[いつまでも二人で]

 

 

 冬

 

 

 空は高く、深く、限りなく青く・・・晴れ渡り、

 

 

 そして、山は、雪化粧を施し・・・

 

 

 駆け抜ける道は、残雪を残し・・・

 

 

 

 その中を・・・一台の4WD車が・・・

 

 気持ち良さそうに・・・・・

 

 そして軽やかに・・・走り抜ける・・・

 

 

 

 筈だった・・・のだが・・・・・・・・・・・

 

 

 

 「・・・ちょっとぉー・・・シンジィー・・・」

 

 「・・・何だよぉ・・・」

 

 「あんた・・・間違えたでしょ・・・」

 

 「・・・何が?・・・」

 

 「何がじゃ無いわよぉー・・・」

 

 「だから、何がだって?・・・」

 

 「・・・あんたって、バカだバカだ、とは思ってたけど・・・

  ほんっとぉーに!バカね!!」

 

 「・・・だから!何がだよ!

  人のことバカバカ言ってくれちゃって全く・・・」

 

 「あんたでしょ、この地図持って来たの・・・

   全然着かないじゃない!あんたがこの道で良いって

    言ったんでしょうが、その通り走ってるのに・・・」

 

 「・・・あのねえ、僕がこの道でって言ったのは

  最初のバイパスなんだけだよ!」

 

  ・・・どうやらこのカップル、

    冬の林道をドライブデートと洒落込んだらしい・・・。

 

 しかし如何せん二人が二人ともどうもペーパードライバーらしい。

 

 そして、道に迷ったあげくの、犬も食わないなんとやら・・・

 

 

 デートとしては・・・最悪・・・で・・・ある・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・ねぇ・・・寒くない・・・」

 

 「・・・うん・・・」

 

 二人は、大声を出して、ケンカして・・・疲れたのか・・・

 

 しばらく車を道脇の、

  多分このスカイラインの展望の為の駐車場に止めて・・・

 

 少しは落ち着いたのか、押し黙ったまま冬の雪山を眺めていた・・・。

 

 やがてシンジが、おもむろに、デイパックの中から

  何やらゴソゴソとステンレスポットを取り出す・・・

 

 

 「・・・アスカ・・・はい、これ・・・」

 

 「・・・ありがと・・・シンジ・・・」

 

 シンジが手渡したのは、家から用意して来た、

  シンジ特製の・・・ポテロン(カボチャ)のスープだった・・・。

 

 それを当然の様に、用意し、そっと差し出すシンジ・・・。

 

 そして、それをまた当然のごとく受け取り口に含む・・・アスカ・・・。

 

 

 だが、二人にとっては・・・

  これはごく自然なことで・・・有った・・・。

 

 

 

 

 再び、訪れる・・・沈黙・・・。

 

 

 

 だが、今の二人にとってはこの沈黙も、

   とても心地よいものであった・・・。

 

 

 

 

 

 かつて、この二人には、地獄の様な日々が襲っていたことが有った・・・。

 

 

 

 

 

 

 初めて会った時は、お互いが、お互いを“ばかにしたり”

 “うっとおしがったり”しながらも、

  居心地の良い関係を築けそうな、“予感”があった・・・。

 

 

 ひょっとしたら、自分は初めて・・・

 他人が、他人を必要とされる関係を、作り出せる・・・

 そんな気がしていたのだった・・・。

 

 

 

 

 

 だけれども・・・・・

 

 

 

 それは、二人に科せられた使命、そして運命が、

 無残に打ち砕いた・・・。

 

 

 

 

 そしてこの二人はそれをお互いの、せいにして、

 自分の事は棚にあげて・・・・・。

 

 

 

 

 シンジはだれからも認めてほしいとは、思っていなかった・・・。

 

 だけど認めてほしいとも、思っていた・・・。

 

 

 そのためには偉い人の言うことには逆らわず、

  そして怒られない様にするのが近道だと・・・

 

 そしてアスカにも・・・

 

