これはほんの少し昔の話。悲劇をまだ知らない頃の話。皆で笑いあえた日の話。

 

「過去よりの使者 ANOTHER EPISODE」

 

 最近第壱中学で、はやっていることがあった。

 

  ストリートバスケット・・・3対3のハーフコートバスケットである。

 生徒会でもこのことは取り上げられ、今度の土日に大会を行うことになった。

 

 

 「ねえ、シンジ君、私達もバスケのチーム組まない?」

 

  澪からの誘いに返事をする前に割ってはいる者が居た。

 

 「あんたB組でしょ!向こうの人と組みなさいよ!」

 「いーじゃないの別に、クラス別にチーム組むって言う決まり無いんでしょ」

 「そら決まりはないけどな・・・・そんな奴おらんで」

 

  クラスが違えば、当然時間割や予定も違う。練習や試合のことを考えると、どう

 しても同じクラスの者と組むことが多くなるのだ。

 

 「それにさ、碇の奴ネルフに行かないといけない日もあるし無理なんじゃないの?

  良かったら俺が」

 

  たちまち立候補者が殺到する。そのメンバーだけでも5チーム以上組めそうだ。

 だが、肝心のの澪はそんな連中には目もくれない。

 

 「シンジ君はいやなの?」

 「別に嫌っていうわけじゃ・・・・」

 

  シンジはその言葉がどのような反応を巻き起こすか、等は考えても居なかった。

 案の定、その場にいた全員から殺気が寄せられる。彼がもし敏感だったら、それだ

 けで恐怖におののいたであろう。鈍感なのも時には役に立つ物である。

 

  だが、結局澪はシンジとチームを組むことは出来なかった。校内でのチーム編成

 は明確にルール化されては居ないが、その分仲間同士の暗黙の了解という物がある。

 それを破ることは、ある意味ルールを破るよりも許されないことである。・・・・

 もっとも、シンジがそう言って澪を説得しなければ彼女は平然とシンジとチームを

 組んでいただろうが。

 

 「つまんないな、・・・・今度の大会で後悔させてやるから!」

 

  そう言ってB組に戻っていく澪を見て、勝利感にふける者の気持ちに水を差す声

 が聞こえた。

 

 「後悔するだろうな・・・」

 

 ・・・無論独り言であったのだが、それならば聞こえないようにすべきだったろう。

 

 「ど〜〜〜言う意味かな〜〜〜〜?」

 「え、ど、どういうって・・・・澪はバスケがうまいんだよ。本当なんだってば、

  信じてよ〜〜〜。」

 「ふんだ、ちょっとやそっとうまいからってなによ!エヴァの訓練で鍛えた私の運

  動能力を見せて上げるわ!」

 

  競争心むき出しのアスカにまたもやシンジが水を差す。

 

 「でも・・・・アスカってチーム組んでないんじゃ・・・」

 「・・・・・・い、今からで十分よ!ヒカリ一緒にやりましょ!後は・・・・・・

  そういえば、シンジもチームに入ってないんでしょ?どうしてもって言うのなら、

  入れてやっても良いわよ」

 「残念やったな、シンジはワシらと組むことになっとるんや。まあ、アスカがどう

  してもシンジと組みたいって言うんやったら、譲ったってもええけどな」

 

  澪から学んだ、「必殺!アスカの意地張り逆用作戦」である。これを用いること

 でアスカの行動はかなり掣肘できる。但し後で周りの者が八つ当たりされるのだが、

 自分がその対象でない限り極めて有効な作戦である。八つ当たりされる一人の少年

 にとってはたまったものではないが。

 

 「でもさ、僕達はエヴァの訓練とかあるからつき合えない時とかあるよ。トウジ、

  委員長とでも一緒にやったら?」

 「ワシはそれでもええんやけど・・・・」

 

  トウジはちらっと横にいるケンスケを見た。ケンスケの表情は、読み違えるわけ

 がないほど、はっきりと「そんな事したら俺はどうなるんだよ〜〜〜」と言ってい

 る。

 

 「・・・・・分かったよ、3人でやろ」

 「ヒカリ、私達はどうしようか?」

 「そうねーーーー・・・・・・・そうだ!綾波さんでどう?」

 「な、なんでファーストなのよ!」

 「だって、この前の体育でバスケやったとき、結構うまかったじゃないの。アスカ

  だって勝ちたいんでしょ?」

 「・・・・他の子にしよーよ」

 「何で綾波さんじゃダメなの?」

 

  意地悪そうに微笑むヒカリを見てみんなは思った。

 

 (楽しんでるな!)

