0:終わりから始まりへ

 赤い海だけが広がっていた。
僕の目の前には、赤い海しかなかった。

「こんなのが・・・欲しかったの?」

 父さんも、母さんも・・・こんなものが欲しかったの?
みんな、こんなモノのために死んだっていうの? こんなものが人類を救う方法だったっていうの?

「こんなものが・・・」

 悔しかった。 どうしようもなく、悔しかった。

「こんなもののために!!」

 アスカも、綾波も、トウジも、カヲル君も!
ミサトさんも、リツコさんも、加持さんも死んだって言うのか!

「なんでだよ! なんで、こんなことになったんだよ!!」

 吼えた僕の目が熱く疼く。

「あ、ああ、ああああ!!」


 どうしようもなく熱くて。 どうしようもなく痛くて。


 キュン!


 閃光が一瞬だけ走った。


 ドゴォォオオオオオォォォッン!!


 気がつきたとき、海の向こうにあった綾波の顔が木っ端微塵に砕けていた。 押し寄せる赤い色の津波。 それが、僕の前に迫った時に、僕はようやく気が付いた。 僕の目の前に、赤い色の壁があるってことに。


「こ、これは・・・ATフィールド?」


 ザッパーン!!


 呆然となった僕は、浜辺をむちゃくちゃに押し流していく赤い海水・・・LCLの中で、ただ立ち尽くしていた。 こんな力・・・いつの間に・・・。

「もしも、僕に力があるのなら・・・」

 もしかして、なんでも出来るとか?

「カヲルくんは、ATフィールドを誰でも持っている心の壁だって言っていた。 リツコさんは、使徒の武器はATフィールドを変形させた武器だって言ってたような気がする。 それに、使徒は人間と同じなんだって。 人間も使徒なんだって。 だったら・・・」

 イメージすれば、どんな形にも出来るってことなんじゃないのかな?


 イメージしてみる。

「サキエルの槍」

 キュン!


 で、出来た。

「シャムシェルのムチ」

 シュイン。


 また出来た。

「ラミエルの光線」

 ギューン!


 なんだ、簡単じゃないか。

「ゼルエルの目からビーム!」

 ドキューン!!


 めちゃくちゃ、簡単ぢゃん。

「エヴァの翼!」

 シャラン!


 これならどーだ!

「ロンギヌスの槍!」

 ギュォォン!



 凄い。 凄いよ、これ!

「もしも、僕に・・・時間を越えられる力まであるのなら」

 ぼくは、こんどこそ、失敗しないで済むかもしれない。


「はっ、はははっ、ははははっ。 ・・・あーはははははははは!!」


 僕は気を失うまで笑い続けていた。

 馬鹿らしくなった。 どうしようもないくらいに馬鹿らしくて仕方なかった。


 だって、そうでしょ?

 本当に、そんなことが出来るのなら。

 僕はきっとエヴァより強い人間として帰ることが出来るんだから。

 あの街に。 第三新東京市に。 ネルフに。 父さん達の・・・みんなのいる街に。


「父さん、今度は、負けないよ」


 意識をなくす前に、それだけを呟いたのは覚えている。


『そう、それが望みなのね』


 綾波の声も聞こえたような気がするのだけど・・・。





 気がついた時には、僕は、あの駅に立っていた。









夕日に願いを
作:雪乃丞








1:VS サキエル戦

 笑いが止まらないね。
なんだよ、この力。 凄いよ、これ。
使徒の力を真似できて、その上、時間移動まで出来るだなんて。 ・・・凄すぎるよ!

「もう僕は無敵だ!」

 ゼーレも、父さんも、ぜんぶ・・・ぜんぶ倒す!
ついでに、この世の悪いやつ、ぜんぶ懲らしめてやる!
当然、父さんは真っ先に死刑だよ、死刑! トーゼンでしょ!

「あははははは!」
「あの〜」

 そんな僕に声をかけてくる人が居た。

「ほへ?」

 振り向いた先には、へんな格好の女の子が一人。
白っぽい服なんだけど、変な光沢もあって、その上、頭に変な機械つけてて、キールのお爺ちゃんみたいにバイザーまでつけてて。 髪の毛の色が、なんでグリーン?