 それが逃げないことにも繋がると・・・そう思っていた・・・。

 

 

 だが、シンジは、あるとき気づいた・・・。

 

 それは自分が・・・真実から逃げていただけだと・・・。

 

 もっともっと・・・一つ一つ・・・

  噛み締めて行けば良かったのだと・・・。

 

 

 自分がそう、判断すれば・・・一つ一つ自分で判断すれば、

 それが、たとえ間違ってたとしても・・・

 

 

 後悔したとしても・・・

 

 

 たとえ、だれかの怒り、恨みを買ったとしても・・・

 

 

 逃げたことには・・・成らないと・・・

  そう思えるように少し成っていた・・・・・。

 

 

 

 

 

 アスカはこの内罰的で、はっきりしない、内気な

  少年が・・・きらい・・・と、思っていた・・・。

 

 

 初めのころは馬鹿にしながらも、この少年を

  憎からず・・・と思っていた・・・。だが・・・・・

 

 

 

 なぜだろう・・・はっきりしない・・・。

 

 なぜだろう・・・うじうじして・・・。

 

 なぜだろう・・・あたしより劣っている癖に・・・

 

 なぜだろう・・・あたしよりちやほやされちゃって・・・

 

 なぜだろう・・・あたしの邪魔(使徒を倒す)ばっかりして・・・

 

 あたしを認めないで・・・シンジばっかり認めて・・・

 

 

 あたしの方が優秀なのに・・・

 

 

 あたしの方が、選ばれた、エリートのはずなのに・・・

 

 

 

 何であんたなんかが・・・

 

 

 何であたしじゃ無くてあんたなんかが・・・

 

 

 

 

 あんたなんか・・・あんたなんか・・・

 

 

 

 

 だいぃっきらい・・・だった・・・。

 

 

 

 

 初めて異性と意識させた少年は・・・

  憎むべきライバルと成っていた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 だけれども・・・

 

 

 アスカはあるとき気づいた・・・。

 

 

 それは自分でそう思い込んでいただけなのだと・・・。

 

 

 自分で自分を、そう決めつけていただけなのだと・・・。

 

 

 自分勝手な思い込みじゃ無いのかと・・・

 

 

 もっとそんなに意識しないで一人の少年として

  見るように成ればと・・・

 

 

 

 そう思えるように、成っていたのだった・・・。

 

 

 

 二人は・・・

 

 そうお互いが考えて行けるようになって・・・

 

 初めて、お互いをよく見つめられる様に・・・

 

 余裕が出来るようになっていった・・・・・。

 

 

 

 

 

 あれから何年もたっていた・・・。

 

 

 お互いを見つめ直すには十分だったかは、分からない・・・。

 

 

 だが・・・・・

 

 

 

 二人の関係が変わって行くには・・・十分だったようだ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ☆     ☆     ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・おいしかった・・・スープ・・・」

 そっと呟く、アスカ・・・。

 

 「・・・ありがと・・・どう致しまして・・・

  ご機嫌・・・少しは直ったかな?お姫様・・・ふふっ・・・」

  おどけて見せるシンジ・・・これぐらいは言える・・・。

 

 「なにぃこいつぅ・・・・・ふふふっ・・・・・ったく・・・」

  アスカもおどけて返す・・・アスカも心和ませていた・・・。

 

 

 しばしまた沈黙・・・。

 

 しかしやがておもむろにアスカが尋ねる・・・。

 

 「・・・ねえ・・・何でドライブ何かに誘ったわけ・・・

  デートっていうんなら・・・他にも色々あるわけじゃない・・・」

 

 「・・・どうしてだと思う・・・アスカは?・・・」

  逆に今度はシンジが尋ねる・・・

  わかんないから、聞いてるんじゃない、と言う言葉を

   アスカは寸前で飲み込んだ・・・危ない危ない・・・。

 

 「・・・ひょっとして人気の無い山奥で、

  あたしを押し倒そぉてんじゃないでしょうねぇ・・・」

  ちょっとは期待してたのか?

