幸せとともに

 

 

 

 

 

第伍話 そして・・再開

 

 

 

 

 

時間は元に戻る。

 

-ネルフ本部 作戦司令室-

 

「パターン青!使徒です!」

「突如第三新東京市内に表れました!」

オペレーターの声が司令室に響き渡った。

 

「葛城三佐に至急連絡、ファースト及びサードチルドレンに緊急召集。関東中部全域

に特別非常事態宣言発令。

 総員第一種戦闘用意。」

冬月が淡々と指示をだし、ゲンドウはじっとモニターを見つめる。

 

「碇・・何か忘れちゃおらんか?」

「何・・問題なかろう。」

 

 

 

 

-第三新東京市国際空港-

 

「ついた、日本に・・疲れたぁ。で、待ち合わせ場所に行かないとね・・

 タクシー!」

アスカは空港正面玄関に辿り着くと、手を大きく振ってタクシーをとめにかかった。

が・・

 

 

「なんで、止まんないのよ〜!」

さっきからタクシーは何台も通っているが、全く止まる様子はなく過ぎ去って行く。

 

そこへ追い討ちを駆ける様に、アナウンスが流れているに気付く。

 

『・・繰り返します・・ただいま東海地方を中心とした関東中部全域に特別非常事態

宣言が発令され・・』

 

「非常事態ってどう言う事よ〜!?と、とにかく電話・・なんで通じないのよ!」

 

ガチャン!・・

 

仕方なく手頃な場所に座り込んだアスカの目に、得体の知れない者が入って来た。

 

ゴゴゴゴゴ・・ヒュン!・・ドゴン!!

 

その物体は触手のような物で街を破壊して少しづつ進んで行った。

 

「何・・あれ・・もしかして・・!?使徒・・あれが・・」

アスカは決心したように立ち上がって、走り出した。

 

(仕方ない!なんとか待ち合わせ場所まで行かないと、どうにもなんない。・・シン

ジ・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-第三新東京市第一中学-

 

保健室

 

「大丈夫?碇君。」

「大丈夫?シンちゃん。」

レイとマナはシンジにそう言ってから二人でにらみ合い、シンジがおさえる。

そんな事が数回続いた。しかし・・

 

「だ、大丈夫だから。ちょっと疲れただけだっ・・て・・」

シンジはそう言うと苦しそうにベッドに横になった。

「シンちゃん!?」

レイは枕元に顔を持って行くと、心配そうに名前を呼んだ。

 

「ほんと、ちょっと疲れただけだから。」

シンジは安心させるように笑顔で答えた。

 

「センセも大変やなぁ。エヴァのパイロットっちゅうもんは、そんなにしんどいか?

わしが代わったろか?」

トウジが冗談半分に提案する。本人は本気だったりするが・・

「鈴原!」

ヒカリが委員長らしく注意するが、シンジの一言の方が重かった。

「やめといた方がいいよ・・・大切な人を悲しませちゃダメだから・・」

シンジ悲し気にがそう言った直後・・・

 

『ただいま東海地方を中心とした関東中部全域に特別非常事態宣言が発令されました

---住民のみなさんはすみやかに・・』

 

「!?」

全員が息を飲んだと同時に保健室の扉がいきなり開かれた。

 

ガラッ!!

 

「シンジ君!レイ!」

「わかってます!」

シンジは横になっていたベッドから立ち上がって、レイの方を向いた。

「え、え?」

レイは自分がどうすべきかわからず、おろおろした。

そこにミサトがハッキリと言った。

「エヴァを出動させるわ。」

「エヴァを!?」

レイはこういう状況に初めて遭遇し、気が動転している。

しかし、シンジはすでに状況を把握した様だ。

「使徒ですね?」

「えぇ。みんなはすぐにシェルターへ!」

ミサトは扉を開けなおすと、ヒカリの背中を軽く押して、避難するようにうながした

「碇君?」

マナが、心配そうにシンジに声をかける。

「大丈夫、・・シェルターは安全だよ。」

「う、うん・・」

マナが言いたかったのは、当然そんな事ではなかったが、シンジが気付く事はなかっ

た。

 

