終末の果て

 

THE END OF ENANGELION after story

 

 

 

 

  トウジの家でのことがあった翌日。
  僕は決めた。

 

  部屋の電話を手にとった。
  かける先は・・・三年ぶりの、あの場所。
  三年間眠らせていた記憶・・・でも、生きている。

 

  ぷるるる ぷるるる がちゃ

  「あ、碇シンジです」

  『シンジ君?やあ、元気かい?』

  「今から日向さんの処に行きたいんですけど、良いですか?」

  日向さんの部屋に直通の電話。日向さんの声に被さる様にホワイトノイズがなっている。

  『唐突だな・・・ああ、僕の方は構わないよ』

 

  確認は、とった。
  あとは・・・僕自身のキモチだけ。
  僕自身のキモチを認めてもらうだけ。

 

  机の上にあるアスカの写真を手に取った。
  写真の中で笑っているアスカ。

  長かったよね。
  この三年間、ずっと考えていたのに・・・
  実はもっと簡単なところに答えはあったんだね。

 
  「いってきます」

 

  言葉にはならないのかも知れないけれど。
  言葉になったらとたんにウソになってしまうものかも知れないけど。
  でも・・・言葉にしないで伝わるわけがないんだから。
  自分から行動を起こさないで他人に何とかしてもらうなんて、そんなむしの良い事出来るわけないんだから。

 

 

 

  「やあ、シンジ君。待ってたよ」

  そう云った日向さんは自室で僕の事を待っていた。
  その目は・・・いつもと違うのかも知れない。
  いや、僕がいつもと違う目で世界を見ていると云う・・・ただそれだけの事かも知れないのに。

  「・・・日向さん。
  僕は、答えを見つけました」

  たった一言。
  僕は告げた。

 

  「そうかい」

  日向さんの顔が、凄く穏やかになったかの様に見えた。
  本当に・・・

 

 

 

 

 

 

 

   THE END OF EVANGELION

 

       The story after conclusion

 

       Episode:15 桜闇

 

 

 

 

 

 

 

  その後日向さんが呼んだ青葉さんとマヤさんとひとつのテーブルを囲んでいる。
  さっきマヤさんが出してくれたコーヒーは僕の手の中で冷えつつある。

  「あの・・・」

  「なに、シンジ君?」

  笑顔でマヤさんが応えた。

  「アスカのいる場所、教えて下さい」

  青葉さんは立ち上がって僕の背後に立った。

  「あのとき・・・俺は云ったよな。彼女の想いを無駄にする気かって。
  彼女は君の事を想って君から離れた。
  教えろって云うからには・・・それだけの覚悟があるって事なんだろ?
  云えるかい?その覚悟」

  僕は目の前で僕の事をまっすぐに見つめている日向さんの目を見つめ返した。

 

 「はい。
  僕はアスカが好きだから。それでは・・・いけませんか?

  本当にアスカはあのとき僕の事を想ってくれたんだろうと思います。
  でも・・・大切な事を教えてくれたけど、この三年間凄く寂しい思いもしました。
  僕は確かにサードインパクトを起こした原因でしょうし、否定してもどうにかなるわけではありません。
  きっと、アスカも同じ様な思いは持ってるんじゃないかと思います。

  それから・・・本当の意味で僕はアスカに謝った事がないから・・・

  もうひとつ、誰かに心から優しくしてもらったり、誰かを本当に大切にした記憶、そしてそのときの気持ち・・・それを分けてあげたいんです。
  そんな記憶があれば自分を大切にできると思うんです。
  そしてアスカが自分の事を大切に出来まで・・・僕が代わりにアスカの事を大切にしてあげたいから・・・・・・」

  アスカの顔を思い浮かべている間に涙が溢れた。

 

  ?

