りしモノ
 
 

「はあぁーーー」

かつてのJA計画責任者、時田シロウは今日だけでも何度目か分からないため息をついてゐた。

事の起こりは数ヶ月前。JA完成披露記念会直後の「海辺の二人事件」こと、JA暴走事件である。

この時JAを止めたのがよりにもよってEVAであったこと。

JAの暴走の理由はEVA同様今だ不明であること。

そして先程届いた情報で、暴走したEVAがエネルギー残量0で動作した事まで明らかに なり、JAがEVAに勝っている点はパイロットへの負担だけになってしまい、もはやJAの存在も風前の灯となった。廃棄も時間の問題だ。そうなれば彼の首も飛ぶ事になる。

そういう訳でさっきから彼はため息をつき通しなのである。

事故直後の調査では暴走の理由は発見されなかった。ここにネルフが絡んでいるのは疑いの余地が無いのだが、民間の開発組織であり、また戦自も介入していない以上、どうにも手の出し様が無かった。

「私の青春の夢もこれまでか・・・」

子供時代に見たガン○ムを目指し、今まで頑張って来た日々が思い起こされる。


「主任!ついに開発コード『農林一号』、最終チェック終了です!!」

「そうか!JA試作一号機、予定通りに完成だな。やった。やったぞ!見てろよ、ネルフ!いつまでもあんなゴム人形の時代じゃないぞ。」


それを、あんなイデ○ンの様な非科学的なものに砕かれたのである。無限力(ムゲンチカラ)なんて反則だ、などと心の中でつぶやく時田であった。

しかし彼の苦悩はそれだけではない。

クビになるだけなら、まだいいのだ。

問題は後始末である。

「JAをどこへ始末するか。」

とてつもない難問を彼は背負っていた。

「責任者は責任を取る為に存在する。」

いまさらながら、それを身にしみて感じるのであった。

一応、幾つか案は有るのだが・・・。

1、こっそり太平洋もしくは日本海へ捨てる。

2、青森かどこかへ埋める。

3、原子力船と一緒に記念館送り。

4、中国かどこかへ払い下げ。

1、2は論外であった。(最終手段と言う噂も有るのだが・・・おっと、これは秘密だ)

3は一見まともな意見なのだが、JAの大きさがそれに待ったを掛けていた。太陽の塔よりはるかに大きいものをどこに置けというのだろう。

4も出来れば避けたい所だ。今では中国も発展し、世界に10台と無いMAGIを所有するまでになっているが、まだまだ日本の原子力技術、ロボット工学の粋を集めたJAほどの物を生産するまでには至っていない。きっと買ってはくれるだろうが(それもかなりの値段で)、天然資源無き日本では技術こそ資源である以上、試作一号は渡せない。

そのほかには、移動する原子力発電所として各国を放浪するとか、冗談交じりの意見もあった。

結局の所、まともな意見の出ないまま数ヶ月が過ぎている。(暴走事件直後から後始末の検討はしていた。ここが民間企業と政府機関の違いである。政府に言われる前にやることはやっている。)

実は一度、JAを原子炉として転用する計画が動いた事もあったのだが・・・。


今を去ること一月程前。某県某町にて。

『JA受け入れ断固反対!!』
『田舎に危険物を押し付けるな!!』
『原発は電気を使う都市に作れ!!』

数々のプラカードなり何なりを持って行進する農家の人たち。

日本重化学工業共同体の調査隊が訪れただけでこの騒ぎである。

「・・・なぜそのような危険物を我々の土地に押し付けるのでしょう。企業が作った物は企業が責任を持って処理するべきではないでしょうか。・・・」

演説まで始まってしまった。手の付け用があろうはずも無い。


とまあ、見事に転用計画は失敗に終わっている。

日本政府の権限を使えば無理強いも効くだろうが、そんなことをした日には共同体関連会社全ての信用問題になってしまう。あっちもこっちも手詰まりであった。

「ああ、JAよ。どこへ行くのか・・・」

もはや悲劇の主人公となっている時田。最近では胃も痛い。
そこへ・・・

「主任!JAの受入先、見つかりました!」

「何、本当か!?どこだ。」

「それがその・・・第三新東京市です。」

「・・・ネルフか?」

「発電装置の補助に使いたいと。」

「そんなことで・・・あそこは駄目だ!最後の手段とする。」

「しかしもう、打つ手が・・・」

「まだだ。まだ何かきっとあるはずだ。考えろ、考えるんだ。」

ダンッと机をたたいて歯を噛み締める時田。

プライドに懸けてもネルフにJAは渡せなかった。しかもネルフはJAを発電機に使うつもりなのだ。(恐らくはポジトロンライフルに直結される事になるだろう)

もちろん自分たちも原発に転用する事を考えていたのはきれいに忘れていた。現金な物である。

移動する原子力ロボット。SFの夢がこの様な形で座礁しようとは誰が想像し得ただろう?