 

  もっとも一人だけ違うことを考えてる奴も居たが。

 

 (委員長ナイス!綾波だってきっと参加したがってるだろうし。アスカも友達なん

  だし、そんなに嫌がんないでも・・・・・何で嫌なんだろう?)

 

  その間にもヒカリのつっこみが入っていた。

 

 「エヴァで一緒の時は嫌だなんて言ってられないんでしょ?」

 「彼女と仲良く出来ない理由でもあるのかな?」

 「ひょっとして勝った時、誰かに祝福してもらうのは自分一人で良いとか・・・」

 

  等など。

 

 「もーーーいいわよ、ヒカリがそう言うんだったら、ファーストとでも誰とでも組

  んでやろうじゃないの。良いわねファースト!」

 

 それまで他人事のように聞いていたレイは黙って顔を縦に振った。

 

 

 

  やはり大会が近いこともあり、放課後校庭は各チームが練習を繰り広げていた。

 リングの周りは特に人が多く、出遅れたシンジ達はシュート練習など出来そうにも

 ない。

 

 「シンジくーーん、こっち、こっち」

 

  早めに来ていたようで澪はしっかり場所を確保していた。・・・いや、澪のこと

 だから強引に入ってきたのかもしれないが。

 

 「ね、ね、一緒に練習しよ」

 「アホ言うな、今度の大会では敵同士やで、そう簡単に手の内見せられるかい!行

  くで、シンジ!」

 「待ってよ、トウジ。澪、それじゃね」

 

  後ろで澪が笑っていたのは、ムキになっているトウジがおもしろかったのか、相

 変わらずのシンジがほほえましかったのか、存在感のない少年が哀れだったのか。

  だが、シンジと澪は気づいていたが、トウジが忘れていたことが一つ有った。シ

 ンジのことに関しては、トウジなどより澪の方が詳しいのだと言うことを。今更手

 の内を見ようなどと言う気が微塵もあるはずがない。トウジとケンスケのと言う考

 え方もあるが、澪がそのような物に興味を持つ可能性も皆無だろう。

 

 「しゃーないな、今日はドリブル、パス、1on1位にしとこか」

 

  軽く動いてみたところ、シンジはカットインは今一だが、ディフェンスは結構う

 まかった。トウジはオフェンスに優れ、ケンスケはどちらもそこそこと言ったとこ

 ろだ。結局トウジがフォワード、シンジがガード、ケンスケはその場次第と言うこ

 とになった。

 

 「よっしゃ、明日から大会に向け特訓じゃ!」

 「ごめん、明日からはしばらくエヴァの訓練なんだ。・・・・土曜まで」

 「シ、シンジーーーー!」

 「だからつき合え無いって言ったのに・・・・・」

 

  結局の所、シンジ達3人は大会当日までまともな練習もできなかった。ヒカリも

 一人だけになってしまったため、トウジ達と練習していたようだがそ、れによって

 不幸の量が倍増した者も居た。

 

 「こんな事なら最初っから、エヴァのパイロットチームにしといた方が良かったな」

 

  というのは至極まともな意見であったが、遅すぎた。

 

 

 

  そして、大会当日。

  参加チームが多いため、今日は予選日、明日が決勝トーナメントと言うことにな

 っている。

 

 「受付終わった?シンジ君達、チーム名何にしたの?『3men fools』?何これ?」

 「うるさいやっちゃな、シンジの奴がそれがええっちゅーたんや」

 「確かに俺達の呼び名だけどな・・・もうちょっとかっこいいのにしたかったな、

  大和とか、武蔵とか」

 「そんな名前付けるか!やっぱりここは虎とか、猛牛とかやな・・・」

 「あんた達、本当にどうしようもないバカね。名前のセンスまでないの?」

 

  いきなりアスカが会話に割って入ってきた。

 

