ。

ただ、この街に助けの情報が舞い込んでこないかどうかの情報以外は

聞こえてないと同じなのだ。

「誰でもいい、助けてくれ。」

先導者の居ない街。これが現状。

 

「電波ジャックだっ!」

テントの大人達はそれに反応する。

ラジオから聞こえてくるニュースに混じって、雑音と共に聞こえてくるかすかな声。

街が静まる。

 

「ザクセン州プラウエンは私達が開放しました。同志達よ集まれ。私達の街を守り、そして国を取り返そう」

 

かすかに聞こえた。

先導者の声。

希望の光。

どよめく心。

荒んだ心。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

こころとこころ 2話

 

 

 

 

「NERVドイツのラジオ放送にレジスタンスと思われる電波ジャックがありました。

どうやらプラウエンを開放したようです。」

 

 

「日向さん、それホント?」

 

日向マコト。現在新NERVにおいて、シンジの参謀を務めている。

 

「えぇ、これでNERVの入り込む入り口ができそうですね。その時の放送、聞いてみますか?雑音で酷い放送でしたけど。」

 

「一応聞いて置こうかな。聞かせてよ」

 

1cmほどの光磁気ディスクが手渡される。

シンジが座るデスクに内蔵されているコンピュータにそれを挿入する。

間もなくして、雑音交じりの放送が再生される。

 

・・・・・・

 

4秒の放送。

すぐに再生は終了した。

 

シンジはすぐさま再度再生する。

 

すぐに終了する。

 

シンジは一瞬の間のあと、再度再生をした。

 

日向は、シンジの行動に疑問を感じる。

「どうしたんですか、碇司令?」

 

シンジは5回目を再生させた。

 

「この声・・・」

 

「えっ?」

 

日向はこの声に対する記憶をさかのぼる。

 

特に思い当たる節はない。

 

「司令のお知り合いですか?」

 

シンジはディスクを取り出し、日向に差し出す。

 

「すぐに分析して、多分これはアスカだ。」

 

ディスクを受け取る。

 

日向は驚きと疑問の声だす。

しかし、シンジは無反応。

聞こえていないのだ。

 

十年、言葉にしたらわずか2文字だが、シンジにとってはどうだったのだろう。

「レジスタンス」

アスカは危険な所に居た。

 

数分前の放送。

今も生きてる?

保証はない。

 

あの声は本当にアスカだったのだろうか?

10年。

捜し求め、見つからない、そんな苛立ちから、似てるだけの声を思い込みしてしまったのでわないか?

そんな事はない・・・そんな事は。

そんな事はない?

やはり思い込もうとしている。

日向さんの報告が待ち遠しい。

時計の秒針を追ってしまう。

時の流れが遅くなるだけなのに。

10年という時は短くとも、今のわずか30分が永遠なのか?

 

ここでアスカを見つけてどうする?

愛の告白でもするのか?

日本に連れ戻す?

馬鹿げている。

今更愛を打ち明けてどうする。

中学生の時から好きとでもいうのか?

あの時はっきり嫌われたではないか。

これじゃぁストーカーだ。

 

日本に連れ戻すにしても、なぜ連れ戻されなければならない。

危険だから。

死んで欲しくないから。

本音は違う。

「側に居て欲しい」

そんな事無理だ。

帰る気になれば帰ってこれるはずだ。

帰ってこないには理由があるからだ。

戻る理由が無いという理由。

レジスタンスの為。

祖国の為。

好きな人が居る。

どれも立派な理由だ。

それに比べて、僕の理由は。

「くだらない」

 

僕はくだらない人間?

 

父さんがよく言ってた。

僕が何かを言うたびに。

「くだらない」

 

ミサトさんにも言われたっけ・・・。

 

リツコさんにも言われた・・・。

 

アスカにも・・・。

 

僕は、全然変わっていない。

 

父さんの真似をしなければ、こんな椅子に座っていられない。

結局父さんが居ないとダメなんだ。僕は。

要らないはずの、嫌いなはずの父さんの真似。

父さんになりきる。

何も変わってない。

自分が傷つくのが嫌なだけ。

傷つくのを恐れなければ云えばいいじゃないか。

・・・。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「寂しい」

 

「孤独」

 

これだけの人に囲まれていても、いつもそう感じる。

 

でも、一時的に忘れられるときはある。

 

抱かれているとき。

 

常に私を見てくれている。

 

「愛してる」と云ってくれる。

 

