やあ!!俺はフォルテ、この物語の、語り手だ。
           ちょっと余計なことも言うかも知んないけど、そこんとこはちょっと許してね♪
●・・では!!“Mighty Force”始まり、始まり!!!




1、Good Morning
僕たちが住んでいるこの地球、そこからそう遠くないところに、エターニアロックという星があった。その星は地球と同じような環境にあ
ったが、地球より、遥かにできてからの時間の差があった。この地球ができ恐竜といわれる物が栄え、地球上をのし歩いていたくらいの時
間で、今の我々のように進化の過程を辿り、人間が生まれた。何故こんなに短時間で進化できたのだろう・・・?実はこの爆発的進化には
Mighty Forceという特別な物が関係していた。それは特別な力でもあり、特別な生き物でもある。形こそないが、そこに精神
は確かにあり、存在しているのだ。Mighty Forceは3つある。いや最初は一つであった・・・Mighty Forceはエ
ターニアロック初の単細胞精神に取り付き、それで爆発的進化を遂げた。最初のうちは、元の一つの生物に取り付いていたのだが、その生
物たちが進化を遂げていくうち、意志をもつようになった。それが暗黒面を生み出したのだ。暗黒面のMighty Forceに対抗し
ようと、極光面が生まれた。二つのForceは対抗しあううちに変化が訪れた。細胞が進化を遂げていくにつれ、暗黒面が強大になって
きたのだ。しかしこれを極光面、は分裂しForceの数を増やして対抗したのだ。あたかも単細胞生物のように・・・このように極光面
は学習し進化することで、暗黒面は生物の強い悪意に取り付きどんどん強大になっていった。しかし均衡は保たれていた・・・しかしこの
均衡が破られようとしていた。エターニアロックの町外れの山の奥の館に潜む世界一悪意の強い男と、ここにいる一見全く関係無さそうな
、今目覚め様としているレイ・グラシエーロという一人の少年と、その仲間たちによって・・・
「チチチ・・・・カチ・・・」
朝だ・・・目覚し時計を止めながら、と先に起きたレイはおもった。レイの髪は肩まであり、誰もがかっこよくない、とは言わないような
顔立ちだ。身長は160cmくらいで、スラっとしている。
「おい、キール、起きろよ・・・」
うんざりしたようすで、レイが髪を後ろでくくりながら言った。
「う〜〜ん、もうちょっと・・・」
キールと呼ばれた少年が眠たそうに言い、布団を頭からかぶった。
「起きろってば!!」
少年は怒っているように聞こえるようにがんばったが、無駄だった。キールはそんなことはお見通しというようすで、まだ布団を頭からか
ぶっている。
「おい、早く起きろよ!!」
そう言うと、少年はもう階下に下りようとしていた。
「キール、レイ、起きなさいよ、もう朝ご飯できてるわよ」
階下から、ケイトおばさんの声がした。
「しょうがないなあ、わかった・・・起きるよ」
キールがめんどくさそうにいった。キールは髪をくしゃくしゃしながら、起き上がった、身長はレイより少し高めで、容姿は普通だ。筋肉
質体質には見えない体なのに、片手で自分のベットを持ち上げてレイのベットの上に乗せていた。こうしないと部屋が狭いらしい・・・
「早く、来いよ。」
レイは階下から大きな声で聞こえるように言った。
「わかったから・・・すぐ行く。」
一瞬レイはキールがまた寝てしまうんじゃないかと心配になったが、キールが下に下りてきたので、その心配もなくなり、朝食を食べ始め
た。
テーブルの上には、目玉焼きと、トースト、スープなどが並んでいて、どれもおいしそうだった。
「いたっだきま〜す。」
レイは、かなり空腹だった為に、これ以上ないご馳走だ、という顔をして食べ始めた。
「いっただっきま〜〜す。」
キールはさっきの眠そうな顔はどこかに吹っ飛んだように、ガツガツ食べ始めた。
いつもなら、キールの冗談や、おばさんの笑い声なんかがテーブルの上いっぱいに飛び交っているのに、今日は違っていた。みんな、食べる
のに必死だ。しかしそれには訳があった。昨日は世にも恐ろしいバジルおじさんの手料理が(別におじさんが恐ろしいわけではない)食卓
に並べられたのだ。それを口にしたときのみんなの顔は、すごくひどかった。(おじさんの手料理の味はもっとすごかった・・・)だから
みんな昨晩は全然食べてないのだ。
「ごちそうさま〜〜」
レイとキールが同時に言った。その時、電言板に何か映った。(電言版っていうのは、テレビ電話みたいなやつのこと。)それは、レイの
知らない人だった。
80歳くらいのおじいさんだ。口には長いひげを蓄えており、髪が長く、髪の毛もひげも白髪だ。真紅のローブに身を包んでおり、かすか
に微笑んでいる。
「え〜〜、ホワイトロック戦士養成学校からの連絡じゃ。今から約二百人ほどの名前を呼ぶ・・・呼ばれたものは、一週間後のホワイトロ
ックの入学式に新入学生として、出席するように!では読み上げるぞ・・・ロール・ハインダラー!ショク・グライティ!ニミクラス・ジ
ュロール!・・・・・・・」
レイはもうそんな時期か、と思いつつぼーっと聞いていた。その後小一時間、その老人は入学者の名前を呼び続けていた。何故か、おばさ
んはテレビにかじりついていた。その時おじさんが慌てて下に下りてきた。
「ケイト!!もう呼ばれたか?!」
レイは何の事を言ってるのかわからなかった。キールはわかってるのかな?と思ってレイはキールの顔を見た。しかし、やっぱりキールも
、何のことだかさっぱり、という顔をしていた。
「まだよ、バジル・・・」
おばさんが興奮したようすで言った。レイにはもうなにが何だかさっぱりだった。しかし・・・


2、NAME


その時、その老人がさもうれしそうに名前を読み上げた。
「レイ・グラシエーロ!!」
レイはそれが自分だということがわかるのに数秒かかった。
「そして、キール・オルセン!シオン・カルキス!マスキナス・ニネルマ・・・」
おじさんとおばさんは大喜びしている。レイにはまったく訳がわからなかった。なぜ自分なの前が呼ばれたのか?そして、なぜあの老人が
あんなに嬉しそうに名前を読み上げたのか?
「ねえ、母さん、どうゆうこと?」
レイも同じ事を言おうとした。
「あのね、キール私たち勝手に申し込んだの、貴方達に最高の学校に行って貰いたかったから・・・」
戦士養育所は幾つもあって、それぞれ新入学生が入学する年齢が違うのだ。15歳で入学できるところもあるし、18歳で入学のところも
ある。レイとキールは今14歳。二人は学校に行きたくて、行きたくて、しょうがなかったが、まだ早い、と我慢していたのだ。でもそれ
が、あの有名なホワイトロックに行けるなんて、レイには夢のような話だった。レイは、この喜びを早く味わおうとばかりにキールのほう
を向いた。しかし
「ねえ!どういうこと?!」
レイはキールの目が潤んできていることに気づいた・・・。
「どうしたんだよ?キール・・・」
レイは、何が言いたいのか全くわからない、とゆう調子で聞いた。
「レイ、おまえの本名を言ってみろ・・・」
キールが冷たい声で言った。レイは、なぜ?と聞きたかったが、あまりにもキールが真剣なので、指示に従うことにした。
「レイ・グラシエーロ・・・これがどうかしたの?」
「じゃあ、おじさんとおばさんの名字を言ってみろ」
レイはその時、キールがケイトおばさんとバジルおじさんのことを、おじさん、おばさん、と言ったことに気づくべきだった。
「バグダー、だからどうしたていうの!?なんでこんなこと言わせるんだよ!!」
レイはもう苛立ちを隠せなかった・・・
「じゃあ!!俺の名前は?!」
キールはひどく興奮しているようだった。バジルおじさんと、ケイトおばさんは、落ち込んでいるようだ。
「キール・バグダーだろ!?それがどうかしたのかよ?」
レイもだんだん興奮してきて、何が何だかわからなくなっていた。しかし次のキールの言葉で眠りから起こされたように、目が覚めた。
「ちがうんだよ・・・そうじゃない・・・さっきあの電言版の人が発した名前と一致しないんだ・・・さっきあの人が言った名前は・・・

レイはだんだんキールの思ってることがわかり始めていた。
「キール・オルセン・・・でしょ、私たちも貴方が学校に入学する時になったら言おうと思っていたのよ。」
おばさんが静かに言った。あたりに静寂が流れた。レイは自分がバジルおじさんとケイトおばさんの子供じゃないと知らされた時の事を思
い出していた。そのときはまだレイは小さかったので、おばさんはレイを説得しようとして一日中「なんで?なんで?」と質問攻めするレ
イに面と向かってちゃんと一つずつ答えてくれたことを覚えてる。しかしレイの両親が何故死んだのかというのは教えてくれなかった気が
する。いや教えられなかったんだろう・・・その時だった、キールが静寂を破った。
「じゃあ・・・じゃあなんで、親がいないこと・・・レイには教えて、俺には教えてくれなかったんだよ!!」
「それは・・・」
おばさんがしどろもどろになった。おじさんはなだ沈黙を守っている。
「くそっ・・・」
そう言うと、キールは外に飛び出していった。しかし、おばさんとおじさんの様子は変わらない。
「おい、まてよ」
レイは何も考えず飛び出した。外は雨が降っていた。ひどい雨だった。
「お〜い待てよ!!」
レイは走りながら叫んだ。しかしキールは止まらない、それどころかレイとの差がどんどん開いていく。500mくらい走っただろうか?丘の
頂上でキールが止まった。そしてやっとの事でレイが追いついた。レイは走るのが苦手なわけではない、どちらかというと得意な方だ。し
かし、その時ばかりはキールがなぜかすごく速かった。レイがそれは当たり前だと気づくのは、もう少し後だった。キールはレイに背を向
けていた。レイはまだ息が上がって喋れない
「なあ…お前は親がいないって知らされたときどんな気持ちだった?」
キールが背おむけたまま言った。
「ハァ…ハァ、ハァ……そりゃ悲しかったけど…小さかったからあんまり深く考えなかったよ……」
レイは呼吸がだいぶ治まるのを待ち、答えた。
「そうか……なんで教えてくれなかったんだろう?おばさん達は……」
「おばさん達なんて呼ぶなよ!!」
レイに愛情にも似た怒りが込み上げていた。こんな気持ちになったのは初めてだった。
「じゃあ、なんでお前は、おばさんとかおじさんって呼んでるんだ?!」
「それは、俺の中のけじめとして、そう呼んでるんだよ……これ以上迷惑を掛けないように、自分にブレーキをかけてるのさ…けどお前は
違うだろ?!」
「何が違うって言うんだ!!」
キールがレイの方を向いて叫んだ。キールの声が辺りに木霊した。
「解らないのか?!おじさん達はお前だけは俺と違って…お前だけは本当の子のように育てたかったことが、解らないのか?お前に母さん
、父さんと呼んでもらいたかったのが………お前には解らないのか?!」
レイもキールにつられて叫んでいた
「…………」
二人の間に沈黙が流れた。キールの顔は雨でぐしゃぐしゃになっていたが、レイはなぜか泣いていると思った
「ごめん……」
レイはキールが謝ったのでどうしていいかわからなくなった。(あのわんぱく坊主のキールが……)
「謝るなよ……だけど、だけど一つだけ言っておく。俺はこの先どんなことがあろうとも、お前のあんな姿は見たくない………。おまえは
いつも俺の先頭にたって俺をひぱっていく役目なんだから……。」
「なんだよ……、勝手なことばっかり言いやがって……お前は俺に引っ張られてるだけで、楽でいいなぁ?」
キールが意地悪そうにいった。ちょっと元気が出たみたいだ。
「お前が歩けなくなったときは、そんときは俺が押してやる、けど――……」
「けど、何だよ?」
「けど、立ち止まるな―――――……俺は楽な方が好きだからな?」
レイが言った。そして二人は顔を合わせると、笑い出すのを止められなかった。(別にとめたかったわけじゃないが……)雨に打たれなが
ら、丘の上で二人は笑いつづけた。つらい過去を忘れ去るように……それから二人が家に帰ったのは言うまでも無い。