 えっと・・・こんなの居たっけ? (注;いません)


「コンニチワ〜」

 誰?

「こ、こんにちわ〜」


 ずしーん、すしーんって、サキエルの足音が聞こえるんだけど・・・逃げないの?


「困るんですよねぇ〜」
「へ?」

 さっきから、周囲でどっかんどっかんミサイルとかの爆発とか起こってるんだけど、そんなことなんて気にしてないって感じで、その女の子は、額に指を当てて「ふ〜」とかってため息ついてるし。 僕はATフィールドがあるから良いとしても、なんで、この子、平気なの?

「私ぃ〜、時管局の者なんですけどぉ〜、時間の移動は連邦法で禁止されてるんですよぉ〜?」
「はぁ?」


 じかんきょく? れんぽうほう? なに、それ? っていうか、君、誰?


「とにかく、そんなことしちゃ駄目なんです〜。 いいですね〜?」
「え、えっと、君は?」
「あっ、私、連邦時空間管理局特務一課、風見ミドリです〜」
「カザミドリ?」
「カザミ〜ミドリ〜! 風見鶏なんかじゃないですぅ〜!」
「え、えっと・・・ゴ、ゴメン」

 ど、どうすれば・・・っていうか、この子、何者!?

「いいですねぇ!」
「なんとなく、だけど・・・うん」
「それじゃあ、とっとと帰ってください」


 ニッコリ笑う女の子が、手に持った銃を撃ってきた。





2:インターバル その1

 気が付いた時、僕は、あの赤い海のほとりに立っていた。

「な、な、な、な・・・なんでぇ!?」

 ぼ、ぼく、なんで、ここに居るの?

『碇君』

 あっ、綾波だ。

「綾波、どうなってるのさ!?」
『・・・なぜ?』
「それは、こっちのセリフだよ!」
『・・・もう一度、いく?』
「うん」

 でも、またあの子に会ったら、同じことのような気がする。

『・・・こんどは、時間をずらして送るわ』
「頼むよ」

 さっきのは、きっと何かの間違いだったんだよ。

 今度こそ、間違わないように・・・。





3:VS シャムシェル戦

 よし、ばっちり。

 目が覚めた時、僕は、思い出深いシーンを目撃していた。
遠くで突っ立てるのは、紫色の初号機。 母さんの居る機体。
そんな初号機に向かって、ビッシン、バッシン、ムチを振るってるのはシャムシェルだった。
どうやら、綾波は、第四使徒戦にあわせて送ってくれたみたい。

 でも、なんか全然勝てそうにない。
中身はっと・・・あれ? 綾波が乗ってるの? しかも、すっごい怪我してるし。

 大変そうだなぁ、手伝ってあげようかなぁとか。
そんなことを考えていた僕の耳に、懐かしい声が聞こえてきた。

「お、おい、トウジ」
「なんや?」
「アレ乗ってるのって・・・綾波、なんだよな?」
「せやろぉな」

 呑気に見物なんてしてると死ぬよ、君たち。

「アイツ、あんなに大怪我してるのに大丈夫なのかよ?」
「・・・あかんっぽいな」

 うーん、コッチの世界の僕は何を・・・って、僕がここにいるってことは、僕はいないのかな?

「とりあえず、手伝おうかな」

 僕は、なんとなく罪悪感を感じてしまって、一歩踏み出そうとした。

「時間の移動とぉ〜、歴史への介入はぁ〜、連邦法で禁止されてますぅ〜」

 げっ。

「カ、カザミドリさん!」
「カザミ・ミドリですぅ〜!」

 ま、また撃たれる! あの変なので、また撃たれる!!

 僕は咄嗟に空に逃げると、とりあえずヤヴァイっぽい感じのする綾波を助けるべく、シャムシェルのコアに向かってゼルエルレーザー(命名:碇シンジ)を撃った。 ・・・まあ、未来で色々お世話になってるし。

「逃がさないですぅ〜! 神妙にお縄につくですぅ〜!」

 だあああぁぁぁ!





