【 TIP OFF 】

 

第三話 『スキル』

 

 

 

 

「それにしてもまさか、転入生がシンジやったとはな」

「まあね」

いまだに呆然として、アスカとシンジを取り囲むようにしてできた人垣を眺めるトウジと

ケンスケ。

この時間、美術室は沸き立っていた。

 

際立った美男子とは言えないまでも、すっきりと整った顔立ちに柔和な表情を浮かべたすら

りとした長身の転入生が、あのアスカの手をしっかりと握っていきなりやってきたのだから、

騒ぐなと言う方が無理な話なのかもしれない。

微苦笑を浮かべる少年と、首筋まで真っ赤にして少年の手を握って放さず黙ったまま

俯いている少女に、周囲は次々と質問を投げかける。

「そうね、フフ… でも良かったじゃない、これで3バカ復活ね? それに…」

…アスカもあんなに幸せそう。

ヒカリは、とうとうぶちキレて野次馬達を追い払いだしたアスカを優しく見守りながら

声には出さずに呟いた。

 

 

「ったく… こっちが何も言わないと思って! 加減ってものを知らないのかしら!?」

「まあいいじゃないか、アスカ」

未だに憤怒冷めやらぬアスカを、苦笑してシンジがなだめにはいる。

「なあにいってんのよ! そうやって笑ってなあなあで済ませようとして。そう言うトコ

全然変わってないわね! 図体ばっかりおっきくなって。 もっとシャキッとしなさいよ!」

「なっ、しっ、しかたないだろ! 性格なんだから。別にいいじゃないか、質問に答えるくらい…」

「あたしが嫌だって言ってるの! それとも、なに? あんたは、このあたしより初めて

会ったような連中の方が大切だって言うの!?」

「それとこれとは、問題が別だろ!? これから、2年間付き合っていくのにいきなりそんな

無愛想な態度取れる訳ないよ!」

「ハン、訂正するわ。図体だけじゃなくって口も達者におなりのようね、シンジ様は。

なにさ! よけいなとこばっか成長して! 2年前にはあんなこといってたくせに。肝心なとこ

はちっとも変わってないじゃない!?」

「なっ、ア、アスカだって口うるさいのはそのままじゃないか! 2年も経ってるって

いうのに、あんなこといっといてちっともお淑やかになってないじゃないか!?」

「キーッ! なんですってー!?」

「なんだよ!?」

「…あのね、二人とも…」

睨み合う二人に呆れ顔でヒカリが声をかける。

「「なに(よ)!」」

いつぞやのユニゾンを彷彿とさせる二人。

「なに、してるの…?」

「「なにって、見てわからない!?」」

「ええ、少なくともケンカしてるようには見えないわ…」

「「…どうして?」」

「ケンカしてたの?」

「「そ、そう(だ)よ」」

「…手、つないだまま?」

思いっきり冷ややかな3人の目にさすがに、照れて俯くシンジ。

「いっ、いいじゃない!? つなぎたいんだから!」

アスカは、再び頬に朱を散らして怒鳴る。

「別に悪いって言ってる訳じゃないのよ、アスカ。ただ何してるのかな?って疑問に

思っただけ。まさか、ケンカしてるとは思わなかったわ。私はてっきり…」

「てっきりなによ!?」

「てっきり、仲の良いトコ見せつけてるのかと思っちゃた」

再び耳まで赤く染めるアスカ。

「そ、そんなんじゃないわよ!」

 

