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The Last War
Episode 01 -運命を開くメッセージ-
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既に今となっては4年前のこととなるが、使徒とよばれる得体の知れないものが来襲し
ていた。人類はその対抗組織としてネルフを設立し、司令となった碇ゲンドウを中心に
見事使徒を殲滅せしめた。しかし、人類を救うことに成功したネルフであったが、その
末路は悲惨を極め上位組織のゼーレに武力制圧されたのだった。

<輸送機>

ブーーー! ブーーー! ブーーー!

サイレンが鳴り響く輸送機の中で、慌しく動く兵士達。ある者は消化活動を行い、ある
者は外敵の迎撃に全力を注ぎ、またある者は脱出ポッドの用意をしていた。

「シンジ様っ! お逃げ下さいっ! 脱出ポットの用意ができておりますっ!」

「ぼくだけ逃げることなんてできないよっ!!」

「シンジ様がここでやられては、ネルフ再建の夢は途絶えます! 我々のことは構わず
  脱出なさってくださいっ!!」

ゼーレの空軍に襲撃を受けているのは、碇ゲンドウの忘れ形見であるシンジと、シンジ
を旗印にネルフ再建の夢を掛けて活動するネオネルフという反乱軍である。

「それじゃ、みんなも一緒にっ!」

「今シンジ様は生きることこそが、人類に対する責任なのですっ! もう時間がありま
  せんっ! 早くっ!!」

自分だけ逃げることを拒むシンジと、いつも一緒にいるミサトの忘れ形見であるペンペ
ンを、脱出ポッドに押し込むネオネルフの兵隊達。

「シンジ様っ! 生きてさえいれば、必ず夢は叶いますっ! 希望をお捨てになられませ
  んようにっ!」

その兵士はそれだけ言うと、脱出ポッドの扉を無理矢理閉め、輸送機からシンジを離脱
させると敬礼しながら見送る。

「みんなーーーーーーーーっ!!!!!!」

離脱した脱出ポッドの中にある丸い窓から外を見ると、ゼーレの戦闘機に雨あられのミ
サイル攻撃を受けて火を噴く輸送機が遠ざかって行く。

ドッカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!

いくつもの黒い煙を吐きながら、しばし応戦していた輸送機だったが間も無く大きな音
と共に空の藻屑となった。

「うっうっうっ・・・みんな・・・。ペンペン・・・みんな死んじゃったよ・・・。」

「クェ?」

「ペンペンーーー。うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

泣き崩れるシンジを乗せた脱出ポッドは、チベット山脈に向かってパラシュートを開い
て落ちて行く。

<草原>

ドゴゴン。

しばらくの落下の後、脱出ポッドは地上に不時着した。

「さぁ、着いたよペンペン。仲間達を探しに行こうか。これから長旅になるけど、がん
  ばろうね。」

自分を勇気付ける様にペンペンに話し掛けながらシンジは、脱出ポッドの扉を開け人里
離れたチベット山脈の草原に足を踏み出そうとした。

「!!!!!」

しかし、そのシンジが一歩外に踏み出した所には、機関銃を構えたゼーレの兵隊がぐる
りと取り囲んでいたのだ。

「ペンペン・・・これを仲間達に渡すんだよ。いいね。」

それを見たシンジは、後ろ手にペンペンの首から掛けられている”Pen2”と書かれ
たプレートに、マイクロフィルムを貼り付けペンペンが見えない様に扉を閉めた。

「碇シンジだな。」

「そうです。」

「我々と一緒に来て貰おうか。」

「お断りします。」

ここで掴まってはペンペンまで見付かってしまう為、シンジは不意をつき男達を振り切
ってできるだけ遠くを目指して走り出した。

「追い掛けろっ! だが、殺すんじゃないぞっ!!」

突然走り出したシンジを追い掛けるゼーレの兵士達。シンジも、追い付かれまいと必死
でチベット山脈の草原をひた走る。

「早く捕まえろっ!」

「はっはっはっ! もっと遠くへ逃げなくちゃ・・・できるだけ遠くまで・・・。」

もうかれこれ5kmほどの距離を走っていたシンジは、そろそろ疲労の色が出始めた。
それでも執拗に追い掛けてくる兵士達から最後の力を振り絞って逃げるがそろそろ限界
の様である。