4:インターバル その2

 あっ、あはははははは。

「また、帰ってきちゃった」
『またなの?』

 うっ、綾波の視線が痛い。

「ご、ごめん。 今度こそ、ちゃんとやるから」
『・・・送るわ。 もっと後ろの時間に』
「頼むよ」

 でも、ホント、何者なんだろ。
 あのカザミドリって子。





5:VS ラミエル戦

 これは、綾波の嫌がらせなのかな?

 遠くに見えるのはラミエルだった。
ライトアップされてて、とっても綺麗な感じ。
まさにブルーウォーターか飛行石って感じだよ。
まあ、それは良いんだよ。 それはね。 ただ、問題は・・・。

「零号機だよね、これって」

 僕の後ろに零号機が立ってて、なぜか僕は盾を背に宙を飛んでいるってことで。

「撃鉄起こせ!」

 あっ、ミサトさんの声だ。

「アスカ! 日本中の電力、アナタに預けるわ!」
「むぁかせなさぁーい!」

 ほへ? なんで、アスカが居るの?
あ、そうか、そうか。 僕が居ないから、アスカがさっさと呼ばれたんだ。
・・・ふーん、アスカが砲手で、綾波が防御なわけだ。
そういえば、アスカの機体の胸の部分、なんか焼けてるっぽい。

 も、もしかして、これは、ヤシマ作戦なのでわ?(注:正解です)

 しかも、僕、ひじょーにヤヴぁい位置にいたりする?(注:大正解です)

 ・・・にょぇえええ! いくらなんでも直撃したら死ぬってば!

「あ〜! まぁたぁ〜来てるぅ〜!」
「しかも、こんなときに、カザミドリさんまでぇ!」
「カ・ザ・ミ、ミ・ド・リですぅ〜!」

 コッチきちゃ駄目だってば!

「何回も言わせないでくださいぃ〜!」

 ちょ、ちょっと待った! 今はまじでまずいんだって!

「目標内に高エネルギー反応!」

 ほら、きたぁ!

「ほえ?」
「ミドリさん! こっち! 早く!!」

 とっさにミドリさんを抱きかかえると、僕はフィールドを全力で展開した。



「えぇええ!?」
「どうしたの!?」
「ぜ、零号機、ATフィールド展開! ・・・凄い・・・ラミエルのフィールドの5倍の強度です!」
「再計算急いで!」



 し、しぬ。 死ぬ。 死んじゃう・・・。



「ねぇー、まだなのぉ!?」
「あとちょっとだけ! レイ、頑張って!」
「・・・はい」(なぜ、盾が溶けていないの? ・・・過粒子砲が届いてない?)



 も、もう・・・駄目・・・。



 ドキュゥウーン! ・・・バキィン!



「よっしゃぁ! ナイス、アスカ!」
「あったりまえでしょぉ!」



 気が付いた時には、僕はボロボロになってたし、ミドリさんは僕の腕の中でグッタリしていた。



「た、たすかった」
「・・・も、もうこっちに来たら駄目ですよぉ〜・・・」



 ぴゅん。





6:インターバル その3

 ミドリさんって、恩知らず?

『・・・』

 もう何も言うまい。

『・・・』
「・・・」
『・・・』
「・・・」
『・・・』
「・・・」

 とりあえず土下座してっと。

「・・・もう一回、お願いします」
『・・・』

 はぁ・・・もう止めようかなぁ。





7:VS イスラフェル戦

 えーっと、ここどこだろ?

 遠くに見えるのは、水平線。

 海の上? 下にはビルとかが海に沈んでる。

 こ、ここって、もしかして。

「どりゃぁあああ!」


 ズンバラリン!


 あ、アスカだ。 ・・・そうか、思い出した。 ここって、あの時の場所だ!