2、ビロール街

それから帰るとおばさんが
「早くシャワーを浴びてきなさい……。」
と言ってくれた。レイはかなり嬉しかった。そして、キールがなにか言おうとしたのだが、今はやめておけと言って止めた。その夜二人は
ぐっすりと眠りまたいつもと変わらない朝を迎えた。いやちょっと違っていた。
「チチチチ――――……」
レイはまたいつものように起きて髪を後ろでポニーテールのようにくくった。そしてまたいつものようにキールを起こそうとした。しかし
驚いたことにキールが起きていたのだ。これには相当驚いた。
「レイ、もう朝ご飯、できてるってよ……」
キールはそう言いながら、いつものように黒い髪をくしゃくしゃさせながら、自分のベットをレイのベットの上に置いた。(いつものよう
に片手で……)それからキールとレイは階下に降りた。今朝も昨日と同じような朝だった(キールが先に起きていたことを除いてだが…)
テーブルの上にはいつものようにおいしそうな朝ご飯がのっていたし、またそのうえには笑い声が飛んでいた。そしてまたいつものように
おじさんが後から起きてきて朝ご飯を食べ始めた。
「おはよう。」
おじさんが眠たそうに言った。
「おはよう、おじさん。」
レイが言った。
「おはよう、父さん。」
キールが言った。これもいつもと同じ言葉だが、レイはキールがおじさんの事を、”父さん”と呼んだことがうれしかった。朝ご飯を食べ
終わると、レイとキールは庭の手入れをやりに言った。やりおわるまでそう時間はかからなかった。二人が庭から戻ってくると、おじさん
が出かける準備をしていた。
「何処行くの?」
キールが聞いた。
「ビロール街だ。」
ビロール街とはここ周辺で一番大きな街だ。ここで手に入らないものは無い、というほど色んなものが売っている
レイとキールは小さいときに一度と、一年位前に一度行ったきりだ。小さいときは何の用事で言ったか覚えていないが、この前行ったとき
は二人が大きくなって服が着れなくなったので、服を買うのと、その他色々な物を買いに行くのについて行った。その時は二人で金貨1リ
オンもお小遣いを貰い、お菓子なんかを買って過ごした。レイはその時はほんとに楽しかったなぁ、と思いながら、おじさんを見送ろうと
していた、が
「おい、お前達も早く用意しろ。」
レイは理解するのに数秒かかったが、キールはもう、ほとんどそのつもりだったようだ。二人の学用品を買いに行くというのだ。二人は嬉
しくて階段を駆け上がりほんの数十秒で支度をした。階下に降りると、もうおじさんは玄関を出ようとしていた。
「ちょっと待って〜」
キールが叫んだ。おじさんは足を止めこちらを向いた。そしてレイたちが追いつくと、おじさんはまた歩き出した。そして停留所まで来る
と足を止め馬車を待った。
「キキ―――――」
馬車が目の前に止まった。そして手綱を持った男が顔を出した。少し背が高めで、筋骨隆々といった感じだ。
「何処へ行けばよろしいですかな?」
男がぶっきらぼうに聞いた。
「ビロール街に行ってくれ。」
おじさんもぶっきらぼうに答えた。
「解りやした。」
男はそう答えると、手綱を引いて馬に掛け声を掛けた。するとどんどん馬車は浮上していった。それから二人は空の旅をしばし楽しんだ。
空には沢山の鳥がいた、青い鳥や、虹色の鳥、3mくらいある鳥なんかもいた。そしてビロール街に着いた時には二人はもう夢心地だった。
「到着しやした。」
男が言った。おじさんがお金を払っているうちに二人は馬車を降りた。あたりを見回すと色んな店が並んでいた。
本屋、飲食店、防具専門店、御菓子屋、武器専門店、雑貨屋などだ。通りの入り口辺りは割と普通の店が並んでいるが、奥の方へ行けば行
くほどおかしな店が増えていった。帽子専門店、悪戯道具店、情報配給店なんかだ。レイは武器専門店「ガイア」に惹かれたが、キールは
悪戯道具店の方を見ていた。
「おい、いくぞ……」
おじさんが言った。レイとキールは急いでおじさんの方へ行った。
「最初に何処へ行くの?」
レイが聞いた。
「銀行だよ。」
おじさんが歩きながら答えた。キールはなんてあたりまえな事を聞いたんだ?と言わんばかりの顔をしながらレイの方を見た。レイは苦笑
してかわしたが、内心、レイはおじさんもそう思ってるだろうな、と後悔した。それからしばし歩くと銀行が見えてきた。銀行の前には屈
強そうな男が二人扉の両隣に立っていた。扉は大人一人入るのが精一杯ぐらいの大きさで、男の腰にはずっしりした剣が差してあった。お
じさんはIDカードを見せて通してもらっていた。レイとキールは慌てておじさんの後について行った。ドアを開けて中に入ると広いロビ
ーが広がっていた真中辺りにあるフロントに小柄の女の人が立っていた、年齢は30歳くらいだろうか。他にはおじいさんがロビーのソファ
に座っているだけであとは誰もいなかった。
「バグダ―様でございますね?お待ちしておりました。金庫番号と暗証番号とお名前をここにお書きください。」
女性は丁寧に言い、記入欄の幾つかある紙を差し出した。おじさんは黙って紙に何か書いていたが、そう長くはかからなかった。女性はお
じさんが紙を渡すと、少し考え、そして歩き出した。おじさんが女性の後をついていったので、二人はおじさんの後に続いた。扉をあけ、
階段を下り、10分ぐらい歩いただろうか、銀色で囲まれている道をいつまで歩き続けるのだろう?とレイが思い始めたころだった。
「バグダ―様、こちらが5026番金庫になります。」
女性はそう言い金庫の鍵を開けた。
「ありがとう。」
おじさんはそう言いながら金庫の中に入っていった。二人も後に続いた。金庫の中はそれほど狭くは無かった。
しかし、四方を引き出しで覆われていたので、圧迫感があった。おじさんは真中の下から3番目の引出しから金貨を丁寧に数えながら、巾着
に入れた。そして振り返り二人を金庫から出るように促した。三人が金庫を出ると、女性は中に誰もいないのを確認し、扉を閉め鍵をし、
そしてまた歩き出した。少し歩くとレイはある事に気が付いた。
だんだん道が広くなってきているのだ。行きとは明らかに違う道だ。それから少し歩いてレイが何処へ行くのかな?と思い始めたころ、と
奥の方で何かが光っているのが見えた。だんだん近づいていくと、それが地下鉄だと言うことが解った。入り口らしきところまで来ると、
女性が立ち止まりドアが開いた。
「これから、レベルMAXの金庫に参りますので、この列車にお乗りになってください。」
そう言うと女性は車両の中に入り椅子に座って安全ベルトをした。おじさんもそれに続き椅子に座り安全ベルトをしたので、レイは、レベ
ルMAXってなんだろう?と思いながらキールとおじさんと同じ事をした。女性がみんながきちんとベルトをしているかを確認した。そし
て確認が終わると手元にあるマイクに、
「出発してください。」
と囁いた。列車はゆっくりとスピードを上げながら走り出した。列車はどんどんスピードを上げていく。そしてレイの気分が悪くなり始め
たころ列車は急に降下し始めた。10分ほど行っただろうか?レイはもう気分がかなり悪くなり
もう限界ッというところまできていた。(キールとおじさんは平気な顔をしていたが……)すると列車は急にスピードを落とし始めた。レ
イはだんだん車両が水平になっていくのを感じたとき、もう救われる思いだった。そして列車は止まり、ドアが開いた。レイははベルトを
真っ先にはずし、列車を降りた。地下だったがなんともいえない開放感に包まれた。それから女性、おじさん、キールの順に降り、また歩
き始めた。レイとキールがいい加減ウンザリ、という顔でお互い顔を見合わせていた時、急に女性は立ち止まった。
「バグダ―様こちらが3番金庫になります。」
女性はそう言いながら、扉の鍵を開け始めた。レイはその時やっとレベルMAXの意味がわかった。金庫に何十個も鍵がついていたのだ。
女性がやっとの事で鍵を開け終えたと思ったら、、その扉の向こうにはまた同じように何十個も鍵のついた扉があった。女性は汗をかきか
き、もう一つの扉も開けた。レイはまさか……と思ったが、そのまさかだった。もう一つ扉があったのだ。しかしその扉に鍵は付いてなく
、代わりに指紋照合機が付いていた。一体何が入っているのだろう?とレイは思ったが、すぐに、当たり前なこと考えてることに気づいた
。これから買い物に行くのだから、お金が入ってるに違いないのに……。そんなことを考えているとおじさんはレイの方を向いた。
「レイ、お前がやれ。」
レイはなんで自分なのか、解らなかったが、従わないわけにもいかないので一歩前に出て、自分の親指を照合機の上に置いた。すると、ピー
ン、という音がして最後のドアが開いた。中はさっきの金庫の倍くらい大きかった。中引き出しにも鍵がかかっていたので、おじさんは女
性に鍵を開けてもらい、さっきと同じように中から金貨を取り出した(枚数はさっきと比べ物にならなかったので、巾着には入りきらず、
バッグに直接入れていた)。そしてみんなで金庫を出た。女性は鍵を閉め、また歩き出した。帰りは行きより楽だったが、それでもレイは
銀行を出たときには、もう疲れ果てていた。
「次は何処へ行くの?」
レイが聞いた。
「次は本屋へ行って教科書を買う。……そうだ、二人ともリストは持ってきたか?」
二人がうなずくとおじさんは、いいだろうと言うそぶりを見せまた歩き出した。本屋にはすぐについた、しかし着いたは良かったが、本を
探すのが大変だった。戦術学、歴史、薬草学、回復術学、戦闘魔法術学……とにかく一杯あった。レイとキールで手分けをして、やっとの
事ですべての教科書を買った。それから武器屋に行った、戦士の命ともいえる剣(つるぎ)を買うためだ。(練習用のホログラフィーソー
ドも買わなくてはなら無いのだが……)武器屋に着いて扉を開けると、カウンターに一人の少年が立っていた。歳はレイ達より少し上だろ
うな、とレイは思った。スラッとしていて金色(こんじき)の髪とよく合うスーツを着ていて、完璧に着こなしている。手の甲に文字みた
いな物(見たところ多分一文字だ)が刺青みたいに浮き出ている。手には銀のブレスレットを幾つかしていた―――文字らしき物が浮き出
ている手の方(右手)―――かっこいいと言うか、なんと言うか……美しい!!!
「パパ〜〜、お客さんだよ〜〜」
そう言うと少年はカウンターから出てきて、レイとキールの方を向いた。
「僕はシオン、君達は?」
シオンは美しく賢そうな顔を緩め、微笑みながら言い、握手しようと左手を差し伸べた。。その間に店の主らしき(シオンの父らしき)男
の人が、奥から出てきた。
「御用は、なんですか?」
優しそうな男の人だ。歳はおじさんと同じくらいだ。
「剣(つるぎ)をひとつと、ホログラフィーソードをふたつ買いたいんだが……」
「剣ひとつと、ホログラフィーソードふたつですね?解りました。……」
店主は微笑みながらいった。
「……剣はどれにしますか?」
「ん〜どんなのがあるんですか?」
「そ〜ですね、え〜と新しく入ったのは……小回復魔法のかけられるように補助魔法をかけた剣や、落雷魔法の出るやつとかですね…筋肉
増強魔法のかかってるやつなんかもありますが……。」
おじさんはしばし考えていた。
「この店で一番切れ味のいいやつを貰おうか…」
そうですか、と主人は言い、店の奥に言った。2、3分で戻ってきた、手には古びた剣(つるぎ)を持っていた。鞘は黒くかすかに光を放っ
ている。
「これが当店で一番切れる剣です」
そういって店主は剣を抜いた。鞘も、柄もボロボロだったが、刃だけはするどく光り輝いており、本当に切れ味が良さそうだ。
「それをいただこう。」
おじさんが満足げに言った。レイはそれは自分が貰って、キールはおじさんの剣(つるぎ)を受け継ぐのだろう、と
思っていたが。予想に反しおじさんは剣をキールに渡した。
「おじさん、僕の剣は?」
レイは空かさず聞いた。
「レイのはちゃんと家にあるよ。」
おじさんが微笑みながらいった。レイはなぜ?と聞こうとしたが店主に遮られてしまった。
「ホログラフィソードはホログラフィアーマーとセットですけど、これでよろしいですかな?」
「ああ、それでいいです」
「父さん、もう買う物ない?無いよね?無いよね!!」
キールがなかば脅迫じみた声で聞いた。
「……ああ、ないよ。」
おじさんはしばし考えてから答えた。
「じゃあ、シオンと遊びに行ってもいい?」
キールがこらえきれずに聞いた。
「いいですかな、カルキスさん?」
おじさんが見せの店主に聞くと店主は喜ばしそうに頷いた。レイは何故おじさんが店主の名前を知っていたことよりも、遊びにいける嬉し
さの方が大きかった。はしゃいでる様子をみると、キールもそうらしい。
「じゃあ、いこうか!!」
レイが、二人に言った。
「うん。」
シオンが返事を返した。レイは少し嬉しかった。それから三人は外に飛び出し。歩き出した、そのあと御菓子屋に入り、皆それぞれ好きな
御菓子と好きなアイスを一つづつ買い、近くのベンチに腰を落ち着かせた。
「あっ、そうだ、自己紹介がまだじゃない?じゃあ僕から言いますね?え〜〜と名前はシオン・カルキス、歳は…12歳です。」
シオンが言った。
「え〜とじゃあ僕も……名前はレイ・グラシエーロ、歳は12歳。」
レイが言った。
「じゃあ俺も……え〜と名前はキール……キール・オルセン歳はレイと同じで、レイの素敵なお兄さん役だ。」
キールが言った。
「じゃあ、みんな歳が同じなんですね、今日は何しにきたんですか?」
シオンがキールの冗談で少し笑いながら言った。いつも、とてもにこやかで丁寧な言葉遣いだ。
「今日は学用品を買いに来たんだよ。」
レイが答えた。
「えっ、もう学校行ってるの?」
シオンが驚いた様子で言った。少し大きな声で言ったので。隣に座っていた入れ歯のバンパイアが驚いていた。
「ううん、今年入学。」
レイがレモンとミントのアイスクリームをなめながら言った。
「今年入学!?で、同い年だから……」
シオンはまた驚いた。
「ホワイトロックに行くんだよ。」
レイが先を言った。
「やっぱり!!僕もなんだ!!」
シオンはかなり嬉しそうだった。
「……二人はやっぱりパートナー希望登録したの?」
シオンが厳かに聞いた。
「う〜ん、僕達が申し込みしたんじゃないからなぁ〜。キール知ってる?」
レイがシオンのほうからキールの方へ向き直った。(レイは真中に座っていた。)
「ん?あ、ああ。母さんが、登録したって言ってたよ。」
キールは自己紹介以降何やら考え事をしているみたいだった。
「ふ〜〜ん、シオンは?」
レイはまたシオンの方を向いた。
「それがね〜、……知り合いに仲のいい人いなくて……」
シオンがうつむき加減になった。レイはどう言ったらいいのか分からなかった。
「じゃあ、俺達が友達になってやるよ。もし君が幽霊じゃなきゃね…」
キールが始めて自分から喋った。シオンが一瞬ギクリとした。レイは笑いながらもちょっとあつかましくないか?と思ったが、シオンが嬉
しそうなので、ホッとした。
「有難う!!こんなこと言われたの初めてだよ。」
レイはシオンに友達がいないのは、シオンが悪いんじゃなくて周りの人に問題があるんじゃないか?と思った。――シオンの人柄からして
、シオンに問題があるとは考えにくい――
「あ〜〜あんなに買ったのに菓子なくなっちまったな……そろそろ移動するか?」
キールが言った。二人とも話す内容が無くなってきたので、これには賛成だった。
「いいよ……で、何処行くの?」
レイが聞いた。するとキールは、そんなこと考えていないよ、という顔をした。
「ん〜俺達ここら辺に詳しくないからな……」
キールはそう言うと、シオンを見た。
「い、いいよ。僕が案内するよ……」
シオンが慌てて言った。それから三人はウインドウショッピングをしたり、戦争ゲームを買って、その場で遊んだりした。時間はあっとい
う間に過ぎ、空が紅に染まりかけたとき、おじさんが迎えにきた。
「キール、レイ!!」
おじさんが後ろで叫んでいた。
「ずいぶん探したぞ……何処にいたんだ?」
おじさんは、軽く息を切らしていたが、怒ってはいないようだった。
「どこって……色んなとこ行ったよ。」
キールが困ったように答えた。
「楽しかったか?」
おじさんの呼吸が落ち着いてきた。
「うん!」
全員がほとんど同時に頷いた。
「そうか……それならいい。」
おじさんは満足そうに微笑んだ。
「じゃ、買う物買ったし、帰るか?」
おじさんがレイとキールの方を向いて聞いた。レイは内心もっとシオンと居たかったが、おじさんに迷惑を掛けるわけにもいけないので、
頷いた。おじさんはそれを確認すると、馬車乗り場に向け歩き出した。帰りは、レイ達も疲れていたので、最高の夜景を見るのも忘れ眠り
についた………。

