カヲルが消えてから1時間が経った。
暗い闇に閉ざされた一室。
今、閃光が五つ生まれ、ゆっくりと広がっていく。
その中に人影が現れる。
ゼーレの中枢を構成する委員会。
一番奥に座る人影、サングラスをかけた男、キールが口を開いた。
「今、連絡があった。」
「ダミープラグが完成した。」
残る四人の委員がどよめく。
かまわずに続けるキール。
「我らがメシアとなるべきタブリスは、我らの期待を裏切り、第二のキリストとなることを拒んだ。それ故、ネルフに処分させた。」
「そして、タブリスの分かたれた魂はダミーの中に甦った。全てが終わった後、ダミーをマギシステムの元で教育することで、我らはメシアを、再臨したキリストを手に入れることが出来る。これで我らはネルフの持つメシア、綾波レイを計算に入れずに済む。」
委員の一人が尋ねる。
「あとは、ハルマゲドンですな。」
別な委員も付け足す。
「さよう。そのためにもサードインパクトを起こさねば。セカンドインパクトでは、キリストが再臨するほどの大破壊とはなりませんでしたからな。」
キールが答える。
「アダムにリリス、我らに不要となったものを用いればそれだけのものは起こせよう。そして生き残ったもの達をさらに厳選し、未来にふさわしいものだけをメシアを用いてより高次の存在へと導く。彼らを我々が導くことによって、人類は永遠に栄えよう。人たる姿は失おうとも。」
委員の一人が尋ねる。
「これで、碇も、ネルフも用済みですな。」
しかし、キールは首を横に振る。脳裏にあの男、碇ゲンドウの姿を思い浮かべながら。
「あの男を消すには惜しい。」
「構想力、決断力、行動力。どれをとってもあの男はずば抜けている。」
「我々の補完計画も、碇が最初に構想したものに基づいている。そして使う道具も、元々碇が考案したものだ。」
「その道具も、我々が量産型EVA9体とダミープラグを手に入れた今、我々が必要とするのは初号機とマギだけだが、やつはさらにアダム、リリス、綾波レイ、そしてEVA弐号機まで持っているのだ!」
残る委員が落ち着いた調子で質問する。
「しかし、このまま手をあぐねていると、あの男とネルフは我々の最大の邪魔となるのでは?」
キールが答える。
「碇には、委員会から直接警告を与えよう。」
「そして補完計画遂行までの一ヶ月間、ネルフへの物資補給は、必要最小限のものとEVA関連のものを除く全てをカット!」
「この間に碇が折れるようなら受け入れよう。」
「さもなくば………」
「さもなくば?」
四人の委員が身を乗り出して尋ねる。
宣言するキール。
「実力行使あるのみ!!!」
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午前10時のネルフ司令室。
たった今、ゼーレの委員会による査問が終了したところだ。
疲れた顔の冬月。対照的に、ゲンドウの顔には自信がうかがえる。
冬月が話しかける。
「老人どもは大層なものだ。人の姿を捨ててまで、そんなに権力に執着するか。」
ゲンドウが答える。
「欲望は人間の進化の力だよ。しかも彼らには、それを現実とするだけの力もある。」
「じゃあ、白旗を揚げるか?」
「冗談ではない。太古の昔に創られた預言書に縛られた連中に、この星の未来を握らせはせんよ。それに彼らは初号機も持っていない。」
冬月がさらに問う。
「しかし、要求した物資のうち手に入るものがこれだけでは生かさず殺さずのようなものだ。何か手はあるのか?」
ゲンドウが答える。
「なに、EVAに関するものがあればいい。あとは、金さえ積めばどうにかなるものばかりだ。幸い資金はまだ十分にあるしな。」
さらに言葉を重ねるゲンドウ。
「人類の未来は我々ネルフが造る。老人どものおもちゃにはさせんよ。」
冬月が半ばあきれ顔になって、ゲンドウに聞こえぬように呟いた。
(それは我々も同じだろう………)
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同時刻、
第2発令所。青葉、日向、そして伊吹が雑談をしている。
緊張感のかけらもないのどかな光景。
周りを見ても、誰も緊張感など持っていない。
そこかしこで雑談の輪が広がっている。
やはり、ほとんどの話題は、突然のアスカの復活についてらしい。
彼らもアスカの復活と、それを見逃した不幸なガードに関する処分をひとしきり話した後、別な話題へと移った。
日向が話しだす。
「おれたちこれからどうなるのかな?」
青葉が答える。
「使徒は全て倒したわけだし、ネルフは縮小、解体の方向に進むんじゃないか?EVAは金食い虫だし、真っ先に処分されるんじゃないの?」
「まぁ、マギシステムはこれからも使い道があるし、現行システムへの応用、発展も十分にあり得るからマヤは食いっぱぐれることはないよ。」
最後はマヤの目を見て笑いながら話す青葉。
「まっ、俺はギターが弾ければそれで満足だけどね♪」
と言って、両手でギターを弾くまねをする。
「全く、自分のことなんですよ!少しは将来のことを心配したらどうです?」
マヤが、普段よりやや甲高い声で指摘する。冗談3割心配7割といった感じだ。
「おや、心配してくれるのかい!?」
「い・ち・お・う・同僚ですからね!」
ややきつい視線を青葉に向けるマヤ。でも少し心配げな口調も混じっている。
そのことには青葉だけが気がついた。
そんなこととは露知らぬ日向が、雰囲気を変えようと二人の間に割って入る。
「まぁ、ネルフも20世紀末の特殊法人みたいに、定年官僚のための再就職先として残されるかもよ。はっはっは。」
(ばぁ〜か)×2
日向を見る2人の視線は、とことん冷たかった…。
(それにしても先輩はどうしているんでしょうね?)