  溢れた僕の涙を拭ってくれたのは、マヤさんだった。

  「ようやく・・・云えたわね」

  その声は何処か潤んでいたのかも知れない。

  「シンジ君。
  君は・・・自分の罪がどうのこうのって云って、大切な事を忘れかけていたんじゃないのかい?
  君がアスカちゃんを好きなのは分かってた。
  ヒトを本当に好きだったら、それだけで全てを投げ出すだけの理由にはなるよ。
  思い出させてしまう様で悪いけど・・・あの渚君の様に。

  自分でそれに気付けたんだったら、文句を云う筋合いもないさ。
  行っておいで。
  行って、その想いを伝えておいで」

 

  「はい・・・ありがとう・・・ございます」

  それだけ云うので僕は精一杯だった。

 

 

 

 

 

 

  それから一週間。
  文字どおり目の廻る様な忙しさだった。
  荷物をまとめるのは良いとしても、未だに保安部の保護を受けている様な一級指定人物扱いだったらしくて幾つもの書類審査みたいなものが必要だった。
  言葉は・・・片言の英語しか使えないけど、何とかなるだろうって云ってくれた。
  そして、出発の日。

 

  「いろいろとお世話になりました」

  ゲート前に立って僕は見送りに来てくれたマヤさんに云う。

  「ううん、いいのよ。
  シンジ君が自分の力で立ち向かったんだから。自分自身で成し遂げた事なんだから、自信を持って良いのよ」

  マヤさんは穏やかな表情で僕に語りかけた。

  「なんか・・・実感ないんですけど」

  「そうね・・・
  三年前のあの日も、私がアスカを此処まで送ってきたの。
  今こうしてシンジ君を送りだせるんだから、嬉しいわ。

  じゃあ・・・型どおりの事で悪いんだけど、シンジ君の処遇についての説明ね。
  本日付けでシンジ君、あなたはドイツ支部へ出張扱いになるわ。
  ただ、いろんな問題もあるから一週間、これが限度なの。
  一週間経って、帰ってくるときは良いんだけど向こうにいたい場合は・・・ドイツ支部経由で良いから私の所まで連絡を入れてね。
  めんどくさいかも知れないけど・・・まだシンジ君の身分がネルフ本部職員と云う事になっているから。

  じゃあ、元気で、シンジ君」

  「はい、ありがとうございます」

 

  僕はそっと右手を差し出した。
  マヤさんも何も云わずにその手を握り返してくれた。
  その手を見つめる様にしてマヤさんはそっと呟いた。

  「シンジ君も・・・大きくなったわね。
  傷付き易かったあの頃もだけど、今も、すっごい純粋なココロを持っていると思うの。

  ごめんなさいね。
  ほんとうに、あなたたちを巻き込んだりして。
  私たちに出来る事だったら何でもしたいの。
  それくらいしかアスカにも、シンジ君にもしてあげる事は出来ないんだから」

  マヤさんの頬を伝う涙を僕は綺麗だと思った。

  「でも・・・エヴァがなかったら僕とアスカは出逢いませんでした。
  実際、辛い事ばかりじゃなかったですよ、ミサトさんとアスカと一緒だったのは。
  お互い口にしない思いがあって、すれ違っていたときは確かに辛かったんですけど

  それに・・・マヤさんの方こそ自分が悪い事したと思い込んで自分の幸せ、逃がさないで下さいね。
  僕に・・・教えてくれた事でしょ?」

  「ふふ・・・そうね。
  うん、シンジ君、ありがとう」

  「いいえ・・・じゃあ、行きますね」

  僕は手を離した。
  手を離しけど・・・そこに残る暖かさはそのままだと思った。

  「いってらっしゃい。
  ずっと向こうにいるか・・・それともアスカと一緒に帰ってくる事を願っているわ」

  「はい」

 

  僕はそれ以上何も云わずに搭乗口の方へ向かった。
  マヤさんの『いってらっしゃい』のひとことが、凄く嬉しかった。
  その言葉は・・・あのとこのミサトさんの言葉と同じ。
  自分から踏み出す事の出来た一歩なんだから。
  マヤさんの、そしてミサトさんの声が僕の背中を押してくれているようだった。

 

 

 

 

  飛行機の中で・・・僕は夢を見た。
  夢・・・?
  本当は夢じゃなくて僕のココロそのものかも知れないけど。

 

 

 

  「シンジ」

  「・・・父さん?」

  僕の目の前に立っているのはいつもの服の、いつものかっこうの父さんだった。

  「よくやったな」

  そして口数が少ないのもあの頃と同じ。

  「うん。
  ありがとう」

  「シンジ、あなたの願い、あなたの想いは分かってたわ。
  ほんの少しの運命の悪戯がここまで大回りをさせたけど、後はあなた次第よ」

  母さん・・・

  「父さん、母さんに逢えたんだ・・・
  母さん。僕はあのときのほんの少しの母さんの顔しか憶えていないんだ。
  でも、大切な大切な事を教えてくれて・・・ありがとう」