  アスカのセリフはまんざらでも無かった・・・。

 

 「・・・そんなんだったら・・・もっと堂々とやるよ・・・

  僕だって男なんだから、その時は・・・もっと・・・

  その・・・ちゃんと・・・・・」

  さすがにそれ以上は言えない・・・何を言わせる・・・アスカ。

  思わずシンジの顔は・・・赤らんでいた・・・。

 

 アスカは少し自分で言ったことに戸惑いながら、

 シンジの横顔を見つめていた・・・。

 

 

 {・・・こいつ・・・いつの間にか、男っぽくなっちゃって・・・}

 

 身長も伸び、今ではアスカよりも数センチ高い・・・

 

 表情も、少年のあどけなさ、優しさは少し残しているものの、

 大人っぽい鋭さが、出て来ている・・・。

 

 そして、その物腰、喋り方やセリフの言い回し等など・・・

 

 歳月はあの頼りなかった、内罰的な、うじうじしたシンジを

 ここまで成長させていたのだった・・・。

 

 

 シンジもまた、成長したアスカの顔を見つめながら、

 ちょっとした感慨に、ふけっていた・・・。

 

 

 {・・・すごく、きれいになったなぁ・・・アスカ・・・}

 シンジの素直な感情だった・・・。

 

 

 元々、容姿端麗で14歳にして

 美貌に溢れていたアスカでは有ったが、以前のアスカにはそれに

 鼻を掛けていた様な感じで、それが嫌みに取られていた時期が多々有った。

 

 

 その高飛車な言動はさらに

 人々の心を遠ざけている様に、感じられた・・・。

 

 

 だが・・・

 

 歳月は、人を変えて行く・・・

 

 使命に追われる事の無くなったアスカとシンジ・・・

 

 

 シンジは、自分が自分で、有るために

  与えられた使命を自分なりに真っ当しようとした・・・

 

 

 アスカは選ばれし者の誇りを支えにして

  与えられた使命に立ち向かった・・・

 

 

 だが、その使命は逆に二人の本来の心を

  締め付け、失わせているに過ぎなかったのかも知れない・・・。

 

 

 14歳の子供たちには・・・

 

 余りにも重すぎた運命だったのかもしれない・・・

 

 

 シンジは、自分を見つめ直すことによって、

 自分を一つ一つ素直に受け入れて行くことで・・・

 自分本来の、“穏やかさ”を取り戻して行った・・・

 

 

 

 アスカは、自分の“弱さ”を認識して、

  使命と云う“プレッシャー”から、解放されたことにより、

  そして、凝り固まった“プライド”を、少しずつ解す事により

  本来、心の中に有った“思いやり”や“優しさ”を

  少しずつ出して行けるように成って云った・・・。

 

 

 

 

 あれから・・・今日まで

 “つかず離れず”の付き合いを続けていた、アスカとシンジ・・・

 

 お互いはお互いの、良さ悪さを見つめ直していた・・・

 

 

 そして二人がお互いの“寂しさ”に、再び触れたとき・・・

 

 

 それは、ひょっとして、

  ただ“寂しさを紛らわす”だけだったのかも知れないが・・・

 

 

 二人は、一人の男と女として・・・引かれ合って云った・・・。

 

 

 

 

 

 

 

    ☆     ☆     ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 シンジは、再び車を道に、走らせていた・・・。

 

 ある・・・目的地に向かって・・・重大決意を持って・・・

 

 

 「・・・ねえ・・・どこまで行くの・・・

  行き先はっきり教えてくれなかったけど・・・」

 

 「・・・もうすぐ着くよ・・・その時・・・

  伝えたいことが有るから・・・だから・・・アスカ・・・」

 

  シンジの秘めたる思い・・・。

 

 長い付き合いのアスカにも、その目的は分からないにしても、

  その思いが強いものだと云うのは、ひし!と伝わってきた・・・。

 

 