「シンジ君、レイ、行くわよ。洞木さん、後よろしくね!」

「はい!」

ヒカリは責任を持ってそれに答えた。

「シンジ!頑張れよ。」

ケンスケはシンジの肩をポンと叩いて、笑顔で送った。

「うん、それじゃまた明日!綾波、いくよ。」

「うん。」

シンジもまた、笑顔で手を振ってミサトの元へ向かった。

友人達は、シンジの『また明日』という言葉に勇気づけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-ネルフ本部 作戦司令室-

 

 

 

「葛城三佐、ただいま到着しました!ファースト、サードも共に到着、出動準備にか

かっています。」

オペレーターの伊吹マヤがモニターから確認して、司令室内に伝える。

 

「意外と早かったな、しかし急がんといかんぞ。」

「あぁ。」

「レイ君はどうする?」

「まだ実戦には向かんだろう。」

ゲンドウは多くを語らないが、その一言一言が作戦を展開させて行った。

 

 

 

 

「シンジ君、出動したらすぐにパレットの一斉射。OK?」

ミサトは緊張感を和らげるように、柔らかに指示する。

シンジはすでにエントリープラグの中で、その様子はモニターに映し出されている。

 

『はい、わかってます。被害は最小限に・・ですよね?』

「そうよ。」

ミサトがシンジの飲み込みの早さに少し感心した時、

『待って下さい!!』

「レイ?」

こちらもモニターに映ったレイが、ミサトに言い出して来た。

 

『碇君はさっきまで体の調子が悪かったんです、保健室にいたんです。私がやります

、やらしてください!』

レイの目は、子供をいたわる母親の様に見え、ミサトまで安らぐようであった。

「・・・リツコ、シンジ君の状態は?」

ミサトはレイに返事をする代わりに、確認作業へと移った。

「ハッキリ言って、いいとは言えないわ。」

「レイは?」

「今までで最高の調子みたいね。シンジ君には劣るけど・・・。」

「・・・・・」

ミサトは作戦部長として、最善の策を絞り出した。

エヴァの操縦はシンクロ率だけに左右されない。人間の精神面に大きく影響している

 

(今のレイなら・・・)

 

「碇司令!作戦変更、零号機の出動、初号機はバックアップという体制を提案します

。」

「・・・確信はあるのかね?」

「ありません!しかし、いずれは通る道です。」

ミサトはゲンドウの威厳にひるむ事なく凛として言った。

「・・フッ・・いいだろう、やりたまえ。葛城三佐。」

「有難うございます!」

 

ミサトはゲンドウに敬礼すると振り返って指示を一斉に送った。

「零号機を第三射出口へ移動、発進準備!初号機を第五射出口へ、発進準備後待機。

 

 レイ!攻撃方法はさっきシンジ君に言った通りよ。いつもの様にやればいいから。

健闘を祈るわ!」

『ハイ』

レイは静かだが決心をこめて返事をし、それは全員に感じられた。

 

「失敗したら、ただじゃ済まないわね?」

「失敗した時はすでに人類が消えてるかもよ。」

真剣だが、からかうように忠告するリツコと、真剣だが、ふざけるように恐ろしい事

をいうミサト、

こういう二人を、ベストパートナーと言うのだろう。

 

「綾波!」

「え!?」

突然零号機に連絡を入れるシンジ。

レイは作戦変更があった事から、またシンジに悪く思っていたので、どう返事すれば

いいのかわからなかった。

「・・・・し、シンちゃ・・」

「頑張って。」

「え?・・うん!!」

レイは最高の笑顔になり、と同時に発進準備が整った。

 

「・・進路クリアオールグリーン。発進準備完了!」

オペレーターがミサトの方に振り向き、ミサトも頷いて答えた。

 

「エヴァ零号機、発進!!」

 

 

 

バキッバシバシッゴシュン!!

 

電気回路がショートするような爆音と共に、青い巨人が飛び出した行った。

 

 

ウィーン・・・ゴゴゴ・・ガシャン!

