【未来に生きる希望】
<第一話:子供達の思い>
Dパート>

幸せそうなアスカとシンジの声がこだまする。

彼らはお互いに、支え合い、守り合う人を見つけたのだ。

カヲルはそんな二人をただ見つめていた。
  

(おめでとう。)
  

とただ一言呟いて………

  

  

  

アスカとシンジがようやくカヲルに顔を向けた。

  

「ありがとう、カヲル君!!!

  

「あなたは?」

  

全く同じタイミングで声をかける二人。

カヲルは、まずシンジにウインクを一つ送り、そしてアスカに答えを返した。

  

『僕は渚カヲル。君がいない間の弐号機パイロット。……そして最後の使徒。』

  

アスカが叫ぶ。

  

「テキ、私たちの敵!」

  

ベッドから立ち上がり、身構えるアスカ。

しかし、長い入院生活のために足下が定まらない。

すぐにぐらりと倒れてしまう。

慌てて支えるシンジ。

荒く息をつくアスカ。すでに息切れ気味である。

それでも気丈に、カヲルに問いかける。

  

「で…私たちを……どうしようって…いうの?」

  

カヲルが答える。

  

『別に…僕はシンジ君の味方だよ。なにが起こってもね。』

  

シンジも止めた。

  

「彼は僕の、そしてアスカの恩人だよ!」

「カヲル君のおかげで、僕はアスカの心に触れることが出来たんだ!」

「アスカが元に戻れたのも、全てカヲル君が来てくれたからだよ!」

  

アスカも落ち着き、シンジの手を借りながら体を落として座り込む。

そしてカヲルに話しかける。

さっきよりもだいぶ和らいだ声で、ただし幾分警戒気味に。

  

「あなたは、私の命の恩人って訳ね。礼を言うわ。ありがとう。」

「私は、惣流・アスカ・ラングレー。一応弐号機のパイロットよ。」

  

カヲルが答える。

  

『知っているよ。アラエルが教えてくれたから。』

『君がなにに苦しんでいたかも知ってる。』

『シンジ君も苦しんでいたからね。少しでも彼を助けるためさ。礼を言われるほどのこと

 じゃない。』

  

その口調は素っ気ない。しかし、アスカはその奥に潜む深い同情と哀れみを感じ取って

いた。

以前の私なら、強力に拒絶し、逆襲にでていたはず。

しかも、なぜ彼が私にそんな感情を抱くのかわからない。

しかし、今のアスカには強く胸に染み込んだ。

  

「ありがとう!」

  

今度の感謝の言葉は、さっきよりもよりはっきりしたものだった。

カヲルが少し戸惑ったようだった。

  

『アラエルの情報から予想した惣流さんなら、もっと別な反応をすると思ったけど…』

  

「私のことはアスカでいいわ。結構感謝してるんだから!」

「それに私も苦労して少しは成長したってことよ!」

  

そしてたまらず吹き出すアスカ。

つられてシンジ、そして少したってカヲルも笑い出す。

  

「ふふふふふ。」

「ははははは。」

『くくくくく。』

  

303号室の中に響く笑い声。

シンジもアスカもこの刻がずっと続けば良いと思った。

しかし、カヲルはすぐにこの刻が終わることを知っていた。

そう、この瞬間に………。

  

  

  

「ぐっ!」

  

突然、カヲルが頭を抱え込んだ。

  

「カヲル君、どうしたの!?

  

きれいにハモるシンジとアスカの声。

  

『始まった。』

  

苦痛に顔を歪めながら声を絞り出すカヲル。

  

「カヲル君、しっかりして!」

  

シンジが叫ぶ。

カヲルはかろうじて身を起こし、シンジ、アスカの元に近づく。

その姿を見て、驚愕するシンジとアスカ。

カヲルの姿が薄まっている!?

カヲルは、自分の異変にも、シンジとアスカの表情にもかまわずに話す。

  

『シンジ君、アスカさん、僕は君たちに伝えなくてはならないことがある。』

『これから言うことは、僕の本当の遺言になるだろう。しっかり聞いてほしい。』

  

シンジが叫ぶ。

  

「イヤだ!もうカヲル君を失うのはイヤだ!! もっと生きていてよ!!!

  

カヲルが静かに話す。

  

『僕が僕でいられる時間はあまりない。手間取らせないでしっかり聞いてくれ!』

  

アスカもシンジを押さえる。

  

「アンタ男でしょう!カヲルの最期の言葉、しっかり聞きなさいよ!」

  

シンジはアスカをにらみつける。

だが、アスカの目に涙がこぼれ落ちそうになるのを見たとき、のどから出かけた言葉を

飲み込んだ。

  

かまわず言葉を続けるカヲル。元から半透明だったその体は、さらに薄くなっている。

  

『僕を含む使徒、そして綾波レイは人類補完計画の要として造られた。』

『使徒はアダム、綾波レイはリリスと合体することにより人類を補完する。』

『そしてアダムやリリスの代わりになるものとして造られたのがEVA。』

  

衝撃を受ける二人。そしてカヲルの言った言葉を反芻する。

あ・や・な・みが、人類補完計画のために造られた!?

彼女は使徒と同じ!?

リリスとは!?

EVAはアダムやリリスの代わり!?

かまわず続けるカヲル。もう時間はないといわんばかりに。

  

『僕たち使徒はアダムと合体してサードインパクトを生じることにより全人類を滅ぼし、

 残った心をつなぎあう。そうして不完全な群体であり、肉体を持つが故に寿命の呪縛か

 ら逃れられない人類を、永遠に生き続ける完全な単体としての精神生命体に進化させる

 役割を担うはずだった。』

『綾波レイは、人間の心をつなぐために造られた人間らしい。詳しいことは知らないけど

 ね。アルミサエルもそこまで深く、彼女の心に潜ることが出来なかった』

『使徒を用いた補完計画はゼーレが、綾波レイを用いた補完計画はネルフが受け持った。

 そして、互いに戦わせることでより計画に即した使徒、綾波、そしてEVAを造ろうとし

 た。』

『結局、使徒は全て滅び、綾波とEVAが生き残ったことにより、ネルフによる補完計画が

 より優れたものとして遂行されるはずだった。』

『けどゼーレの面々は気づいたんだ。ネルフの、いや碇ゲンドウによる補完計画は本来の

 ものとは大きく変わってしまい、もはや自分たちのコントロールを受け付けないこと

 に。』

『だからゼーレは、ネルフによる補完計画の乗っ取りを画策している。そして自分たちの

 補完計画にすり替えようというのさ。』
  

一息つくカヲル。下半身はすでに空気の中に溶け込んでしまっている。

たまらずアスカが口を挟む。

  

「あなたはなにを言いたいの!?

  

『もう時間がないんだ。僕の言うことを全て聞いてから判断してほしい。』

  

そしてカヲルはまた語り始めた。

  

『僕の体はまだ9体残っている。唯一EVAに乗れる使徒だからね。彼らの持つEVA9体の

 ダミープラグにされるんだ。』

『そしてダミープラグに僕の9等分した魂が与えられつつある。』

『僕の体が消滅しつつあるのがいい証拠さ。』

『彼らの持つEVAは、僕の魂を得て完成する。』

『完成したEVAは、ネルフ本部を襲うだろう。ゼーレの手によって。』

『そこで君たちにお願いがあるんだ。』
  

  
  

『今度僕と出会ったら、僕を殺してくれ。』 


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