  そして更に背後から聞こえてきたのは・・・

  「シンジ君。自分の答えは見つけたのね?」

  ミサトさん・・・僕を家族だと云ってくれたあのときの微笑みのままのミサトさん。

  「はい。
  もう、大丈夫ですよ、ミサトさん」

  「そうか・・・良かったな、葛城」

  「シンジ君も・・・気づいたらもう『子供』じゃないのね。

  自分にとって一番大切なヒトを見つけたのなら、そしてその人の事を想っていけるのなら大人なのよ。
  自分に自信を持って胸を張って生きなさい。
  間違っても・・・私の様に他人に、親友にすら話せない様な事に足を突っ込んではダメよ」

  加持さん、それにリツコさんもミサトさんの背後で微笑んでいる。
  そして・・・

 
  「やあ、シンジ君」

  「碇君、久しぶり」

  「カヲル君、それに・・・綾波」

  そこにいたのは、紅い瞳の二人。

  「人一倍さみしがりな彼女だ、君がそのココロを癒してあげなよ。
  君なら出来る。と云うよりも君以外には無理なんだ。
  繊細なココロを持っていながら、でも今は大切なことに気づいたんだんだろう?
  繊細な気持ちだって・・・結局伝えなければ何の意味も持たないんだよ」

  「そう。そしてあのころ・・・弐号機に乗れなくなった頃、彼女はココロを閉ざしていた。
  でも・・・再びそのココロを開かせたのは碇君、あなたよ。
  彼女が弐号機のコアに気づいた事も確か。
  でも本当の意味でココロを開かせたのは・・・
  それまでの生活で一番彼女の事を想っていた、碇君だけなのよ。

  何も云わなくても伝わる想いは確かにあるわ。
  それでも、言葉にして彼女に伝えてあげて。
  誰よりも、何よりも、碇君の『気持ち』という大切な絆を、弐号機パイロット・・・アスカにあげて」

  「うん・・・分かってるよ。
  今まで・・・ありがとう。
  また・・・・・・逢えるかな?」

 

  僕の言葉にカヲル君は優しく頷いた。

  「もちろん。
  僕はいつでもシンジ君のココロの中にいる。
  呼んでくれたら・・・いつでもまた逢えるさ。
  君が出逢ったヒト、君が大切に想っているヒト、君を大切に想っているヒト、みんな君のココロにもいるんだよ」

  綾波が僕の手をとった。

  「そう。
  ヒトは互いに影響する事で自分自身の人格を作り上げていくものなのよ。
  出逢ったヒトは・・・誰一人だってその出逢いは無駄にならないものなの。

  生きている目的なんか・・・誰にでもあるわ。
  でもそれは決して他人のためなんかじゃない。
  誰にでもある『自分自身の幸せのため』なの」

 

  「そう・・・だよね。
  がんばるよ。
  アスカに何と云われるか分からないけど、自分の気持ちにだけは正直になりたいから」

 

  「頑張ってね、碇君」

 

 

 

to be continued next chapter

 

 

 


御意見、感想、その他は てらだたかし までお寄せ下さい。

またソースにも幾らか書き込みがあるのでよろしければ御覧下さい。

 

'99 Aug 28 初稿完成

'00 Jul 07 改訂第二稿完成


 あとがき

 第二部完という事であとがきです。

 今回は・・・と云うよりも第二部は、シンジ君とアスカがお互いに独りで生きていく様を書いてみました。
 もちろんこんなプロセスなしには気づかなかったかも知れない大切な事を知ってもらうためと云う名目はありますが、僕自身がこんな展開が好きなだけだったりして(笑)

 第三部ではようやくシンジ君がアスカに正直な自分の気持ちを伝えます。
 少年と少女だったシンジ君、アスカが成長したとき二人の関係はどんなものになったのでしょう?乞う御期待!
 ・・・って、自分でかけたプレッシャーに押しつぶされたりして・・・(笑)

 投稿が遅くなりまして待っていてくれた方には非常に申し訳ないです。
 第3部が開始したらそのときは隔週くらいの連載ができれば・・・と願って止みません。



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