4、Talent

翌朝、バグダ―家では、またいつもと同じ朝を迎えていた。いつもと同じように起きたレイとキールは、またいつもと同じように階下に下
りた。しかしテーブルの上にはいつもあるはずの朝食が無い。
「おばさ〜〜ん」
レイは何事かな?とケイトおばさんを探した。
「そんな大きい声出さなくても聞こえますよ。」
おばさんはキッチンの壁からひょっこり頭だけを出していった。
「母さん、ご飯は?」
キールが聞いた。
「あなた達で作るのよ。」
おばさんは当たり前のように言った。
「へ?!」
キールが思わず声を出した。今までキールたちはご飯なんか作った事が無かった。それもそのはず、ご飯なんて作る必要も無かったし、ま
してや作ろうなんて思わなかったのだ。
「なんで?」
レイが聞いた。キールは良くぞ聞いた問い湾ばかりの顔をした。
「あなた達ホワイトロックに行くんでしょ?」
おばさんが聞いた。レイとキールは何を当たり前のことを聞いているんだ、という表情で頷いた。
「ホワイトロックでは、朝ご飯は各自で準備しなければいけないの。だからその練習よ。」
レイは、納得した気持ちと朝ご飯を作ら無ければいけない驚きの混じった微妙な気持ちだった。でもおばさんには感謝していた。キールは
ポカーンとしていた。
「で、何を作るの?」
レイはキールがしばらく起動しそうに無いので、代わりに聞いた。
「ん〜〜、じゃあ今日は……フレンチトーストと、目玉焼き、サラダでも作ってみる?」
おばさんは少し考えて言った。レイは他に思いつかないので頷いたが、キールはまだ放心状態だった。少しして、(キールの放心状態が治
って…)レイとキールは調理に取り掛かったが、前も書いたように二人とも料理なんかしたことが無い。レイが作った目玉焼きは焦げてし
まったが、キールほどではなかった(キールの目玉焼きは、原形すらとどめていなかった)それにサラダはドレッシングの作り方を間違え
、ひどく甘い味になってしまった(サラダは二人で作った)それでも二人は満足だった。自分達で作ったのである程度の味は我慢できた。
それでも少し残ったが……。そして二人は後片付けをして又いつものように庭の手入れをやりに言った。するとそこには、いつもなら寝て
るはずのおじさんが立っていた、その横には昨日買ったホログラフィ練習セット(ホログラフィソードとホログラフィアーマー)が2個置い
てあった。
「さあ、これから剣技の練習だ。」
おじさんは当たり前のようにいった。レイは不意をつかれたが、朝から料理を作らされたていたので心の準備はある程度できていた。(キ
ールもそうみたいだった)
「じゃあ二人とも、このベルトをつけて剣の柄をもって。」
レイとキールは頷き、何の変哲も無いベルトをつけ、柄だけしか無い剣を持った。するとベルトから透明の袋みたいな物が体を包み、剣か
ら半透明の刃が出てきた。レイは本当にこんな物で練習ができるのだろうか?と思った
「それじゃあ、早速始めるか!!」
そう言ったおじさんは、いつの間にか、ホログラフィセットに身を包んでいた。その表情はやる気満々と言った感じだった。
「何から始めるの?」
レイが聞いた。
「二人とも毎日ちゃんと素振りはしてるだろ?」
おじさんが聞いた。レイとキールは空かさず頷いた。しかし毎日素振りはしている物の絶対と言うほど、ちゃんばらに変わってしまうのだ