闇の中で伝わる人肌の温かさ。

 

でも、それは偽りの時。

 

自分を偽り、彼を偽る。

 

私は彼が好きではない。

 

好きなのはシンジ。

 

でも、彼に抱かれる私。

 

シンジさえも偽る。

 

シンジに対する気持ちさえ偽る私。

 

レジスタンスなんて本当はどうでもいい。

 

国だってどうでもいい。

 

世界なんてどうでもいい。

 

私が欲しいのは一つ。

 

私の願いは一つ。

 

 

〜何故拒んだの?〜

〜何故離れたの?〜

〜何故逃げたの?〜

 

あの時、彼があそこに居なければこんな事にはならなかったかもしれない。

 

あの時、私があそこへ来なければこんな事にならなかったかもしれない。

 

〜あの時?〜

 

私は14歳の自分がキライ。

今の自分がキライ。

この10年間の私がキライ。

 

 

〜なにがしたいの?〜

 

私は私を幸せにしない。

私がそんなことさせない。

 

〜あなたはあなた〜

 

「死」ってなに?

 

〜私が嫌いなもの〜

 

それって不幸?

 

〜嫌いなこと〜

 

そう・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月。

 

太陽。

 

月。

 

太陽。

 

月。

 

太陽。

 

 

 

 

 

空。

 

見上げる私。

 

それを見ている私。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青葉が部屋に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

笑み。

 

 

 

 

 

 

 

 

「青葉さん。部隊編制よろしく。」

 

 

 

 

 

 

「規模は」

 

 

 

 

 

「全部隊の5%。それから財源の2%を使って新設。物資は必要と思われる分。」

 

 

 

 

 

「かなり大規模ですね。」

 

 

 

 

 

「時間が無いからね。一気に方を付けて。」

 

 

 

 

 

 

「了解しました。」

 

 

 

 

 

小走りで部屋を離れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

戦いが終わる。

 

 

もうすぐ・・・。

 

 

でも、僕は君に会えない。

 

 

僕は君に会えない。

 

 

会うと君を傷つけてしまうから。

 

 

会ってもキズつけてしまうだけだから。

 

 

もう、僕は必要無い。

 

 

もともと必要の無い人間だったんだ。

 

 

生まれてくるべきじゃなかったんだ。

 

 

僕がいなければこんなことにはなってなかったんだ。

 

 

僕は要らない人間。

 

 

僕は弱い人間かな?

 

 

空は広いね。

 

 

青い空。

 

 

ずっと見てなかったようなきがする。

 

 

風景なんか見てる余裕なかったんだ。

 

 

君だけを追い求めて。

 

 

僕のこころが、こんな空だとよかったのに。

 

 

白い雲。

 

 

いつも形を変える。

 

 

今日の雲はやさしいね。

 

 

僕はずっと変わらなかった。

 

 

「変わることがすべてじゃないわ、変わらない事も必要」

 

 

だれが言ってたんだったかなぁ?

 

 

でも、僕は変わるべきだったんだ。

 

 

あの時に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は戻らない。

 

 

今きずいても仕方が無い。

 

 

でも、未だからこそきずいたのかもしれない。

 

 

過去は不要じゃなかったのかな?

 

 

今があるのは過去があるから。

 

 

そして、未来があるから今もある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

父さん?

 

 

僕には父さんの血がながれてる。

 

 

僕は父さんになれるかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さようなら「想流・アスカ・ラングレー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

始めまして「綾波 アスカ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10年前・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は云った。

 

「気持ち悪い・・・」

 

私は云おうと思った。

 

「男なら泣かないでよね」

 

「まったく男らしくないんだから」

 

「ばっかみたい」

 

シンジのセリフ。

 

「ごめん・・・」

 

私のセリフ。

 

「そーやって、すーぐ謝る。ホント馬鹿ね」

 

 

私のシナリオはそこで崩れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閉じこもるシンジ。

 

 

 

 

 

 

みんなは復興へと歩み出す。

 

 

 

 

 

 

私に居場所はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「シンジ君、あれから部屋から出てこないのよ」

 

 

 

 

ミサト。

 

 

 

 

 

 

「私が知るわけ無いじゃない」

 

 

 

 

 

 

これもシナリオ外。

 

 

 

 

 

 

「まるで昔の私みたい。」

 

 

 

 

 

 

脇腹をさするミサト。

 

 

 

 

 

 

わたしは部屋から飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こころとこころ 2話 終了

 


(つづく)


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