運命の輪

 

かいたひと:てらだたかし   


 

大切な事 自分がここにいるって云う事

そしてそれを確信出来る事

 

素敵な事 誰も見ていない様な空の上の方で

虹がかかっているのを見つける事

 

好きな事 コーヒーを入れるときこぽこぽと・・・

コーヒーメーカが音を立ているのを聞く事

 

嫌いな事 自分がどうでも良い存在だと思える事

そしてそんな事を考える自分

 

  私は手元にそこまで書いてからシャープペンをテーブルの上に転がした。金属製のそれがからからと音をたてる。

  テーブルの向こうでこっちを見ている彼の言葉を待ってみたりする。

  しばらく見つめ逢ったままで・・・待ち切れなくなって私は聞いた。

  「・・・何書いたか聞かないの?」

  少しだけ私の声には不満みたいなものが混じっていたかも知れない。

  「聞いて欲しいの?」

  上目遣いで聞いてみたら素っ気無く返されてしまった。

  う〜ん・・・この微笑みはちょっとだけ反則っぽい。

  昔は無邪気なだけかと思っていたらかっこよくなっちゃって。

  もちろん良いんだけどね。

  「じゃあ・・・見て」

  私は紙を滑らせて彼の手元にまで届かせる。テーブルは綺麗に拭かれていて留まる事なく彼の手元にまで届いた。

  ときどき・・・私はこうして漢字とかを書く練習をする。いつまでも下手なままじゃ嫌じゃない?今のところ帰化する予定はないけど・・・でもね、『別の方法』で日本人国籍を取るつもりだから。

  「大分上手になったね」

  「当然でしょ」

  上手になった事を誉められたよりも素直に努力を認められた事の方が嬉しくって、照れ隠しにすっかり冷めてしまった紅茶を飲んでみたりする。

  「流石に・・・これだけやってるとね」

  私は独白しながら今までの事を思い出す。

  彼と出逢って最初の一年はただ憎み逢っていただけだった。軽蔑するとか、そんな事の繰り返し。そのうち私は壊れた。

  でも・・・結局私の事を一番見ていてくれたのは彼だった。なんだかんだと云っても一番私の事を知っていた。

  それからだと思う。自分をしっかり見る様になったのは。そして・・・・・・意図的に彼の行動を追う様になったのは。

 

  「どうしたの?」

  きっとニコニコして彼の事を見ているであろう私を見ながら彼は聞いた。

  「うん、実は凄い事なんだなあ・・・って思って」

  「何が?」

  「ひ・み・つ」

  困った様な彼の顔を見ながら私は心の中でさっきの紙に書き加えた。

 

運命だと思う事 あなたと出逢った事

 

   おしまい

 

  あえて登場人物の名前は出しませんでした。

  イメージは・・・僕の大好きな二人です。




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