「じゃあ、すぐに練習に入ろう。まず……レイとキール、立ち会ってみろ。」
レイとキールは言われた通り、向かい合い、2〜3m間合いを置いて構えた。
「始め!!」
おじさんが叫んだ、と同時にキールがレイに飛び掛った。勝負は一瞬でついた。飛び掛ったキールの剣がレイにあたると思われた瞬間、レ
イはサッと横に移動して剣をかわし、キールの頭めがけて剣を振り下ろした。わずか2秒ほどの合間であった。キールとおじさんは驚きの表
情を隠せなかった、がレイの驚きに比べれば些細な物だった。レイは自分でも解らないうちに剣をかわし、自分の剣をキールの頭めがけて
振り下ろしていたのだ。キールとちゃんばらをして遊んでいた時はこんなこと無かったのに……。
「すごいぞレイ!!」
おじさんはひどく興奮し、喜んでいた。
「でも僕、考えてやったんじゃないし……それに……」
レイはキールとのちゃんばらをしていた時の事を言ってしまいそうになったが、ギリギリのところで止めた。
「それに、なんだ?」
「ううん、なんでもない。」
レイが慌てて取り繕った。
「じゃあ……次は私が相手をしよう。」
おじさんは、すごく楽しそうに言った。まるで子供みたいだ。
「いいよ。」
レイは空かさず答えた。さっき起こったことが本当に自分の力なのか、どうか知りたかったからだ。
「じゃあキール、かけ声よろしく。」
レイが言った。キールはまだ座り込んでいたが、頷き立ち上がった。
「それじゃあ……両者向かい合って……構え……始め!!」
キールのかけ声と共に、おじさんが飛び込んできた。キールの倍ぐらい速い。レイはおじさんの剣をやっとの事で受け止めた。さすが、ホ
ワイトロックの剣術を8で卒業しただけあるなと、レイは思った。
「キィィィン」
剣と剣が交差している。レイが懇親の力を込めて、一瞬おじさんの剣を押し返した。その瞬間おじさんは一歩下がり、レイの剣を流し、横
から切りかかった。レイはこけそうになるのを堪え(こらえ)真上に飛んだ。レイはそのとき必死だったので、自分がいつもの倍ぐらいの
高さを飛んでいるのに気が付かなかった。それでもおじさんの剣を避けきれず、剣がレイの足を襲った。すると足が急に重くなりレイは着
地に失敗し、その場に寝転んだ形になったがすぐに立ち上がり間合いを取った。
「そうか……斬られて致命傷だと終わりになるけど、まだやれる程度の傷だと痛みの代わりに負荷になって重くなるんだ……」
レイは思わずつぶやいた。だとするとレイの右足の傷は重さからしてかすり傷ぐらいだろうか……
「何をぶつぶつつぶやいているんだ!?いくぞ!」
おじさんがそういいながら突進してきた。レイはやられてたまるか!とばかりにおじさんに向かって突進していった。二人がどんどん近づい
ていって、剣と剣が交わる…と思われた瞬間、レイの姿はおじさんの側面を捉えていた。おじさんは空振りし、バランスを崩したので振り
向く余裕も無くレイの剣の餌食になった。レイに歓喜が走った
「いやはや、まさかこんなに早くレイにやられるとはなぁ。あと三年位は大丈夫だと思ったんだが……レイ、おじさんの完敗だ。」
おじさんが座り込んだまま、レイを見上げて言った。レイは喜びのあまりボーっとしていたので、聞いてはいなかった。レイはおじさんを
倒したことも嬉しかったが、それ以上に自分の力を知ったことが嬉しかった。
「すごい才能だな、レイ。」
キールがレイに話し掛けたが、未だ放心状態だった。
「じゃあ、今日の練習はこれにて終了!二人ともシャワーを浴びてきなさい。あ…それから明日から私は仕事に行くけども練習は続けるこ
と、良いね?」
二人は頷き、家に向かって駆けていった。その後二人は、いつものとおり戦争ゲーム(ボードゲームで、駒の種類が豊富。子供達に大人気
のゲーム)をして遊んだり、練習で荒れた庭の手入れをしたりと、のんびり過ごした。

5、入学

それから5日あっという間に過ぎ(その間朝ご飯と、剣の練習は欠かさなかった)いつの間にか入学式の日になってしまった。(別になっ
てほしくなかった訳じゃないんだけど……)
「チチチ―――……」
いつもより30分速く目覚ましがなった。
「おい、キール起きろよ。」
レイはいつものようにキールを起こした。するとキールも今日ばかりは素直に起きた。
「母さ〜ん、朝ご飯できてる〜?」
キールが、二人の着る物を確認しているおばさんに向かって叫んだ。
「テーブルの上にあるでしょ〜」
おばさんが叫び返した。テーブルの上にはいつもより少し少なめの料理が並んでいた。レイとキールの料理の腕前は前よりかなり上達してい
たが、それでもおばさんの料理にはかなわなかった。
「いっただっきま〜す。」
二人は席につくとほとんど同時に言った。二人は夢中で食べ、すぐに食べ終わった。おばさんはもう既に二人の持ち物の確認を終え、ソフ
ァでくつろいでいた。
「二人とも、もう食べたの?」
おばあんが立ち上がり、朝ご飯の後片付けをしに、台所へ向かう時に行った。二人とも頷いて、テーブルの上の食器をまだ片付けていない
のに気づき、慌てて片付けようとした。
「あっ、いいわよ片付けなくて、やっておくから……。それよりバジルが呼んでたわよ?」
レイとキールは何だろう?と顔を見合わせて、おじさんの部屋に行った。
「父さん、入るよ。」
キールがそう言って扉を開けると、おじさんは出かける用意をしているところだった。
「お前達、用意はもう済んだのか?」
おじさんが用意をしながら聞いた。
「うん。」
二人は、頷いてもおじさんに見えないので声に出して返事をした。
「よし、じゃあ二人ともそこに座りなさい。」
おじさんは優しく、しかし真剣に言った。二人は言われたとおりに座った。
「入学する前に二人に言っておかなくてはならないことがある。………二人の御両親のことだ。」
おじさんは静かに言った。キールの眉がピクっと動いた。
「まずキールのことから話そう……いいかな?」
おじさんがキールに聞いた。キールはコクリと頷いた。
「うん……キールの御両親は……はっきり言って、誰かわからない。13年前に家に玄関の前に、手紙とこのピアスと一緒に置かれて居た。

そういっておじさんは机の引出しからプラチナのピアスを出し、キールの手のひらに置いた。
「それで、手紙にはなんて書かれてたの?」
レイが聞いた。
「そのピアスをキールが14歳の誕生日より前につけさせて下さい、という事とキールの誕生日が書かれてあった。
そこから、キールがその時一歳だということが解った。しかし御両親の事は何一つ書かれてはいなかった。」
おじさんはそう言うと少しうつむいた。静寂が部屋を包んだ。キールはあまり驚かなかった、きっとあの日から(入学発表のあった日から
)色んな想像をしていたんだろう、とレイは思った。
「それからレイの事だが……」
おじさんが静寂を破った。
「レイの御両親は解っている。」
今度はレイの眉がピクッと動いた。
「しかし残念な事に……お父さんは亡くなられた………」
レイのショックはキールより大きかった。
「お母さんは生きているかもしれないが、所在は未だ解らない……。私はレイを、ガルシア・ギルボルトという人から預かった…キールと出
会う五日前だ。私はその人から色々な事を聞いた、レイの事、レイの御両親の事……その人の話から解った主な事は、レイの名字と歳、ビ
ロール街の銀行の事、それからギルボルトさんの事だ。ギルボルトさんはホワイトロックで教師をしているそうだ。そして最後にレイをホ
ワイトロックに入学させてくれという事と、入学する時にこの剣を渡すようにと……」
おじさんはそう言うと又、机の引出しを開けた。レイは引出しに剣なんか入らないだろう?と思ったが、予想は当たっていた、いや少し違
っていた。おじさんは引出しの中に手を突っ込むと、中からリモコンみたい物を取り出した。そしてベッドの上の壁にかかっている絵画に
向けてボタンを押した。するとガコンという音がして絵画が下に落ちた。するとそこには刃の部分がキールの剣の倍ぐらい大きい(横に倍
)剣が置いてあった。おじさんは立ち上がり、剣を取ってそしてレイの手の上に置いた。剣はずっしり重く少しボロかった。
「抜いてみろ。」
おじさんが言った。レイは言われたとおりに剣を鞘から抜いた。刃はキラキラと輝きを放っており、キールの剣より(あの武器店にあった
中で一番切れる剣より)良く切れそうだ。刃の柄に近い部分に何か書いてあったが、黒く霞んで何か読めなかった。
「話はこれで終わりだ……さあ行きなさい。私もこれから仕事だ……さよならの類は嫌いでね。」
そう言っておじさんは鞄(かばん)を持って部屋を出て行った。レイとキールは何か悟ったように、おじさんを追いかけたりせずゆっくり
と立ち上がり、部屋を後にした。
玄関にはおばさんが立っていた。
「行って来るよ……」
キールが言った。
「うん。行ってらっしゃい!」
レイはおばさんが元気に聞こえるように精一杯頑張っているのが解った。
二人は家を後にし、いつもの馬車乗り場まで歩いていった。