 「そういうアスカ達はどうやねん、『A-GIRLS』・・・ひねりも何もないやないか!」

 「うっさいわねー、あんたの愛しのヒカリちゃんが考えたのよ!文句ある?」

 「だってー、アスカの考える名前って恥ずかしいのばっかじゃないの」

 「それで澪のチーム名は?」

 「『Angels』よ!」

 「マッドはつかないのか?」

 「あら、マッドなのは3人の内1人だけだもの」

 

  さらりと自分で言ってのける辺りが澪らしい。

 

 「・・・・・始まるみたいよ」

 

 (『3men fools』か・・・シンジ君らしいな。多分結構気に入ってるんだろうな、

  『3バカトリオ』って呼ばれるのが。3人が仲間だ、友達だって事がみんなから

  認められてるって事だモンね)

 

  シンジ達は1回戦を無難に勝ち上がった。トウジのカットインがさえ、この日の

 ためにとケンスケが練りに練った作戦が次々とはまっていった。そして決め手はシ

 ンジの3Pシュートである。シンジにはシューターとしての才能があったようだ。

 加えてエヴァで鍛え上げた一瞬の集中力!生きるか死ぬかの戦闘に比べれば、ゲー

 ム中の精神集中などたやすいことである。

 

 「こいつー、こんな特技があるの隠してやがって!」

 「別に隠してた訳じゃ・・・」

 

 その時、コートの一角で歓声が起こった。シンジ達がそちらの方を見てみると、

 どうやら他の試合が盛り上がっているようだ。1チームは3年の男子、対戦してい

 るのは澪達であった。

 

 「18対2?ぼろ負けじゃないか。ま、相手が3年の男子ならしょうがないか」

 「そうかな?」

 

  3人の前で澪が切れ込み、綺麗なレイアップを決めた。得点板の数字が動いた。

 20対2に。

 

 「すげーまた決めたぜ!彼奴うますぎるよなー」

 「おい、どうなってるんや?澪達が勝ってるちゅーことか?」

 

  トウジがギャラリーの一人を捕まえ聞いてみた。

 

 「ああ、澪の奴、ほとんど一人で3年を翻弄しているよ」

 

 

 「そっち、チェックお願い!切り込ませないようにするだけで良いから」

 

  澪は指示をしながら、積極的にドリブルカットを狙う。プレッシャーに負けて、

 不用意なパスをしたところをチームメイトがカットした。

 

 「ナイス!こっち出して。」

 

  澪にマークが集中する。澪は間髪入れずボールを前にはじいた。完全にノーマー

 クであったB組の娘は難なく加点する。

 

 「確かにうまいわ。澪の奴ガードなんか?」

 「澪は、オールラウンドだよ。ガードもこなせば、ゴール下でも働けるし、外から

  のシュートも得意だったな。周りの者を動かすのもうまかったよ。・・・だから

  後悔するって言ったろ」

 「確かにな」

 

  会話の間に澪達は3年生を軽く撃破していた。こちらに向け親指を突き立てる澪

 を見ながらシンジは昔を思い出していた。

 

 (でも、本当に澪が凄いのはシュートがうまいとかゲームメイクが出来るとかじゃ

  ないんだよな)

 

  さすがに『A-GIRLS』も勝ち進んでいた。アスカのゴール下、ヒカリのパス、レイ

 の3Pと『3men fools』と似たようなチームとなっていた。

 

 「ざっとこんなもんよ!どお、シンジ!」

 「どおって・・・・僕達も決勝まで行くんだけど・・・」

 「3チームとも決勝か・・・私達で優勝争えたらいいのにね」

 「難しいと思うぜ、なんせ残ったのは3年やらバスケ部やらがほとんどだもんな」

 「あら、私達はバスケ部にも勝ってるわよ。もっとも澪のおかげだけどね」

 「あー、まだそんなこと言ってる。3人の力だって言ってるのに」

 

  澪はそう言うが、実際今日の澪はいつも以上に目立っていた。輝いていた。彼女

 の一挙一動が勝利の女神の躍動に見えていた。それを聞いた澪はこう言ったのだが。

 

 「だって私達は『Angels』だもの。女神とはお友達よ」

 

 

 

 翌日、決勝トーナメント。

 

  組み合わせは皮肉な物だった。一回戦は『Angels』VS『A-GIRLS』。しかもそ

 の勝者が二回戦で『3men fools』と当たるのだ。

 