「どう、ファースト! 戦いは常に美しく、スマートによ!」


 そうだね。 それが理想だよ。


「・・・また来ちゃったんですかぁ?」

 背後から聞こえるのは、あの人の声だった。

「ミドリさん、もうちょっとだけ待ってもらえないかな?」
「・・・」
「ありがとう」

 復活しかけてる使徒の二つのコアに、同時に槍を打ち込んで粉砕すると、僕は、背後に振り向いた。

「また、捕まっちゃったね」

 なんとなく、こうなる予感はあったんだけどさ。

「なんで、こんなことするんですかぁ〜?」
「・・・なんでだろうね?」

 意地になってるのかなぁ?

「多分、人の世界が好きなんだよ。 多分だけど・・・みんなと、もう一度会いたかったんだと思う。 変だよね。 この世界の人たちは、僕のこと、誰も知らないのに」

 なんでだろう。 なんで、こんなに涙が出るだろう?

「・・・ちょっとだけ、お話しませんかぁ?」
「うん」

 夕日が沈むまで話をして、僕はいつものように送り返された。





8:VS サンダルフォン戦

 多分だけどさ。
僕を送るのって凄く大変なんだと思う。
だから、何度も繰り返すと、こうなるんだよ。
綾波に、どれだけ恨まれてるかって実感するよね。
悪い予感がしていたのと、ギリギリで気がつけたお陰で、軽い火傷で済んだのは幸いだったけど。

「・・・流石に、今度は、死ぬかと思ったよ」

 周囲は、真っ赤なマグマの海。
視界なんて利くはずもない。 まあ、普通は、ね。

 でも、ここは何処なんだろう?
いや、それ以前に、今は、いつなんだろう?


「アスカ!」


 僕の耳に、ミサトさんの切羽詰った声が聞こえた。


「なにかあったのかな?」


 見上げた僕の目に、グズグズの炭になって燃え尽きる何かと、真っ赤になってる達磨さんが見えた。


「ああ、そういうことか」


 僕は冷却材が届かなくなって真っ赤になっている達磨さんの底にとりつくと、大急ぎで火口の外にまで押し出してあげた。 ついでに、火口の部分を吹き飛ばしたから、その混乱のお陰で、僕の姿は誰にも見られなかったと思う。 ・・・さて。 そろそろかな?



「・・・」



 振り返ると、そこにはミドリさん。
僕の方に、ツカツカと歩み寄ってきて。

 パン!

 頬を叩かれた。

「手、大丈夫?」

 僕の体は、あっちこっちが大火傷してるから。 下手に触ると、火傷しちゃうよ。

「なんで・・・」
「え?」
「なんで、そんな無茶なことばっかりするんですかぁ〜!」

 そういえば、なんでだろう? アスカが死にかけてた。 冷却できなくなって、気を失って。 ATフィールドが展開できなくなって、エヴァごと溶けそうになってた。 だから、僕のフィールドで包んで、地上まで押し上げた。 そのせいでフィールドが薄くなった僕は、大火傷したけど、これくらいなら死なないし、すぐ直ると思った。 ・・・なんで、僕、ここまで必死になってるんだろう? コッチの世界のみんなは、僕のこと、誰も知らないのに。 でも・・・それでも・・・。

