死者の道

「君の手の平にある未来、」

 

 

 

 

シンジがギターを持つ、

黒いギター、ブラックビューティーと呼ばれた、

シンジが生まれる前のギター、、

何処で、誰が弾いてきたのか、どんな音楽を、どんなステージを見てきたのか、

何も語らない黒いギターが、シンジの手に握られた、

そして暗いステージを歩く、シンジと一緒に、、

大音量のパンクロックが流れるステージへ、

シンジとレイは歩きだす、、

そして大歓声の中、手を振るわけでもなく、ただ、マイクの前に立つ、

そして同じ高さにあるドラムセットの方を見る、

そこには、、カオルの姿があるのではないか、

何度もそう思ったが、あの時以来、カオルの姿はそこにはなかった、

そこにあるのは、3年前に新たにメンバーになった達也の、独特の笑顔だけだった、

レイとシンジは同じことを思っていた事に気がつき、

互いに視線を合わせて笑った、、、ような気がしただけかも、

「お二人さん、行くぜ!」

「うん、行こう!」

「ワン、ツゥ、スリー、フォー、ファイブ!」

 

五拍子の早いリズムを達也がスティックとハイハットで刻む、

そして、シンジのギターが大音量でうなりを上げる、

そう、、、まるでシンジの感情を全て、一気に流しだすかのごとく、、

何もないステージ、

ただ、フェンダーアンプとグレッチのドラム、PA関係のマイクと返しがあるだけ、

たった3人でステージに立つ、

赤いライトが回転しながらステージを照らす、

観客は同時に狂い出す、誰も見たことの無いような自分だけのダンスを踊る、

 

シンジのギターがやっと落ち着く、、

そしてレイが印象深いフレーズを弾き始める、

達也のドラムもタムで変拍子を決める、

ベースとドラムが何とか走るシンジのギターを支える、

そしてシンジは歌い出す、、

全ての夢を信じて歌う、、

 

 

 

「あの子達がこんなに大きなバンドになるなんてね、」

「でもミサトさんはそう思ったから頑張ってきたんでしょ、」

「まぁね、、でも実際3年前はもうだめかと思ったわ、、」

「カオル君とアスカが行方不明になった時は、私もだめかと思いました。」

「でも、、意外と私達よりあの子達の方がしっかりしてたわね、、」

「そうですね。新しいドラムの達也君ともすぐに仲良くなったし、すぐに活動を再開したいって、レイなんかとても張切ってましたもんね、」

「そうね、、、」

ミサトには分っていた、

その元気が何かを忘れる為だという事に、

ライブをやる事、全ての神経を音楽に向ける事、その事で忘れていたい事があることを、

心の奥に、過去の出来事として封印したい事がある、、

そんなレイの気持ちが痛いほど分っていた、

「大丈夫、あの子達は充分大人だよ。俺達が心配しなくても、自分で道を見つけられるよ、」

何処か哀しい瞳でステージを見ていたミサトに、横に座っていた加持が話しかける、

加持は3年前にステージを捨て、プロデューサー業に専念することにした。

今のシンジ達のアルバム、シングルは全て彼が手がけている。

「そうね、、もうすぐ二十歳になるんだもん、もう、充分大人よね、、」

「あぁ、、自分で未来への道を開ける、立派な大人さ、」

そんなミサト、加持、マヤがステージ脇で見守るステージは、相変わらずのMC無しの曲だけの進行だが、会場は異常な盛り上がりを見せながら進んで行った。

 

 

 

 

 

カオルとの最後の別れを告げた二人は、すぐにミサトにバンド活動の再開を求めた。

何も考えずに、哀しみや不安を感じてる余裕がないほどのハードスケジュールを求めた。

アスカとカオルの失踪は今でも不明なままだ、

当時の暇なマスコミは、太った豚の様な主婦に与える格好の餌として、この二人の失踪を報道した。

“十代の愛の逃避行”などと勝手な記事を書き、勝手な憶測で話題を作った。それに対し、シンジとレイは一切何も語らなかった。事務所サイドからのコメントも何も無く、ただ、新メンバーとしてドラムに、達也という人物が加入したことだけ発表した。

そして、そんな話題も風と共に風化していき、豚の様な主婦達は、また新たな餌を求め、マスコミも新たな餌を求めて過ぎ去っていった、、、、、

 

