NEON GENESIS EVANGELION

ITH OU OREVER

W・Y・F 02:『鏡界線』





警視庁・警視総監直属機関 JX‐File 課。

ここは、近年になって一新された組織で対国際テロ・対精神障害犯犯罪 などの絶対的凶悪犯罪を主に取り扱っていた。

前身として特殊事象調査課を持ち、警察機構創設当時以前も隠密などの諜報活動を幕府の意向で行なっていた由緒ある組織だ。

その為もあってか兵装は最高のものが置かれ、人材も優秀で特に諜報技術の秀でた者が配置されている。


「冬月課長、お呼びですかぃ?」

男は、上司に対して取り繕うでもなく言った。

無精髭にヨレヨレのYシャツという大凡エリ−トらしからぬこの男は、凶悪犯も跨いで通るっと言われる―凶マタの加持リョウジ。

「うむ。 このファイルをキミはどうおもう?」

「…。 そうですねぇ…猟奇殺人が5件、カニバリズム…もしくは類する重度精神障害犯の仕業っとおもわれますが、何か?」

「加持警視…キミの答えは刑事として優秀なものだ…」

「…っと言われますと?」

「キミは私の旧友の娘と付き合っていたね」

っと言うと一旦言葉を区切り、

「葛城ミサト…拝み屋のような仕事をしている。 そうだね」

「正気ですかぃ? 俺はミサトの力を何度か見ていますがね…異形なんて存在しないっておもうんですよ。

嫌…存在するとするのなら、人の心の中にこそ存在するんじゃないですか?

人を殺すのは凶器ですがね、人を殺させるのは狂気ですよ」

「…かもしれんな。 だが、その行き過ぎた狂気を止められるのが精神科医とは限らないとはおもわんかね」

「ハァ フゥ…解りました。 課長がそこまでおっしゃるなら葛城に協力を依頼してきます。

このファイルと被害者の写真、証拠物件は借りてきますよ」

「早急にな」

「まぁ 明細に見合った働きはしやすぜ…」

言った加持は踵を返すと足早に立ち去っていき、冬月は頷き背凭れを回すと警視庁から見える景色を見下ろしていた。





最近頻発化した凶悪猟奇犯罪に対して軍上層部も動かざる得なくなり、霧島一佐を始めとした陸自官らがこの任務に当たっていた。

戦略自衛隊霧島機関の発足である。

現在の状況収集を図る為に情報を収集して、必要であれば各方面への協力要請が出来る特殊権限さえもを有していた。


「イキナリ…我々が動く訳にもいかんでしょう。 警察庁との揉め事もまずい訳ですからね」

「…だが、何か起きてからでは…、霧島一佐はどうおもっているのですか!」

「そうですね。 白皇院二佐の杞憂も尤もですが、今は綾瀬二佐の意見が理に叶っていますね。

我々には警視庁ほどの情報がない訳ですが…

現時点で情報の明け渡しを依頼して、JXの冬月課長が我々の要求を飲むかっと言うと疑わしいですからね」

っとは言ったものの手を拱いている訳にもいかないですね。

霧島は、一頻り考えた上で自分の意見を部下たちへ述べた。

「私は…、マナを使ってみます。 他に方法が有りませんから…」

「娘さんを…ですか?」

綾瀬二佐が疑問を口にした。

目で頷き、先を続ける。

「えぇ…使うとは言え、Tokyo‐3 市内へ転校させるだけですが…

付近住民を刺激させない為にも打って付けの方法でしょう」

「危険では?」

「綾瀬二佐。 市内の機能は正常に作動しています。

転校先の街は特に事件発生率が高く、目撃情報が多いというだけで他の街でも同様の被害は出ています。

危険なのは何処も一緒です」

「ですが…」

「私も賛成です。 指を咥えているのは性に合いませんからな!

うちのムサシも使って下さい…不肖の息子ですがマナちゃんの盾ぐらいは勤まるはずですからな!!」

「はぁ…解りました。 この件はケイタも含めた三人の転校生を潜入させ、暫くは様子をみると致しましょう」

「…では、そういう事で転校手続きに関しては綾瀬二佐に一任します。

白皇院二佐は司令部と掛け合って、情報の収集に当たって下さい…」

そう言った霧島は、部屋を出る。

後に倣った両二佐も、灯かりを消すと霧島一佐の後を追って部屋を出た。




鏡界線 1



<0>




…きえた。

彼女は消えた…突然、硝子の向うへと。

在るはずなき虚無の空間へ。

その寂しげな背中だけが僕の瞳に焼き付いていた。




<1>




鳴った予鈴が授業の始まりを告げる。

「喜べ男子! 転校生を紹介する、綾波さん 入ってらっしゃい…」

ガララッと大きく扉が開き、転校生が入ってきた。

「綾波 レイです、ヨロシク!」

元気一杯の挨拶だなと、シンジはおもった。

ん?

