【未来に生きる希望】
<第一話:子供達の思い>
Aパート>

「ありがとう。君に逢えて嬉しかったよ。」……………
  
  
  

長い沈黙のあと、僕は彼を、カヲル君を殺した。

初めて僕を、好きだって言ってくれた人を………。
  
  
  
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それから一ヶ月がたった。
  
カヲルを殺したあの日から、シンジはミサトさんのマンションに帰っていない。

毎日、食堂とNERVとアスカの病室を往復するだけ。

ミサトさんも自分のことで精一杯で、もうシンジのことを忘れてしまったかのようだ。

シンジにとってもそのほうが都合が良かった。

ミサトさんが、シンジの行為を正当化しようとした言葉、

  
「彼は死を望んだ。生きる意志を放棄して、見せかけだけの希望にすがったのよ。」

  

「シンジ君は悪くないわ。」
  

シンジはむしろ自分を罰してほしかった。大好きな人(使徒)を殺してしまった自分が

たまらなく嫌だった。自分という存在を消してしまいたかった。

だから、そんな嫌な自分を肯定するミサトさんがひどく冷たく思えた、怖かった。

ミサトさんが、ひどく遠い存在になってしまったと感じた。
  
  
  
綾波も怖かった。

昔の綾波と今の綾波は違う。

シンジの知ってた綾波は、シンジをかばって死んでしまった。

それからリツコさんやミサトさんと共に見た光景…。

たくさんの綾波が水槽をただよい、そして壊れていく…。

あのときに感じた恐怖はリツコさんに対してだけではない。

綾波の本性を知ってしまったことが怖かった。

そう、綾波は人間ではなかった…。
  
  
  
こんな組織を作った父も怖い、NERVも怖い、EVAも怖い。

もう、シンジにとって安心できる場所はアスカのそばしかなかった……。
  
  
  
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303号室、アスカのいる病室。

かつて第一中学校の男子を魅了し尽くした風貌の面影は全くない。

その頬はこけ、目だけが大きく、うつろに開いている。

長い間食事をとっていないため、飢餓傾向にあることがはっきりとわかる。

漫然として死にゆくアスカ。

科学の力だけが彼女の命を支えていた。

そんなアスカに、シンジは毎日呼びかける。

最初に今日起こった出来事について語りかける。

といってもシンジに起こる出来事は、大して多くはない。

それからは、毎日同じ言葉が繰り返される。
  

「アスカ、起きてよ。目を覚ましてよ。」

  

「前みたいに僕のことをののしってよ! ねぇ、お願いだから、バカって言ってよ!!
  

だんだん口調が懇願調になっていく。

それでもアスカは身じろぎもしない。

シンジにどんなに体を動かされても、なにも感じていない。

それでもシンジは彼女に呼びかけ続ける。

それしか自分のできることはないから。

それだけが不安を紛らわすことが出来るから。

それから、呼びかけに疲れるとアスカの手を握りながら寝てしまう。

そんな生活を続けていた。
  
  
  
今日もハーモニクスの訓練後、アスカの元へシンジは向かった。

そして、いつものようにアスカに呼びかけ続ける。
  
「アスカ、ねぇ起きてよ。」

  

「また前みたいにバカって言ってよ。」

  

「ミサトさんも、綾波も怖いんだ。」

  

「ねぇ、なんとか言ってよ。」
  

そして、彼女を揺さぶり続ける。

ただ今日がいつもと違ったのは、シンジがアスカを強く揺さぶりすぎて、

彼女の胸元が露わになってしまったことだった。

一瞬息をのむシンジ。

アスカの胸に視線が貼り付いたまま、手を挙げて身構え、やってくるはずの

アスカのビンタを待ち受ける。

  

  

でもアスカは動かなかった。

その手も、体もピクリともしなかった。

シンジは手を下ろし、ぼんやりつぶやく。
  

「なんでアスカがこんな目に遭わなきゃならないんだ?」

  

「アスカは一生このままでいなきゃならないのか?」
  

そして、アスカの露わになった胸元にしがみつく。

そして絶叫!!!
  

「アスカ! お願いだよ!! 起きてよ!!! 目を覚ましてよ〜〜〜!!!!
  

そして、アスカの胸にしがみついたまま、泣き続ける。

シンジの心にあるのは絶望、ただそれだけだった。
  
  

  

あまりのむごさに、アスカとシンジのガードも目を背け、

モニターのスイッチを切った………。
  
  
  

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『やぁ、シンジ君。』

  

「!」

  

声のした方へとっさに顔を向けるシンジ。その表情は驚愕から歓喜へと変わってゆく。

  

『久しぶりだねシンジ君、一ヶ月ぶりぐらいかな?』

  

「………カヲル君!!!

  

そう、ドアの前にまごうかたなきカヲルが立っていた。一ヶ月前と同じ姿で!!

シンジは慌てて問いかける。

  

「カヲル君!!生きてたの!!?

  

『僕は前から君のそばにいたんだよ。やっとガードが解けたので声をかけることが

 できたのさ』

  

『それに僕にとっては生も死も等価値だからね。たとえ体が滅んでもこれぐらいは

 おやすい御用さ。』

  

確かに彼の体は透き通っていて、向こう側にある病室の扉も見えていた。

その言葉を聞き、半透明の彼の姿を見てシンジはうなだれる。

  

「僕は君を殺してしまった…」

  

カヲルはすぐに答えを返す。シンジを傷つけまいとするように。

  

『違うよ。君は僕が望んだことをしたに過ぎない。』

  

「でも、でも…」

  

  

『それに今はね、君のお手伝いをしにきたんだよ。』

  

「なにを……」

  

『そこに寝ている少女、惣流・アスカ・ラングレーさんのことさ。』

  

「アスカ…」

  

『そう。自ら閉じこもってしまった弐号機の魂。彼女の心を解き放てるのは彼女自身だけ、

 けどそれを手伝えるのは君しかいない!!

  

「でもどうやって?この一ヶ月、なにも答えてくれないのに。」

  

『僕たち使徒はね、お互いに意志を伝達することが出来るんだ。

 そして第15使徒、アラエルからは人の心とも接触できるようになった。』

  

『だからその力で君をお手伝いできると思ってね。』

  

『要は、僕がシンジ君と弐号機パイロットの心をつなぎ合わせるのさ。』

  

「そんなことが出来るの?」

  

『ああ、僕たちはこのために造られたのだから。』

  

「???」

  

『今はわからなくてもいいよ。これが終わったらゆっくり教えてあげる。今は、

 弐号機パイロットの魂を救う方が先だ!!

  

「ありがとう。なんて言ったらいいか……」

  

『君の笑顔が報酬さ。さぁ、彼女の手を握って彼女のことだけを考えるんだ。』
  
シンジはアスカの手を握りしめ、その上かカヲルが半透明な手をかぶせた。
  
  
  

『さぁ、始めるよ。』 


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