「ホント、久しぶりだなシンジ…」

「かれこれ2年ぶりかの?」、

よろしく遣り合い始めた二人から離れて、笑顔を浮かべたケンスケとトウジが手を差し伸べる。

「うん、久しぶり。…ケンスケ、トウジ」

差し出された二本の手を順にしっかりと握りかえしながら、シンジが微笑みを返す。

「2人にまた会えて、本当に嬉しいよ」

「それは、わしらも一緒や。のう、ケンスケ?」

「ああ、勿論。それにしても、まさか転入生がシンジとはね…」

「そうや。シンジがバスケやってるなんて知らへんかったからのう…」

「うん… 手紙に書こうかとも思ったんだけど… 2人ともバスケやってるって聞いたら

なんだか照れくさくて」

首筋を手でさすりながら、微苦笑するシンジ。

「照れくさいって、おまえなあ…」

ケンスケは一つ溜息をついてから、まあお前らしいよ、と呟き苦笑いを浮かべる。

「まあ、それはいいとしてやな…どや? わしらと一緒にやらんか? バスケ」

「そうだよシンジ。うちの部、まあ練習はきついけどその分そこそこ強いし、部員もみんな

気の良い連中だからさ」

「どや、シンジ? やってくれるか?」

「また3人でつるもうぜ、シンジ」

身を乗り出して口々に誘う二人。

2年も離れていた自分を、相変わらず仲間として扱ってくれる2人の友情を確かに感じて

シンジは心からの微笑みを返す。

「うん。ありがとう、誘ってくれて… 僕なんかでよければ、是非仲間に入れさせて

もらうよ…」

「さよか! そうしてくれるか!? 」

「大歓迎だよ。シンジ」

「うん。正直バスケは続けたいと思ってたし…」

「そうか、じゃあ善は急げだ。今日の放課後空いてるか?」

「うん… 特に用はないけど」

「だったら今日から来てみろよ、練習」

「せやな。こういうことは早い方がええ」

「え? 今日から? でも、着るものは学校のジャージでいいんだろうけど… バッシュが

無いよ。まさか、体育館シューズでって訳にはいかないし…」

まさかこんなことになるなどとは思ってもいず、困惑した様子でシンジが言う。

「シンジ、くつのサイズいくつや?」

「28だけど…」

「だったら俺と一緒だよ。俺の持ってる予備のヤツを貸すよ」

「あ、うん。ありがとう…」

とんとん拍子に事態が進んで行くことに少しきょとん、としながらも微笑みを浮かべるシンジ。

「ちょ、ちょっと! 何勝手に決めてんのよ! 今日はあんたの歓迎会やるって決めたんだから

あんたはあたし達の買い物に付き合いなさい!」

知らぬ間に2人の話はそのように流れていったらしく、少し慌ててアスカが割り込んでくる。

「惣流… じぶんこそ勝手に決めとるやないけ」

「うっさいわね! じゃあ、なに? あんたはシンジの歓迎会を開くのは反対ってわけ?」

「そないに言うてへんやろ? わしかて、そういうことなら部活が終わってからになって

まうが、勿論参加させてもらう。せやけど、シンジの歓迎会開くっちゅうのにシンジ使って

どないすんねん? ていうてるんやろ」

「グ… わ、わかったわよ! じゃあシンジ!」

少し頬を赤く染めて、アスカがシンジの方を向く。

その拍子に首の動きに少し遅れて宙にひろがるアスカの豊かで艶やかな髪に、何となく

シンジは感動してしまう。

「……」

シンジに見つめられて、またも真っ赤になりながらも周囲の目を気にして怒鳴る。

「シンジ!」

「え、あ、なに?」

その怒鳴り声にハッとしてシンジが我を取り戻す。

「か、歓迎会あんたの家でやりたいんだけど?」

「あ、うん… 別にかまわないけど」

「それでどこなの? そのあんたの家は?」

「それが、よくわからないんだ…」

「はあ?」

「だって昨日はホテルにとまっただろ? まだ見たことないんだよ僕の住む家…」

「じゃあ、今日もホテルに泊るの?あんた」

「いや… ミサトさんから住所と鍵は貰ってるから今日からそこに住むつもりなんだけど…

区画整理なんかで僕がいた頃と番地名とかが変わってるみたいだからどの辺かわからないんだ」

「その住所見せてみなさいよ?」

「うん」

シンジが、ポケットからミサトに貰ったメモ用紙を取り出してアスカに手渡す。

「どれどれ… あら、けっこううちに近いじゃない。歩いて5分ってところね」

「ミサトさんが手配してくれたみたいだから…」

「ところで、荷物とか家具はどうなってるの?」

「荷物は最低限のものだけ持ってくることにしたんだ。もう届いてるんじゃないかな?