「はっはっはっ! こ、ここまでか・・・。」

とうとう足がもつれてその場に倒れ込んでしまった。

ペンペン・・・みんなに伝えるんだよ・・・。

追いついてくる兵士たちの足音を地面の振動で感じながら、シンジは倒れたまま青く広
がるチベットの空を見上げるのだった。

<チベットの小さな村>

チベットの草原の端にある小さな村。その村の畑の横に掘られた井戸で、18歳の少女
が水汲みをしている。

「もうこんな時間だわ。早く帰って夕食の支度を急がないと・・・。」

その少女は井戸水を汲むと、木で組み立てた簡素な小屋の中へと入って行く。

「おじさん、おばさん。今日は、シチューでいいですか?」

「あぁ、それでいいよ。レイちゃん。」

「はい、わかりました。」

ゼーレとの最後の戦いで使徒と化した3人目の綾波レイは、シンジを助けてこの世を去
った。その魂は、リツコすら聞かされていなかった最後の綾波レイの体へと宿され、ゲ
ンドウの部下であったこの老夫婦に預けられたのだ。

「レイちゃん、いつもすまないね。」

「おじさんもおばさんも、働いておられるんだから当然です。記憶を無くしたわたしを
  引き取って頂いた恩もあるんですから。」

4人目のレイは、エヴァもネルフも知らされていない。自分は記憶を失ったものだと思
っているのだ。

「そんなこと気にしなくていいんだよ。みんなで仲良くずっと暮していけばいいんだか
  ら。」

その叔父の言葉に、少し表情を曇らせるレイ。

「ねぇ、おじさん。わたし、街へ行ってみたいんです。」

「また、その話かい。うちは貧乏だから、いくらレイちゃんの頼みでも今人手が無くな
  ると困るんだよ。」

「街へ出たら、働く所がいっぱいあるって聞きましたっ! ここで働くより街で稼いだ
  方が、きっとおじさんやおばさんに楽をさせてあげられると思うんですっ!」

この話をレイが持ち出す度に、老夫婦は困った顔をしながら説得する。本当は人手のこ
となどどうでも良く、もし街へ出たレイがゼーレの兵に見つかった時のことを心配して
いるのだ。

「もう少し、考えさせておくれ。」

「この前も、もう少しって言ってたわ。」

「すまないが・・・あと少しだけ・・・考えさせてくれないか。」

がんばって説得しようとしたレイだったが、いつものように困り果てた顔をする叔父や
叔母を見て今日もそれ以上の言うのを諦めるのだった。

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翌朝。レイがいつもの様に作物の水やりに行くと、畑の隅で野菜の芽を食べているペン
ギンの姿を見かけた。