5、入学式

二人が馬車乗り場につくと、すぐに馬車が来た。馬車から男が顔を出した。レイはすぐにこの前の人だとわかったが(ビロール街に行った
ときの人)キールはすぐには気づかなかったようだ。
「何処へ行くんだい?お二人さん。」
男はこの前とは随分感じが違っていた。
「ホワイトロックまでお願いします。」
レイが言った。
「了解した。」
男は少し笑いながら言った。その後二人は空の旅をしばし楽しんだ後、浅い眠りに落ちた。
「着いたぞ、お二人さん。」
レイとキールはその声で起こされた。
「んぁ?!……あっ、着いたのか……」
キールが寝ぼけ眼を擦りながら言った。
「幾らですか?」
と、レイがお金を払う準備をしていった。
「金はいらねえよ。」
男は又少し笑いながら言った。
「えっ、何で?」
キールが馬車を降り荷物を降ろしながら言った。
「訳は後でわかるよ。」
男はそういって馬車を出した。馬車は瞬く間に空に消えていった。
「何だったんだろうね?」
レイが聞いた。
「さぁ?」
キールも解っていないようだ。
「ま、いっか?ただになったんだし……」
レイが言うと、キールが頷き先に歩き出した。あたりを見回すと紫の花があたり一面を覆っていて、二人の正面には人が10人らくらく通れ
るほど大きな門があり、扉は開け放たれていた。二人は門をくぐり中に入った、すると校庭が広がっていた。そして200mぐらい先に校舎が
ありその入り口の前に机と一人の女性がいた。二人はどうすればいいか分からなかったので、取り敢えずその女性の所へ行ってみた。
「あなた達、新入学生?」
女性は厳格な態度でキールの方を向いて言った。
「はい。」
レイはキールがこういう厳しそうな人が苦手なのを知っていたので、キールの代わりに答えた。
「じゃあ早くしなさい。もう皆広間に集まっているわよ。」
そう女性が言った瞬間、白馬が二頭空から降りてきた。レイは乗っている人がどこかで見た事ある人だな〜?と思って目を凝らして見ると
、それがシオンとシオンの父親だと気づくのにそう時間はかからなかった。白馬が着地して、シオンとシオンの父親が降りてきた。
「シオン!!」
レイとキールが同時に叫んだ。
「レイ!キール!」
シオンが驚いた様子で言った。シオンの驚き様からすると、馬から降りて重たそうな鞄と剣を馬から下ろすまで、レイとキールの存在には
気づいていなかったようだ。レイ達が喜びに浸っているうちに、シオンの父親はあの厳しそうな女性と何やら話している。
「私はグラン・カルキス、貴方は?」
グラン(シオンの父親)が握手をしながら言った。
「存じております。私はミクスレン・サイクロールと言います。ところで本題に入りますが……お子さんの名前が入学者リストに載ってな
いんですが……」
「そんな事言われても……入学証明書はちゃんとおくったんだがねぇ?」
シオンの父親が言った。ビーロル街で会った時の優しい感じはそのままだった。
「そんな事言われましても、リストにお名前がありませんので御入学させる事はできません!」
優しそうなシオンの父とは対照的に女性は厳しいままだ。
「……グレン、久しぶりだね?」
レイ達が気付かない内に、あの伝言版で見た老人がグレン(シオンの父親)の前に立っていた。これにはレイもキールもびっくりした。
「お久しぶりです、ミラー校長。」
グレンがミラーと握手しながら言った。その時ミラーの目線が一瞬レイを捕らえ、そのあと少し微笑んだ。
「何か揉め事かね?ミククスレン?」
ミラーがサイクロール先生の方を向いていった。
「それが、カルキスさんは入学申込書を出したと言っておられるのですが、入学者リストにお子さんの名前がありません。」
サイクロール先生はミラーに向かっていった後、シオンの方をチラッと見た。
「よいよい、わしが推薦状を書いた。入れさせんわけにわいくまい?」
ミラーは微笑みながら言った。グレンはミラーが来たので安心したのか、もう馬に跨ろうとしていた。
「しかし、このまま入学してしまうと奇数になるので、パートナーがおりません。」
サイクロール先生は硬い顔を崩さずにいった。
「ン―――――………そうじゃ!!そこにおるではないか?!」
ミラーは少し考えた後、レイ達の方を向いていった。レイとは一瞬ドキリとしたが、すぐにキールとパートナー登録されてないんだろうか
?という不安と、シオンとパートナーになれるのだろうか?という期待が入り混じった複雑な気持ちになった。
「しかし、そこの二人はパートナー登録されています!!」
サイクロールが言った。
「そんな事解っておる、誰が二人一組にさせるといったかね?三人一組にするんですよ、ミクスレン?」
ミラーは未だ微笑んでいる。
「そんな?!前例がありませ……」
サイクロール先生はそう言いかけて止まった。
「いいかね?ミクスレン。」
そういい残しミラーはその場を後にした。サイクロールは未だ信じられないという表情をして、書類見たいな物に何やら一生懸命書き込ん
でいた。
「それじゃあ、私は帰るよ、シオン。レイ君とキール君だったかな?シオンをよろしく頼むよ!」
レイとキールが、こちらこそと言うとグレンはシオンが乗って来た馬を引き連れて帰っていった。
「と、言う事で……これからもよろしく!」
キールが喜びを隠し切れずに言った。
「よろしく!!」
レイも慌てて後に続いた。
「こっ、こちらこそ!!」
シオンが嬉しそうに言った。三人の中でシオンが一番嬉しそうだった。
「そこの三人!!これをもって早く広間に行きなさい、もう入学式始まるわよ!」
サイクロール先生はIDカードみたいな物を三枚持って、もう立ち上がっていた。三人は慌ててカードを取りに行き、校舎の中に入った。
「こっちですよ。」
サイクロールが、何処に行っていいか解らなかったレイ達を追い越して案内してくれた。レイ達が城のような外観の校舎の入り口から、螺
旋階段の下の大きな扉を開けた時には、もう入学式は始まっていた。
「それから、皆さんの寮……と言うか家の番号は入学確認の際にもらったIDカードに書いていますので、それを参考にして自分の家まで
辿り着いてください。」
若い男の人が言った。背が高くて筋肉質そうだが、横にはそんなにでかくない。そして…ハンサムだ。
レイ達が途中から入ったので、わけが解らないと言う顔をしていると
「ホワイトロックの生徒は、ペアで一つの家が与えられるんです。在学中だけですけど……今はその話ですよ。あっ、それから貴方達の席
はあっちです。」
と、サイクロール先生が生徒が50人くらい座っている長〜いテーブルの一番端を指差しながら教えてくれた。レイ達がそこに座ると同時に
先生の紹介が始まった。先生達が座っているのは舞台みたいになっていて、皆の座っている所より、1〜2m高くなっていて、先生達が生徒
側に向かって横に並んで座っていた。
「え〜、今から先生達の紹介をしたいと思います。」
50歳くらいだろうか、初老の男の人が、若い男の人と交代で立ち上がり先生達の紹介を始めた。
「じゃあ、左から順に……校長のスロキムス・ミラー先生その隣が戦闘魔法魔術学のミクスレン・サイクロール先生、そして又その隣が回
復魔法魔術学教師兼保健の先生のポロフ・ミルコフリー先生」
ミルコフリー先生は小太りのおばさんだ。優しそうで、おっとりした感じだ。髪は白髪混じりではいている青のハイヒールのヒールの部分
が今にも折れそうだ。
「そしてその次が剣術教師兼戦術教師のガルシア・ギルボルト先生」
さっきの若い男の人だ。その時レイはおじさんが出発前にしてくれた話を思い出した。
「あっ、あの人!!」
レイはおもわず声を出してしまった。
「おいレイ、どうしたんだよ?」
キールがヒソヒソ声でレイに聞いた。
「ほら、おじさんが出かける前に話してくれただろ?僕をおじさんに預けた人だよ。ホワイトロックの教師してるって言ってたじゃない?
!」
レイもヒソヒソ声で答えた。隣にいるシオンは全く訳が解っていないようだった。しかしキールは合点したようだ。
「それからその隣が―――……」
レイとキールは、また驚いた。
「体術教師のボルギス・ラフ先生…」
あの時の馬車の男だ。レイはお金は要らないって言った訳が解った、ここの教師だったんだ。(でも、なんで馬車なんかに乗ってたんだろ
う?)
「そしてその次が薬草学教師のカスミダル・ジーン先生」
ジーン先生はひどく痩せていて、今にも倒れそうだ。年齢は30歳くらいだろうか……。
「そして私が、教頭兼歴史学教師のスクレータ・バルタです。……え〜以上で、先生方の紹介は終わります。また、詳しい事は授業の時に
教えてもらってください。……では最後に校長から何か一言頂いて、終わりにしたいと思います。」
バルタ先生はそう言い終わると、マイクをミラー先生に渡して席に着いた。
「え〜最後に一言という事じゃが………何も思いつかん……」
広間が笑いに包まれた。ミラー先生も笑っていた。
「ん〜〜言う事があるとすれば……最後までやり通してくれと言うことかの?……では之にてホワイトロック戦士養成学校、第100回目の入
学式を終了する。……皆、解散!」
ミラー先生がそう言い終わると、バルタ先生が慌てて立ち上がり
