「Love is destructive.」
303病室に抱き合う二人の姿があった。
そう、言わずと知れた、碇シンジ、惣流・アスカ・ラングレーの両人である。
カンの良い方ならお分かりだろうが、この物語はよくある24話分岐のSSなのである。いかなる経過でこうなったか?ここではそのことについては述べない。
なぜなら、そんなことは物語において、さして重要ではないからである。
理由はいくらでも付けられる。(シンジの熱心な看病、精神崩壊直前にフォローがあったから、或いはもっと前からラブラブで助かった、etc)
ただ読者は、この二人が今ラブラブで、25話の開始直後の時間軸である、とだけ知っていればいいのである。
さて、甘い時間には邪魔者が入るものだ。(もっとも多用されるパターンは、「あら〜私はお邪魔だったかしら〜」とミサトが現われる場合だ。)
ここで現われたのは戦自の方々と、ゼーレの刺客たちである。
シンジの携帯がなる。
「シンジ君、大変な事になったの。」
と、ミサトの説明が入る。
映画をご存じで無い方のために書くなら、サードインパクトを恐れた日本政府から、戦略自衛隊がネルフ本部に侵攻。(恐らくばらしたのは加持である)
更に、ゲンドウと仲違いしたゼーレの面々から、サードインパクト用のエヴァシリーズ9体が送られて来て、修羅場を展開する、という訳である。
なおこの作品中の時間では、現在、赤木博士がプロテクトの作業をしている最中である。
おおざっぱに言うと、病室は危ない上、普通の武器では戦自には勝てないので、二人はエヴァに乗る事になった。
その時の会話の一部をここに描写する。
「・・・でも、アタシは今、エヴァに乗れないし。」
「ねえ、アスカ。ぼくたちが最初にあった時のこと覚えてる?」
「二人で弐号機に乗った事ね。」
「エヴァの中が一番安全なんだ。一緒に初号機に乗ろう、アスカ。」
「アタシを守ってくれるの?」
「うん。アスカのためだったら何だってできる。エヴァにも乗るし、何とだって戦ってみせる。」
「うれしい!!」
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大体こんな感じである。カヲルを殺した後に、「何とだって戦ってみせる」と言う辺りが重要なのである。
ともかく二人はべたべたであり、シンジはちょっと強かった。(おそらく、生きて帰って来たら、晩ご飯はハンバーグだ)
初号機が地上にでて、作戦開始だ。(既にN2兵器のおかげで、天井はぶっ飛んでいる)既に羽が生えて覚醒しており、しかもS2機関のおかげで電源切れの心配も無い。
辺りをうろつく陸軍も、空軍も、軒並み”中身ごと”ゴミと化す。
中のシンジも、「アスカに近づくなー」とか叫びつつ、切れていた。
女、冥利につきるのか?
高圧鉄塔を飛び越えるような巨人に、普通の兵器で挑む戦自の皆さんも、ご苦労なもんである。
しかも、ATフィールドのおかげで、あらゆる攻撃は効果無し。無謀を通り越してただのバカだった。だから、誰かがこう呟いた。
「エヴァンゲリオン初号機、まさに悪魔か・・・」
そうこうやってるうちに、天から何かが降って来た。
お待ちかね、全SFアニメの中でも、最悪の気持ち悪さを誇る量産型エヴァンゲリオン×9である。
「エヴァシリーズ、完成していたの・・・」
そう呟くのも無理は無い。何しろ、作戦課屈指の情報収拾能力を持つ、”アッシー”日向の情報でも、13号機までの建造を確認したのはついこの間である。恐らく、各国でかなりの餓死者を出した事だろう。(あるいは、失業者対策の一環にもなったかもしれないが。)
さて、ここから更にご都合主義の展開が開始される。
ゲンドウはいきなり善人化した。赤木リツコもそれに従った。
加持リョウジは生きていた。綾波レイは人間化した。
ゼーレの老人たちは、加持の情報が国にばれた事で、ここと同じようにつるし上げをくい、キール議長以下が断末魔の叫びをあげていた。
「後、少しだったのに・・・」
お約束の台詞だ。
善人化したゲンドウが、全ての責任を負う事に決定、日本政府との和解が成立。
いつの間にか残った仕事は、主のいないエヴァシリーズの殲滅だけになっていた。
見たまえ、たった10行もいかないうちに全ての事態は沈静化した。恐るべし、ご都合主義!
ここでもやはり、本筋と外れる所は必要無いので、結局こうなるのである。
さて、残ったゴミ処理であるが、実にあっけない。
暴走する”本能”シンジと、理論的な”理性”アスカのダブルコンビだ。技の切れも、タイミングの良さも、その他諸々無敵の強さ。・・・とまあ、説明も不要だ。要するにボロ勝ちなのである。
破壊、破壊、破壊!戦自もエヴァもみんな破壊!全てはアスカへの愛ゆえに。
そう、作者はこれが言いたかったのだ。
Love is destructive.
愛で人は死ぬ!
アスカのために、忌み嫌うエヴァに乗り、
アスカのために、戦自の方々を殺戮し、
アスカのために、エヴァシリーズも大虐殺。
愛があれば何だってできる。何をしても許される!そう、非常時に人を殺すのは罪にあらず。彼らに罪は一切、まったく、無い!
そして二人は永遠に・・・
・・・あなたはこんなシンジ君に会いたいですか?
きっとアスカは大切にしてもらえるでしょう。
少なくとも、二人は一生幸せでしょう。
否、判りません。シンジは罪に脅えるかもしれない。たとえ、大切な相手がそばにいても、自殺する可能性は0ではない。(参考文献、夏目漱石「こころ」)
愛ゆえに、愛ゆえに、愛ゆえに。
彼は人殺し足り得るか。
成長しない少年の物語、新世紀エヴァンゲリオン。(とその幾つかのSS)
彼は人殺し足り得るか。
冒頭に書いた”24話分岐”の文字。これに必然は無く、たとえば、学園物でも良い。
途中に書いた”戦自とエヴァシリーズ”或いはこれは、学園レイや、霧島マナでも良い。更に言うなら、二人は「シンジとアスカ」である必要すらない。
”オリジナルにアッテ、オリジナルにアラズ”
どこへいくのか、”他人のフンドシ”
公共のキャラクターに乗せ、作者の本音を吐く行為。
Love is destructive.
これが本音だ。
みんなで書いて、みんなで読んで、みんなで幸せに浸る。素晴らしい行為ではないか。
文学よ、永遠なれ。
SS中では、作者は神だ。原作よりも上位に位置できる。ゆえに何だって許される。
設定のスキを突くもよし、勝手に人を殺すも良し、復活も良し、世界観の無視も自由だ。どこで作品を終らせてもいい。むしろ、途中で終らせた方が、出来は良くなる事が往々にしてある。
だから、キャラクターのこんな台詞で、このSSはいきなり幕を閉じるのである。
「アンタばかぁ?これはSSよ!」
劇終
作者コメント:
これは、あてつけである。自分を含む、多くのSS作家への。
大いなる勇気を与えてくれた、「ホーリーマウンテン」に感謝いたします。