Raindrop

 

かいたひと:てらだたかし

 


 

  珍しく雨が降っていた。

  別にこれと言った用事はないんだけど・・・洗濯は出来ないね。

  アスカが「お陽さまの光で乾かした服じゃないとヤ!」って言うから。

  ・・・もっとも僕も乾燥器なんか使いたくないから文句もないんだけどね。

 

  なんて言うのかなぁ・・・この窓に当たる雨粒の音。

  ぱらぱら?

  それとも、ぽつぽつ?

  ざーざー・・・じゃないよね・・・

  あ、そうだ。

  こんな日にぴったりの曲が・・・これこれ、ショパンの『雨だれ』

  これ聴いてると思うんだけど、あの雨の音もひとつの音楽なんだよね。

  何気なく・・・うっとおしいとか、気が滅入るだとか、消極的なイメージを持っているのかも知れないけどこうしてみると別の面が見えてくるよね。

 

  日曜日だから・・・まだアスカを起こさなくても良いし、ミサトさんはあと二日ほど出張で・・・神戸だったっけ?リツコさんと一緒に行っているとか。

  ・・・

  コーヒー、いれよ。

  DATウォークマンをポケットにねじ込んでキッチンに立った。

  豆を挽いていると香ばしい香りがあたりを漂った。

  こりこりこりって・・・これもやっぱり音楽かな?

 

  無難にモカをいれるのも、ちょっと奮発してブルーマウンテンいれるのも、酸味をきかせたキリマンジャロいれるのも、通ぶってブラジルいれるのも良かったけど。

  ロイヤルテイストいれちゃった。

  名前もそうなんだけど、香りがアスカにぴったり。

  コーヒーメーカがこぽこぽ言っているのを聞きながら時計を見た。

  まだ大丈夫。

  アスカを起こすのはコーヒーを飲んでからでも十分。

 

  カップの底がそろそろ見えようとする頃、雨脚が強くなった。

  遠くで雷のなっている音も聞こえる。

  アスカ・・・気持ち良く寝てるかな?

  雷・・・好きじゃなかったよね?

  ちょっとだけコーヒーの残ったカップをテーブルに置いて、イヤホンを外すと僕はアスカの部屋に向かった。

 

  コンコン

  返事がなかったから・・・と言うか返事がないのは分かり切った事だったからそのまま部屋に入る。

  寝返り打ってるし・・・ちょっと寂しそう、かな?

  思いっきり蹴り飛ばされてるタオルケットをかけ直すと汗ばんだ顔をタオルで拭う。

  ドキッとする様な可愛い顔で枕を抱きかかえてしまう。

 

  知らないうちに寝顔を見たってきいたら怒るかな?

  それとも・・・・・・?

 

  そんな事を考えている自分が無性におかしくなってしまう。

  あ、そろそろ起こした方が良いかな?

 

  「アスカ、朝だよ。起きて」

  肩を揺するけど・・・起きないね。

  ん?つばを呑み込んだ?・・・・・・・・・起きてるね。

  しかたない。

  僕はこっち向いて寝ているアスカの頭を抱き寄せると軽くその鼻をつまんで、あとは口を・・・・・・

 

  (30分経過)

 

  「・・・ん・・・アスカ、おはよう」

  「シンジぃ・・・もっとぉ・・・」

  「じゃあ、朝ご飯の後で、ね?」

 

  窓の外では虹が大きな橋をかけていた。

  まるで・・・アスカが起きるのを待っていたかの様に。

 

 おしまい




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