それ以外の家具やら日用品やらは、ミサトさんに業者がお願いしてくれたみたいだから

それももう家に入ってるだろうね」

「ふーん… ミサトは知ってたんだ」

そのことに思い至って、多少頬を引きつらせるアスカ。

「 ま、いいや。じゃあ鍵頂戴。とりあえず、あんたの家ヒカリと行ってみて何か足りない

ものが無いかチェックしてから買いだしいくから」

「あ、うん… やっぱり僕も行こうか? 女の子2人だけじゃ何かと大変そうだし」

アスカの手にキーカードとキャッシュカードを握らせながら少し心配そうにシンジが訊ねる。

その手を自らの手を添え、握りかえしながら、アスカは微笑を返す。

「大丈夫。心配しないで… あたしから言い出しといてなんだけど、やっぱりあんたの

歓迎会だもの。あんたの手を煩わせちゃ意味無いわ。ね?」

「うん… アスカがそう言うんなら… 」

「うん。あたしがそう言ってるの」

ニッコリと勝ち気な笑顔を見せるアスカ。

「わかった。じゃあ僕はトウジとケンスケについて部活を見学してからいくよ」

胸を張るアスカの手をもう一度優しく握りかえして、シンジは微笑んだ。

 

 

 

 

§

 

 

 

 

壱校バスケ部の練習は、基本的に体育館で行われる。

他の室内系運動部が実質的に休部状態にあり、それらの部とのローテーションが有名無実化

しているためである。

 

練習も終盤。

試合前の特別練習メニューをあらかたこなし、現在は6日後に控えた高校総体地区予選決勝

に備え、控え組を静岡学園に模し5対5の試合形式の練習を行っている。

スターター組のディフェンスは1−3−1のゾーン。

外からの得点が割合少なく、東城コウメイという全国区のF(フォワード)を擁する静岡学園相手

に、おそらくもっとも長い時間多用することになるディフェンス・パターンである。

短いパスを素早く回し、ゾーンをかき回そうとする1年控えG(ガード)。

それに惑わされることなく、陣形のバランスを上手くとりながら冷静に対処するスターター組。

なかなか、ディフェンスを切り崩せない控えGが手に詰まりまたもフォワードに入っている、

碇シンジにパスを出す。

途端に、ディフェンスを行っていたスターター組に緊張が走る。

それに合わせて控え組の面々がポジション争いを激しくする。

一瞬。

僅かに綻んだゾーンディフェンスを鋭く切り裂くシンジのカットイン。

また抜きで、剣野タケヒコをあっさりと抜き去りゴール下に向けて切り込む。

腰を落としハンズアップで迎え撃つトウジに、ゴール下の樹ユウもヘルプにまわる。

かまわずシンジが跳ぶ。

それに合わせて二人もブロックショットを放つ。

シンジの前にそびえる2枚の壁。

トウジの手のひらがシンジの伸ばした手の先にあるボールに触れようとした瞬間。

トウジの手は沈み、ボールはシンジの手によってリングに叩き付けられる。

バランスを崩したトウジが盛大に倒れる音と、機械的に弾むボールの音だけがその瞬間、

体育館を支配する。

そして静寂。

コート内外問わず誰一人声一つ出せない。

彼を誘った、彼をよく知る2人でさえコートに立って実際こうして相対して見るまで、

彼、碇シンジのスキルがこれほどのモノであるとは想像さえしなかった。

 

 