 

地上のビルの中から零号機は姿を現し、同時にパレットガンで攻撃を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャキンッ・・ドドドドドドドッッバヒュッ・・

 

パレットから放たれた弾は、確実に目標を捕らえたが致命傷には程遠く、弾着による

煙を発生させ、視界を塞いでしまった。

 

『レイ!取りあえず間をとるのよ。』

「ハイ!」

レイがそれを行動に移すより先に、煙の中から光る物質が直進して来た。

 

ヒュンッ・・バシィィッッ

 

「あぁぁぁぁ!!・・う・・クゥゥ!」

 

エヴァの腹部は見事に光の触手に貫かれ、腕を垂らして仰け反った。

当然レイにも相当なダメージがきたされた。

 

『レイっ!?』

『綾波!?』

エントリープラグ内に、ミサトとシンジのウィンドウが現れた。

 

「だ、大丈夫です。やれます、まだ。」

 

レイがそういうと、エヴァの手がゆっくりと持ち上がり、自分の腹部に刺さった触手

をぎゅっと握った。

そして無理矢理引き抜くと一度手前に引き、今度は反対側に思いっきり投げ付けた。

 

 

使徒は見事に倒れ込み幾らかのダメージを負わせたと思われた。その時、

 

 

 

 

 

 

 

 

「大変です、D-5区画の道路に移動物体、これは・・ヒトです、少女です!!」

「なんですって!?」

ミサトが叫ぶと同時にモニターに写し出された。

そこには、すぐ背後にせまるエヴァと使徒から逃げる栗毛の少女が一人。

 

(!?アスカ!?)

「しまった!!迎えに行くんだった!非常事態ですっかり忘れてた!」

ミサトは顔面蒼白な顔をおさえる。

「どうするつもり!?」

リツコは冷静になって次の対処を要求した。

「・・・」

ミサトはすぐさま手を考え、指示を送る。さすがは作戦部長・・と、言うべきなのだ

ろうか?

 

「シンジ君!出動よ!」

『ハイ!どうすれば・・』

「戦闘場所の付近に女性がひとりいるわ。その子をただちに救出して!」

『え?救出って言っても・・』

「エントリープラグへの搭乗を許可します!」

『わ、わかりました。』

その後ミサトは何もいわずに発進に移った。

 

「エヴァ初号機、発進!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シンジの目の前では、レイの乗る零号機と使徒の攻防戦が繰り広げられていた。

その周辺の道路に目を走らすと、必死に走る少女を見つけた。

 

(あの子か!)

シンジは素早い動きでその少女の前方に初号機を近付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァハァハァ・・一体なんなのよ、迎えはどうしたのよ!やばい、ホントにもう限

界だわ・・。」

よろよろと歩き出したアスカの前方に、紫の巨体が現れた。

 

「な!?・・もしかして・・これがエヴァ!?」

余りに突然現れたエヴァから後ずさりし始めたアスカ。

そのエヴァから声が聞こえるまでは・・

 

『君、早く乗って!敵じゃないから、大丈夫。助けに来たんだ。』

 

それは今まで長い間求めていた声、聞きたくても聞けなかった声、忘れるはずがなか

った・・

 

(しんじ・・?)

 

『さぁ、早く!』

初号機のハッチが開き、エントリープラグが射出された。

そして左手がアスカの前に差し出された。

 

アスカが素直に左手に乗って座り込むと、それは静かに動きだし、扉の開かれたエン

トリープラグの側に持って行かれた。

 

『大丈夫、水じゃないから。息はできるよ。』

 

(しんじ?シンジなの?)

アスカはLCLの中に見える人物に心で問いかけた。

しかし、シンジにわかるはずもなく、飛び込むようにうながす。

 

 

ドボンッ!