「助けなきゃって思ったんだ」

 理由なんて、どうでも良かったのかもしれない。

「多分、僕は、馬鹿なんだよ」

 まだ、体中から湯気が漂う僕にいつものように銃を向けながら。

「ごくろうさまですぅ」
「・・・ありがとう」

 ミドリさんはニッコリ笑っていた。





9:VS マトリエル戦

 今度は、上陸前に叩き潰した。
これなら、誰も死なないし、街にも被害はないよね。
体液のせいで海が沸騰してるけど・・・。 まあ、これくらいは許してもらおう。

「さてっと」

 最近、この時間が、楽しみになってきてるような気がする。


「・・・」


 振り返れば、やっぱりそこにはミドリさん。


「やぁ」


 ミドリさんは、何も言わないで僕の横に座ると、僕にジュースをくれた。


「あと9回だけなんだ」
「・・・」
「あと9回だけ、僕のわがままに付き合って欲しい」


 海の中に半分くらい沈んでいるビルの上に腰掛けながら、僕とミドリさんは、ずっと海を眺めていた。


「このままだとぉ、死刑になっちゃいますぅ」
「・・・死刑?」
「たぶん」

 死刑、か。 彼女達くらいの科学力があれば、僕でも殺せるのかも知れない。

「・・・死刑になるまで、あとどれくらいあるの?」
「・・・」
「教えて欲しいんだ」
「・・・多分、8回くらいですぅ」


 8回か。 なんとか、間に合うと良いのだけど。


「そう。 ・・・ありがとう」


 夕日の中で見たミドリさんの顔には、涙が流れていたような気がした。





10:VS サハクィエル戦 〜 バルディエル戦

 N2航空爆雷の爆発にまぎれて、槍をつかってサハクィエルを殺して。 イロウルは、目を覚ました瞬間に、ディラックの海に沈めた。 増殖前だったから楽勝だったよ。 それに、レリエルはアスカが例によって突出して飲み込まれそうになった瞬間を狙って、僕のフィールドで、内向きのATフィールドを無効化。 コッチの世界にはじき出されたコアは、アスカの手によって簡単に壊された。 バルディエルについては、もっと簡単。 夜中の人がいない時間帯を狙ってエヴァ三号機のエントリープラグを勝手にセットして乗り込んで。 僕のATフィールドを感知したバルディエルが活動開始。 しばらく大人しくしておいて、内側から滅茶苦茶にしてやったから、これまたアスカの手で簡単に殲滅。 ダミープラグを使う暇すらなかったよ。


 もっとも、アスカにコアごとへし折られた三号機が爆発して、僕はいつものようにボロボロになったけど。


「大丈夫ですかぁ」
「うん」


 そんな僕の手当てをしてくれる優しいミドリさんと、日が暮れるまで一緒に居て、話をしたりするのもいつもどおりだった。 そういえば、ミドリさんの作ってきてくれたサイドイッチ美味しかったなぁ。





11:VS ゼルエル戦

 さて、問題はコイツなんだよね。
正直、僕が全力を出しても、少しきつい。
通じそうな武器なんて、ロンギヌスの槍くらいしかないし。
しかも、僕の作れる槍って、ATフィールドを変化させた代物でしかないから、威力は全然足りないんだよ。

「どうするんですかぁ〜?」
「接近戦しかないと思う」

 僕が近づいて、不意をついて。 コアの保護外骨格が降りる前に、叩くしかない。

「ちょっと危ないけど、僕が戦うよ」

 流石に、今回は、姿を見られるかも知れないけどね。 でも、そろそろなりふり構ってられないし。

「・・・頑張ってくださいねぇ」

 なんとなく元気のないミドリさんに見送られながら、僕は、初めてアスカたちの前に姿を見せて戦った。



『このままだとぉ、死刑になっちゃいますぅ』



 その瞬間、脳裏にミドリさんの声がよぎったような気がする。



「ちょ、ちょっとぉ! ミサトぉ! なによ、アレぇ!」
「わかんないわよ! リツコ!?」
「なに? ・・・使徒?」
「パターンは、ブルー! ただし、MAGIは回答を保留しています!」
「まさか・・・仲間割れしているとでもいうの!?」



 今の僕は、パターンブルー。
気分はハッピーだけど、未来はブルー。



「いっけえぇええ!!」



 鋭角化させたATフィールドで、突っ込んで。
僕はヤケクソ気味にゼルエルのコアを木っ端微塵に打ち砕いてやった。




12:VS アルミサエル戦

 アラエルは、僕の槍でメッタ刺しにして殺したよ。
問題は、こいつなんだけど・・・コア、ないんだよね。 どうしよう。

「エヴァ、一台欲しいなぁ」

 流石にコアのない相手は倒し方が分からない。
だからって訳じゃないけど、エヴァさえあれば、僕のフィールドで包んで自爆させることが出来るんだけど。

「たしか、この時代には量産機ってありませんでしたかぁ〜」
「あっ、そういえば・・・」

 ミドリさんの言うとおり、量産期をかっぱらってくれば、後々のゼーレとの戦いとかも楽だと思う。 でも、今からだと輸送とか、絶対に間に合わないような気がする。

「・・・他には・・・」
「・・・」

 たしか、何か方法があったはずなのに。
このままだと、こっちの世界の綾波が死んでしまう。 それだけは避けないと・・・。

「くそっ、他になにかあったはずなのに!」

 僕は、それを知っていたはずなのに!