更衣室でジャージに着替えケンスケに借りたバッシュに足を入れたシンジは、トウジと

ケンスケの2人に連れられ体育館に来ていた。

西日が天窓から降り注ぎ、体育館を舞う埃を輝かせる。

監督である結城がやってくる練習開始の時間までまだ若干の余裕があるが、バスケ部の

メンバー達は既に全員集まっており、思い思いの場所でアップを行っていた。

トウジとケンスケは、いつものように早々とアップを終わらせマネージャーを交えて談笑

している3年生達の方へシンジをひっぱていく。

軽く背中を押され上級生4人の前に出たシンジは、トウジとケンスケの性急さに一瞬苦笑を

浮かべるが、すぐにそれを微笑に変え不思議そうに彼を見る4人に、挨拶を始める。

「今日転入してきた碇シンジです。今日からこちらでお世話になります。よろしくお願い

します」

丁寧にお辞儀するシンジに、状況を理解した4人がノリ良く掛け声と拍手を送る。

「はじめまして、碇シンジ君。アタシはマネージャーをやらせてもらってる冴木カノエ。

18歳、独身、彼氏有り。好きな色は晴れた日の高い空の色、好きな食べ物は甘いもの。

165cm 体重と3サイズはヒミツよ。チャームポイントはこの可愛いお耳。カッコイイ

てカワイイオトコノコは大歓迎よ」

呆気に取られるシンジの手を強引に取るカノエ。

「よろしくね?」

「は、はあ…」

困惑しつつもなんとか手を握りかえすシンジ。

「けっ、何がチャームポイントだ。のっけから恥じかかせやがって」

「ムッ、なによー?」

「俺は桜ハヤト。178cm 68kg。ポジションはPGだ…」

カノエの抗議をあっさり無視してそう言う桜の肩を、隣の男がポンポンと叩く。

「ん? なに? カノエの耳はホントに可愛い? …うるせえ! そんなの知ったことか!

だいたいテメーは、いつもいつも…ん? なに? 剣野タケヒコ、184cm 78kg、

ポジションはSF? …そんなこた自分で言え! くそっ、とにかく歓迎する、碇シンジ」

苦りきった顔でそう言う桜の横で、剣野が大きく頷く。

「桜に馬鹿を伝染されない様にね、碇君」

「なんだと!? テメーだろそらっ!?」

「なによお!?」

 

「すまないね。 連中はいつもああなんだ。これからも迷惑をかけるかもしれないが、

我慢してくれるかな?」

最後の一人が苦笑いを浮かべてシンジに手をさし伸ばしてくる。

「そんな。賑やかで楽しそうです」

その手を握りかえしながらシンジが笑い返す。

「そういって貰えるとありがたいよ。僕は樹ユウ。191cm 78kg。ポジションは

フォワード、PF(パワーフォワード)だ。そしてこの部のキャプテンとして君を歓迎

するよ、碇シンジ君。うちは練習がハードだから辞める連中が多いんだけど、君はそう

ならないよう頑張ってくれよ。ところで君のポジションは?」

「一応ガードをやってました。PGです」

「ほう、その背丈でPGか。…ところで練習には今日から参加してくれるのかな?」

「はい。そのつもりです」

「それなら、アップはまだだよね? 少し僕と1on1やってみないか?」

「アップに…ですか?」

激しい運動に備えてのアップに1on1を行おうという樹の意図が読めず、シンジは困惑

する。

「なに、軽くだよ。軽く…」

そんなシンジに樹は薄く笑って応える。

「はあ、まあいいですけど…」

「よし、じゃあ行こうか」

「はい」

 

 

「なんだ? 樹のヤロー、いきなり新入りと1on1か?」

シンジを連れてコートに入っていく樹に、桜が声をかける。

「樹! 少しは手加減してやれよ! 貴重な部員なんだからな!」

「そんな必要無いかもしれないっすよ?」

桜の声に、適当に手を上げて応える樹を見ながらケンスケが呟く。

「あ? どういうことだよ?」

「桜先輩。シンジがここに来る前、どこにいたと思います?」

「はあ? …なんだ、どっかの名門校にでもいたのか?」

「違います。アメリカですよ。あいつ、アメリカでバスケやってたんですよ」

「ハ!? マジかよ!?」

「勿論、アメリカにいたからって上手いとは限りませんけど、事実っす」

「ほえー…」

桜はそう唸ると、視線をケンスケからドリブルを始めたシンジに移した。

アップを行っていた1年生達も含め、体育館にある全ての視線が2人に釘付けとなり、

奇妙な緊張感が体育館に走り出す。

 

 