そんな出来事には関係無くシンジ達が発表するシングル、アルバムは全て高い評価を受けた、

哀しい未来、苦しい未来、信じられない未来、不思議な未来、楽しい未来、愛で溢れた未来、絶望的な未来、全ての未来を独特の言葉と、切ないかすれた高音で歌うシンジは、今や世界的なミュージシャンとして認められている。笑顔を降りまくだけのアイドル、いいかげんな振付けの踊りを、いいかげんな歌で誤魔化しながら歌うグループ、演奏できないのに弾いてる振りをする軽薄なロックバンド、掃いて捨てるほどいる売れる事が目的のミュージシャンとは違い、シンジは常に綺麗なメッセージを持っている。

自分のサウンドと言葉を持って、押し付けじゃないメッセージを歌う、

シンジはただ、、歌うだけだった、、ギターを弾いて、歌うだけだった、、

誰かの為に全てを捨てられるなんて歌わない、

愛こそ全てで、愛が世界を救うなんていいかげんなことは歌わない、

誰かを勝手に風刺したような、大人を勝手に悪者にした歌も歌わない、

社会が、学校がなんて一方的な批判の歌も歌わない、

ただ、、自分の瞳に映る世界を、不思議な未来を、綺麗な言葉で歌うだけ、

それがどれほど強い力を持つか、シンジは本能でしっていた、、

それが、どれだけ心に突き刺さるのか、シンジは本能的に知っていた、

そして、シンジの声に、言葉に、単純な純粋な気持ちの歌声に、

今、世界が、震撼し続けていた、、、、

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、お嬢さん、チケットないなら売るよ、」

「、、、、、あるからいい、」

黒い革のハーフコートに、赤いTシャツ、破れたジーンズに履きふるしたブーツ、キャンディアップルの帽子を深くかぶった少女が、ライブ会場の入り口の側で座っていた。

「じゃぁなんで入らないんだい?」

「、、、、迷ってるだけ、」

「何を?」

「未来を、」

 

 

 

 

 

 

加持はシンジ達のステージを袖からじっと見ていた、

「違うなぁ、、、」

「何が?」

「今日は、、シンジ君、、とってもテンションが高いんだ、、、」

「調子が良いって事じゃないの?」

「いや、、、何かに取りつかれてるみたいに、、そう、、何か、目に見えない物を感じてるみたいだ、、」

「ちょっと加持、嫌なこと言わないでよ、」

確かにシンジ異常なほどハイテンションで歌い、ギターを弾きまくっていた、

歌詞を忘れる、ギターのリフを間違える、曲の構成を忘れる、、、、

シンジは何か目に見えない誰かと会話してる様に歌い、叫び、そしてギターを弾く、

「まさか、、薬、、」

「いや、、ドラックはやっていないはずだ。」

「じゃぁ、、、どうしたのかしら、確かに今日は変ね、」

「あぁ、、、、」

心配するスタッフだが、ステージ上のシンジは珍しく笑顔を浮かべていた、

レイも何故か笑っている、、

達也はそんな不思議な二人の世界を壊す事無く、しっかりとサポートしていく、

シンジは歌いながら、ギターを弾きながら、何処か遠くを感じていた、、

 

 

 

 

 

 

ホール内に入る入り口にさっきの少女がいた。

長椅子に座り、片手にはコーラの缶を握りながら、シンジの歌声を聞いていた、

その少女には分っていた、、、

シンジが自分に向かって叫んでる事を、

自分に向かって、呼んでる事を、

シンジの目の前に姿を表し、自分を抱きしめて欲しいと歌ってることを、

その少女には分っていた、、

その気持ちが伝わるたびに、コーラの缶を握っている手が震えた、

「シンジ、、、、痛いよ、あんたの声は、、」

帽子で隠した表情を下に向けながら、少女は小さくつぶやいた、

 

 

 

 

 

 

 

「次、ラスト、」

レイのその言葉に観客は更に絶叫し、興奮する、

簡単なギターのリフ、

でも、誰もが踊れる様なフィーリングとメロディーを持つリフ、

そして後からドラムとベースが勢い良く入る何処にでもあるような曲、

だが、シンジの歌う言葉が、綺麗な世界へと観客を導く、

このホールにいる人間すべてが、その言葉に未来を感じていた、

画一的な未来じゃない、ひょっとしたら、絶望かも、苦しみだけかもしれない未来、

シンジは一言も“愛”という言葉を口にしない、

でもきっと素敵な未来が僕達を待っている、そう歌う、

レイも、達也も笑顔で笑いながら、シンジの姿を見ている、

シンジは気持ちよさそうに歌う、

だから、こっちにおいでよ、、

僕と一緒に素敵な湖を探そう、

そう少女に歌っていた、、、、

 