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リツコは地下深い独房にいた。
狭く、暗く、冷たい場所。
人との接触もない。
日に3度の食事さえも、定刻になると天井から降りてくる。
それでいて四六時中監視されているのがわかる。
そう、トイレの時でさえも。
お風呂?
ここには風呂どころか、シャワーさえもない。
3日に一度、バケツに一杯のお湯、手ぬぐい、そして着替えがやはり天井から降りてくるだけ。
人恋しくてたまらない。
でも絶対に助けは呼ばない。
これは私が受けるべき罰だ!
レイを壊した。
シンジ君にレイの本性を見せつけた。
信じてもいない補完計画に携わった。
でもそんなことのためにこんな目にあっているのではない。
<私は、愛してはいけない人を愛してしまった!>
<だから、ワタシは、罰を、う・け・た………>
でも会いたい!一目でもあの人に会いたい!
こんな境遇に私を追いやったのはあのひとなのに。
私は碇指令を好きなの?それとも憎んでいるの?
教えて母さん!私はどうすればいいの!!!
…………………………
いくら考えても結論はでなかった。
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ミサトは、シンジと一緒にアスカの病室にいた。
アスカの突然の復活!
最初にシンジに呼ばれて病室に来たときは、アスカはすでに寝てしまっていたので半信半疑だったが、ここまで元気だともう信じないわけにはいかない。シンジもアスカも、カヲルのことをミサトに話していなかったので、ミサトにはまさしく奇跡としか思えなかった。
壊れきって、2度と自分を取り戻せないと思っていたアスカが、こんなに元気に動いている!
この子達には奇跡なんてお手軽に起こせるものなのかもしれないわね。
さすがにアスカの顔色や体型は衰弱の色が激しかったが。
「お医者さんにも奇跡だって言われたんですよ!」
「僕の作ったお粥も元気に食べて、お医者さんに止められたのにもう一杯食べてぴんぴんしてるんですから。お医者さんが、ここまで元気だとすることがないよ、って呆れるくらいですから。」
喜色満面に話すシンジ。
アスカが笑顔でシンジに返す。
「シンジの作ったお粥、と〜〜ってもおいしかったんだから。一杯じゃもの足んなかったのよ!それに胃もちゃんと受け付けたんだからいいじゃない!」
ミサトが嬉しそうに話す。
「シンちゃんが毎日看病してたからよ。毎日泊まりがけで看病してたんでしょう!」
それは言わないでっ、と両手を合わせかけるシンジよりも先に、
「え〜〜〜っ!シンジっって、毎日泊まりがけで私に付き添ってくれたの!?」
「まったくそうと知ってたら、もうちょっと………」
で口ごもってしまう。
ミサトがすかさずつっこむ。
「もうちょっと、で、な〜に〜?♪」
「いいでしょっ!ミサトには関係ないことよ!!」
「もう、いーつのまにかこんなに仲良くなちゃって、この!この!」
とミサトは、シンジの頭をこづき回す。
「痛いですよ!!」
とシンジは悲鳴を上げながらも、
(今日のミサトさん、怖くないや)
と内心ほっとしていた。
こんなバカ騒ぎを30分もやっていると、さすがにアスカがへばってくる。
いくら元気に見えるとはいえ、食事を摂り始めたのは今日。
まだまだ体力がほとんどない。
ましてやカヲルがらみのことでも、体力をすりつぶしている。
ミサトもシンジもそろそろ引き上げ時と気がついた。
「じゃあアスカ、また晩御飯の時に来るよ。」
アスカが口をとんがらがす。
「え〜っ、もうかえっちゃうの〜。」
「うん、おいしいお粥も作らなくちゃならないしね。」
「もう4時間もすれば来るから、ちょっとの辛抱だよ。」
アスカもしぶしぶ納得する。確かにシンジお手製のお粥が食べられないのはつらい。病院の食事もけっして不味いものではないのだが、やはりシンジの作るものと比べて数段味が落ちる。
「たっくさん作ってくるのよ!」
といってベッドの中にくるまった。
「そうよ、よく食べよく寝て体力をつけたら、それだけ早く退院できるわ。」
とミサトもアスカに言い、病室を出ていく。
「じゃ、また6時頃に来るね。」
とシンジも言い足し、ミサトに続いて病室を出ていく。
「………さぁーて、シンジの夢でも見よ!……………ZZZZZ」
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シンジは病室を出た後、小走りして先を行くミサトに追いついた。
ミサトがシンジに気づき、振り向く。
「アスカずいぶん元気になったじゃない!シンちゃんもアスカを毎日見舞ってた甲斐があったてもんね!」
「しかも、思いっきりラブラブモード!いや〜、当てられる当てられる。」
(これでぜ〜ったいにシンちゃんの顔は真っ赤だわ。)
だが、ミサトの意志に反してシンジはちょっと顔をうつむき加減にしていたが、すぐにミサトの目をまっすぐに見上げた。決然たる視線で。
「ミサトさん、相談したいことがあります!誰にも訊かれないところで!」
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