 運転するシンジの横顔を見つめながら、思いにふけるアスカ・・・。

 

 {・・・私たちって、一体なんなのかな?・・・

 友達?仲間?・・・それとも・・・・?}

 

 

 ここ一年ほどの、二人の付き合い・・・二人の関係・・・

 

 昔、“夫婦ゲンカ”と揶揄されたことも有ったが、

  そんなステディな関係で有った訳ではない・・・

 

 

 ただ、使命の為に同居したのがきっかけで、

 そう云われただけである・・・。

 

 

 

 だが・・・あれから数年・・・二人の心は、

 色々有るには有ったが・・・明らかに変わって云った・・・。

 

 

 {一緒に買い物行ったり・・・映画見たり・・・

  お茶したり・・・これってどう考えてもやっぱり、傍からみても

 “付き合っている”としか思えないわよねぇ・・・でもぉ・・・・・}

 

 はっきりしない二人の関係・・・

 アスカには、それがここ数年程の不満でも有った・・・。

 

 アスカの思いは、もはや一つしか無かった・・・

  それは、“あたしはシンジを愛している”と云うこと・・・。

 

 それは、自分自身、否定仕様のない事実でも有った・・・。

 

 

 “あのとき”本当のシンジの心に初めて触れ・・・

  始めは軽蔑もし、憎みもした・・・。

 

 

 だけど色々な事実を知り、自分に置き換えて見るように成り・・・

 

 

 シンジの、穏やかさ、優しさに改めて触れることにより・・・

 

 

 そして彼の成長を、見続ける事により・・・

 

 シンジを男として認め、受け入れ、

     そして、愛する様に成って云った・・・。

 

 

 だが、そうなるとアスカには不安が持ち上がって来る・・・

 {こいつ・・・あたしの事、どう思ってんの?}

 

 最近、そんなことばかり考えている・・・

  独占欲が頭をよぎって行く・・・悪い癖が出て来る・・・

 

 

 {“全部自分のモノ”に成らなくてもいいから・・・

  支えが・・・欲しい・・・んっとに!・・・}

 

 と、その時・・・

 「何、ボーっとしてるの、アスカ?・・・着いたよ・・・」

 

 「へっ・・・???・・・ここが・・・目的地?・・・」

 

 そこは、スカイラインのちょうど中腹に有る

  高台の見晴らし台の様な所だった・・・。

 

 

 「さ、降りよう・・・アスカ、見せたいものが、有るんだ・・・」

 

 「う、うん・・・」

 促されるままに一緒に車から降りるアスカ・・・

 

 {一体・・・何だろう・・・見せたいものって?・・・}

 

 

 真っすぐ、小高い丘の様な場所に二人で進むと

  段々景色が広がって行く・・・すると!・・・

 

 

 「・・・うわぁ!すごい!きれい・・・」

 思わず声を出すアスカ・・・

 

 降り積もった雪の上を少し歩いたところで

  アスカの瞼に飛び込んで来たのは、一大パノラマで有った。

 

 一面に・・・雪で真っ白に輝いている、山々が連なる、

 壮大な自然のロケーションに、目を奪われるアスカ・・・

 

 

 アスカにとっては初めての体験だった。

 “あれ”の時以来四季は戻ったのだが、アスカ達の世代に

 雪山に登る習慣など、有りはしなかった。

 

 

 「奇麗だろ・・・アスカ・・・どう?・・・

  実は、たまに一人で登ってたりはしてたんだ・・・

  でも今まではバイクとか、歩いてとかでね・・・まあ

  ちょっとしたトレッキングがてらにね・・・

  車で雪道を初めて来たから・・・迷ったけど・・ね・・」

 

 「すごいねぇ・・・シンジ・・・

  シンジ、あたし・・・こんなの・・・初めて見たわぁ

  ・・・ねえ・・・見せたいものって・・・これ?」

 

 シンジの傍らで、ほほ笑みながら問いかけるアスカ・・・

 それに、笑顔で返す、シンジ・・・

 