「みなさ〜ん、まずは自分達の寮を探してください。寮に入ると電言板がありますので、取り敢えずメッーセージを聞いてください。」
皆はバルタ先生が言い終わるか終わらないうちに、外に飛び出していた。
「おい、そこの君!!」
レイの後ろで誰かが呼んだ。レイには聞き覚えの無い声だった。
「そうだよ、君だよ!!」
レイが振り向くと、男の子とその周りを五人ぐらいの体の大きい男の子が囲んでいた。皆入学生だろうか。
「なに?」
レイが真中に居る男の子に聞いた。
「君、レイ・グラシエーロだろ?」
男の子が言った。髪は金髪で背はキールと同じぐらいだろうか?鋭い目が印象的でずっとレイを睨んでいる。
「何で知ってるの?」
レイが驚いて聞いた。するとシオンがレイを肘でこずいた。
「何でってそりゃ分かるよ、その瞳を見れば。お父様から聞いてるよ、君の事。」
確かにレイの瞳は普通ではなかった、緑色の澄みきった瞳をしていた。緑色はあまり特別ではないのだが、他の人よりも何倍も透き通った
様に見える確かに普通ではなく、見分ける事は容易に出来た。しかし、レイはあまり気にしていなかった。
「なんて聞いてるの?」
レイは自分の名前が知られている事より、自分の事がどんな風に知られているのかが気になった。
「君、お父様もお母様もいないんだろ?小さいころから一人だったんだって聞かされてるよ。それと………」
男の子の口が止まった。
「それと、なに?」
レイが聞いた。それだけの理由で自分の名前が知られているとは考えにくい。しかし、男の子が何か言おうとした時、シオンが口をはさん
だ。
「すまないけど、僕達、急いでるんだ。……レイ、キール、行こうか?」
そう言うとシオンはレイとキールを引き連れてずんずん歩いて行って、校舎の寮側出入り口の扉を開け、何処までも広がっていそうな森の
中に入っていった。
「お前!知ってるぞ!!カルキス家の人間だろ!!そのブレスレッド―――……」
と、後ろで男の子が叫んでいるのも目にくれず、シオンはどんどん奥に入っていった。外から見ただけでは解らないが森の中にはこじんま
りした二階建ての家が幾つも幾つもあった。その中には、食料品店や雑貨屋、映画館なんかもありまるで森の中に街が一つ引っ越してきた
みたいだ。しかし他の街と違う所は、全く道がないことだ。地面は荒れ放題で方角すら解らなくなりそうだ。事実、もう他の入学生たちは
自分の家を探す途中で迷ったのだろうか、樹の幹に座り込んでいる生徒もちらほら見えた。
「どうしたんだよ、シオン?!」
かなり歩いて、もうあの男の子達が影も形も見えない、という所まで来ると、レイが立ち止まって聞いた。
「どうもこうも無いよ!!あいつはゴル・ボーンズって言って、ボーンズ家の人間なんだよ?!何されるか解ったもんじゃないよ!!」
いつも温厚なシオンがいつに無く熱くなっていた。しかし、レイには自分を思っての事だと言う事は解っていた。
「ボーンズ家ってなに?」
キールが聞いた。
「ボーンズ家って言うのは、アルトレイ協和国総議会議員ギルバー党党首の事で、悪にドップリ浸かった一家なんだよ。」
シオンの熱はすぐに冷め、だんだん、いつもの優しくて、温厚な(そして美しい)シオンに戻っていった。
「アルトレイ共和国総議会議員までは解るけど、ギルバー党って何?」
レイが聞いた。
「ギルバー党って言うのは、自己利益しか考えない人たちの集まりだよ。……要するに悪い人たちの集まりなんだよ。」
キールが、わけが解らないという顔しているのを見て、シオンは慌てて解りやすい説明を付け加えた。
「シオン、僕達の事助けてくれたのは解ったけど、何で僕の事知ってたのかな?」
レイが我慢しきれずに聞いた。
「それは……君のお父さんは議会じゃ有名だから……僕も最初会ったときに君の名前は解ったけど、言おうかどうか迷っていたんだ……」
シオンが神妙に言った。
「何で?」
レイが聞いた。さっきからレイのお父さんがよく出てくる……しかしレイ自身、父親について何も知らなかった。
「……僕もあまり知らないんだけど……その、あまりにも何と言うか……僕が言うのは忍びないと言うか……」
シオンが言った。
「レイ、あの人に聞けばいいんじゃない?」
困ったシオンをみかねて、キールが助け舟を出した。
「あの人って?」
レイがキールの方を向いて言った。
「ほら、ギルボルト先生だよ!あの人ここの教師なんだろ?」
キールが言った。レイがやっと合点して返事をしようとしたとき、シオンが口をはさんだ。
「ねえ、入学式のときも何かヒソヒソ話してたけど、何話してたの?」
シオンが聞いた。ずっと気になっていたようだ。
「先生たちの中にガルシア・ギルボルト剣術教師がいたの、覚えてる?」
レイはシオンが頷くのを確認してから、また話し始めた。
「あの人は僕の父さんが死んだ日、あの人が僕のおじさん………バジル・バグダーの家に僕を預けに来た人なんだ。僕の父さんとも友達だ
ったらしいよ。」
レイは、今知っている事をすべて話した。
「ふ〜ん、その人に聞くのは名案かもしれないね、今のレイに必要な事を……必要な事だけを教えてくれそうだから―――……」
シオンが言った。レイには少し意味がわからない部分があったが、シオンに教えてくれる様子は無いし、レイも無理にでも聞きたいとは思
わなかった。レイ達の100mくらい後ろで女の子達がシオンを指差しながらコソコソ何か話していた。キールは、
「もてる男はつらいね?」
と、シオンに聞こえるか聞こえないくらいの小さな声で言った。レイには聞こえたが何の事か解らなかった。
「そんな事より、先に俺達の家を探そうぜ?」
キールが(今度は)シオンにも聞こえるような声で言った言った。レイもシオンもこれには賛成だった。二人が合点するとシオンがIDカ
ードをポケットからだし、目を細めて番号を読み上げた。
「え〜っと―――……0001!?一番初めに作られた家なのかな〜?!」
シオンが(のんびりとだが)驚く様子を見てレイとキールもIDカードを見た。
「ホントだ〜〜!!0001番だ!!………でも一番最初に作られたって事は……ボロイって事じゃない?」
レイが番号を確認してから心配そうに言った。
「ん〜そういう事になるかな〜?」
キールが言った。
「まあ、行けば解るんじゃ無い?」
シオンが言った。レイとキールはこれにも納得し、取り敢えず家を探す事にした。しかし三人の家は何処にあるか全く見当がつかない。
「ねえ、一番最初に造ったって事は、学校側から造り始めたか、敷地の一番奥から造り始めたって事じゃない?で、学校側はもう全部見た
し………と言う事は?」
シオンが閃いた。
「家は敷地の奥にある!!」
レイとキールが同時に叫んだ。しかし喜んでもいられない、という事で三人はまた奥に向かって歩き始めた。レイは奥に進んで行くにつれ
、周りの家がだんだん古くなってきたことに気づいた。30分くらい歩いただろうか、もうすでに家を探す生徒も見えなくなっていた……周
りの家がもう住めないくらいにボロボロになって来ている。その時レイ達の目の前がパッと開いた。日の光が差し込んでくる。レイ達は立
ち止まり目を凝らした。そこには今までの家より数倍大きい豪邸が建っていた。
「なんだこれ〜?!」
キールが叫んだ。
「ん〜やっぱり生徒の家だろうな、こんな所に建ってるんだから………こんな所に住んでみたいな〜」
レイがうらめしそうに言った。シオンははしゃいでる二人を尻目に、なにやら玄関を調べている。家はレンガ造りでレイ達が今まで見たど
の家よりも素晴らしかった。
「おいシオン、何してんだよ?」
キールがシオンに聞いた。
「レイ、早速、夢がかなったね?」
シオンが二人に背を向けながら答えた。微笑みを隠し切れないようだ
「えっ、どういうこと?」
レイは、なかば答えがわかりかけていた……(キールは全く解っていないようだったが……)
「レイ、キール……ちょっと来て……」
シオンが玄関の扉の横を、ジッと見つめながら言った。レイとキールがシオンの所まで駆けて行くと、シオンが何かを指差した。シオンの
指の先を辿っていくとそこには0001とかかれたプレートがあった。
「これって………」
キールがシオンの方を向いて言った。
「うん!!ここが僕達の家なんだよ!!」
シオンが喜びを隠し切れずに言った(なかば叫んでいた)
「やっっっった〜〜〜」
レイが我慢しきれず叫んだ。
「中に入ろうよ?」
シオンが言った。そして二人が頷くのを確認してから中に入った。中は埃だらけだったが、玄関から驚くほど広い。三人は玄関を抜け、リ
ビングに入って、取り敢えず荷物を置いた。全て一様に埃をかぶっているが、家具にしても、何にしてもどれも素晴らしかった。広いリビ
ングには机が一つと椅子が三つ、ソファが電言板の前に壁にかけてあって(地球でいう、テレビの前にソファが置いてある状況だ)奥にカ
ウンター付きのキッチンがあった。そしてキッチンの横には螺旋階段があった。三人は探検している気分で階段を上っていった。するとド
アがちょうど三つあり、それぞれ寝室になっていた。そして螺旋階段の下のドアはバスルームにつながっていた。