「・・・四号機ですぅ」

 ああ、そういえば!

「ありがとう、ミドリさん! これで、なんとかなるよ!」

 急いでディラックの海を作って、僕はディラックの海の何処かにある四号機を引き寄せる。



「ま、またぁ!? ミサトぉ、今度は何? また使徒なのぉ!?」
「葛城三佐・・・未確認の機体が現れました」
「なぜ、ここに四号機があるの!?」
「使徒が、四号機に向かっていきます!」



 僕が、介入できるのも、そろそろ限界なのかも知れない。





13:VS タブリス戦

 僕は、カヲル君が乗っている飛行機を撃墜した。
カヲル君が乗っている専用機を、太平洋上の上空で撃ち落したんだ。 でも、彼は使徒だからね。 これくらいのことで死ぬはずがなかった。

「いきなり何をするんだい?」

 これが最後。 多分、最後の介入。

「君を日本にはいかせないよ」

 僕とカヲル君は、雲の上で再会を果たした。
前回は地の底だったのだから、案外、これはこれで整合がとれているのかも知れない。

「・・・なぜ、泣いているんだい?」
「君を、もう一度殺すことになるのが悲しいんだよ」

 それでも、僕は、みんなに生きていて欲しい。

「僕には、君の言っていることが分からないよ」
「・・・ゴメンね」

 最強のフィールド強度を誇る使徒ダブリスに小細工は通用しない。 それを承知していた僕は、真正面から突っ込んでいく。 ATフィールドを全開にして。 槍を構えて。 ただ真っ直ぐに。

 頬を流れる汗と涙は、なぜだか血の味がした。

「・・・君の心は、ガラスのように繊細だね」

 僕が、最後に見たのは、槍に貫かれた彼の浮かべる、優しい微笑みだけだった。






14:始まりの場所で終わりにしよう

 カヲル君が地上から消滅した後。
僕は、思い出の場所に戻ってきていた。

『これが、アナタの守った街よ』

 いつか、ミサトさんに言われた言葉。
多分、僕の戦いというものは、ここから始まったんじゃないかって気がする。 だから・・・僕は、ここを終わりの場所にしたかったんだと思うから。

「・・・終わりましたかぁ?」

 うん。

「多分、終わったんだと思う」

 ここの世界が、どんな歴史をたどるのかは知らないけど。

「あとは、人間と人間の戦いだよ」

 もう使徒は来ない。 だから、もう僕も必要ない。 でも、人の戦いは続くのだと思う。

「ここは、多分、戦場になると思う」

 量産機。 多分だけど、今回は大丈夫だと思うんだ。 だって、アスカも綾波も・・・こっちのパイロットは、みんな元気なままだから。 本調子のアスカがいてくれるのなら、きっと勝てるはずだから。