「あっ! 大変っ!」

芽を食べられてしまっては作物が全く育たなくなるので、レイは慌ててペンギンを捕ま
えた。どうやら誰かに飼われていたペンギンの様で首元にプレートがぶら下がっている。

「あらっ? あなた、飼いペンギンなのね。お腹が減ってるの?」

このまま追い出すのも忍びないと思ったレイは、ペンペンを連れて自分の家の中へと入
って行く。

「まだ、芽のうちに食べられたら野菜が育たなくなるの。これをあげるから、我慢して
  ね。」

木や丸太を組み合わせた家なので仕切りがあるわけではないが、自分の部屋とされてい
る所にペンペンを連れて来て、野菜を出してあげる。

幾日もまともな食事にありつけなかったペンペンは、その野菜を美味しそうにむしゃむ
しゃと食べ始めた。

「あなた、何処のペンギンなの?」

名前でも書いてないかと、レイが首に掛かっているプレートの裏を見てみると、1枚の
マイクロチップが張り付けられていた。

「あら? マイクロチップだわ。これにあなたのおうちのことが書いてあるかもしれな
  いわね。」

そのチップをプレートから剥がすと、野菜を食べているペンペンを自分の部屋に置いて、
叔父のブックコンピューターに差し込んでみる。

「何か手掛りがあるといいんだけど・・・。」

ブックコンピューターを使ってマイクロチップの中を覗いてみると、動画データが入っ
ていたので再生してみる。

『このチップを見てるということは、きっとぼくはゼーレに掴まった後なのでしょう。
  でも皆さん決して負けないで下さいっ! きっと希望があるはずですっ!
  もし、ぼくに何かがあったとしても、まだエヴァを使うことができる綾波レイや惣流
  ・アスカ・ラングレーは、きっと何処かで生きているはずです。希望を捨てないで下
  さいっ!』

動画データに映し出されたのは、よくわからないことを喋る少年の映像だった。しかし、
1つだけハッキリとわかる言葉をその少年は喋っていた。

『綾波レイ』

どうして、わたしの名前を知ってるの?
今の男の子は誰?

そのメッセージを聞いたレイのショックは大きかった。なんとなく懐かしい感じのする
少年が、自分の名前をフルネームで呼んでいたのだ。

エヴァって何?
ゼーレって何?

惣流・アスカ・ラングレーって誰?

あなたは誰?

わたしは・・・・・誰・・・?

次から次へと湧き上がる疑問。しかし、疑問ばかりが膨らむばかりで全く解決の糸口が
見付からないまま、レイはマイクロチップを抜き出して部屋へと戻って行った。

「はい、お魚よ。」

「クェェェェェェェッ!」

それまで野菜を食べていたペンペンだったが、レイが冷蔵庫から魚を持って来たので、
目の色を変えて飛びつく。

「ねぇ、碇シンジって誰なの?」

「クエックエックエッ!」

「惣流・アスカ・ラングレーって誰?」

「クエックエックエッ!」

ペンペンの前で腰を降ろし小首を傾げながら問い掛けてみるが、喜んで魚にむしゃぶり
つくばかりである。

「あなたに聞いてもわからないわねぇ。ところで、あなた名前は何て言うのかしら?
  Pen2って書いてあるから、ペンペンかしらね?」

名前が無いと呼び辛いので、レイはひとまずそのペンギンのことをペンペンと呼ぶこと
にした。まぁ、それで正解であるのだが。

そして、夕食の時。

「おじさん。聞きたいことがあるの。」

「なんだね? レイちゃん。」

「碇シンジって誰か知ってる?」

「!!!!」

カラーン。

レイの口から突然飛び出したその名前を聞いた老夫婦は、手にしていたスプーンを同時
に床の上に落とした。

「ど、どこで、その名前を聞いたんだい?」

平静を装おうとはしているものの、手は振るえ声がうわずってしまう叔父。

「ちょっと待ってて。」

レイは席を立つと、自分の部屋からペンペンを老夫婦の前に連れてきた。

「今朝この子が、うちの畑の野菜を食べてたから連れてきたの。それで、どこのペンギ
  ンかなって思って、首輪の周りを探したらこんなチップが・・・。」

マイクロチップを老夫婦に見せるレイ。

「このチップの中に動画があって、映し出された男の子が『綾波レイ』ってわたしの名
  前を言ってたわ。エヴァを動かすことができるって。」

そこまで聞いて、叔母の顔は真っ青に青くなり、叔父も手がガクガクと振るえていた。

「あなた・・・。」

どうすれば良いのかわからない叔母は、叔父の横へ行きどうすればいいのか判断をゆだ
ねる。

「ちょっと、そのチップを貸してくれないか?」

「はい。」

レイが持っていたチップを受け取った叔父は、先程のデータを再生した。そこには、紛
れも無くゲンドウの息子でありネオネルフの指導者となろうとしているシンジの姿が映
し出されていた。

「シンジくん・・・。」

その動画を見て、ぽつりとシンジの名前を呟く。

「おじさん、この男の子のことを知っているの?」

「・・・・・・。」

一瞬返答に困る。

「どうしたの? ねぇ、わたしの記憶と何か関係があるの?」

「レイちゃん・・・。」

「何?」

「今から大事な話をするから、そこに座ってくれるかな?」

「ええ。」

レイは、叔父の前に椅子を移動させると、真剣な顔付きで話を聞き始めた。そんなレイ
に叔父は・・・いや、ゲンドウの部下は、過去の話を聞かせ始める。

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                        :
                        :