 「これもその一つでは、

  あるんだれけど・・・もうちょっと歩こうか?・・・」

 

 「・・・うん・・・」

 再び歩きだす二人・・・これだけでも、凄いのに・・・

 アスカには、これ以上の想像が付くわけは無かった・・・。

 

 丘の向こう側まで歩く二人・・・

 するとそこにポツンと太い柱の様な物が立っていた。

 

 大理石で出来た立派なモニュメントの様だ・・・

 

 「・・・何これ・・・何か書いてあるわね・・・ローマ字って

  奴ね、えーっと・・・yui.ikari・・・え!?、

  ユイ・イカリ?・・・

  碇・ユイ?まさか?えぇ!・・・」

 

 

 その名前に驚かない訳がない・・・だってその名は・・・

 

 「僕が本当に見せたかった物はこれだよアスカ、

  母さんのお墓さ・・・母さんの・・・ね・・・」

 

 

 「・・・シンジぃ・・・」

  思わずシンジの顔を見つめるアスカ。

 

 だが余りの唐突さに他に言葉も無い・・・

 

 「どうしても・・・見て欲しかった・・・この景色と共に・・・

  僕の・・・一番大切な・・・人だから・・・アスカは・・・」

 

 そう言うとシンジの手がアスカの手に伸びた、

 しっかりと・・・それでいて優しく・・・

 アスカの手を握る、シンジ。

 

 

 

 「アスカ・・・あの・・・その・・・」

 アスカの手を握りながら、彼女の顔を見つめるシンジ・・・

 {ここで、言わなきゃ一生、後悔する・・・だから・・・}

 

 この日の為に、一大決心をしたはずのシンジ・・・

 

 しかし、急に怖じけずいて行く・・・また、悪い癖が

 {・・・だめだなぁ・・・ここで

 逃げちゃ・・・だめだろ・・・碇シンジよ・・・よし!}

 

 その、シンジの心の葛藤を知ってか・・・握られた手を

 握り返し、シンジの顔を見つめ返すアスカ。

 

 

 

 

 「・・・す、 好きだ、アスカの事が・・・

   愛しています・・・・・

   惣流アスカラングレーをずっと前から・・・

  ・・・やっと言えた・・・良かった・・・」

 

 

 大胆な・・・しかし一大決心のシンジ・・・

 やっと言えたセリフ・・・ようやく心のつかえが

 取れた感じで有る・・・長年の暖めた思いが・・・。

 

 

 突然の、しかし待っていたシンジの愛の告白・・・

 思わずアスカの顔が赤く染まる・・・だが満更では無いはず・・・

 

 

 だってそれは、アスカが長く望んでいた事なのだから・・・

 

 

 アスカこそが、長く長く待ち望んだのだから・・・。

 

 

 「やっと言ってくれた・・・もう・・・ホントにバカね、

  あんたって・・・もう・・・ホントにぃ・・・」

 余りの嬉しさに涙ぐむアスカで有った・・・。

 

 「あ、あのぅ・・・アスカの・・・気持ち・・・

  良かったら・・・聞かせてよ・・・お願い・・・」

 心ぼそげに、アスカに尋ねるシンジ。

 だが、かつてと違い、

 シンジの心には多少の自信、安堵感が有った・・・。

 

 それは、今まで暖めて云ったアスカとの、

  確かな信頼が有るから心は繋がっていると信じているから・・・。

 

 

 だがそれ以上にアスカには、

  確信めいたものが・・・生まれていた・・・

  それは・・・確かな、シンジへの思いであった・・・。

 

 「・・・あんたって、

  結構したたかに成って来たんじゃ無い?