「槍も出来るだけ沢山残してきたんだ。 ・・・対策は立てられると思うんだよね」

 でも、ここまで。 もう、これ以上は、介入しちゃ駄目だと思う。

「・・・もうやめるんですかぁ」
「うん」

 もう十分だと思うよ。

「・・・なんでですかぁ? ここまで凄く頑張ったのにぃ」
「ここはね。 ヒトのための街なんだよ、 僕のような化け物が居て良い場所じゃないんだ」

 もう、僕は人間じゃない。
最初から・・・多分、ミドリさんに出会ったときから、人間じゃなくなっていたんだと思う。

「使徒は、もう居ないんだよ。 世界中の何処にも、未来の世界にも」

 居ちゃいけないんだ。 この世界が、どんな結果を迎えるにせよ。

「あとは、多分、ヒトの問題なんだと思うから・・・」


 そんな時だった。
ミドリさんは、歌を歌ってくれた。


 空は、いつまでもそこにある。

 太陽は、いつも明るくて。

 月は、夜空にいつもある。

 太陽と月と空の下で。

 今日という日に別れを告げて。

 明日を笑顔で迎えよう。

 願わくば、明日が今日よりも平和になりますように・・・。


 ・・・綺麗な歌だった。

「なんていう歌なの?」
「分からないんです。 でも、私達が子供の頃にあった戦争の終わりに流行った歌なんですぅ」

 ちょっとだけ恥ずかしそうに、ミドリさんは、教えてくれた。

「不思議な歌だね」
「そうですねぇ。 ・・・でも、私、好きなんですぅ」

 僕も、好きになれそうだよ。

「明日は今日よりもっと平和になるようにって。 みんなを守ろうって・・・アナタが凄く頑張ったって、私、知ってるから。 だから・・・」

 泣かないで、ミドリさん。

「ここはね・・・僕が、生まれた場所なんだ」
「・・・」
「それまでの僕は、ただ生きているだけだった」

 何の目的もなくて、何のために生きてるのかも分からなかった。

「・・・多分、死ぬ勇気がなかったんだと思う」

 そんな僕にも、目的が出来た。

「ここでね。 ・・・自分が守らなきゃいけないものっていうのを教えてもらえたんだ」

 それは、多分、なんでもない毎日。
朝起きて、学校に行って。 みんなで勉強して、遊んで。
家に帰って、ご飯を食べて寝て。 また朝になって。
そんな・・・なんでもない、毎日。

「でも、僕は弱いままだった。 肝心な時に、なにもできなかったんだ」

 ただ流されるままに生きて、戦って、文句ばかり言っていたような気がする。

「使徒には勝てたよ。 でも、仲間の子達はボロボロになって・・・」

 くやしかった。

「なにもできなかったんだ。 なにも出来ないままに・・・」

 トウジが足をなくして、アスカが居なくなって、綾波が死んで。 僕は、カヲル君を殺した。

「結局、僕は、世界を滅ぼしてしまったんだ」

 この手で。

「・・・やり直したかったんだ」

 守りたかった。 この街を。 みんなを。

「今度は、守りたかったんだと思う」

 壊すことしかできなかった、この手でもきっと何かができるはずだったから。

「でも、僕には、やっぱり壊すことしかできなかったんだと思う」

 でも、それでも。

「もう良いと思ったんだ。 ・・・終わりにしようよ」

 振り向いた先では、ミドリさんが泣いていた。 僕と同じように泣いていた。 バイザーを外したミドリさんは、綺麗なヒトだった。 綺麗な・・・翡翠色の目をした女の子だった。

「僕は、やっぱり駄目なヤツだよ。 ・・・みんなに笑っていて欲しいなんて言って、これだもの」

 多分、守り抜けた街を背に、僕は両手を広げて目を閉じた。
彼女には、僕の心の壁は通用しない。 だって・・・ミドリさんは優しかったから。 この世界で、唯一、僕を知っていて、一人だけ、僕に優しくしてくれたヒトだから。 だから・・・僕の壁は、彼女には通じない。




「そういえば、まだ、名前・・・聞いてません、でした」




 長いこと一緒にいたような気がするのにね。




「シンジだよ。 イカリ、シンジ」




 さようなら、ミドリさん。




「大好きだったよ、シンジくん」




 ・・・ありがとう。




 胸を貫いたのは、熱い何かだった。


 痛みはなかった。


 ゆっくりと背後に倒れていく体。


 僕の目は、街を見ていた。


 夕日に染まった街を。



 これが、僕の残せたもの。




 ・・・願わくば、この街が・・・。
いつまでも、平和なままでありますように。




 僕は、満足だ。



 Fin.





 ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。
御意見、御感想、叱咤、なんでも結構ですので、メールや感想を下さると嬉しいです。





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