 

ブクブク・・プク・・・

 

 

 

「僕の後ろにしっかり捕まってて。」

シンジは振り向かないが、やさしく言う。

 

(・・シンジだ・・やっぱり、シンジだ!・・ふふ、カッコつけちゃって。それにし

てもシンジが・・)

 

「救出成功。ミサトさん、指示を。」

『OK、それじゃぁルート121から回収するから・・』

モニターに映るミサトがそう言ったその時・・

 

『う!くぅぅ!・・ガッ・・』

レイの苦しそうな呻きが初号機に受信され、即座にオペレーターの報告が入る。

『首部接触面が溶解!シンクログラフ乱れています!!』

『何ですって!!!レイ!レイ、聞こえる?』

 

「綾波!!!」

シンジは今自分が通って来た方向にいる、零号機と使徒の方に初号機を向かせた。

そこには、首の部分を使徒の触手によって締め上げられている零号機の姿が。

『うぅぅぅぅ・・』

モニターには首をおさえてうずくまるレイの姿があった。

 

アスカは後ろからモニターを見つめて恐怖の表情を見せている。

(わたしも・・ああなるの・・)

 

「ミサトさん!!綾波が!」

シンジは見てられないというように、ミサトに指示をうながす。

 

 

 

 

 

-作戦司令塔-

 

『僕が行きます!!』

シンジは辛そうな表情の中に怒りの感情を表して、伝える。

「・・待ちなさい!焦っちゃだめよ・・」

ミサトは、初号機の中にパイロット意外の人物がいて、シンクロ率が急激にさがって

いる事を配慮し、他の策を考えようとした。

しかし、使徒が人間の都合に構ってくれるはず無かった。

 

『きゃぁぁぁぁっ!!!』

「零号機アンビリカルケーブル切断!頭部前部損傷!パイロットの生命維持に問題発

生!!」

使徒はもう一本の触手で、アンビリカルケーブルを切断し、ぜろごうきの頭部を容赦

なく突き立てていた。

零号機は、今までかろうじて触手を握りしめ引き離そうと努力していたが、その手も

力つきた。

 

「レイ!!」

 

 

 

 

 

その光景を目の当たりにして、自分を抑えられなくなったシンジは駆け出した。

 

『初号機、自ら外部電源をパージ、内部電源に切り替わりました。

 

「やめろぉぉぉ!!!」

 ルォォォォォォ!!!

シンジの叫びに答えるように初号機が吼える。

 

『シンジ君!そのシンクロ率では無理・・』

そういってとめようとしたリツコに信じられない報告が入った。

『初号機シンクロ率が急激に上昇!25、30、60・・80・・・100%突破!・・157

.02%で・・安定・・すごい・・。』

今まで20%をギリギリ保っていた初号機のシンクロ率が異常な上昇を見せたのだ。オ

ペレーターの感情まで入ってしまう程だ。

 

 

 

「いける・・」

その瞬間、誰もがそう確信した。

 

「・・ユイ君も息子に甘いな・・」

「ふっ・・」

 

 

 

 

その時から初号機の体はシンジのモノとなり、シンジの心が初号機のモノとなった。

 

 

 

ガンガンガンガン・・ドガンッ!

大地の響きと共に飛び・・

 

ヒュォォォォォ・・・

空を斬る音と共に天を翔る・・

 

 

誰もがその姿に見入った

 

 

 

 

それは一瞬の出来事。

零号機の頭上から舞い降りた初号機は、見事に使徒と零号機の間に落ちながら、その

手に持ったプログナイフで

使徒のコアを一撃で仕留めた。

 

コアから光が失われたと同時に初号機の眼からも光が消えた。

 

 

暗い零号機プラグの中に優し気な声が響く。

『綾波、大丈夫?』

「うん・・大丈夫。」

『そう、よかった。』

回線が切られた。少女の涙はLCLの中に溶けた。

 

 

『もう、無茶すんじゃないわよ。今から回収班が向かうわ。』

ミサトの声は怒っていなかった。

「すいません。」

シンジはそれだけ言うと、プラグを排出してハッチを開けた。

外から差し込む夕日に眼を細めて、LCLから出ると中の少女に手を差し出した。

「ほら。」

「え、あ、うん・・」

少女はその手を握ったが顔が僅かに曇っていた。

(あの子、シンジの何かな・・私の事わかってくれない・・)

そう思った・・

 

少年は少女に抱き着いた。

そして泣いた。

 

「アスカ・・アスカ・・。」

「シンジ・・。」

 

アスカも涙を流し、抱き締め、そして少年を優しく撫でた。

(コイツ、頑張ってたんだ。知らないヒトばかりのところで頑張ってたんだ。)

 

 

 

 

「無理しちゃって。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回

第六話 黄色いボール

 

 




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