女の子は強気!


 好きな人が同じで二股状態かけられてかーなりむかつくのよねっ!
女の子を舐めるんじゃない!女の子は可愛くて強いんだから!

 あっちふーらふらこっちふーらふらのアタシの彼氏。
そりゃあね、昔に比べたら背伸びて、顔だって彼の母親譲りの 綺麗な顔立ちでもてるでしょうよ!でもね、一応アタシのこと好き って言ったんだからきちんとしなさいよって時々わめきたくなる。 で大喧嘩して別れた。所詮恋人なんてそんなもんよ!やっぱり女の友情の方が強い!

 大学のカフェテラス。そこで待ち合わせしたのは昔馴染みで今は親友の綾波レイ。
「ふーん、で碇君と喧嘩したの?」
 空色の髪に宝石を思わせる紅玉の瞳。神秘的な雰囲気を纏う彼女はアタシの昔の最大のライバルで今は親友。 昔は可愛くなくて無表情な子と思っていたが、本当は単に不器用なだけだった。ちゃんと話すようになってわかった、この子同性のアタシから見ても可愛い。 何と言うか守りたいタイプなのだ、の割りに口が悪いのはここだけの話だけど。
「そう。だってさ、アタシという可愛い彼女がいるのよ?オマケにレイという綺麗な女の子が傍にいるのに!アイツ今日合コンだってさ。もう喧嘩して僕たち別れたんだろだって」
 グラスに綺麗な色のアイスティー。それをずずーっとストローで吸い込む。レイはくるりとティーソーサーを左手で持って右手でティーカップを口へと持っていく。 上品ではっとするような優雅な所作。
「そうなんだ。碇君が合コンに?」
 にっこりと笑うレイ。
「そう」
「やーねえ、こんな可愛い彼女がいて、そしてこーんな綺麗な妹がいるのにねえ。大体第弐東京大学のミスと準ミスの二人を差し置いて」
 ああ、怒ってる怒ってる。レイの身に纏う神秘的な空気が一転、燃え出す。
「でしょう?」
 ニヤリとアタシ。
 うん、ノリの良い親友が好きだわ、やっぱり異性よりも同性の親友が一番!
「ふっ。碇君ってばいい度胸してんじゃない!アスカだから私あきらめたのよ。それをふっ……」
 今アタシたちの回りの温度が下がったような気がした……。レイって敵に回したくない、絶対……。
 カフェテラスはひんやりとして気持ちいい。というかアタシたち二人の出す冷えた空気だと思う。

 午後の社会心理学の授業の最中に合コンの幹事の高梨さんの隣にわざと座り、声をかけた。
「えーっ。やだー、惣流さんと綾波さんが合コン参加してくれるのー!」
 高梨さんが大喜びする。
「ええ。アタシ、彼氏と別れたばっかりで寂しくて新しい出会いが欲しいの」
 柔らかく微笑むアタシ。
「ええ。私もそろそろ彼氏が欲しいし他の学科の男の子と出会い欲しいもの」
 とこっちはレイ。
「うわー。弐大きっての美女二人に参加してもらえるなんて!これでいい男が参加してくれるわっ!」

 ふふっとガッツポーズを決める高梨さん。そうよそうよ彼氏をゲットしましょうと女三人盛り上がる。 そう、どうせだったら喧嘩して別れたんだからいい男をゲットしてやるっ!
 そして夕方合コンの会場。どうせアイツは別の場所で他の女の子と宜しくやってんのよねっ! レイと二人わざとらしくないようさりげなくお洒落をして二人で待ち合わせの場所に向かう。
そこで見たのは男の子の中にいるアイツだった。一瞬固まるアタシとレイ。しかし、すぐに復活する。 「あー、惣流さん!綾波さん!こっちよー!」
 アタシたちを見つけてほっとしたように高梨さんが手を大きく振る。
「あ、ごめんねーっ。場所わからなくて」
 ペロっと舌を出して可愛らしい仕草。
「ふふっ。いいよ、だって恵美ちゃんたち多分遅刻だから」
 無邪気に笑う高梨さん。か、可愛い。うん、こういう子ってもてるんだよね。性格いいもん。
「高梨さんって性格いいのね。アタシ見習らいたいわ」
 思わず溜息を吐きながら本音が出てしまう。すると高梨さんが真っ赤になった。
「えーっ。や、止めてよ。惣流さんみたいな綺麗な人に言われても私」
「ううん。アタシは見た目だけ派手なのよ。性格キツイし。本当は高梨さんみたいな素直で可愛い子憧れる」
 これは本当だ。
「……惣流さん」
「何?」
「惣流さんって取っ付き難い人って思ってたけど面白い人ね!」
 とくすくす笑い出した。か、可愛い。
「そうよ。アスカってけっこうこう見えても可愛い性格してるのよ」
 おい、レイそれは皮肉が嫌味か?
 それから5分くらいして他の女の子二人がやってきた。こちらも可愛いタイプ。こう守ってあげたくなる様なアイツ 好みの。
「じゃあ、合流しましょう。柳瀬くーん!」
 駅の時計台の下にいる眼鏡のスマートな男の子に手を振る高梨さん。
「あ、由佳ちゃん。こっちこっち」
 向こうも5人。けっこうかっこいい。服装とかもお洒落だし、頭の良さそうな感じの好青年。 その中にアイツがいるのがむかつく。