 「澪!今日こそ決着つけてやるわ!」

 

  試合前から意気の上がるアスカと静かに闘志を燃やすレイに、澪は提案を持ちか

 けた。

 

 「賭けない?もし私が勝ったら、今度の休みにシンジ君を誘ってどこか行くの許し

  て欲しいんだけど。あなた達が睨んでたらシンジ君、OKしずらいだろうしね」

 「もし、私達が勝ったら?」

 「そうね、一週間A組の教室に行かないようにするわ」

 「のった!」

 

  こうしてこのゲームは彼女達にとって非常に重い意味を持つこととなった。

 

 

  1回戦

 

  今日も澪の好調は続いていた。ジャンプシュートや3Pが面白い様に決まり、ム

 キになってアスカが突っ込んでくると軽くパスでかわしている。他の二人も澪のパ

 スを受けて次々とゴールを決めた。ディフェンスに置いても澪がマンツーマンで、

 アスカの動きを封じると、流れを止められていた。レイは3Pは入るものの、あま

 り動かないのでマークを払えない。ヒカリ一人では得点にも限界がある。結局澪達

 の完勝であった。

 

 「・・・次は絶対に負けないわ!」

 「楽しみにしてる」

 

  アスカは負けた悔しさに震えていた。その怒りは当然のように慰めようと駆け寄

 った者に向かう。

 

 「シンジ!何がなんでも絶対勝のよ!負けたりしたらどうなるか覚悟しなさい!」

 「鈴原!あんたもよ」

 「・・・・・・そんなぁ」

 「しかし、シンジ。澪を封じなワシらに勝ち目なさそうやで」

 「一番ディフェンスうまいのお前なんだし頼むぜ」

 「・・・・・やってはみるけど。(何か責任押しつけられてる様な気が・・・)」

 

 

  2回戦

 

  シンジのディフェンスはある程度澪を封じた。だがあくまである程度である。フ

 ォワードとしての動きを封じることは出来ても、ガードとしての動きは止められな

 かった。パスや外からのシュートで澪は完全にゲームを支配している。

 

 「シンジ、何やっとるねん。ちゃんとマークせんかい」

 「無理言うなよ。これで精いっぱいだよ・・・けど、どうしよう。ケンスケの立て

  た作戦も全部読まれてるし、僕もトウジもマークが厳しいし。・・・・このまま

  じゃアスカが恐いな」

 「ワシも委員長が恐い」

 (・・・・何か負けても良いような気がしてきたぞ!)

 

  後半になっても点差は開く一方だ。シンジのシュートはほとんど入っていない。

 澪にマークされては厳しいようだ。

 

 (悔しいな。なんとか一本だけでも決めたいんだけど・・・・そうだ!)

 

 ボールをもらったシンジは素早くシュート体制にはいる。ブロックに澪が飛んだが

 シンジはボールを離してなかった。

 

 (フェイク!?)

 

  この試合初めてのノーマークから放たれたシュートは、見事にネットをゆらした。

 点差を考えると焼け石に水だが、シンジは妙に嬉しかった。

 

  ここでホイッスルが鳴り、『3men fools』は姿を消した。

 

 「やってくれるじゃないのシンジ君。昔私が教えて上げたフェイクをあそこで使う

  とわね」

 「勝敗には関係のない一本だったけどね」

 「でも、楽しかったでしょ?」

 

  にっこりと笑いかける澪を見てシンジは一つ大切なことを忘れていたことに気づ

 いた。澪に一番最初に教えてもらったことを。

 

  結局シンジはアスカにぼろくそに罵られ、澪達は決勝まで勝ち上がった。

 

 「今度ばっかは澪達でも無理じゃないか?」

 「そうねー、相手3人ともバスケ部でしょ。いくらなんでもね」

 

  シンジ達は澪の応援に回ることにしたのだが、アスカは複雑な表情をしていた。

 シンジは、本当は応援したいのだが、自分達を負かしたところを応援するのに抵抗

 があるというアスカの心理が分かっていたので、何も言わなかった。もっともその

 一因に自分が居ることには気づきもしなかったが。

 

 

  決勝戦

 

