あなたが側にいてくれるなら

 

かいたひと:てらだたかし  

 


 

  「ねぇ、シンジ」

  ある日の夕刻。

  「何、アスカ?」

  椅子に座ったままチェロの弦を緩める少年とその姿をまっすぐに、本当にまっすぐに見つめる少女。

  「どうして・・・そんなにチェロが上手なの?」

  やがてチェロを大事にケースにしまったシンジは首を傾げた。

  「そんなに・・・上手だったっけ?」

  「うん」

  満面の笑みで答えるアスカ。

  そしてその笑顔、うそ偽りのないココロからの笑みはたった一人、彼だけに向けられている。

  「そう・・・?ありがとう」

  「どういたしまして」

  アスカはソファから立ち上がるとシンジの後ろに周りその首に手を廻す。

  そして腰をかがめると耳もとに口を寄せた。

  吐息が、熱い。

  「だってね、シンジの演奏聴いてると一回も同じ様に聴こえないんだもん。

  シンジが嬉しそうなときには明るくなるし、その逆の時には・・・ね」

  その言葉にシンジは黙った。

  嬉しいのか、恥ずかしいのか良く分からない様な・・・そんな表情のままで。

  「分かる?」

  「うん」

  「そっか・・・・・・」

  シンジはふと目を臥せると悲しそうな顔をした。

  そんなシンジのココロを察したのか、アスカは続けた。

  「でもね、そんなシンジが好き。

  隠さずに全て話してくれてる方が・・・良いじゃない。

  辛いの隠してたって・・・お互い傷付くだけでしょ?」

  シンジは首に廻された手に自分の手を重ねる。

  「ありがとう」

 

  ソファに座ってよりそう二人。

  お互いの手をかたく握りしめ、言葉を交わすわけでもなくただただ時間だけが過ぎていった。

  「本当はね、自分の感情に左右される様な、そんな弾き方が出来たら良いなって・・・思ってたんだ。

  だって・・・アスカがだよ?

  アスカが聴いててくれるんだから・・・」

  やがてシンジの方から紡ぎだされたコトバ。

  「アタシ・・・思うんだけど、もちろんシンジよりチェロ上手に弾くヒトは世界にたくさんいると思うわ。

  でも、シンジはアタシのために、大切に弾いてくれた。

  聴いているのはアタシだけなのに・・・それでも弾いてくれた。

  それがアタシには一番嬉しいな」

  囁く様な、鈴を転がす様な声。

  「だって・・・」

  耐え切れなくなったかの様にシンジはアスカの事を抱きしめた。

  「アスカが側にいてくれるなら・・・なんだってしてあげたいから・・・」

 

  誰よりも優しい少年から、誰よりもか弱い少女へと贈られるメッセージ。

  何でもない日の、当たり前の様な夕暮れ時。

  少しだけ温もりを手にいれた風が祝福する様に舞っていた。

 

 

 

おしまい

感想なんかがありましたら てらだたかし までお寄せ下さい。

ついでにLASであればリクエストも聞きますね。




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