原発なら、反対されつつも作ってしまえば何とでもなる。他所へやれと言われても土地に固定だから動かせない。退けた所で、その土地は使いみちが無い。

しかし、「移動する」事により、受け入れ拒否を容認せざるを得ない所が哀しい。

一言、「どっか行け!」と言えば原子炉が歩いて去っていくのである。シュールな光景がそこにあった。原子力ロボットが人と仲良くする「ア○ム」の時代はもはや過去のものとなりはてた。

移動する利点もあるにはある。何等かの災害で、「住処」が危険になった場合に脱出が可能な事だ。(これもやはりシュールだ。津浪から逃げる原子炉や、侵略者と戦う原子炉など聞いた事も無い)

それはともかくも原子炉への転用が不可能なら、他の手段しか無い。

「主任!フランスから打電がありました!」

「フランスから?」

「ええ、動力炉の研究用に使いたいと。」

「良いじゃないか!中国よりもずっと良い。」

もちろんここには、フランスは対岸の火事、という意識がある。目の前の中国よりははるかにマシだ。

かくして、フランス行きが決まったJAであるが・・・。

「JAの質量を運べる船は今の所、これしか手配できません。」

そう言って、彼は目の前の船を指差す。それはアメリカの(船籍はパナマだ)原子力貨物船であった。

「Genius号か。縁起でも無い名前だな。」

「どうしてですか?「天才」なんていい名前じゃないですか。」

「私の知り合いには、ろくな天才がいないんだ。赤木博士を筆頭として。」

「たしかに。」

「それに、「天才」と訳せばいいが、文語的に言えば「もんじゅ」だ。」

「・・・それは嫌ですね。」

「一応聞いておくが、船長の名前は?」

「福岡竜一郎です。」

「ラッキー・ドラゴンか・・・。JAは所詮どこへ行っても原子力だな。」

名前から既に波乱含みではあるが、JAはとにかくフランスへ旅立ったのである。


太平洋上を航海する「もんじゅ号」・・・もとい、Genius号。しかし早くも航海は終わりに近づいているのであった。

そもそも、Geniusとは、船の搭載する、最新鋭の自動航行装置に因んでつけられた名前であった。つまり、完全コンピュータ制御と言う訳である。

ここで、一人の「天災」科学者が登場する。言わずと知れた赤木リツコ博士だ。

彼女はわりと根に持つタイプなので、今だにJAを目の敵にしていた。

彼女とMAGIシステムにかかったら、最新鋭の航行装置も、猿回しの猿同然。かくして船の暴走が始まった。

「主任!航行装置に異常が発生しました。」

「何だ。」

「変です、操作を受け付けません。うわ!何だこれは!」

そこには目的地が三つだけ表示されていた。

1、ビキニ環礁
2、ムルロア環礁
3、新横須賀−>第三新東京市

「何だこれは!また、ネルフの仕業か!くそ、そうまでして我々をこけにしたいか!手動に切り替えだ。」

「駄目です。命令を受け付けません。」

ピーピーピー。ちょうどその場にファックスが届く。差出人は、赤木リツコ。

  JAが気に入ったの。おとなしく渡してくれれば手荒なまねはしないわ。
  そうそう。1と2を選んでもいいけど、現地到着と同時にその船の機関部がふき飛ぶ仕掛けになってるから。
  タダだなんて言ってないのよ。おとなしく帰って来なさい。

「主任・・・もう、あきらめましょう。」

「何を言う。まだ、まだ終っていない。」

「しかし、このままでは船と心中です。そんなことに意味はありません。」

「・・・」

「それに、相手はあの赤木博士とMAGIですよ。国家レベルを相手にして勝てるはずが在りません。」

「・・・」

「主任!」

「解った。・・・私の夢も・・・ここまでか。」

がっくりといすに崩れ落ち、机に置いた手を握り締め、下を向いた目は何を見るのか。

時田シロウ。最後まで会社に、政府に、赤木リツコに翻弄された男であった。

その後JAはネルフに買い上げられ、リツコと技術課のおもちゃとなったすえ、屋外発電機として箱根の山に埋められることとなる。が、それを知るものは少ない。軍事マニアと時田シロウの心のみに往年のその姿を留めることとなった。

そして、この変なロボットは今も日本にいるのである。たぶん。


作者あとがき:

作者はこれを
にやにや笑いながら書きました
意味のある固有名詞を
文章の中に埋め込むたびに
ある種の笑いが込み上げて来ました
それはあるいは
自虐的な物かもしれません。

その他:

「東海村を中心として、非常事態宣言発令」はさすがにやめました。
あと最後の一行だけは入れたかった。では。

 


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