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アルプスの少女アスカ様
Episode 05 -エピローグ-
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<山小屋>

今日、レイをリョウジとミサトが迎えに来ることになっていた。

レイは、あれから再びやる気を取り戻し、アスカ様と毎日の様に練習した結果、歩くこ
とくらいはできる様になっていた。しかし、まだレイの両親にはこのことは伝えられて
いない。リョウジとミサトを驚かしてやろうというのだ。

今、リョウジとミサトをシンジが駅まで迎えに行っている。アスカ様と車椅子に乗った
レイは、彼らがそろそろ山を登って来るころだと、山小屋の前で待っている。

「アスカーーーー!! 連れて来たよーーーー!!」

シンジの声が聞こえて来る。

「シンジ! 待ってたわよ!」

シンジとその後ろに2人の姿が見えた。
アスカと、車椅子に乗ったレイが、リョウジとミサトを出迎える。

「はぁ・・・やはり、駄目だったのね。」

車椅子に乗っているレイを見たミサトが、がっかりしてリョウジに寄り添った。

「仕方が無いよ。そんなに簡単な問題じゃない。それよりレイが歩こうという努力をし
  たことを誉めてやろう。」

そんなミサトを励ますリョウジだが、ある程度期待していた為、心の中ではがっかりし
ていた。

「ひさしぶり!!」

アスカ様が、明るく笑ってリョウジとミサトの前に走って行く。

「アスカちゃんにも、いろいろとお世話になったね。」

「そんなこと無いわ。楽しかったし。」

「そう言って貰えると嬉しいよ。」

もう、すぐ目の前に車椅子に乗ったレイがいる。

「レイ! こっちよ!」

アスカ様が、レイを呼ぶ。

「ええ。アスカ。」

2人が何を言っているのかわからない、リョウジとミサトはきょとんとしてレイを見上
げた。

その時。

「レ・・・レイ!」

「レイ!!!」

リョウジとミサトの目の前で、車椅子から降りたレイがすっと立ち上がる。
信じられない顔で、自分たちの娘の姿を見つめるリョウジとミサト。

「お父様、お母様。」

レイが、リョウジとミサトを自分の足で立ち見つめる。

「た、立てるの? 立てるようになったのね。」

ミサトが、感動のあまり目に涙している。
驚きと歓喜で、何も言えないリョウジ。

「レイ、こっちよ!!」

アスカ様の声に答えるかの様に、両親の元へゆっくりと、ゆっくりと歩き出すレイ。

「あ、あなた、レイが・・・。」

「ああ・・・レイ・・・歩くことまで・・・。」

それまで、レイの元へ歩いていたリョウジとミサトの歩みが止まる。
迎え入れる様に、大きく手を広げてレイが来るのを待つリョウジ。

「さぁ、もう少しだ。」

ゆっくりと、アルプスの山を踏みしめる様に歩くレイ。
だんだんと、リョウジへ近づき、手の届く距離となり、そして、リョウジの胸に飛び込
むレイ。

「お父様、歩けるの。私、歩けるようになったの。」

「ああ、ああ。」

リョウジもミサトも、目に涙して我が娘を見つめる。

「よくがんばったな。」

「アスカのおかげよ。」

「そうだな。」

リョウジ,ミサトそしてレイが、シンジと並ぶアスカ様の方を見た。

レイに笑顔を与えた少女。そしてレイに2本の足を与えた少女。
この少女のどこにそんな力があるのかわからない。

いつも元気で、笑顔を絶やさない太陽の様な少女。

アルプスの山々に囲まれ、青い空白い雲の下で、風に長く赤い髪をなびかせる天使の様
に美しい少女。

そう、この少女が、全ての人々に幸せをもたらしたのだ。





その少女の名前は、アスカ。






                        惣流・アスカ・ラングレー。





































その日、レイはリョウジとミサトに連れられ、カヲルと共にフランクフルトへと帰った。

それから数年。

綾波レイは、自分の専属の医者となった渚カヲルと婚約。

それと時を同じくして、鈴原トウジと洞木ヒカリも婚約した。

リツコの後輩であった伊吹マヤは、昔のレイの主治医であった青葉と結婚。

碇ゲンドウは、レイを山に連れてきたことが切っ掛けとなり、その後幾度か手紙のやり
取りをしていた赤木リツコと結婚し、フランクフルトへ移住。









そして、アルプスの山小屋では。

「シンジ!! そろそろヤギを迎えに行く時間よ!!」

「そうだね。そろそろ行こうか。」

今は、シンジと一緒に暮しているアスカ様。

その持ち前の明るさは、あの頃と何も変わっていない。

ただ1つ、変わったことといえば、名前だけである。

                        碇・アスカ・ラングレーと。

fin.
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