 

 

「サンキュー、バイバイ!!」

そうレイが叫びながらステージが終わる、

シンジはいつもの様に、ふらふらになりながらステージ脇に消えて行く、

アンコールは、一度も応えたことはなかった、それでも、アンコールの拍手は鳴り止まない。

シンジは一度楽屋に引っ込む、レイと達也も続いて入る、

そしてミサトから渡されたミネラルウォーターを飲む、

呆然とシンジは空中を眺める、

何を見てるのか分らないが、シンジはステージが終わるとまるで魂が抜けた人形の様になる、

「ミサトさん、、」

スタッフが楽屋のドアを開ける、

「どうしたのよ、」

「あの、、会場の電気がついてもお客さん、、帰らないんですよ、、」

「なんですって、」

 

 

 

 

 

ミサトがステージ脇に走るとアナウンスが流れても、アンコールが鳴り止まない、観客の多くがシンジ達が再度登場する事を信じて動かない会場がそこにあった。

「もう十分以上経ってるが、鳴り止まないねぇ、」

「加持、、」

「どうする、ミサトが出て行って説明するかい?」

「そうねぇ、、、、それしかないかなぁ、、」

ミサトが意志を決めて、ステージに出ようとした瞬間、その横を一人の少年が通りぬけた、

「え、、、」

その少年はお気に入りのギブソンを持ってステージに出て行った。

「シンジ君!」

その言葉にシンジは振りかえる、そして笑顔で答える、

「もう少しで、会えそうな気がするんです、ミサトさん、」

その言葉と、その笑顔、綺麗な瞳の少年にミサトは一瞬我を忘れる、

「ちょっと、、シンジ君、」

「まぁ、ミサト、一曲だけよ、」

「そうそう、ミサトさん、すぐに終わりますよ、」

そう良いながらレイと達也は走ってシンジの後を追う、

「ちょっと、あんた達、勝手に、、」

「葛城、、」

「だって、会場の都合もあるし、リハーサルに無い事いきなりやっても、、」

「大丈夫だよ。シンジ君達はライブバンドだ、どんな場面でも上手く対応できるさ、」

「でも、、、」

「それに、俺もなんとなく会えそうな気がするんだ、」

「はぁ、、、」

「さぁ、葛城、急いでPAと照明に連絡するんだ。会場関係者には俺から謝罪しておくから、」

「う、、、うん、、」

加持とミサトはすぐさま行動に移った、、

 

 

 

「アンコールありがとう!」

シンジが叫んだ、

今までほとんどステージで話しをした事のないシンジが、

今まで一度もアンコールをした事のないシンジ達がステージに立ち、

しかも笑顔で笑いながら話している、

「今日は、僕達もとっても楽しかったです、」

その言葉に観客は異常な興奮状態に陥る、

照明はただの蛍光灯だけ、会場も明るくなっている、

それでもPAシステムはまだコンサートの状態のままだった為、演奏は充分できる状態だった、

「今まで一度もアンコールやった事ないから、、どうしていいのか分らないんだ、、」

会場から笑いが起こる、

「はは、、だから、僕の好きな歌を歌います。レイ、、いいかなぁ、」

「あの曲やるの?」

「うん、達也もいい?」

「大丈夫!任せなさい!」

「メンバーの許可も貰ったことだし、ミサトさん、、いいですか?」

シンジはPAシステムの脇に立っているミサトが親指を立てて“OK”と言ってる姿を確認する。

「じゃぁ、僕の好きな曲で、“AIR”」

 

その言葉と同時にシンジはワンコード・ストロークを始める、

そして歌い始める、

 

素敵な少女が赤いタンバリンを振る世界を、

その少女がレイと一緒に泣いてる世界を、

素敵な星を一緒に眺めて、綺麗な風と一緒に走った事を、

素敵な蒼い瞳でシンジを見つめていた事を、

怒りながら、泣きながら、それでも必死に生きていた事を、

自分と一緒に退廃的な口ずけを繰り返した夜を、

その少女の為に歌った日々を、

シンジはただ歌い続ける、

 

 

 

「こんな歌ありましたっけ?!」

スタッフがミサトに質問する、

「私も始めて聞くわ!!」

「始めてじゃないわよ!!」

「え、、」

ミサトの横で大声で叫ぶ少女がいる、

さっきまで入り口の脇で震えていた少女だった、

「あ、、あなた、、、、まさか、、、、」

大音量の中ミサトの声は聞こえないが、少女には唇がそう動いた様に見えた、

「ステージでシンジが呼んでるから、行くわね!!」

「ちょっと!待って!!」

帽子を取り、栗色の綺麗な長い髪を露わにした、蒼い瞳の少女はステージ最前列に向かって走る、

 

