Neon Genesis Evangelion SS.
The Cruel Angel.
|
last episode.
|
write by 雪乃丞.
|
大きく崩壊するピラミッド。
剥き出しになる大深度地下施設への経路。
その薄く煙を噴き上げる壊れた壁面を前にして、シンジはエントリープラグから外へと抜け出していた。
「さて、彼女は来てくれるかな」
そんな謎の呟き声を残しながら、シンジを肩に乗せた初号機は地下へと下りてゆく。
振動によって盛大に揺れる実験場の中に、ミサトの声だけが響いていた。
「急いで! なんとしてでも、動くようにするのよ!」
シンジとリツコが呑気に話をしている間に、作業員達を引き連れて駆けつけたミサトが、零号機の再起動準備を始めていたのだ。 その背中の部分の硬化ベークライトを爆薬を使って吹き飛ばし、そこに電源コードが接続される。 停止信号プラグと呼ばれる安全装置を抜き取られ、傷つき、意識の混濁しているパイトッロを載せたプラグが、ゆっくりと差し込まれていった。
「レイ。 悪いんだけど、貴方に頼るしかなさそうだわ」
「・・・も、もんだい・・・ありま・・・せん」
そんな、問題のないはずのないファーストチルドレン綾波レイの声に眉をしかめながらも、ミサトは勤めて冷静な声で命令を出していた。
「零号機を起動後、彼を追って。 ・・・良いわね?」
「・・・はい」
そんなミサトたちの行動は、シンジの操る初号機の攻撃によって本部の通信回線が分断されてしまっていた為に、リツコの耳に届くことはなかった。
最後の戦いの幕が開こうとしていた。
「おそいな。 早くしないと、僕が下に辿り着いてしまう」
それは、まるで、あの時の繰り返しのように。
「シンジくん。 きっとダブリスが君を待っていた気持ちは、こういったものだったんだろうね」
初号機の肩の上に腰掛けながら見上げた闇の中に、零号機の黄色いシルエットが浮かび上がっていた。
「ネルフの皆さん。 僕は貴方達の決して絶望に屈しない不屈の魂というものに感謝していますよ」
小さく微笑みながら、シンジは自分へと迫るレイの姿を見つめていた。
「君とは、一年ぶりだね。 リリス」
顔に浮かぶのは苦笑。
「もっとも、こちらの世界の君にとっては、僕との対面は始めてなのだろうけど」
なんとか起動できたというレベルの零号機と、S2機関搭載タイプの初号機。 その力の差は、まさにウザギとライオンほどの差があった。 シンジに向かって腕を伸ばしてくる零号機の弱弱しい腕を、獰猛な瞳の輝きを秘めた初号機が簡単に受け止める。 そして、フワリと初号機から体を離して漂うシンジの目の前で、初号機は零号機を羽交い絞めにして、その動きを完全に封じてしまっていた。
「賢明なリツコさん、アナタは今ひとつ親友の行動を予測しきれてないみたいですね。 そして、可哀相なミサトさん。 貴方は、もうすこし親友に相談してから行動を起こしたほうが良い。 そうでないと、今回のようなことになる」
クスクスと笑いながら、シンジは零号機の首の後ろに取り付くと、そのままエントリープラグを強制的にエジェクトさせて、満身創痍のレイをプラグの中から引きずり出した。
「こんにちわ、リリス」
シンジの腕の中で、レイは不思議そうな顔をしていた。
「・・・あなたは・・・誰、なの?」
「僕の名前は、碇シンジ。 そして、使徒サキエルと呼ばれていたモノ」
自分と同じ存在。 それを感じ取ったレイの表情は、少しだけ嬉しそうなものだった。
「君と僕は同じだね」
それは、第一幕にして終わりを迎える物語。
未来からやってきた一人の少年の姿をした天使によって終わる世界の物語。
その天使は、最大の悲劇を、サードインパクトを回避する事を目的として・・・その目的のためだけにやって来ていたことを、おそらくは誰もが信用してはくれないであろう。 だが、それでも天使はやってきたのだ。 たった一人の少年の願いをかなえるために。 あの赤い世界を永遠に実現できなくするために。 しかし、その天使は、ひどく残酷な天使でもあった。
「さあ、共に無に帰ろう」
その日、ネルフ本部を中心とした半径数十キロが、地球上から完全に消滅した。
── BAD END ...
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。
御意見、御感想、叱咤、なんでも結構ですので、メールや感想を下さると嬉しいです。
もしもハタ迷惑な天使がまだ生きていたのなら・・・。
(注)この終わり方が不満で、コメディタッチなアナザーエンドを読んでみたいという人だけどうぞ。
雪乃丞さんの部屋に戻る/投稿小説の部屋に戻る