「アメリカに居たんだろ? 碇君」

極めて緩慢なドリブルで徐々にゴールに近づくシンジに、微妙な距離を取ってディフェンス

する樹が再び薄い笑みを浮かべる。

「…どうしてそれを?」

無表情にシンジが訊き返す。

先刻まで戸惑った表情を浮かべていたシンジがボールをつきはじめた途端、無表情になった

ことに一瞬訝しげな思いを抱いていた樹だったが、その瞳の奥に潜む闘争心に気付き納得する。

おそらくこれが、碇シンジがプレイヤーとなるときのスタイルなのだろう、と。

「アスカちゃんに聞いたんだよ」

「……」

僅かに沈黙が二人の間の空気を支配する。

そして。

シンジが動いた。

チェンジ・オブ・ペース。

そう知覚した瞬間、樹は既にシンジにあっさり抜かれていた。

シンジは、無人のリングにレイアップでゴールする。

静寂に包まれた体育館に、傍観者達の息を呑む音のみが響く。

素人目には、ただあっさり抜かれた樹の不甲斐なさばかりが目立つのだろうが、彼らの目には

違ったものが映っていた。

視線の先にあるのは、ゴール下に無表情で佇むシンジだった。

シンジが行ったのは、何の変哲もないチェンジ・オブ・ペースだったが、彼はそれを、見た限り

ノーモーションで、つまり予備動作無しで行ったのである。

言うだけなら簡単なことだが、実際やるとなると強くしなやかなバネと精密なボディバランス

が要求される超高度なテクニックである。

そして、誰よりも驚愕したのは他でもない樹であった。

呼吸や足の筋肉の動き、ボールをつくタイミング、そして何よりも身に纏う雰囲気。

それらの全てに気を配り、更にはアスカの話題を出す言わばトラッシュトークで動揺を

与えたと確信したにも関わらず、タイミングが全く合わなかったのである。

「樹さんのオフェンスですよ」

転がるボールを無表情にシンジが拾い、樹に渡す。

「あ、ああ…」

適当な位置まで下がり、一度シンジにボールを放り再び受け取ってからドリブルを始める。

 

 

「あれは、きつい…」

「オフェンスだけやないってことやな…」

1on1なだけにパスの心配も無く、重心を低くして樹にぴったりとくっつくシンジを

真剣な目で見遣るケンスケとトウジ。

樹もPFとは言え、1on1の技量が低いわけでは決してない。むしろ高いと言うべき

であろう。

しかし彼らの見る限り、樹の繰り出すフェイントに全く振られることないシンジが勝利する

のは時間の問題であるように思えた。

事実次の瞬間、樹のフロントチェンジが僅かに乱れたのを見逃さず、シンジはボールを

はじいてマイボールにする。

 

「まいったな… 気にならないのかい?」

シンジの手にあるボールを見つめて軽く溜息をついてから、不思議そうに樹がそう訊くと

1on1を始めてから初めてシンジの顔に表情が浮かび上がる。

「気にならないと言えば嘘になります。でも僕が不安になるようなことではないってことも

わかってますから」

はじめに苦笑を、そして次に柔らかい微笑みを浮かべてそう言いきるシンジを見ていた

樹の肩が小刻みに揺れている。

「樹さん?」

怪訝そうにシンジが声をかけたところで、こらえられず、ついに樹は声を上げて笑い出す。

「フフ… ハハハハハ! いや、ごめん…、フハハ、さすがアスカちゃんの旦那さんだ。

似た者夫婦なんだな…君たちは」

「?」

「いや、いいんだ。気に入ったよ、碇シンジ君。フフ、改めてよろしく頼むよ」

「? はあ…」

再び差し出された手を不思議そうに握りかえすシンジ。

「シンジ! 次はわしと勝負や!」

「おいっ 鈴原! 先輩優先だろこういうときゃ!」

「……」

「タッくんが自分も先輩だってさあ」

「うるせえ! たまにはてめえの口で喋りやがれ!」

「じゃんけんで決めましょうよ、先輩」

再び騒ぎ出した一同を見てやれやれといった具合に肩を竦め、あきれたような視線を寄越す

樹に、シンジは顔を綻ばせることで応えた。

 

この時の碇シンジに対する彼らの認識が、まだ不完全なものであったことを彼らはこの後の

数時間の練習を通して思い知ることになる。

そして彼らは、碇シンジを知る。

そして、触れる。

その、圧倒的なスキルに。

 

(第四話に続く)


 

あとがき

ごめんなさい。

綾波嬢の登場はもう少し待ってください。

 

相変わらずの拙い文章ですが、あったら感想ください。

苦情、お叱り、誤りの指摘、要求、その他読み終わった後に感じたことなら何でもかまいません。

よろしくお願いします。

 

 

それでは、今回はこの辺で。



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