「すごいなぁ、まだ夢見てるみたいだよ!!」
レイが嬉しそうに言った。
「ほんと、俺も未だ信じられないよ」
キールも嬉しそうだった。
「ねえ、バルタ先生が、着いたら取り敢えず電言板見ろって言ってなかった?」
シオンが言った。そしてキールが電言板のスイッチを入れ、”電言ボタン”を押した。すると画面の砂嵐が止み、バルタ先生が映った。
「え〜、家にたどり着いた諸君。おめでとう……取り敢えず、明日の予定だけ言っておこう。Aクラスの者は一時間目の前の集会は8時から
、教室Aでやるので遅れないように。それから時間割は、一時間目に剣術学、その次が歴史、その次が体術学、最後が戦闘魔法魔術学だ。
そしてBクラスは―――……」
シオンがIDカードを取り出し自分達はAクラスだと二人に教えた。(ペアは―――この場合三人だが―――クラスが同じなのだ)
「……ではこれで、連絡を終わる」
すると、画面は消え元の砂嵐に戻った。するとシオンが鞄の中からゴソゴソと何かを取り出した。
「………あった!」
シオンが、文字がいっぱい書いてある紙を掴んで言った。
「なにそれ?」
キールが紙を見つめながら言った。
「ん?ホワイトロックについての箇条書き」
シオンが言った。
「で、なにそれ?」
レイがキールと代わり、繰り返し聞いた。
「パパが、ホワイトロックに入ってからしばらく困らないように、ホワイトロックの事を書いてくれたんだ………出かける前に聞いておけ
ば良かったんだけど、時間が無くって………」
やっと二人は納得した。
「で、なんて書いてるの?」
レイがまた聞いた。
「じゃあ読むよ?……え〜と、1、寮に着いたらまず電言板の中のメッセージを聞く事。」
シオンが読み上げた。
「それはもうやったよな?」
キールが言うと、レイが小さく頷いた。
「2、ホワイトロックでは、昼食、夕食は支給されるが、朝食は自分達で作らなければいけない。」
シオンは少し驚いた様子で読み上げたが、レイとキールはもう知っていたので全然驚かなかった。
「3、ホワイトロックの教科は一年生のうちは8教科で、剣術学、体術学、戦術学、戦闘魔法魔術学、回復魔法魔術学、薬草学、歴史学、道
徳である。4、教室は幾つもあり、一年生のうちは教室A〜Hまで使うだろう。5、クラスはA〜Gまである。これは別に成績の良い順とは
関係ない。6、最初の授業が始まる前には必ずクラスごとに集会があり、自分のクラスと同じ教室で行われる。(クラスがAならA教室、B
ならB教室と言う具合に)7、ホワイトロックでは一年に二回テストがある。8、ホワイトロックでは二ヶ月に一回演習決闘がある。9、ホワ
イトロックでは不定期で、クラス対抗の演習がある。10、これが最後になるが、各クラスには一人ずつクラス担任がいる。まだまだ書きた
い事はあるが、時間が無いので書かない事にする。では、親愛なる我が息子の大いなる成長と発展を心から祈っている。パパより」
シオンが一気に読み上げた。
「ん〜色々あるんだな〜?」
キールが感心した様子で言った。
「そうだね。」
シオンが紙をポケットにしまいながら言った。
「それで………次は何をしようか?」
レイが言った。もう窓の外に景色は紅に染まっており、まるで木々の葉が紅葉したようだ。
「ん?……僕達、晩御飯未だ食べてないよねぇ?」
キールが、そう呟いた瞬間、電言板にまたバルタ先生が現れた。
「もう一つ言っておかなければならない事があったので、報告する。晩御飯は各自で用意するように。……連絡終わり!」
バルタ先生が画面から消えると、三人は顔を見合わせ、これ以上ないタイミングだとでも言うかのように、外に飛び出した。
「え〜と、食料品店って何処にあったっけ?」
レイが聞いた。シオンは悩みぬいたすえ、夕陽の方向から食品店の方角を割り出した(キールには全く解らなかった。)そして、その方向
に10分ほど行くと、比較的お店が多い集落に辿り着いた。三人はあっという間に食料品店に駆け込み、取り敢えず、持てるだけの食料を買
い、帰路に着いた。
「おいレイ…俺の分、多すぎないか?」
キールがレイの腕に抱えられている分をうらめしそうに見ながら言った。
「二人なんかまだいいよ………僕なんか重たい物ばっかりなんだから。」
シオンがグチったが、どこか嬉しそうで、まるで友達との会話を楽しんでいるようだった。そんな事をしていると、結構早く家にたどり着
いた、が、レイ達はもう疲れきっていて、ご飯の支度なんてできっこない、という表情だった。
「あ〜も〜疲れた〜」
レイが言った。キールはグチってた割には、そんなに疲れているようではなかったが、はっきり言って、シオンの疲れ様はもうかわいそう
な位だった。息を切らし、全身の力が抜けていて、もう一言も喋れないようだった。その30分後、レイ達はやっとこさご飯の支度に取り掛
かった。シオンは一番疲れていたので、一番楽なテーブルの準備をし、ご飯はレイとキールで作った。
「いっただっきま〜す。」
ようやくご飯ができ、三人で食べ始めたが、シオンは(幸いにも)疲れきっていて味がわからなかった。レイとキールは、自分達で作った
料理に、随分満足していた。ご飯を食べ終わると、順番にシャワーを浴び、それぞれ眠りについた……。
「チチチチ―――――……」
レイが持ってきた目覚し時計が鳴った。一瞬、キールを起こそうと思ったが、キールは隣にはいるはずもなく、隣の部屋から恐らくキール
の鼾(いびき)であろう音が聞こえるまで、レイはホワイトロックに入学した事を気づいていなかった。そしてレイはいつものようにベッ
トを調えてから、長いブロンドの髪を後ろで束ねて、普段着に着替えると、隣の部屋にいる、キールを起こしに行った。
「ドンドン―――……お〜いキール、起きろよ〜」
部屋の中に入ると、案の定キールは眠りこけていた。レイがキールのかぶっている布団をどけてやると、キールは寝ぼけたままレイを見つ
め、やっと朝が来たという事が理解できたようだった。レイはキールを起こした後、シオンは起きてるかな?と思いシオンの部屋に行って
みると、こちらも案の定、しっかり者のシオンはレイの想像どおり、パッチリと目を覚まし、もう身支度を整えていた。
「おはようレイ……キールは起きてる?」
シオンが言った。
「おはようシオン。もうキールは起きてるよ……」
レイはそう言いながら、もう歩き出していた。階下に下りて、リビングに行くと、キールがテーブルの支度をしていた。
「なぁシオン、昨日の晩御飯は俺達が作ったんだから、今日はシオンの番だよな?」
キールはレイの後ろにいるシオンの方を向いて言った。
「うん、いいよ。」
シオンはあっさりと返事をした。レイは腕時計を見た―――十歳の誕生日にバジルおじさんにプレゼントしてもらったやつで、時間、高度
、温度が見れるようになっていた―――
「もう七時か……」
レイは思わず呟いた。それと同時にキールが窓を開けた。初秋の心地よい、爽やかな風が部屋に流れ込んできて、レイの頬を撫で、髪をな
びかせた。しばらくして、シオンが朝ご飯を作り終えて、キッチンからテーブルに料理を運んできた。
「レイ、キール、できたよ。」
シオンはもう席に着いていた。テーブルの上には見たこともないような料理が並んでいた。
「すげ……なんかすげぇ…美味そう……」
キールが思わず呟いた。
「ほんとだ〜、美味しそうだね?」
レイが席に着きながら言った。
「いっただっきま〜す!!」
三人は同時にそう言い、食べ始めた。その料理の味ときたら……キールは物凄い勢いで食べ始め、あまりの美味しさに、食事中一言も喋ら
なかった。
「どう?おいしい?」
シオンがレイに聞いた(キールに聞いても返事が帰ってきそうにもないので…)
「うん、すごく美味しいよ!!」
レイは心からそう思っていた。朝食は昨日の夕食よりも早く食べ終わり、結構時間が出来たので三人は教室に行くがてら、森の探索をする
事にした。三人は家を出て、少し寄り道しながら、教室に向かった。途中三人は、色んな物を見た。恐らくドワーフ族であろうレイの二倍
ぐらいの男の子の生徒や、ビロール街の悪戯道具専門店の第二号店など…A教室に着いた頃には7時55分と、丁度いい時間になっていた。ク
ラスには二十数人がもう席に着いていた。
「おい、あそこに座ろうぜ。」
三つ固まって空いている席をキールが見つけた。三人がそこに座るとほとんど同時に、ギルボルト先生が入ってきた。
「こんにちは、皆さん。」
ギルボルト先生が教室の真正面までくる、そう言った。皆はばらばらに挨拶をした。
「今日から、七年間君達のクラス担任を務めます、ガルシア・ギルボルトと言います。気軽にガルシアと呼んでください、別にギルボルト
先生でも構いませんが……」
ガルシアがとても朗らかに言った。
「え〜、一応このクラスの道徳と全クラスの剣術、それにラフ先生と戦術のクラスを受け持ちますので、よろしくお願いしますね」
ガルシアはとても腰が低く、凄く優しそうだった。これにはホッとした表情を除かせる生徒もいた。
「え〜これで、今日の集会を終わります。……引き続き、剣術の授業に移ります。皆、練習用のホログラフィセットを持ってきましたか?