  さすがにバスケ部は強かった。しかも3人はセンター、フォワード、ガードとそ

 ろっており、ストリートにおける理想的なメンバーである。個人技においても澪以

 外の二人はかなり劣る。ハーフタイムまでに点差はかなり開いてしまった。

 

 「・・・・ごめん、澪。私達が下手だから・・・」

 「もー、そんなこと言わないでって言ってるでしょ。誰もそんなこと思って無いっ

  て」

 「でも、私達がもっとうまかったら・・・・澪の足引っ張らないで済んだのに」

 「決勝に来れたからってそんなに欲張らないで。チーム組む前に言ったでしょ。勝

  つにこしたことはないけれど、それよりもゲームを楽しもうって。勝つために勝

  利を目指すんじゃなくて、一試合でも多くできる様にがんばろうって」

 「だけど・・・ねえ。」

 「あーーあ、・・・・私の好きな四つの言葉教えて上げようか?『Don't Mind』、

  『Don't Worry』、『Take it easy』、『ケセラセラ』・・・くよくよ悩んだっ

  てしょうが無いわ、楽しもう!」

 

  後半は『Angels』のボールで始まった。まだ二人が少し沈んでいるのを見た澪は

 大声で話しかけた。

 

 「ほら、さっきの言葉、声に出してみて。」

  そう言うと澪はドリブルで切り込みながら叫んだ。

 

 「Don’t Mind!」

  スッテプをきり、一人をかわす。

 

 「Don’t Worry!]

  ゴール前でシュートを放とうとジャンプした。

 

 「Take it easy!」

  相手も二人がかりでシュートブロックに飛ぶ。だがその瞬間、澪はボールを後ろ

 に流していた。そこには完全にノーマークになっていたチームメイトが居る。

 放たれたシュートがリングを通過するのを見て澪は言った。

 

 「ケセラセラ・・・・ね、難しく考えること無いわよ、楽しもうよ!」

 

 

  澪の笑顔を向けられれば、勝利の女神が味方したくなるのも分かるような気がす

 る。その笑顔を向けられた二人は俄然元気を取り戻した。切れ込もうとしたり、

 遠くからでもシュートを放ったり、色々なこともしてみた。もちろん早々うまく行

 くはずもないが、気にせず、心配せず、気楽に、なんとかなると思い、おもいっき

 りゲームを楽しんだ。結局勝利の女神は微笑んでくれなかったが、3人の天使達の

 顔には満足げな笑顔が溢れていた。

 

 「ああーーん、疲れたよー。まったく、澪のせいで何試合やったと思ってるのよ」

 「いいじゃない。楽しかったでしょ?」

 「そりゃ、楽しかったけどね・・・・・私もくたくた」

 「だけど頑張ったよな。3年やバスケ部の混じった大会で準優勝とは恐れ入るよ」

 「まーね、でも準優勝なんかより嬉しいこともあったけどね」

 

  アスカとレイの眉が動いたが、今回ばかりは誤解であった。

 

 「思いっきりバスケを楽しめたことだろ。楽しかった、澪?」

 「もっちろん!さすがシンジ君、よく分かってる」

 (本当は忘れかけてたんだけどな。ゲームはまず楽しむ物何だって事。本当に澪は

  凄いや。いつだって楽しむことを忘れないんだもの)

 

  そんなことをシンジが考えていると、座り込んでいた澪がいきなり立ち上がり近

 くに転がっていたボールを拾い上げた。

 

 「まだ時間も早いし、もうちょっとやらない?チーム組み替えてさ」

 「まだやるの?タフねー。そんなにバスケ好きならバスケ部入ればいいのに」

 「やらされるのは好きじゃないの。自分がやりたい時にやる、これが一番よ!」

 

  澪らしい言い方に微笑みながらシンジも立ち上がった。

 

 「やろっか?」

 「私もやる!澪!さっきの借りは返すわよ!」

 「しょうがない、付き合うか」

 

 ・・・・・・・・・・

 

 

  さすがに『Angels』の残り二人は辞退したが、他の7人はチームを組み替えつつ、

 日が暮れるまでバスケを楽しんだ。そこで5人は初めてシンジが「後悔する」と言

 った意味が分かったような気がした。

 

 

 

  ・・・・・・・次の週末、アスカとレイは別の意味で後悔していた。

 

 



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