 ホントに・・・

 ・・・好き・・・好きよ・・・シンジ・・・

  愛しています・・・碇シンジを・・・」

 

 もうこれが精一杯と云う顔で告白するアスカ・・・。

 シンジにとって・・・これ以上の喜びは無かった・・・

 

 そして・・・

 

 

 シンジは・・・アスカを、

 その腕の中に抱き入れたのだった・・・。

  黙って、アスカもその身を任せる・・・。

  二人にとって・・・夢にまで見た、至福の一時だった・・・。

 

 

 ふと、シンジの腕の中に居たアスカが尋ねる・・・

 

 なぜ、母ユイの墓がここに有るのか?

 なぜ、その前での告白だったのか?疑問は残る・・・。

 

 「・・・アスカ・・・ここはね・・・

  父さんに聞いたんだけど、母さんが・・・

  とても好きだった場所だったそうなんだ・・・

  だから僕がここに移したんだ・・・場所をね・・・」

 

 シンジは、“あの日”以来・・・父の心を

 少しだけ理解出来たような気がしていた・・・。

 

 なぜ“あんなこと”をしようとしたのか・・・

  何となくだが、或いはそんな気が

  為るだけなのかもしれないが、

  分かったような気がするのだった・・・。

 

 それは、或いはエゴか、ただの欲望なのかも知れないが、

 自分がアスカを一人の女性として愛し始めたから・・・

 父も母に対してそうだったのだと・・・思える様に成った・・・。

 

 

 父の・・・母ユイに対しての・・・盲目的な程の愛・・・

 それを父から聞いたとき・・・

 

 シンジは、父を少しだけ理解出来た様に思えたのだった・・・。

 

 

 そしてそれは、僕をも・・・

 碇ユイの“たった一人”の忘れ形見で有るシンジを・・・

 少しは愛してくれているのだ・・・と・・・

 

 そうとも感じる事が出来る様に成って云ったのだった・・・。

 

 「それで・・・シンジはお母さんの前で・・・あたしに?・・・」

 

 「うん!・・・母さんに見て貰いたかったから・・・

  僕の好きな女性を・・・アスカを・・・ね・・・」

 

 「・・・嬉しい・・・シンジったら・・・でも、あたし・・・

  長い間、待ったんだからね・・・だから・・・」

 と、言いかけると、アスカはシンジの腕の中に、

  再びその身を預けたのだった・・・。

 

 「うん・・・分かってるよ・・・ごめんね・・・アスカ・・・」

 

 

 もはや、二人にそれ以上の言葉は要らなかった・・・。

 

 

 

 

 

 

   ☆     ☆     ☆

 

 

 

 

 

 

 

 「僕はね、“あのとき”ホントに“自分は駄目だ!最低だ!

  って・・・思ったよ・・・そして皆に軽蔑されている、と

  特にアスカにね・・・

  そう思うと・・・自分なんか、“どうでもいい、死にたい”

  そんなことばかり思ってたんだ・・・」

 

 車の中に戻って、

 自分の心のかつての葛藤を語るシンジ・・・

 

 それを、シンジの瞳を見つめながら、

  黙って聞いている・・・アスカ・・・。

 

 「でも、思い直したんだ・・・今まで人の顔色ばかり・・・

  アスカやミサトさんの機嫌を様子見ながら生きていて・・・

  そんなの息苦しいだけだったよね・・・お互いに・・・」

 

 その言葉に、黙ってうなずくアスカ・・・。

 

 「そして、あれから考えたのは・・・

 “僕が僕で有ること”だったんだ・・・自然にね・・・」

 

 「自然?」

 

 「そう、自然にね・・・」

 

 「それって・・・“素直になる”って事なのね?シンジ?・・・」

 

 「うん・・・」

 

 

 

 二人が歩み寄れた最大の原因は・・・“素直になる”の

 解釈が一致したから、で有ろう・・・とそう思えるので有る・・・。

 

 

 シンジは素直に穏やかに、

 相手の心を理解しようと歩みより・・・

 

 アスカは寂しさ、弱さを人前でも割とさらけ出せる様に、

  あまり気にならない様に成っていた・・・。

 

 だけれども・・・

 

 それだけでは、決して無いだろう・・・。

 