一同が揃って頷いた。
「では、外に出ましょうか?」
ガルシアのその一言に、皆は呆気にとられた。初日ぐらいは、教室で授業をするだろうと思っていたのだ。しかし、そこで首を横に振るわ
けにもいかないので、一同は校舎の外に出て剣術の練習場に移動した。そこは薄っすらと雑草が生えており、あたり一面平野だった。
「え〜今日は練習用ホログラフィセットの説明と、軽く素振りなんかをやって貰いたいと思います。」
ガルシアは、そう言うと自分のホログラフィソードのスイッチを入れ、「素振りモード」にした。それに習い生徒達も、スイッチを入れ、
「素振りモード」にした。
「では……素振り始め!!」
ガルシアが言った。レイとキールは、毎日素振りをやっていただけあって、他の生徒達より幾分上手かった。シオンも、素振りの様子から
して、少しはやっていたようだが、レイとキールより少し遅れをとっていた。レイはおじさんや、キールと闘った時のように素早く剣を振
り下ろす事が出来なかった。ホログラフィソードは、本物の剣と重さがあんまり変わらず、普通に振りぬけた。するとガルシアがまた、口
を開いた。
「皆、素振りしながら聞いて……ホログラフィソードには、素振りモード、練習モード、実践モードの三つの機能があり、それぞれ素振り
モードはホログラフィを発生させずに、重さだけを与える、練習モードはホログラフィが発生し、発生したホログラフィの刃でホログラフ
ィアーマーを斬ると、ホログラフィアーマーの斬られた部分が、蒼白く光り、教えてくれる……実践モードは練習モードとあまり変わらな
い。変わるのは斬られると、アーマーが光るのではなく、斬られた部分が傷となり、重みとして負担になる。………説明終わり!!」
ガルシアは自身も素振りしながら説明を終えた。レイとキールは半分ぐらい知っていたが、少し驚いた。シオンは全部知ってたようだ。
「ん〜……思ったより皆上手いね〜。」
ガルシアは素振りを止め、多分ドワーフであろう少年(ガルシアの二倍ぐらいあったので少年とは言い難いが…)
の方を向き、感心したように言った。
「では……予定外ですが、皆さんがどの位のレベルに至っているのか知りたいので、練習試合をして貰いたいと思います。」
ガルシアはそう言いながら、ホログラフィアーマーを装着し始めた。生徒達もそれに習い、それぞれ自ら持って来た、アーマーを装着し始
めた。ガルシアは装着し終わると、やり方の解らない生徒に、教え始めた。レイとキールはもちろん、シオンも知っていたので、ガルシア
に教わる事はなかった。
「みなさん、つけ終わりましたか?………では、それぞれパートナーと向かい合ってください。……他のペアとぶつからないように気をつ
けて!――――……あっそういえば、三人一組の所があったような?」
ガルシアはそう言うと、辺りを見回し、すぐにレイ達を見つけて、駆けて来た。
「ここが三人一組の所?」
ガルシアにそう聞かれ、三人は同時に頷いた。
「じゃあ………シオン君…だっけ?僕とやろうか?……あとはキール君?とレイ君でやってくれる?」
シオンは頷き、ガルシアと少し移動した。レイはシオンのことばかり気にしていて、自分の名前だけ確認の抑揚が無かった事に全く気づか
なかった。
「おいレイ、シオンの腕前見せてもらおうぜ?」
キールが言った。レイはキールの方を向き言われなくてもそうするよ、という表情をして、またシオンの方に向き直った。シオン闘いぶり
は予想以上だったが、それでもまだ、あの時のレイには全く届かずといった感じだった。ガルシアの剣を受け止め、反撃を出そうとするが
、今受け止めたはずの剣が頭を貫いている……そんな感じだ…。
「どうしたんですか?そこの二人。」
ガルシアがシオンをあっさり倒した後、まだ何もしていないレイとキールの方を向いて言った。
「え?……あ、ああ。すいません、今すぐやります。」
レイは慌てて答えると、すぐにキールの方を向いて構えた。キールもレイに習い、レイの方を向き、構えた。
「よし、じゃあ1、2、3で始めるぞ、いいか?………1……2……3!!」
レイがそう叫んだ瞬間二人が同時に間合いを詰め、キールの方が先に斬りかかった。
「キィィン―――……」
勝負は一瞬でついた。あの時(庭で練習した時)よりも早かった。キールが斬りかかった瞬間、レイは腕に自分のものとは思えないような
力が漲った。そしてレイがキールの剣を剣で受けた瞬間、キールの剣が吹っ飛び、地面に刺さった。その間にレイは無意識のうちにキール
の喉に刃先を向けていた。
「勝負あったな?」
キールが言った。
「そうみたい……」
レイはまだ信じられなかった。素振りの時は何にも変化は無く、いつものレイなのに、実践練習になり、剣を握り、剣を向けられ、斬りか
かられると、無意識のうちに体が動いて、いつも気づいたらもう自分の勝ちが決まっているのだ。その事を今キールに言おうと思ったが、
授業の後にしようと踏み止まった。
「キーンコ―ンカーンコーン―――――……」
終業の鐘が鳴った。レイが鐘のある塔のてっぺんを見ると、緑色のトロールが鐘を鳴らし終わり、中に入っていく途中だった。
「よーし、今日の授業はここまで!みんな、お疲れ様。ホログラフィセットは、A教室のロッカーに入れておいて…
……あっ、それからレイ君……」
ガルシアは慌ててレイを呼び止めた。
「授業が全て終わったら、僕の部屋まで来てくれるかな?僕の部屋は、校舎の先生達の宿舎の中にあるから…」
ガルシアはレイが頷くのを確認すると、校舎の方へ歩いていった。
「なんだろ?」
レイはシオンとキールに意見を求めた。
「解らないけど、何か大切な事だよきっと。何しろ、レイのお父さんと面識があった人なんだから……」
シオンが言った。レイもそうだろうと思っていた。三人とも言葉が
「それよりシオン、さっきは凄かったな?」
キールが話題を変えた。しかし無理やりというよりは、キールが一番聞きたかった事だろう。
「なにが?」
シオンはいきなり聞かれたので解らなかった。
「さっきの練習試合の事だよ!凄かったよなあ、レ……」
キールがレイの方を向いた。しかし練習試合という事なら、レイの方がかなり秀でているという事を思い出し、口を噤んだ(つぐんだ)
「ああ……うん。父さんに稽古つけてもらってたから、少しだけど………それより次のクラスに行かない?遅れちゃうよ?」
シオンがそう言うと、三人は歴史学の教室に向かって歩き始めた。教室に着くと、もうもう席が殆ど空いていなくて
仕方なく三人は一番端っこの席に並んで座った。少し待つと、歴史学のバルタ先生が教室に入ってきた。
「え〜とですね、今日から君達の歴史学の教師をするスクレータ・バルタです。どうぞよろしく……では早速授業に入る、が!皆さんが、
どれ位学習意欲があるのか知りたいので、これから抜き打ちテストをする……」
バルタ先生がそう言い終わると、教室からどよめきが起こったが、すぐにテストが配られ始めると、すぐにどよめきもおさまった。
「それでは、始めてください……」
レイはぜんっぜん解らなかった。テストが終わって、自分だけ点が悪かったらどうしようと思ったが、もうだめだ、という顔をしている生
徒が何人もいたので、少し安心した。キールもその一人だった。シオンもそのような顔をしていたがテストを返してもらうと、レイとキー
ルは驚きを隠せなかった。
「シオン君は、非常に勉強してきているね?とてもいい!!」
レイがバルタ先生が喜ぶのを見て、どのくらい良いのかな?とキールと、シオンのテストを覗き込んだ。すると、なんと100点だった。
「すっげ……」
キールが思わず、呟いた。そんな事を呟いたキールの点数はレイよりひどかった……。シオンは剣術ばかりではなく、学術も教えてもらっ
ているのだろうとレイは思った。その後の授業は退屈そのものだった。バルタ先生は、教科書を黙々と読み、黒板に年号を書いて生徒に写
すように言った。シオン以外の殆どの生徒は退屈そうな顔をして、無気力でノートを写した。やっと歴史の授業が終り、三人は次の体術の
クラスに行った。体術のクラスは、全て校庭で行われる。三人が校庭に出ると、もう既にラフ先生が腕を組んで立っていた。
「よ〜し、皆来たようだな……では、体術のクラスを始める!」
ラフ先生が言った。かなり大きな声で、喋る度に巨大な口髭が震えた。
「え〜と、まず何からやろうかな……じゃあ、皆には最初に「型」をやってもらう。いいか、今からわしのやる事を真似するんだぞ?」
そういうとラフは正拳突きをしたり、蹴りをしたりし始めたので、レイは慌てて真似をした。それが10分ぐらい続き、
レイはほんのりと汗をかき始めた。
「よ〜し、型はそれくらいにして、組手をするぞ〜。皆、パートナーと向かい合うんだ。」
ラフ先生は大きな体を皆の方に向けた。
「えーとそこの三人は……どうしよう?………よし、じゃあ誰か一人俺とやるか?」
ラフの問いに、レイはどう答えてよいか解らなかったが、答えるまもなくラフが答えを出した。
「うん。じゃあそこの一番でっかいやつ、こっちゃ来て俺とやろう?」
どうやらラフはキールの事を言っているらしい。キールは自分だという事がわかると、臆しもせずラフの方へ歩いていった。レイはシオン
と向き合って、感心した顔を見せた。
「すごいですねぇ、あんなに大きな人とやり合うというのに……」
シオンは尊敬が少し入り混じった声で言った。
「まあ、そこが唯一のキールのとりえかな?」
レイはそう言いながら、キールに聞こえていないか確認した。
「じゃあ、始めようか?」
レイが言うと、シオンははキールの方からシオンの方に向き直り、構えた。
「俺が始めと言うたら、始めるんだぞ?いいか?……それ、はじめ!!」
ラフがそういうのと殆ど同時に、レイはシオンの方に向かって正拳突きをしたがあしらわれ、バランスを崩した。
その隙にシオンに蹴りを入れられ(寸止めだが…)、決着がついた。自分の組手が終わると、殆ど無意識のうちに、視線がキールの方へい
ってしまった。キールの動きは剣術のクラスとは比べ物にならないほど迅く、鋭かった
ラフの突きをキールがしゃがんで避けたかと思うと、下段蹴りでラフ倒そうとしていた、があの大きな体はなかなか倒れなかった。しかし
それでもラフがバランスを崩したので、キールはここぞとばかりに、顔面に蹴りを入れようとした(レイにはキールが一瞬にして逆立ちし
たように思えた。)しかしラフもさるもの、それをさらりとかわし、キールの足を掴んだかと思うと、一瞬で間接を極めてしまった。
「どうだ、まいったか?」
ラフが自慢げに言ったが、額から滴る汗が決して楽では無かった事を物語っている。キールは素直に頷いた。キールは、自分が負けたとい
う事より、初めての授業でここまでラフを困らせたという事が誇らしいという顔をしていた。
「よーし!!今日の授業はここまで!!………皆、この後もしっっっか〜〜り勉強しろよ〜〜。」
ラフがとても大きな声を出して、皆に言った。三人はドワーフの男の子の後に続いて、校舎に入っていった。
「次なんだったっけ?」
キールが歩きながら聞いた。
「次は戦闘魔法魔術学のクラスだよ。確か、F教室だよ。」
レイが授業をメモした紙(意外としっかりしてるね、あんた……)を見ようと、鞄から取り出そうとした時、シオンが何も見ずにスラスラ
言ってのけた。そうこうしている間にあっという間にF教室に着いた。先生はまだ教室に居なかったが、大半の生徒がもう席に着いていた
。三人は何とか三人座れる所を見つけ、急いで席に着いた。しばらくすると、戦術魔法魔術学の(この長ったらしい名前何とかしないと…
…いちいち書くのめんどくさい……)サイクロール先生がゆっくりとした足取りで教室に入ってきた。
「……じゃあ、始めましょうか?」
サイクロール先生が小さな声で言った。この前(入学式の時)の時と少しも変わらない厳格さだ。
「では、始めに戦闘魔法魔術学とは基本的にどういう物なのか、答えられる人はいますか?」
サイクロールは生徒を見回しながら聞いた。レイの横でシオンの手が挙がったが他には誰一人いなかった。
「では、カルキス君…」
「はい、戦闘魔法魔術学とは、基本的に相手を攻撃したり、自分を守ったりする呪文を学ぶ学問であり、必要性の高い学問であります。」
シオンがまるで教科書でも読んでいるかのようにスラスラ答えた。シオンの天才ぶりには、レイもキールも最初はかなり驚かされたが(特
にキールは…)2人ともやっと慣れてきた。
「よろしい、では今日は、皆さんの中に少しは知っている人も居るかもしれませんが、魔法についてお話する事にします。そもそも魔法と
は我々の中にある゛オーラ゛を使い行うのですが、自然の力を借りて行う事も稀ではありません。それにより炎、雷、水、地、風、無、光
、闇、召に分かれます。闇の魔法はその殆どが禁じられた魔法であり、使ってはいけません。無の魔法は自然の力を借りずに、自分のオー
ラだけで行う魔法の事を言います。召は、召喚魔法です、これも自然の力を借りて行います。召喚魔法は一年生では学習しません、二年生
からです。」
サイクロールはこれだけの事を言い終えた後、一息ついて生徒を見回した。
「最初は無の魔法から練習しましょう、自然の力を借りて行う魔法は、少なからず危険ですので……では、今から魔法魔術の基本の中の基
本、物を宙に浮かし、動かす呪文をしましょう。しかしこの魔法は、唱言(魔法魔術を行う時に唱える言葉)がありません。ただ念じるだ
けです。もしかしたらこの中にも、もう既にこの呪文を成功させた人もいるかもしれませんね、並みの才能では無理ですが……、取り敢え
ず、マッチを配りましょう。小さい物から始めた方が良いので…」
そう言いいながらサイクロールは予め自分の机の上に置いてあっただろうマッチの箱を取り、生徒に配り始めた
「マッチはペアで一本です……グラシエーロ君達のところは、三人で一本です。」
レイは、四時間目の授業で、やっと三人の大変さが解ってきた。




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