とても聞き覚えのある名前にシンジが戸惑いを感じていると、向うでも同じように転校生がシンジを見詰めていた。

「綾波って、まさか…分家の………」/「あっ! やっぱりシンちゃんじゃない♪」

「何々ぃ? ひょっとしてお知り合いなの?」

うわぁぁぁ…もう駄目だぁ………

師匠にして、教師にして、多分ただの野次馬であろうミサトの反応にこの世の終わりを感じるシンジ。

「えぇ…その縁戚なんですよ」

何とか場を取り繕うとするシンジを嘲笑うかのように、転校生は頬を染めながら問題発言をする。

「知り合いも何も…私たち婚約してるんで〜す ♪」

「レイ!」

「何よぉ…そんな恐い顔しちゃってさ。 お風呂も一緒に入った癖に…好きって言ったじゃなぃ!」

ペキッと音がする。

視線をレイから逸らして、音が発生した方向へ向けた。

すると…、折れた鉛筆を挟んで、指を震わせているアスカが居た。

こちらの視線に気付いたアスカは、ギッと一瞥して視線を外した。

怒ってるよ。

何だよ…アスカは、睨み付ける事もないじゃなぃか。 レイもだよ、ワザワザそんな暴露する必要はないじゃなぃか。

クラス中の好奇の目。

僕が何をしたって言うんだよ。 酷いじゃなぃか…見世物じゃなぃのに!

「へぇぇ〜こんな可愛〜ぃフィアンセがシンちゃんにねぇ…あら何震えてるの、アスカ?」

教師ミサトの容赦なきツッコミは、教室の空気をより重いものへと変質させた。

凍り付く空間。

好奇の目で僕らを見詰めていた悪友たちの視線が途切れる中でも、一人だけ笑みを浮かべているミサト先生。

キ−ンコ−ン カ−ンコ−ン キ−ンコ−ン カ−ンコ−ン。

重い雰囲気の中、さも重力が時間を遅らしたかの如く長い間に渡って、チャイムは鳴り響いていた。




<2>



わたしはなぜここにいるのかな?

なんのために…だれのために…どうして?

昨日までは溢れていた希望をなくして、私は何の為に此処に居るの?

好きだった少年、好きでいたかった少年。

「何でそんな事を言うんだよ!」

好きだったから…

「…婚約たって、親同士が勝手に決めた許婚同士ってだけじゃないか……」

私は嬉しかった。 親同士が決めた結婚相手でも良かった。

シンちゃんが好きだったから…

一緒に居られる事が嬉しかった…でも、気持ちは相対的なものだから気付かされる。

裏切られる。

好きって何? 嫌いの反対?

嫌いって何? 好きの反対なの?

冷えいく心と身体を持て余して窓硝子の先を見詰めるレイ。

青空だけが映っている硝子の向うから語り掛けてきた、もう一人の私。

「アナタは何故、そこに居るの?」

私は…

優しさが切ない。 期待させるから、余計に苦しくなる…悲しくなる。

少年は知らないのだ。

優しさが負わす傷もあるという事を…優しさが罪である場合もあるのだという現実を。

だから…

アナタはどうしたいの?

消えたぃ…彼の居ない処へと。

シンちゃんの居ない世界へ。

待って。

寂しくて、切なくて。

苦しくて、辛くて…そんな想いを抱かずにすむように……

期待して、捨てられて、傷つきたくないから…

だから…消えたぃ。

レイはそうおもった。

「レイ!」

甲高い声。 危険を知らせる焦燥感の募ったシンジの声。

レイには、シンジの声が現実なのか。

それとも幻なのか。

そのどちらかは解らなかった。

ただ…一目だけ見ようと振り返った。

手を伸ばそうとしているシンジ、レイは冷たく首を振ると言った。

「さようなら…シンちゃん。 最後にもう一度会えて嬉しか…っ…」

「レ〜〜〜イ!」

シンジの絶叫。

寂しげな背中から粒子が崩壊するように崩れだすと、レイは硝子の向う側に映った世界へと吸い込まれていった。




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