 お互いがお互いを必要とした、

  それが一番で有ろうと・・・。

 

 

 

 それはひょっとしたらお互いの寂しさを

  紛らわすだけなのかも知れない・・・。

 

 それはひょっとしたらただの傷の嘗め合いなのかも知れない・・・。

 

 そしてそれは、“ただ逃げているだけ”の結果に

  過ぎないのかも知れない・・・。

 

 

 

 

 だが、それでもいいと二人は今は思える・・・。

 

 それで、今は満たされる・・・。

 

 それが、少しでも心の透き間を埋めるので有れば・・・。

 

 

 それが、心の触れ合いと感じるので有れば・・・。

 

 

 それが 、二人の支えに少しでも成るので有れば・・・。

 

 

 それで、二人がお互いに補い合い助け合い生きて行ければ・・・。

 

 

 生きて要るのだから・・・。

 

 これからも生きて行くのだから・・・。

 

 

 

 

 「これからも、一緒に居てくれる?アスカ・・・」

  再びアスカの手を握り優しくささやくシンジ・・・。

 

 「・・・あったり前よ!・・・シンジ・・・うん・・・シンジ・・・」

  最初強く、だが同じく握り返しささやき返すアスカ・・・。

 

 お互いにそう囁き合い、見つめ合い・・・

 

 

 二人はどちらとも無く・・・抱きしめ合い・・・

 

 

 あれから・・・二人は、久しぶりの・・・

 

 

 ・・・口づけ・・・を・・・交わしたのだった・・・。

 

 

 ・・・長い・・・長いキスを・・・

 

 

 ・・・深い、強い、優しい・・・

 そしていとおしい大人のキスを・・・・・。

 

 

 いつまでも・・・いつまでも・・・二人で・・・。

 

 

 

 

 いつまでも二人で・・・・・。

 

 

 

 ◇終劇◇

 

 


 

 

  《バッジョヤマザキのアフターレポート》

 

 

 えーっと・・・こんなに長くなるとは・・・トホホ・・・

 

 自分としては、“END OF”まあ夏エヴァですけど、

  あれを見てもう一年半建つわけで、いまさら何をと云う所も

  有るには有るのですが・・・

 

 やっぱりこれを書いて置かないと、と思って書いてしまった訳で・・・

 

 まあこれは一つの願望に過ぎないのですが、

  シンジとアスカには、色々体験して行って成長して行けば・・・

 

 ・・・はっきり言って大甘だとは、自分でも思います・・・。

 

 だけれども・・・その可能性を色々考えている内に、

  こんなに長い“短編”に成ってしまいました。

 

 タカビーで言いたいことばかり主張して壊れてしまうアスカと

  あの映画のラストで、やっと自分で“立ち上がった”シンジが、

 “安らぎ”を得られる成らばどんな感じに成るのかなあと、

  考えている内に・・・。(もちろんそれだけでは無いのですが)

 

 

 この話はあの映画を見て、色々思いが募って行って・・・

  大分前から書き溜めて居たのですが・・・ウーン・・・。

 

 

 まあ人前に出すには、とても稚拙で・・・ホントに。

 

 

 こんな“幸せ?”な後日談が有っても、と。

 

 あの二人にも、将来こんな心の触れ合いが有ったら・・・と。

 

 ・・・最初は、全然違う話だった(ただのLASな短編)んですけどね。

 

 

 シンジならきっと・・・アスカならきっと・・・いつか成長すれば、

  そんな思いを胸に懐きながら・・・やっぱ甘いんだろうなぁ・・・。

 

 どう見てもこれって今頃映画で受けたダメージを自分で

  晴らしているだけだもんなぁ・・・。ホントに情けない。

 

 

 もしもこの稚拙な作品に感想など有りましたら・・・

  バッジョヤマザキまで・・・一つお願いします。

 

 

 それでは・・・また合える日を・・・

  押忍!!

 バッジョヤマザキでした。

(後書きとは・・・いえんよなぁ・・・稚拙で)




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