「じゃあ、かんぱーい!」
 と合コンの会場。カフェで夜になるとバーになるいかにもと行ったお店。
「ここ、高梨さんが決めたの?」
「うん。柳瀬君と一緒に」
 にっこりと少し頬を赤くして答える高梨さん。
「……高梨さん。柳瀬君狙い?」
「あ、うん」
 はにかむように答えられて絶句。
 向こう側ではアタシを無視するように恵美ちゃんと話すアイツ、シンジ。恵美ちゃんはものすごく嬉しそうだ。そりゃあ、そうだろう。 彼女と別れたと噂になってたのだから。しかも奴は生意気にも高校生になってから親の遺伝子を受け継いだかのように勉強も出来る ようになり、スタイルも良くなって。この大学でも人気が高い。昔のよわっちくてアタシに小突かれていたアイツじゃない。 まーさか、合コンメンバーに入っていたとは不覚。
「今日は、初めまして。惣流アスカです」
 にっこりと小首を傾げて隣の席の男の子に声をかける。こっちは法学部の石山君。高梨さんによると真面目でスポーツ抜群。
「あ、俺石山です」
 にこにこと人の良さそうな印象。話が弾む。趣味も幅広くて会話も上手。
「でも」
「え?」
「惣流さんと綾波さんが此処にいるなんてびっくりしたよ。それと惣流さんって噂と違って話しやすくて可愛いね」
「……え」
 頬が真っ赤になった。初めてだそういうこと人に言われたの。
「あー、アスカってば真っ赤になっちゃってー」
 とレイ。
「あー、ほんとー。アスカちゃんってば石山君に一目惚れー?」
 恵美ちゃんが向こう側からはしゃぐように。
「え……。か、可愛いって言われちゃったのー。う、嬉しいかもー」  顔を俯かせて、真っ赤にしてわざと言ってやった。こうなりゃやけだ。向こう側のシンジの表情何て見えやしない。合コンはノリだし。
「も、もうからかって。アタシお手洗い」
 べーっとレイに舌出してショルダーバッグを手に逃げる。もうっ、皆してからかって恥ずかしい。でも、けっこう石山君っていいかも。 お酒のせいもあって上機嫌でお手洗いで化粧直して扉を開ける。
「……」
 扉の前に壁に凭れて無表情で立っているシンジが居た。無視して席に戻ろうとするが腕を掴まれた。
「手離して」
 にっこりとアタシ。 「……わざと合コンに来るなんて相変わらずいい性格してるよな、アスカ」
 怒りを押し殺したような声。だけど偶然だったのだから。
「違うわよ。前から由佳ちゃんに誘われてたのよ。大体こっちだってびっくりしてるんだもの。アタシだって自分が性格悪いのは 自覚してるけど、別れた彼氏の邪魔するくらいなら他の男見つけるわよ。アタシってプライド高いの知ってるの誰よりアンタじゃない。由佳ちゃんとは同じ学科で仲いいのよ。何ならレイに聞けば?」
 呆れるようにアタシはシンジに言い放つ。全部本当のことだし、しょうがない。
「嘘、ついてないわよ。大体、アタシもレイももう二股かけられて三角関係にうんざりだったの。だったらさっさと新しい彼氏見つけて楽しくやった方が三人の為でしょ?偶然こうなったのは悪かったわ」
 ぐいと掴まれた右手の手首を引っ張る。がシンジは離そうとしない。
「ちょっと……離しなさいよ」
 さすがに恐くなって声を高くして叫ぶべきか考える。
「……」
「お願いだから離してってば!声上げるわよ!」
 ぐいっと引っ張られて抱きしめられる。咄嗟にシンジの足を蹴っ飛ばすが、コイツ平然としている。
「嫌だね……」
「アンタ子供じゃないんだから!大体アタシたち別れたのよ。別れた彼女にこんなことする馬鹿あんたくらいよ!離せー!」
 ジタバタしているうちにぐいぐい引っ張られてお店から出てしまっていた。
 きっとアタシはシンジの顔を睨みつける。人が折角あきらめて新しい恋を見つけようとしたのにコイツ!
「アスカが悪いんじゃないか!僕が折角……」
「アンタ、子供?アタシだって折角……心の整理つけて新しい恋を見つけようと前向きになったのに!!」
「「レイが合コンに行けばって言ってくれたのに!!」」
 久々のユニゾンの言葉にアタシたちは呆然とする。
「レイが……」
 こくんと頷くシンジ。やられたっ!
 シンジも複雑そうな表情をその顔に浮かべている。うーん。
だけど。
 アタシは噴出してしまった。それにつられてシンジも笑い出す。
 お互いげらげら笑い合って。
「なーんかどうせも良くなっちゃった。ねえ?合コン出てきちゃったし。飲み直さない?」
 笑いながらアタシはシンジに提案する。
「そうだね、僕も何だか馬鹿馬鹿しくなってきたよ」
「ね?レイに一本取られたわよねー」
 そして次の日。ひどい二日酔いに頭を押さえて目覚める。アタシの部屋のベッド隣にシンジが寝ていた。確か、昨日の夜シンジと飲んでお店3軒目から記憶がない。
「???」
 頭を抱えていると、隣で寝ていたシンジが起き上った。
「な、ア、アスカ?」
「……おはよ、シンジ」
 遠い目でアタシはシンジに答える。
 お互い一瞬で昨夜自分たちが何をしたか理解した。
「……」
「……」
「朝ご飯。作るから食べてく?」
「……うん」
 その後のシンジとアタシのお互いの気まずさは嘗てないほどだった。
 まあ、腐れ縁が復活したからいいけどさ。

 そして。
「あら女の友情に感謝してよね?」
 とその日、授業で一緒になった際のしれっとしたレイの態度にアタシは何も言えなかった。
 女の子の友情って強いよ、ね?
 今のアタシは自信ない、です。


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