 

シンジは歌う、

 

欠落した俺の感性に響くぜ、

そんなに美人なわけじゃないが、

腰と肘とハートで軽やかに撃ちふるう、

 

いくらか未来が好きになる、、

 

 

そうシンジが歌う、

そしてシンジはギターをかき鳴らす、

 

そのギターの音に惹かれる様に、少女とミサトは観客を押しのけ、最前列を目指し進む、

 

「ちょっと、、無理よ、最前列までいけるわけないでしょ!!」

「シンジが私を呼んでるんだから、しょうがないでしょ!!こら、どけ!」

「あんた、、相変わらずね!」

「あったりまえよ!そう簡単には変わらないわよ!!どけ、この野郎!」

少女は周囲の人を蹴散らしながら、前に、前にと進む、

ミサトも一緒に少女を守りながら必死に進む、

シンジが気がつく、最前列まで、、、

 

 

シンジは歌う、

 

素敵な未来を、

きっと神様は意地悪をする、

でも、人間はもしかしたら、愛し合う為に、

信じあう為に生きてるんじゃないか、

そんな噂が世界中に広まることを、

ただ、単純な言葉で歌うだけだった、、

 

 

ギターが再び鳴り響く、、

そして、シンジは後ろを振り向き、レイと達也の方を見る、

大きく片足を上げて、ギターと一緒に振り下ろし、曲の終わりを示す、

レイと達也もシンジの笑顔に答える、

そして3人揃ってステージ最前列に立つ、

「サンキュー、また会える日まで!みんな元気で!」

そう言い残しシンジと達也がステージに消えようとした時、

レイが何かを見つめたまま動かない事に気がつく、

「レイ、どうした、、、、、」

シンジはレイが見つめる先に視線を移し、

そして、レイの瞳に移るミサトと、一緒に必死に前に進む少女の蒼い瞳に気がつく、

 

 

 

何も聞こえない瞬間、

全てがスローモーションで動いてる様に思えた、

長い時間だっだ、、、

3年間が?

いや、シンジが認識してから、少女が最前列までたどり着くまでの時間が、

シンジには永遠の様に思えた、、

最前列にたどり着いた少女が大きく手を伸ばす、

シンジは反射的にステージを駆け下りる、

そして、そのシンジに他の観客も手を伸ばす、

何本もの腕が伸びる中、

シンジはその少女の腕だけを掴み、引っ張る、

少女も、その瞬間、最前列の柵を飛び越える、

警備員がその少女を引き離そうとする、

だが、シンジとその少女は抱き合ったまま離れない、、

いや、永遠と離れないのだろう、、

離れてはいけない、そんな気がするほど、堅く、腕と胸で抱き合っていた、

そのままステージと柵の隙に二人は倒れ込んだ、

誰も何が起こったのかわからなかった、

周囲はその光景にただ呆然としていた、

だが、レイも一緒にステージを駆け下り、

二人に抱きつく、、、泣きながら、大きな声を上げて、、抱きついた、

後で聞いた話しだが、シンジはただ大声で叫んでいただけだった、

「アスカ、、、愛してるよ、」

そう叫び続けていたらしい、、

 

未来が変わったのか、世界が変わったのか、誰にも分らない、

でも、アスカを泣きながら抱きしめるシンジ、

そのシンジの胸で泣き続けるアスカ、

その二人を抱きしめながら大声で泣くレイ、

その涙は真実かもしれない、

そう思える瞬間だった、、、、、、

 

ただそれだけの、小さな未来の出来事だった、、

 

 

 

 

 

 

終わり、

                                                 

初めにこんな稚拙な物語を掲載してくれたDARUさんに、心からの感謝を、

そして、今まで暖かい応援のメールをくれた方々にも深く感謝の気持ちを示します。

本当にありがとうございました。

 

この作品はあくまで空想上の世界で、いろいろなテイストが含まれてるのは、僕が表現者として未熟な部分が多く含まれてる為であって、あまりアニメやテレビを見ない僕は、限られた価値観で書いてる部分や偏見で見てる部分がとても多くあると思います。もし不快に思った人がいましたら、寛大な心で許してください。

 

最後まで読んでくれてる人がいるのか、分らないのですが、読んでくれた人にも心から感謝します。

ありがとうございました。

全ての人に素敵な未来が訪れることを願って、、

 

Rudy



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