Cotton candy

初恋は甘酸っぱい。じゃあ二度目の恋は?

 初恋は得てして実らないものである何てさ、ミサトがアタシに言った。そのアタシの初恋の人、加持リョウジと結婚しやがった、アタシの同居人兼保護者。
「結婚って良いわよー。もうさ、家に帰ると旦那さんがいるっていうのが
幸せを感じるのよねー」
 幸せを噛み締めつつ、ミサト。

 それをジト目で見ているのがリツコとマヤとアタシとレイ。シンジは黙り込んでいる。
「あ、そー。どうせ私は碇司令に撃たれたわよ」
 へっとリツコ。
「どうせ、Nervにかっこいい人何ていませんもの」
 ふーんだとマヤ。
「……」
 これはレイ。
「どうでもいいけどさ、この新婚ほやほやの家をどうにかしなさいよ、片付けられない女って知ってる?大分前に話題になったらしいけど」
 アタシは話題を転換する。これ以上ミサトの惚気なんぞ聞いてられますか!

「へえー。片付けられない女!正にミサトの為の言葉じゃないの」
 にやにやとリツコが先に結婚した親友の不幸を祈っているような微笑を浮かべて恐い。
「何ですってー」
「家事も出来ないでシンジ君かアスカにやらせている癖に」
 最近のNerv恒例のミサトvsリツコの大喧嘩が始まる。
「……最近の博士は恐いわ」
 ぽつりとレイが呟く。幸い、目の前で火花を散らして口喧嘩の真っ最中もあり、リツコは気づいていない。これ以上レイをここに置いていたら何を言うかわからないので慌ててアタシはレイを引っ張ってリツコの研究室を脱出する。

 そのまま廊下を出て休憩室の方まで走る走る。
「ア、アスカ?どうしたの?」
 息を切らしているのだが、レイはぽややんと首を傾げる。
 サードインパクトで一回魂ごと消えた筈のファーストだったが、シンジの神様の力とかなんやらでファーストは蘇った。

 それから半年程経ち、アタシも何とか病院から退院することが出来た。シンジとミサトと暮らす代わりにファーストと同居することになった。最初は反発していたが、どうにもこうにも天然ボケというより世間知らずなファーストに毒気を抜かれた。
 
 今は、昔よりはお互い意思の疎通も進歩した。
 だけどだけど一言多いのよ!それが悪意がないから余計悪い。

「レイ……」
「?」
 にこっと愛らしく微笑まれてアタシは何も言えなくなる。
 この万年天然ボケ娘ー!最近特にアタシに懐いてきて、じーっと顔を覗き込まれたり、とことこ後ろをついてくるのだ。
 可愛くて、しょうがない。
「何でもないわよ。さっ、いこっ」
 レイの手を引いて、アタシはマンションに帰ろうとしたその時。
「アスカ!」
 後ろからシンジの叫ぶ声。
 出たな!小舅!
「なーによ」
「ひどいよ、僕だけ置き去りにしてミサトさんとリツコさんの喧嘩あれから
大変で僕とマヤさんとで二人を取り押さえたんだよ」
 シンジは興奮したまま、アタシを睨みつける。
「碇君?」
「あ、綾波。聞いてよ、アスカってばひどいんだから」
 ぶちぶちとレイにまで愚痴ろうとするシンジ。女々しい奴だ。
「レイに愚痴ってもしょうがないでしょ、アンタの要領が悪いんじゃない」
 べーっと舌を出してシンジに悪態をついてやった。
「……アスカ大人気ない」
 ぼそっと又レイが一言。ぐさっと胸に突き刺さる。どうも最近のアタシはシンジに素直になれない。その理由は自分がよーく分かっている。
 
 原因は恋。
このくすぐったいような甘いようなふわふわした気持ち。まるで綿菓子
のような感覚。

 いーっだとシンジにしかめっ面をして、レイを引っ張って歩く。
 後ろでシンジが何か怒って喚いている。
 この甘くて柔らかい感覚を味わっていたい。くすり、とアタシは苦笑した。
 もう少し、この曖昧な関係のままでいいかな?


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