「と、ここまでがわたしの知っている君の全てだ。」

話を聞き終わった時、レイの顔は青ざめていた。まさか、そんなとてつもない過去を自
分が持っているとは思いもしなかったのだ。

「・・・・・・・・・・・。」

「もう、私たちに、君を引き留めておくことはできない。これからどうするね? 」

「・・・・・・・・・・・。」

「ここで隠れて暮すもいいだろう。また、再びシンジ君を助けに、戦いの世界に戻るも
  いいだろう。もうレイちゃんも18だ。自分で決めなさい。」

「・・・・・・・・・・・。」

「どうするね?」

「わたし・・・。」

「ん?」

「わたし、行くわっ! 碇くんは絶対に助けなくちゃいけない気がするの。わたし、行く
  わっ!!」

「そうか。わかった。」

そのレイの決意の言葉・・・巣立ちの言葉を聞いた叔母の目から、大粒の涙が溢れ出し
叔父の肩に泣き崩れる。

「うっうっうっ。」

喩えゲンドウの命令であったとしても、4年もの間子供として育てたレイが旅立ってい
くのだ。

「こら、おまえもレイちゃんの門出に涙なんか見せるんじゃない。」

「はい・・・わかっています。わかっていますとも・・・うっうっうっ。」

「レイちゃん。君の選んだ道はおそらく想像以上に苦しいと思うが、世の中を救うこと
  が君にはできるはずだ。信じる物と希望を見失わずにがんばるんだよ。」

「はいっ! 今までありがとうっ! おじさんっ! おばさんっ! がんばりますっ!」

「動画にもあったが、とりあえず惣流さんを訪ねてみるといい。誰よりも頼りになるは
  ずだ。今彼女はフリーの傭兵をしていると聞いている。まずはフランスの外人部隊を
  訪ねてみるといいだろう。」

「わかりました。」

「それから碇くんだが、おそらく殺されてはいないと思う。アメリカのゼーレ本部に監
  禁されている可能性が高いんじゃないかな。」

「必ず助け出して見せます。」

そこまで、真剣な顔で話していた叔父だったが、全て自分の知っている情報を伝え終わ
ったのか、一呼吸置いて再びレイの顔をじっと見つめた。

「そうか・・・こうなることが運命なんだろうな・・・。それじゃ、今日は最後の晩餐
  だ。なぁ母さん。」

「えぇえぇ。ありったけの食料でごちそうを作りましょう。」

「ほらぁ、母さんもそんな顔してないで、笑って最後の食事を楽しもうじゃないか。」

「はい。わかってますとも。わかっておりますとも。」

そして、その夜は遅くまでレイは老夫婦と、この4年の楽しい思い出を語り合った。

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                        :
                        :

翌朝。

「ペンペン、行くわよ。」

「クェ?」

「おじさんや、おばさんの顔を見ると別れが辛くなるから、黙って行きましょ。」

夜明け前の真っ暗なチベットの空の下、ペンペンと一緒に出て行くレイ。

「おじさん、おばさん・・・。
  育ててくれたのは、任務だったって言ってたけど、とっても愛して貰いました。
  1つの恩返しもすることができずに、出て行くことになってごめんなさい。
  でも、世界を平和にすることが恩返しになると思ってがんばりますっ!
  今日までありがとうございましたっ!」

レイは、寝ている叔父と叔母に向かって最後のお別れの言葉と、お礼の言葉を残して旅
立って行く。

その残された小屋の老夫婦のベッドの上では、目に涙を浮かべてレイの無事を祈る叔父
と、声を殺して泣く叔母の姿があった。








今、世界はゼーレ支配下という暗黒の時代の真っ只中にあった。

しかし、その時代に大きな転機が訪れ様としている。その最初の一歩が、綾波レイの復
活であった。

To Be Continued.
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